かわいいものが好きなボクは、ボクを否定する王子を「ざまぁ」して胸を張って生きていきます。

さくしゃ

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主を選ぶ権利くらい

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 ひとしきり笑ったら、腹の底から湧き上がってきていた"喜怒哀楽"の"楽"ーー笑いの感情が嘘のように冷めていき、普段の落ち着きを取り戻したボクは、

「なら、なぜ殿下はお一人なんですか?」

 以前までならビクビクしてまともに見ることができなかった殿下の目を真っ直ぐと見据え、殿下が一番気にしているであろうことを容赦なく指摘してその心を抉った。

「……」

 怒りに体を震わせたまま何も言わない殿下。

「……大丈夫ですか?」

 ボクはその横を素通りし、殿下が踏みつけた執事さんに掛け寄り、ポケットからハンカチを取り出して、

「大した治療はできないけどせめて鼻血くらいは」

 踏まれてからしばらく経っているのに血が流れ出る鼻をハンカチで拭った。

「……あ、ありが、とうござ、います」

 地面に横たわったまま力なく執事さんはそう答えた。

「すぐに保健室から先生を呼んできますので少しだけ待っていてください」

 そんな執事さんの体の向きを横に変えて立ち上がり、

「それでは殿下。私は保健室から先生を呼んできますので」

 殿下に向かって一礼し、歩き出した。

「男のくせに……なんだその制服は」

 歩き出したボクの背中に殿下が、鋭い視線と共に怨念のような呪詛に満ちた声を放ってきた。

「なぜスカートなんぞ履く。なぜ化粧をしている」

 その声はだんだんと大きくなっていき、

「本当に男のクセに気色の悪いヤツだ!!昔からお前は!」

 最終的に校舎にあたって反響するほどの大きな声がボクに降り注いだ。

「命令だ!止まれ!僕を無視するな!」 

 それでも動きを止めないボクに向かって殿下はさらに叫んだ。

「ははは!王族からの命令を無視すれば不敬罪になる。そうなったら最悪は打ち首……流石のお前でも無視することはできまい」

 動きを止めたボクに対して、得意気に語る殿下。

「よし、さらに命令だ!ここで髪を切って化粧を落として、服を全て脱げ!それから下着姿のまま1週間過ごせ!その間、服を着ることは許さん!」

 いやらしい笑みを浮かべた殿下は、「ハハハ!我ながら愉快な命令だ!」と高らかに笑った。

「……」

 そんな殿下に向かってボクは歩いて距離を詰める。

「おい!僕の命令が聞けないと言うのか!できないと言うのなら力づくでやって……!」

 ボクの髪を掴もうと伸ばした殿下の腕を掴んで止めた。

「放せ!無礼であるぞ!僕は王太子だ!この国で王の次に偉い!たかだか侯爵家の次期当主の分際で調子に乗りおって!」

 殿下は、ボクの手を振り解くと

「さっさとその気色悪い姿を「普通」に戻せ!」

 距離を取った。

「普通……」

 殿下から一度視線を外し、

「か」

 空の頂点に登った太陽を細目で見つめ、再び視線を殿下へ向けた。

「な、なんだ!」

 狼狽える王子は握った両拳を僕に向けて構える。

 そんな王子にボクは、

「普通とは誰が決めたものなんでしょうか?」

 臆することなく話しかけた。

「……そ、そんなもの! 昔から男は"紳士"  女は"淑女"と決まっている!」

「それで男のボクが女性の服を着るのはおかしい……と?」

 殿下へと歩み寄り、ボクはその動揺に揺れる目をまっすぐと見据える。

「あ、当たり前だ!それが"普通"だろう!」

 少しだけ視線をボクから逸らし気味に、強気の態度だけは崩さずにそう反論する殿下。

「……では、ボクと仲良くしてくれているクラスメイトたちも"普通"ではないと言うことですか?」

 鼻先が触れ合いそうになる距離まで顔を近づけて、さらに問う。クラスメイトのことも「普通」ではないと言われたような気がして若干頭に来て口調を荒げしまったけど。

「そ、それは……」

 ボクが顔を近づけると、ギギギと開きの悪いドアのように殿下は顔を横へ逸らした。

どうやら王族としてのプライドと恐怖がぶつかり合った結果、恐怖が勝ってしまった様子……しかし今のボクにそんなことは関係ない。

「それから私に対してそこまで『普通』を語ると言う事は殿下の存在が『普通』の基準と理解していいですか?」

「あ、当たり前だろ!僕が『普通』じゃなかったらなんだと言うんだ!」

 顔を横に逸らしたまま、殿下は大きな声を道横の花壇に向かって発した。

「『カンシャク王子』」

 ボクは構わずに思ったことをそのまま伝えた。

「か、カンシャ」

「世間一般の『普通』を基準にするなら殿下も充分に『異常』です。というかやりすぎなくらいです」

「は?僕が?そんな訳な」

「あなたのことを心配する執事を足踏みにする人が『普通』ですか……それならばボクは父に頼んで国王陛下に今回のことを尋ねてみることにします」

 それでは……と気絶した執事をこれ以上そのままにしておくわけにもいかず、ボクは踵を返して保健室へ歩き出した。

「ち、父上に……ま、待ってくれ!」

 殿下は慌てた様子でボクの前方まで走ってくると

「それだけはやめてくれ!」

 頭を下げてきた。

「殿下が言ったのではないですか。自分は『普通』だと。なら、国王陛下に手紙を送っても問題ないではないですか。執事を足踏みにして気絶させるのが王族の『常識』なのですよね?」

「そ、それは……」

 言い淀む殿下。

「これ以上あの人を放置しておくのもよくありませんので」

 殿下に一礼して脇をとお……

「……ふ、ふざけるな!!王太子である僕が言うなと言ってるんだ!命令に従え!」

 ろうとしたら、癇癪を起こした殿下が怒鳴り出した。

「……ボクは侯爵家次期当主ですが、まだ家督を継いで国の政治に参加しているわけではないので、殿下からの命令といえど強制力はありません。なので、あなたの命令は拒否させてもらいます!」

「な、なんだ」

「それに仕える『主』を選ぶ権利くらいボクにだってあります!」

 カンシャクを起こして知能が低いと見られがちな殿下だけど、学園ではトップの成績を誇るためバカではない。遠回しだったとはいえボクの心の内を悟った殿下は、

「ま、待て……お前の力がなければ俺は生徒会長に」

 顔面蒼白で制服の裾を引っ張ってきた。

「そんなこと知りません。ご自身のお力で頑張ってください」

 殿下の腕を掴んで強引に制服から手を離すと、

「それでは」

 今度こそボクは保健室に向かって歩き出した。その背後では、

「そ、そんな……」

 パタリと地面に座り込んだ殿下は風に揺れる黄色の花をじっと見つめていた。
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