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第1章 転生したら村人Dだっただ
転生したら村人Dだっただ part10
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季節はすっかり冬になっていた。
またビリっとするあの感覚に操られて僕達村人は村の入口に誘導されていた。
少しすると勇者と仲間達がこの世界でいう馬車にあたる乗り物に乗ってリリーを埋葬するために一度戻って来た。
馬の代わりに巨大な豚のような生き物が荷台を引いていたが、あれが何なのかという興味すら湧かなかった。
何もかもがどうでも良い。
この世界の珍しい物を見て知る事が楽しかった日々はリリーが死んでしまった事でもう二度と帰って来ないに違いない。
カタリベの話しではギクロムの殺人鬼を倒したものの勇者ジャンとリリーの体力の消耗が激しく、そのままギクロムの宿で泊まっていた所、魔王自らが突然襲って来たらしい。
魔王の圧倒的な力に満身創痍の勇者と仲間達はボロボロになり、リリーが覚醒したエンシャン族の秘技を使い魔王を怯ませ撤退させるも魔王の最後に放った闇の魔術がリリーに直撃し腹部にぽっかりと穴が空いてしまったそうだ。
僕はモブキャラなので大切なリリーの死に様すらも人から又聞きして知るしかないのが悔しくてたまらない。
この目で見るまでリリーの死が何かの間違いなのかもという淡い期待があったのだが、荷台から降ろされたリリーの亡骸を見てその可能性も完全に否定されてしまった。
真っ白な顔をしたリリーを見て僕は心臓が張り裂けそうになった。
僕と村人はビリっと操られ一斉に声を挙げて泣いた。
この世界では涙さえも操られるのか。
これが本当にロールプレイングゲームの世界なのだとしたら何というクソゲーなのだろう。
ヒロインの死は意外性があるストーリーとしてゲームのプレイヤーにとっては泣ける話しで面白い傑作シナリオなのかもしれない。
でもリリーと親しくなったにも関わらずモブキャラの部外者でリリーを守る事すら出来ない僕にとっては紛れもないクソゲーだ。
勇者ジャンがリリーの亡骸を抱き抱えて墓地の方へ向かっていく。
世界を救う勇者なんて知った事か。リリー1人救えず何が勇者だ。
僕は勇者を殴ってやりたい衝動に駆られたがやはり身体が動かない。
馬鹿野郎と怒鳴ってやりたい。
くそっ文句の一つも言えないのか。馬鹿野郎!馬鹿野郎!馬鹿野郎!
「バカ、、、、ヤロ、、、、。」
頭の中で何度も呟いた言葉が口から溢れた。
身体は動かないが気合いで操りの呪縛から一瞬だけ口が解放されたのだ。
すると勇者達が僕の方を見た。
そして焔髪の盗賊王カインが僕を睨みつける。
カインは一瞬で僕の目の前まで詰め寄って来て僕のお腹を殴った。
「うぐっ」
お腹を抉るようなあまりの激痛に僕は疼くまったがビリっと身体が痺れまた立たされた。
「カイン!村人に手をあげないで下さい。」
勇者がそう言うとカインは勇者達の元へ戻り、一行は墓場へ再び向かって行った。
目だけ動かし殴られたお腹を見ると服のお腹周りが血で滲んでいた。
傷は深くは無さそうだが、パンチだけで出血するなんてやはり勇者パーティは普通じゃない。
しばらくすると村人全員謎の力の拘束が解けて動けるようになった。
僕と弟は家に一度戻りリリーと一緒に食べると約束したパルパルの実を持って墓場に向かった。
リリーの墓にパルパルを供える。
水晶のように青く光る丸い綺麗な果物だ。
「リリー、一緒に植えたパルパルの実たくさん出来たよ。一緒に食べたかった。」
「村人D、、、、。」
僕と弟は声を出して大声で泣いた。
誰かに操られている訳ではなく心の底からようやく泣けた。
その日の夜はあまり眠れなかった。
一度泣き疲れて目を閉じたがまた目が冴えて来てしまった。
お腹の殴られたあたりも出血は止まったがなんだかむず痒く感じた。
気持ちが落ちつかない。
少し外の空気を吸って来よう。
僕は弟が起きないよう静かに家を出た。
家の近くの丘の上に1人で腰掛け星空を見上げた。
「うわっ」
しばらく空を見て帰ろうと腰を上げようとした僕は驚いて声をあげてしまった。
いつの間にそこにいたのだろう。
見知らぬ老人が僕の隣にちょこんと腰かけていたのだ。
白髪でしわの様子からかなり高齢のようだが綺麗なローブを着ていてまるでゲームに出てくる賢者のようだ。
いつの間に?
