いじめられっ子の僕が

さくしゃ

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エマの家

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ー翌日ー

「では、行きますよ……「飛行(フライ)」」

体の周りに風が集まる。すると、少しずつ体が浮かび上がり、S極とS極が互いを寄せ付けないように一定の間隔を空けて朝日が登り始めた清々しい空気の中を飛んでいく。

「まだ眠い……zzz」
「本当……ふぁぁ」

仰向けで寝始めるエミと眠気覚ましにカフェオレを飲むエマ。

「美味しい!…硬いパンにハム、チーズ、トマト、レタスを挟んだだけなのに…」

出発前に誰よりも朝早く起きて聖国の人たちが好きそうなカフェオレをお供えしてきたミカは、日向の作った30cmのビッグサイズを2口で食す。

「頂きます……ん!美味しい!」

エマ特製の「愛情たっぷり♡エマスペシャルブレンド「Love」」を飲み、日向の作ったサンドイッチを食べる。

「……」
「…ん?食べたいのか?」

背後からものすごい視線を感じたリナは振り返りミカに聞く。

聞かれたミカは言葉ではなく首を上下に激しくヘッドバッド…

「あー……」

日向の作るシンプルな料理が誰よりも好きなリナはサンドイッチとミカを何度も見て、

「……分かった。半分こにしよう」

サバイバルナイフを取り出し、サンドイッチを2分の1……「もう少しだけ食べたいな」と数ミリだけずらして、ほぼ半分こにしたサンドイッチの方を渡す。

「んー!美味しいです!」

もらったサンドイッチを一口で平らげ惚けた顔で空を見上げる。

(口にあったようでよかった……)

ホッと安心した日向は、自分のサンドイッチを半分に切ってリナとまだ食べたそうにしているミカに渡す。

それから1日……

「ようこそ!マイ♡(ラブ)ハウス!「ema's in ワンダーランド」へ」

空全体を覆う雲によって冬の17時頃のように薄暗いルンブルク王国王都だった場所……

現在は、更地と化し、建物の残骸すら残らず、草一本生えず、周りの森も枯れ果て朽ちている。

「魔物は生み出さないようにしてるから1匹もいないわ」

出発前にエマさんが話していた通り、ルンブルク王国には魔物が一体もいなかった。

「一体もいない代わりに魔法陣には魔物を生み出していない期間の魔力が溜まるから相当強い突然変異種が出てくることは確定してるから覚悟してね♡」

(一体どんな魔物が出てくるのか……)

エマの案内の元、大きくひらけた平原の真ん中に四方を石垣に囲われたポツンと建つ平屋のログハウス目指して日向達は歩き出す。

さあ、どうぞ」

エマは玄関の扉を開き、他のみんなを家の中へ招く。

「素敵なログハウス……」
「昔読んだ絵本に出てくる魔女の家にそっくりだ……」
「……」

女性陣はウッドデッキへと登る2段の階段を登り、玄関から中へと入っていく。

「……」

日向も階段を登り、玄関から中に入るところで振り返り石垣の外を見る。

(噂ではエマが1人で重力魔法で押し潰したってなっていたけど建物の残骸が何も残っていない……空間魔法の使えないエマがやったなら残骸が残っているはずなのに……)

