婚約破棄されたばかりの私の手が第三王子のお尻にめり込んでしまった。

さくしゃ

文字の大きさ
7 / 20

私が、でも……。

しおりを挟む
「静かにしてるのよ」

 保険医のロスベルト・ディアベル先生がベッドルームから出て行った。

「はい」

 そんな先生の背に私は返事をした。それから血の気が引いてクラクラする意識の中で天井を見つめて目を閉じた。遠くから四時間目の授業開始を告げる鐘がなった。

(ああ……お腹痛いし、気持ち悪いしで最悪)

 女の子の日特有の気持ち悪さと痛みに嫌気がさした。

(ああ、イライラする。なんで女ってだけでこんなに体調悪い時が定期的に来るんだ?)

 そして女の子の日にはもう一つ特徴がある。それはーーなんかめちゃくちゃ無性にイライラする!

 特に普段我慢してることがあればそれについてものすごく爆発する。まさに女の子の日とは"触れるな危険"だ。

「ああ!女の子の日なんて無くなってしまえばいいのにー!」

 で、今の私は女の子の日に対して無性に怒りを覚えていた。

「くらぁ!静かにしてろって言ったでしょ!」

 しかしその代償として学園で唯一仲の良いディアベル先生にめちゃくちゃ叱られた。

「すみません……」

 仕方なく私はいつ来るかわからない眠気を目を瞑って待った。

"キャロル頼む!"

 でも、こんな時に限って神経が過敏になっていて今、考えたって答えの出ないと言うことを考えてしまう。

"モデルをしてくれ!"

(はぁ……なんて答えたらいいんだろう)





 時は遡り朝。私はいつものようにロベルト殿下のアトリエで家事をしていた。いつものように洗濯をした後に朝食を作りロベルト殿下と一緒に食べていた。

「次の絵のモデルをキャロルに頼みたいんだけどいいか?」

 おお、今日のスープは上手くできたな、と感動していたらロベルト殿下からの突然の頼みに、

「え?!私がですか!」

 スープを吹き出しかけた。

「そうだ、いいだろ?」

 驚く私に対して涼しい笑顔のロベルト殿下。

「いや、待ってくだ」

 そんなロベルト殿下に私は即座に頼みを断ろうとした。だけど、

「考えておいてく、zzz」

 ロベルト殿下は食卓に倒れ込むとそのまま眠ってしまった。

「えぇぇ」

 ロベルト殿下の生活リズムは完全に昼夜が逆転している。朝8時に就寝した後、18時に目を覚まして一日が始まる。そして今がちょうど朝の8時なのでロベルト殿下、おねむの時間となってしまった。

「せめて私の返事を聞いてからにしてよ」

 結局返事できないまま登校して今に至る。

(はぁ……まあ、ロベルト殿下だから仕方ない)

 これ以上イライラするのも馬鹿らしいし、何よりも私の中ではロベルト殿下=バk……じゃなくて変わった人ということになっていて自然と怒りが込み上げてこない。

(基本マイペースな人。でも、根っこの部分は優しくて)

「ありがとう」って時折、家事をしているとお礼の言葉と共に抱きついてくる。

(ありがとうって言われるのは嬉しいけど、あの整った顔を耳元に近づけて優しく囁くように言ってくるのはやめてほしい……)

 その時のことを思い出したらロベルト殿下の感触や体温が、

(やばいやばい!ただでさえ体調悪いのに)

 一瞬にして信じられないほど心臓がはじけてしまったので深呼吸して体の熱を冷ます。

(ふぅぅぅ、本当にめちゃくちゃ。朝食を済ませたらすぐに寝ちゃうし、片付けても一日でゴミ部屋にしちゃうし、平気で3日くらいお風呂入らないし……)

 だけど、一度暑くなると中々布団の中の熱は冷めないので足だけ出して体温調節した。

(でも、絵は違う。絵のことになると日常生活の時の抜けっぷりが嘘のようにスムーズだ。それにロベルト殿下の描く絵はすごい。絵のことは詳しくわからないけど、とにかくすごいってことはわかる!)

 ただテンションの上昇と共に体温も上がってしまって暑かったので布団を全て剥ぎ取った。

(家にあった父の自画像や本で見た偉人達の絵は風景や人物を精巧に描いていて『上手いな』と思う。だけど、ロベルト殿下の絵は鉛筆しか使わないのに白いキャンパスに黒い線でそれらの上手いと思わせる絵と遜色ない絵を描いてしまう。そしてロベルト殿下の絵には血が通っている。見てるだけで絵の中に引き込まれてしまう。一瞬にして)

 日の当たらない保健室は春になったといっても寒い。が、今はその冷気が心地よく高まった体温を下げてくれた。

(そんなすごい絵を描くロベルト殿下からデッサンモデルに選んでもらえたのは正直に言うと嬉しい)

 しかし、

"この醜い老婆が"

"醜いわねぇ。本当に私の娘なのかしら?"

"消えてしまえ!我が家の恥晒しが!"

(私なんかがモデルになったらロベルト殿下の『絵』を汚してしまう)
 
 わかってる。私は相応しくない。汚してしまうだけだと……なのに、ノーと言い切れない。

「……」

 それから答えが出せぬまま、

「放課後は真っ直ぐと寮の部屋に帰りなさいよ。そして決して無理はしないように!」

「はい。ありがとうございました」

 放課後を迎えてしまい、私は保健室を後にした。

(私がデッサンモデルになってもいいのだろうか……いやいや、それでも私なんかじゃロベルト殿下の絵を汚してしまうだけで……)

 曖昧なままだったからなのかもしれない。そんな私を見てイラだった神様が私に罰を与えるのは当然のことだった。現実を見ずにまやかしに目を向ける私の

「こんな所で会うなんて奇遇ね」

「ま、マリア……」

 目を覚まさせる人物ーーマリアベルが現れた。

「姐さん聞いたわよ。随分ロベルト殿下と仲が良いみたいね。まあ、そのせいでロベルト殿下の根も葉もない噂が流れてるみたいだけど……ロベルト殿下がそれを耳にしたらどんな思いをするんだろうなぁーー存在するだけで他人に迷惑しかかけないなんて、本当に醜いね」

 そして私は思い知った。現実をーー自分の存在の醜さ、立ち位置を。

(そうだ。なんで忘れてたんだろう。未来を期待するような幸せな展開が起こると倍になって不幸せなことが返ってくるだけなんだって。幸せを感じた分だけ傷つくだけなんだって。周りに迷惑をかけるだけだから私は一人で居ようって決めたじゃないか)

 再確認した。本当は休ませてもらおうと思ったけど、わたしはそのままの足でロベルト殿下のもとへ向かった。

「醜い私はロベルト殿下に相応しくありません。もう二度と関わりません。ごめんなさい」

 と告げてアトリエを飛び出した。

「……え?」

 戸惑うロベルト殿下をそのままにして。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

処理中です...