かわいいものが好きなボクは、ボクを否定する王子を「ざまぁ」して胸を張って生きていきます。

さくしゃ

文字の大きさ
10 / 33

騒然

しおりを挟む
「ねぇ」

「ええ」

 教室前の廊下でたむろする生徒たち。

「キレイ……」

 退屈な授業が始まる前の楽しい級友との時間。

 昨日あったことを笑いながら話し、それを聞いたものは「バカだな」と一緒に笑う。あるいは、今日も授業が始まる、と憂うつそうに話し、それに同意する者たちと様々だ。

 普段ならそのまま授業開始の鐘が鳴るまで話し倒すのだが、今日は違った。

 廊下にいる者たち全ての視線が一人の人物に注がれる。

「美しい……」

「キレイ……」

 その者は、目を伏せ気味に、スクールバッグを両手を重ねて持ち、ゆっくりと歩む。

 そのたびにバラとも、スズランとも、ジャスミンとも違うフレッシュな柑橘系の香りがただよう。

 さらに金糸のようなサラサラした髪からも良い香りが。

「いい香り……」

 廊下でたむろするもの全てが、その人物に魅了され、熱い吐息をもらす。激しく鳴り響く心臓をおさえて。

(だ、大丈夫だよね?ボク、変じゃないよね?)

 その者ーーユリウス・ワーグナーは、立ち止まり薄く開いていた瞳を開けて、周囲を見る。

(……ぎゃあああ!!みんながボクを見てる!?……なんで?)

 ユリウスはコテンと首を傾げる。

 その仕草に、

「ま、まずい……」

「む、胸が苦しいぃぃ」

 男性陣はどんどん激しく脈動する心臓をおさえ、茹で蛸のように顔を赤く染め上げる。

 一方の女性陣は、

「く、、、」

「なんだか同じ女として悔しい……」

 ハンカチを噛み締め、嫉妬からきつい目で睨みつけていた。

(ふぅぅぅ)

 ボクは周りから向けられる視線に恐怖を覚えつつ、それでも、

(ボクは変わる!変わるぞ!)

 顔を上げて目を開く。自分に向けられる視線に、体が震え踵を返して自室に戻るという考えが浮かんだけど、今朝自分に誓ったばかりの約束を思い出して、

(大丈夫、大丈夫、大丈夫!!)

 自分のクラスへと歩を進めた。

「おい、あんな子いたか?」

「さ、さあ」

 廊下を進む中、息を止めていたボクは、教室のドアの前に立つと、

「ふぅぅぅ」

 静かに息を吐き出し、新鮮な空気を体内へと取り込む。

「よし!」

 それから一拍おいて、ドアを横にスライドさせ、教室へと足を踏み入れた。

「……おい」

「だ、誰だ?」

 扉を開くとクラスメイト全員の視線が注がれる。そして、皆、ボクから距離を取って、

「あんなヤツうちのクラスにいたか?」

「いや、いねえよ。転校生じゃねえの?」

「それにしても……」

「き、キレイ……」

「ふん!私より目立つなんて嫌味な子!」

 ボクに見惚れる者、自身よりも目立つボクに嫉妬する者と様々な反応をひそひそとボクに聞こえるか聞こえないかという声音で話す。

(落ち着かない……)

 いつもと違う反応にソワソワしながらも自身の席に腰かける。

「お、おいあの席って……」

「あ、ああ……でも、あいつは」

 察しのいい男子は信じられないという顔をし、

「ユリウス様の席に座ったわよ」

「信じられない!なんて子なの!」

 女子たちは自分たちの憧れの存在である者の席に腰掛けるという無礼極まりない行為に腹を立て怒る。

「はぁぁ、反応なかったから来ねえよな」

 そのとき肩を落としながらスレインが教室へとやって来た。

「お、おはよう。スレイン」

 そんなスレインに向かって、おずおずと手を挙げボクは挨拶した。

「……あー、一瞬誰だかわからなかったわ。おはよう、ユリウス」

 いつもと変わらぬ挨拶を返してくれるスレイン。

 そんなことないと思いつつも、「変な格好だな」とか言われたらどうしようと不安だったボクは、

「うん!おはよう!」

 嬉しくて朗らかな笑みを浮かべ挨拶を返した。

「……うそぉぉ!!」

「あ、あの女が?!」

「ユリウス様ぁぁ!?」

 そして、見知らぬ女生徒の正体がボクだと知ったクラスメイトたちの驚愕の声が学園中に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...