かわいいものが好きなボクは、ボクを否定する王子を「ざまぁ」して胸を張って生きていきます。

さくしゃ

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本当は

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「はぁ……」

 ボクは自室のベッドにうずくまっていた。薄ピンクの布団で全身を覆い、白うさぎの人形を抱きしめて。

"オルナ・デパイスさん。貴女のことが好きです"

 六時間前、ボクは自分の想いを伝えた。

 ほとんどスレインのおかげだけど、それでも自分にしてはよくやったと思う。よく言った。よく伝えた。

"本当の「自分」で生きていく覚悟ができたら、また来な" 

 ボクの目……ではなく、さらにその奥にあるボクの「心」をまっすぐと見すえて、彼女はそう言った。

「本当の自分……」

 返事は保留のままなのか。それとも振られたのか。よくわからない。

 ただ一つ言えるのは、

「言わなきゃよかった……」

 想いを伝えてしまったことへの強い後悔が胸中で渦巻いていた。

 あのまま伝えなければ、遠くからではあったけど、彼女の笑顔を見続けることができた。

「それよりスレインに相談しなければ……いやいやそれよりもっと前、あの二人に追われたときに別の場所へ逃げていたら……いや、その前」

 浮かんでくるのは、「あのとき」ああしていれば、こうしていればという考えばかり。

 過ぎたことにいつまでも囚われて時間だけが過ぎていく。

 こんな自分が本当に嫌いで、大嫌いでしかたない。

 無駄なことはわかっている。過去には戻れない。

 そんなことができるのは、歴史に名を刻んだ大賢者くらいだ。

「あのときから何も変わってないな、ボクは……」

 十年前のあのときーー王城で行われたパーティーで言われたブレイク殿下からの一言に傷ついたあのとき。

「あんなことを言われるまではボクだって『自分らしく』生きていた」

 " 男のくせに気持ちの悪いヤツだ "

 昔からボクは周りの男の子たちと違っていた。

 周りの男の子が絵本の勇者に夢中になる中、ボクは、お姫様の美しさに夢中になった。

 物語の中でお姫様が着用するピンクのドレスやネックレス、ヒールやお化粧に至るまで、その全てに憧れた。

 さらに、ウサギさんやお馬さんといった同い年の女の子が可愛いと夢中になる動物をボクも一緒になって愛でた。

 髪も伸ばした。絵本の中のお姫様はみんな髪が長かったし、かわいい子はみんな髪を伸ばしていたから。

 そうして、一目で男の子か、それとも女の子なのか判別できない「ボク」という存在が出来上がった。

 女の子の友達が多く、一緒にドレスを着たり、アクセサリーを交換したり、お化粧をしあったりした。

 男の子たちの中には、「気味が悪い」とボクから遠ざかっていく子もいたけど、それはほんの一部で、大体の子が受け入れてくれたし、以前よりも距離が縮まり、仲良くなった。

「ボクはこのままでいいんだ」

 本気でそう思っていた。ブレイク殿下にあんなことを言われるまではーー。

 結局は、「権力」の前では「友情」なんてもろく崩れ去り、ブレイク殿下の放った一言をきっかけにみんながボクから距離を取った。

 それだけならよかった。

 それをきっかけにワーグナー侯爵家を嫌う貴族の家の子供や、ブレイク殿下の取り巻き……ほとんどの貴族から面と向かって、

「気持ち悪い」

 と言われた。どこへいっても指をさされて言われた。

 耐える日々。

 その中で心にヒビが入り、それはどんどん広がっていき、気づいた頃には手遅れだった。広がったヒビは亀裂となり、真っ二つに割れた。

 何が割れたのかーーそれはボクの心だった。

 防衛本能だったと思う。そこから数年間、ボクは部屋から出るのが怖いというよりも、全てがどうでもよかった。

 無気力、無感情、無反応、、、

「心と身体は連動している」とはよくいったもので、体が健康でも心が不健康なら完全な健康とはいえない。

 ボクはベッドの中で今のようにウサギの人形を抱きしめ、ただボーッと過ごした。

 頭の中では「あの時こうしておけばよかった」という過去の反省と後悔、それから若干の自身を卑下する思いがぐるぐるとまわり続けた。

「どうせ部屋を出たって酷いことしか待っていない」

「どうせ心の中ではボクのことを笑っていた」

「どうせボクのことなんて……」

 そうなると出てくるのは、「どうせ」という諦めの言葉だけだった。

 そして今のボクはあの頃と何も変わっていない。

「ボクのことを見透かしたように言っていたけど、どうせ『本当のボクの姿』を見たら距離を置くに決まってる」

 と決めつけて諦める。そうすることで、ボクは長い長い閉じこもり生活から抜け出した。諦めることで抜け出せた。終わりの見えないあの時間から……。

 しかし、今回ばかりは違った。

 誰かに力強く握られているように胸が苦しくて痛くて……息ができない。

(やだ……嫌だ)

 心が悲鳴をあげた。何に対してーー決まってる。

「本当はスカートをはいて、お化粧をして、好きな場所へ出かけたい……好きな格好で生きていきたい。かわいいものをかわいいって言いたい」

 ずっと押し殺してきた。見て見ぬ振りをしてきた想いがあふれてこぼれた。

 布団をめくる。

 空には朝日が昇り、新しい一日の始まりを告げていた。

「ふぅぅ」

 ボクは目を閉じた。

「……よし」

 それからしばらくして目を開け、ドレッサーへ向かった。

 普段は週に一度だけ、新作の女性服を着用したあとにメイクをするときにだけ使う。

「……よし!」

 椅子に腰掛け、まずは洗顔を済ませる。それから化粧水、乳液をつけて、メイクへと取りかかる。

 ボクはあまり難しい、特にアイメイクは得意ではないので、薄化粧で済ませ、最後にリップを塗って終わり。

 その後、メイクが変じゃないか、鏡で確認する。

「……」

 左頬の色が少しだけ薄くて変だったのでなおす。

「……いいんじゃないかな」

 笑顔が溢れた。ボクはやっぱりお化粧するのが大好きだ。

「ふふ」

 鏡に向かって笑ったあと、今度はクローゼットの前へ。

 本当はずっと着たかった服を取り出す。 

 黒を基調とした白と薄ピンクのラインが入ったチェックのスカートに足を通し、腰の少し上でホックを止め、シャツを中へ入れる。

「……かわいい」

 鏡に映る自分を見て満足。少ししてこみ上げてくるものがあったけど、

「メイクが崩れちゃう」

 と、なんとかこらえた。

 気持ちが落ち着くまでベッドに腰掛けて待ち、

「行こう」

 学習机に置いてあるスクールバッグを持ちドアの前へ。

「ふぅぅ……大丈夫、大丈夫」

 そう自分に言い聞かせて、ドアノブを右へと回して部屋を出た。
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