なかなか家の中に入らない日向。

「どうかしたの?風邪引くといけないから早く中に入って」

考え事に夢中になっている日向を家の中へと押しこみ、ドアを閉める。

「エマさん。もしかしてこの王都ってまお、むっ!…」

日向が「魔王」と言いかけたところで日向の口を手で塞ぐ。

「その事はいいの……今更、掘り下げられたく無い」

日向を睨むエマ。

「いい!その事はあなたの胸に留めておいて!分かった?」

睨みながらもどこか悲しそうに喋るエマに「こくり」と頷く。

「なら、いいわ」

エマは、日向の口から手をどけて、20畳の広さのリビングの窓際にあるリクライニングチェアに座りくつろぐエミ、ミカ…

「行儀が悪いぞ」

そんな2人を叱るリナは机の真ん中が囲炉裏となっているリビング中央の椅子に腰掛けていた。

「堪能してもらえてるようで安心だわ……簡単に家の間取りを紹介するわね」

エマは囲炉裏に薪を入れて火をつける。

「私たちのいるここがリビングね。リビング奥にあるのがオープンテーブルの調理場ね……って言っても食材を切って調理は、私が今火をつけてる「囲炉裏」で作るわ」

勇者パーティーの料理番であるエミは興味津々に囲炉裏へと近づく。

「へぇ……でも鍋を置く場所とか無いけどどうやって作るのかしら?」

燃えた薪の灰とその中心で燃える薪しかない囲炉裏……鍋を置く場所なんてない。

「鍋をかけるのはここ」

中心で燃える薪の数十cm上にある天井から吊るされた鉄製のS字フックを指差す。

「あ!なるほど!……でも、フライパンが使えないわね……」
「ごめんなさいね……焼き物は煮込み料理を作る前に鍋で焼くとか串に刺して焼くしかないわ」

謝りつつも「そうね。1人だったからあまり気づかなかったけど……」とエマは物差しを取り出してフライパンの大きさなどを測り始める。

「採寸しているところ悪いな……あの調理場の横の2つのドアは寝室か?」

木材、ノコギリ、トンカチ、釘をマジックバックから取り出すエマにリナが尋ねる。

「ああ。紹介の途中だったわね。奥が脱衣所とお風呂場、手前のドアが水洗式のトイレになってるの……家は屋上に雨水タンクとろ過装置で水をきれいにして使ってるから蛇口を撚れば勝手に水が流れてくるから自由に使って……えっと……」

説明が終わると額に丸めた手拭いを巻きつけ、木材に鉛筆で印をつけ始める。

「この世界で水洗式のトイレって……」

この世界は魔法技術が発達しているが、トイレはタンク式になっていて業者が掃除するし、洗い物などは魔法で済ませることが多く。そもそも蛇口なんてものがない……

「本当すごいことをさらっと言うな……」

フライパン用の台を作るエマを見て呆れる日向。

「ああ!本当だ!なんか星形の取っ手を回したらお風呂に水が出てきた!」
「調理場も同じだぞ!これなら洗い物も簡単だぞ!」
「すごい……水の流れるトイレ……」

蛇口を捻って出る水に驚く3人。

「できた!あとはこれの表面を焼けば完成!」

エマは20cmのマスを手にした囲炉裏の火で表面を焼き始める。

その後、猪肉の味噌鍋に始まり、檜風呂、背もたれの角度を変えられるリクライニングチェアなどエマ自作の家を堪能し、リナ達は眠りについた。

「ふぅ…」

1番最後にお風呂に入った日向は髪を拭きながら涼みにリビングからテラスに出る。

「あれ?エマさん?」

髪を拭きながらテラスへ出るとリクライニングチェアに腰掛けて星を眺めるネグリジェ姿のエマがいた。

「……あら?日向じゃない……」

何かを深く考え込んでいたようで、日向が話しかけてしばらくして返事が返ってきた。

「どうかしたんですか?」

エマの隣の椅子に腰掛ける。

「あまりに星が綺麗だったから眺めていたのよ…」

エマは湯気が出ていない冷めた紅茶を一口飲む。

「って星なんてなかったわね…やだわ…」

照れながら、一気に紅茶を飲み干す。

「む!…ごほ!ごほ!」

一気に飲み干したため、軌道に入りそうになり派手にむせ込む。

そんな出会ってから初めて見るエマの抜けた姿に日向は、

「はは…あははは!」

普段のギャップから思わず笑ってしまう。

「ち、ちょっと!ごほ…笑うことないんじゃないの!」

少しむせながらも椅子から立ち上がり、テーブル越しに日向を睨む。

「ははは!…だって、どんな時も落ち着いてるから完璧だと思っていたエマさんの慌てる姿が意外で……かわいい所があるなって思って……」
「か、可愛い……」

大好きな日向から可愛いと言われて顔を赤くするエマ。

「……もう!そこでそんなこと言われたら何も言えないじゃない……」

笑顔を向けてくる日向に照れ隠しで怒った振りをしつつ椅子に座り直す。

「人より長い人生経験があるってだけで私にだって悩みくらいあるわよ……」

日向はマジックバックから2人分の紅茶を取り出して、お湯を注ぐ……湯気と共に紅茶の香りが漂い、鼻を通り抜ける。その香りはコーヒーと同じで心を自然と和らいでくれる。

トポポポ……

2人分の茶葉なので2分ほどお湯で蒸らしてからカップに紅茶を注ぐ。

「あ…ありがとう」

出来立ての紅茶をエマに渡す。

「んー…良い香り…」

紅茶によって気まずかった空気が柔らかくなる。

ゴクリ……

紅茶特有の香り、ほのかに感じる甘味…

(美味しい……)

