上 下
11 / 16
第2章 繰り返される世界

繰り返される世界 Part1

しおりを挟む
あの老人と出会ってからあっという間に日は経ち季節は春になった。
僕と弟は今日もリリーの墓にお供えをする。
冬に実がなる紫色のゴツゴツした甘い野菜ミムだ。
あの老人すごく意味深だけどなんだったんだろう?
ゲームやアニメの世界なら僕が主人公になるフラグが立つような意味ありげな不思議イベントだったんだが、あれから何も起きない。
でも今から何かが起こってもリリーがいない今となっては何もかも遅過ぎる。
あの日から数日高熱にうなされたが今は落ちついている。
多分リリーの死のショックで身体にガタが来たのだろう。
しかし、あの日から心に大きな穴が空いたようだ。
「兄さん、大丈夫?」

弟の村の少年Aが僕を心配して顔を覗き込む。
「あっああ」

僕は涙を流している事に気づき、慌てて拭った。

「今夜は魔王討伐記念の村のお祭りだね。一緒に行こう。」

「ありがとう。行くよ。」

あの日以来カタリベの話しも新しい異世界での発見も全く楽しめなくなってしまったが、弟が心配してくれている。
今日の祭りは行こう。
リリーが死んだ後、勇者達は魔王の城に潜入し、遂に魔王を倒した。
勇者ジャンと魔王の剣と剣のぶつかり合いは激しい衝撃波を発生させ、その虹色に輝く衝撃の余波はこのイーリス全土に広がって大気が輝いて見えた程だった。
カタリベの話しでは最後の戦いの衝撃で勇者ジャンと聖犬クルスも力付き死亡してしまったらしい。
何とも後味の悪い結末。シナリオ最悪だしやっぱりこの世界はクソゲーだ。
叶わぬ夢だがいつか勇者を殴ってやりたかった。世界を救ってくれたお礼もちゃんと言って、馬鹿野郎とちゃんと面と向かって言ってやりたかった。
それすらももう叶わないんだ。

夜、僕と弟は祭りに繰り出した。
今日は世界各地で祭りが開かれているらしい。
花火が僕たちの真上と遠くでもたくさんあがるのが見える。
だけど綺麗だともどうしても思えない。
リリー、、、。また会いたいよ。
僕は花火を見上げながらまた泣いていた。


気がつくともう朝になっていた。
祭りはやっぱり全然楽しめなかったな。

「おーい、起きろー‼︎」

僕の弟が起こしに来た。

「ぼーっとしてないで畑仕事に行くよ。村人D。」

そうだ畑仕事をして少しでも悲しみから気を逸らそう。

「今日はパルパルの種を植える日だね。朝早いうちにちゃっちゃと終わらせちゃおう。」

そうか、もうパルパルの種を植える季節か。
僕が初めてこの世界に来た日と同じだ。
懐かしい。あの日にリリーとも出会ったんだ。

「パルパルの種って綺麗だよねー。」
弟がパルパルの種を太陽にかざして嬉しそうに眺めている。

あれ?この光景前にも見た気が。

「おーい、村人Dー‼︎村の少年Aー‼︎」
その時、可愛らしく明るい女の子の声が聴こえた。
ああ、この声は、、、。
僕が世界で1番聞きたかった大好きな声。
リリーが、目の前にいる。生きている。

「リリー、お帰り。」

僕は涙を堪える事が出来なかった。

Part2へ続く








しおりを挟む

処理中です...