勇者王国の落ちこぼれ剣士と第一王女

さくしゃ

文字の大きさ
2 / 10

メイナスブラウン②

しおりを挟む
 朝一番でメイスにボロボロにされてからは、手当を受けて少し休んでから、小屋の前でひたすらに素振りをする。1日1万回。

 「頑張っていればいつか僕のことをみんな認めてくれるはず!1、2、3……」

 僕はひたすらに木剣を振るう。
 お会いした事はないけど、僕のお爺さんもスキル、称号なしで生まれ、僕と同じくこの離れで隠されるように育てられたそう。
 しかし、たゆまぬ努力の末に次期当主だった弟を決闘で倒し、当主の座を勝ち取った。

 「それはもうすごかったぞ!」

 と、庭師のジョンが自分の過去を話すように眠る前に僕に語ってくれた。
 
 「すごい!僕も頑張れば!」

 その話を聞いた僕は興奮冷めず、不眠の日々が続いた。

 「僕だって!頑張っていれば絶対におじいさんのようになれる!」

 8年間、365日休まずに木剣を振り続けてきた。
 気合いを入れ直して、9000回目を振おうとした時、僕の背後から、

 「隙あり!」

 10代になったばかりの少女特有の透明感のある声。しかし、負けん気の強さが、根底にあることが耳から伝わると同時に……

 「ぎゃあああ!!!」

 お尻から伝わる激しい痛み。
 僕は耐えられずにお尻を押さえて飛び跳ねる。

 「あははは!いい飛び跳ね具合ね!」

 そんな僕を見て、お腹を抱えて笑う少女。

 「あははは!」

 前傾姿勢になった事で、肩でせき止められていた水色の長髪が、さらさらと前に流れる。

 「……」

 顔は特別可愛いと言うわけではない。しかし、明るく魅力的な笑顔、陽光で宝石のように輝き、風によってゆらめく水色の髪、シルクのハンカチのようにきめの細かい肌……
 僕は思わず見とれてしまう。お尻を押さえながら……ジッと見つめる。

 「……もう!そんなに見つめられたら……」

 笑顔を浮かべていた少女は顔を赤く染め、うつむいてしまう。
 最後は消え入りそうな声で何を言っているのか聞き取れなかった。

 「……あ!ご、ごめん!ナタリーの笑顔につい見とれちゃって!」

 彼女の可愛らしい反応にこちらも照れてしまい、ついを本音を伝えてしまった。お尻から手を離して。

 「……」
 
 下を見たままのナタリーの体が震え出す。

 「……あ!ご、ごめん!」

 怒らせてしまったと思った僕は、彼女に謝る。
 彼女は「ふぅ……」と一息つくと、顔を上げる。

 「いいよ。別に怒ってるわけじゃないから」

 さっきまでと変わらない明るい彼女の微笑み。
 それを見て僕は胸を撫で下ろす。

 「さて!今日は何して遊ぼっか!」

 それから彼女の微笑みは弾け、声の音量も上がる。
 初めて会った5歳の時から変わらない笑顔。
 向けられるこちらもついつい笑ってしまいたくなる不思議な力を持っている。
 そんな彼女の笑顔の引力に逆らえず、僕の顔も自然と緩んでいく。

 「そうだね……まずは」

 わざと迷う振りをする。

 「なになに!追いかけっこ!追いかけっこだよね!」

 今にも森の中へと走り出そうとするナタリー。
 その顔は期待に満ちている。
 僕はその期待に……

 「素振り!残りをやっちゃわないと!」

 応えることはなく。後1000回残っている素振りを始める。

 「ええ!!」

 露骨に落胆するナタリー。

 「……しょうがない。早く終わらせてね」

 彼女は地面に腰掛け、僕の素振りを見守る。

 「後1分で終わらせてね!」

 結構な無茶振りを口にしてくれる。
 でも、彼女と過ごす時間はとても心地よい

 「こんな時間がずっと続けばいいな……」

 僕たちに自覚はないが、2人の声が自然と重なり、互いの声が耳に届く前に地面へと落下し、消えていく。
 
 「大丈夫!頑張っていれば必ずなんとかなる!」

 僕は、不安を払拭するように自身に言い聞かせ、素振りの速度を上げる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

年上令嬢の三歳差は致命傷になりかねない...婚約者が侍女と駆け落ちしまして。

恋せよ恋
恋愛
婚約者が、侍女と駆け落ちした。 知らせを受けた瞬間、胸の奥がひやりと冷えたが—— 涙は出なかった。 十八歳のアナベル伯爵令嬢は、静かにティーカップを置いた。 元々愛情などなかった婚約だ。 裏切られた悔しさより、ただ呆れが勝っていた。 だが、新たに結ばれた婚約は......。 彼の名はオーランド。元婚約者アルバートの弟で、 学院一の美形と噂される少年だった。 三歳年下の彼に胸の奥がふわりと揺れる。 その後、駆け落ちしたはずのアルバートが戻ってきて言い放った。 「やり直したいんだ。……アナベル、俺を許してくれ」 自分の都合で裏切り、勝手に戻ってくる男。 そして、誰より一途で誠実に愛を告げる年下の弟君。 アナベルの答えは決まっていた。 わたしの婚約者は——あなたよ。 “おばさん”と笑われても構わない。 この恋は、誰にも譲らない。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。

まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」 そう言われたので、その通りにしたまでですが何か? 自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。 ☆★ 感想を下さった方ありがとうございますm(__)m とても、嬉しいです。

悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)

三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...