紅茶によって冷えた体が温まりポカポカする。

「ははは……エマさんって意外と表情に出やすいですよね」

笑顔を浮かべる日向。

「ふふふ……毎回人に料理を出した後にちゃんと美味しくできてるか心配そうに見てるあなたもわかりやすいわよ」

笑いながら紅茶を飲む。

「え!そんなに出てます?」
「ええ…とっても」

真顔で聞く日向に笑って答えるエマ。

「……人ってね。歳を重ねる度に悩み事とか苦しんでる姿を隠すのが上手くなっていくのよ。普段笑ってるけど、本当はビクビクしてるんだから。私はちゃんとみんなに受け入れられているのかって……」

エマは椅子から立って石垣の外を見る。

賑やかだった。自分が魔人だと言う事実が受け入れられず、人が恋しくて入った街。本当の自分を知らない人達だったけど、一緒に笑っている時だけ人間に戻れたような気がした。

「私には日本で人間として過ごした記憶がある。占い師として人を笑顔にして、結婚して、そして、家族に囲まれて人として死んだ……」

笑顔に囲まれて死ねた。幸せだった。悔いのない人生。

「次に目を覚ました時、魔人になっていた。人を殺せ!全てを壊せ!と訴えかけてくる魔物としての本能…互いに殺し合う魔物達…」

まるで鬼ごっこをする子供のように無邪気に人を、仲間であるはずの魔物同士で殺し合う場所。

「人が恋しくてかつて王都だったこの場所に逃げ込んで、前世の記憶を使って占い師をした。笑顔に囲まれた。嬉しかった。人間に戻れたような気がした……」

ランプに照らされたエマの背中がなぜか黒く染まる。

「でも、魔王がやってきて、街の人たちをみんな殺した……殺す度に楽しそうに笑ってた……」

自身の体を抱きしめ、その場に座り込み震え出す。

「あいつと同じ血が流れている。あいつと同じく人を殺すように本能が語りかけてくる……いつか自分も笑って人を殺すようになってしまうんじゃないかって怖いの……」

エマは怯えて震え続ける。

「……」

日向は静かに立ち上がり、マジックバックから出した毛布をそっとかける。

「……ぐっ……ぐす」

日向のかけてくれた毛布は暖かくて、太陽の匂いがした。

「王都を出発する前日に干しておいたんです。すごいですよね!干した毛布って暖かくて匂いを嗅ぐと太陽の匂いがして落ち着くんですよね」

日向は笑って話す。

「僕も一緒です。両親を殺したリーパーを魔人としてこの世界に転生させて同じように人を殺させていた魔王が許せなくて……憎しみに支配されそうになる時があります」

日向の手が震える。

「抗えなくなりそうで怖い…でも、僕だけじゃないんですよね。リナさん、エミさん、ミカさん……みんな憎しみと戦っている……」

すぅ……ふぅ……

高鳴る鼓動を深呼吸で抑える。

「なんだ。僕だけじゃないんだって思うと小さい事で悩んでいるんだなって思ってスッと不安な気持ちが消える……でも、ふとした時にフラッシュバックして苦しむ……そんな毎日です」

グスッ……

涙を流しきったエマは日向を見る。

「……ってよく考えたら答えになっていませんね……うーん?なんて言ったら良いんだろう?」

日向は腕を組んで悩む。

そんな日向を見ていたら、おかしくなってきて、悩む姿が愛おしくて……

チュッ……

唇を重ねていた。

「この世界での私のファーストキス……」

頬を染め、上目遣いで日向を見る。

「……な」

しばらくして「カアアア」と顔が赤くなる日向。

「ふふふ」

エマは立ち上がり、リビングへ入る窓を開く。

「私って野太い声だけど女だから安心して……おやすみ♡」

エマはウインクして建物の中へと入っていく。

「……ええ」

日向は呆然とその場で固まったまま唇を触る。

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