「この世界は美しいのお。」
老人が語りかける。
何処かで聞いた声だ。
「だがこの世界は残酷でどうしようもなく腹が立つ。違うかの?」
なんだこの老人は?僕の心が見透かされてるみたいだ。
「ようやく女神の呪縛からほんの一時じゃが解き放たれたか。思ったよりかなり時間がかかったが、アンチRP数値も順調に上昇しておるのー。
資格は得たな。もう少し馴染ませる必要があるがあと何度か繰り返せばきっと、、、。」
アンチRP数値。思い出した。僕が餅を喉に詰まらせた時、頭に聞こえた老人の声だ。
「あなたは一体?」
僕は老人に問いかける。
「わしもこの美しく残酷な世界に憤りを感じる者。お前の味方だよ。わしの可愛い人形。」
老人は僕の頭にポンと手を乗せた。
僕は突然眠くなり、そのまま丘の上で寝てしまった。
気づいた時には既に朝になっていて老人は、いなくなっていた。
次回新章 「繰り返す世界」に続く。
またビリっとするあの感覚に操られて僕達村人は村の入口に誘導されていた。
少しすると勇者と仲間達がこの世界でいう馬車にあたる乗り物に乗ってリリーを埋葬するために一度戻って来た。
馬の代わりに巨大な豚のような生き物が荷台を引いていたが、あれが何なのかという興味すら湧かなかった。
何もかもがどうでも良い。
この世界の珍しい物を見て知る事が楽しかった日々はリリーが死んでしまった事でもう二度と帰って来ないに違いない。
カタリベの話しではギクロムの殺人鬼を倒したものの勇者ジャンとリリーの体力の消耗が激しく、そのままギクロムの宿で泊まっていた所、魔王自らが突然襲って来たらしい。
魔王の圧倒的な力に満身創痍の勇者と仲間達はボロボロになり、リリーが覚醒したエンシャン族の秘技を使い魔王を怯ませ撤退させるも魔王の最後に放った闇の魔術がリリーに直撃し腹部にぽっかりと穴が空いてしまったそうだ。
僕はモブキャラなので大切なリリーの死に様すらも人から又聞きして知るしかないのが悔しくてたまらない。
この目で見るまでリリーの死が何かの間違いなのかもという淡い期待があったのだが、荷台から降ろされたリリーの亡骸を見てその可能性も完全に否定されてしまった。
真っ白な顔をしたリリーを見て僕は心臓が張り裂けそうになった。
僕と村人はビリっと操られ一斉に声を挙げて泣いた。
この世界では涙さえも操られるのか。
これが本当にロールプレイングゲームの世界なのだとしたら何というクソゲーなのだろう。
ヒロインの死は意外性があるストーリーとしてゲームのプレイヤーにとっては泣ける話しで面白い傑作シナリオなのかもしれない。
でもリリーと親しくなったにも関わらずモブキャラの部外者でリリーを守る事すら出来ない僕にとっては紛れもないクソゲーだ。
勇者ジャンがリリーの亡骸を抱き抱えて墓地の方へ向かっていく。
世界を救う勇者なんて知った事か。リリー1人救えず何が勇者だ。
僕は勇者を殴ってやりたい衝動に駆られたがやはり身体が動かない。
馬鹿野郎と怒鳴ってやりたい。
くそっ文句の一つも言えないのか。馬鹿野郎!馬鹿野郎!馬鹿野郎!
「バカ、、、、ヤロ、、、、。」
頭の中で何度も呟いた言葉が口から溢れた。
身体は動かないが気合いで操りの呪縛から一瞬だけ口が解放されたのだ。
すると勇者達が僕の方を見た。
そして焔髪の盗賊王カインが僕を睨みつける。
カインは一瞬で僕の目の前まで詰め寄って来て僕のお腹を殴った。
「うぐっ」
お腹を抉るようなあまりの激痛に僕は疼くまったがビリっと身体が痺れまた立たされた。
「カイン!村人に手をあげないで下さい。」
勇者がそう言うとカインは勇者達の元へ戻り、一行は墓場へ再び向かって行った。
目だけ動かし殴られたお腹を見ると服のお腹周りが血で滲んでいた。
傷は深くは無さそうだが、パンチだけで出血するなんてやはり勇者パーティは普通じゃない。
しばらくすると村人全員謎の力の拘束が解けて動けるようになった。
僕と弟は家に一度戻りリリーと一緒に食べると約束したパルパルの実を持って墓場に向かった。
リリーの墓にパルパルを供える。
水晶のように青く光る丸い綺麗な果物だ。
「リリー、一緒に植えたパルパルの実たくさん出来たよ。一緒に食べたかった。」
「村人D、、、、。」
僕と弟は声を出して大声で泣いた。
誰かに操られている訳ではなく心の底からようやく泣けた。
その日の夜はあまり眠れなかった。
一度泣き疲れて目を閉じたがまた目が冴えて来てしまった。
お腹の殴られたあたりも出血は止まったがなんだかむず痒く感じた。
気持ちが落ちつかない。
少し外の空気を吸って来よう。
僕は弟が起きないよう静かに家を出た。
家の近くの丘の上に1人で腰掛け星空を見上げた。
「うわっ」
しばらく空を見て帰ろうと腰を上げようとした僕は驚いて声をあげてしまった。
いつの間にそこにいたのだろう。
見知らぬ老人が僕の隣にちょこんと腰かけていたのだ。
白髪でしわの様子からかなり高齢のようだが綺麗なローブを着ていてまるでゲームに出てくる賢者のようだ。
いつの間に?
「この世界は美しいのお。」
老人が語りかける。
何処かで聞いた声だ。
「だがこの世界は残酷でどうしようもなく腹が立つ。違うかの?」
なんだこの老人は?僕の心が見透かされてるみたいだ。
「ようやく女神の呪縛からほんの一時じゃが解き放たれたか。思ったよりかなり時間がかかったが、アンチRP数値も順調に上昇しておるのー。
資格は得たな。もう少し馴染ませる必要があるがあと何度か繰り返せばきっと、、、。」
アンチRP数値。思い出した。僕が餅を喉に詰まらせた時、頭に聞こえた老人の声だ。
「あなたは一体?」
僕は老人に問いかける。
「わしもこの美しく残酷な世界に憤りを感じる者。お前の味方だよ。わしの可愛い人形。」
老人は僕の頭にポンと手を乗せた。
僕は突然眠くなり、そのまま丘の上で寝てしまった。
気づいた時には既に朝になっていて老人は、いなくなっていた。
次回新章 「繰り返す世界」に続く。
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