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メイナス・ブラウン①
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「バカ!下だよ!」
目を瞑る僕に弟から声がかかる。
「グハ!」
その瞬間、顎から伝わる鈍い痛み。
視界は揺らぎ、気がつけば、空を見上げていた。
背中から伝わる地面の柔らかくて、でも、どっしりとびくともしない感触、芝生の青臭い匂い。
揺らぐ視界に映る太陽……眩い光
絵本だと赤色で描かれることが多いけど、実際に目にすると白い。
「やっぱり白い……」
毎日のようにこうして目にする太陽。
そして……
「あははは!腫れ上がってブサイクな顔だな!出来損ないにふさわしいぞ!」
視界に映る太陽を遮り、僕を稽古と称してボロ雑巾にした弟「メイス・ブラウン」は、満足気な笑顔を浮かべて、横たわる僕を見下ろす。
「俺が当主になった暁には、俺の稽古の相手となるならこの家においてやるよ。兄上(ゴミ)」
弟からの尊敬など微塵(みじん)を感じられない、「兄上」呼びを子守唄がわりにして、僕の意識は深く、光の届かない水底へと沈んでいく。
これが僕の日常。
いつものこと。
生まれた時に備わった称号とスキルが重要視される世界「バース」
スキルや称号は生まれたときだけしか受け取れず、その後は発現することはない。
その中でも、「強き者」が優遇される「オードヴァン勇者王国」で代々「剣聖」を排出してきた「ブラウン公爵家」に僕「メイナス・ブラウン」は生まれた。スキル、称号なしとして……
貴族の家、特に公爵家ともなれば「家の面子」がある。代々、剣聖の称号持ちが当主を務めてきたしブラウン家ならなおさら。
「家の恥晒しめ!この家にゴミは要らぬ!……しかし、公爵が我が子を捨てたとあっては後々、どんな噂や弱みになるかわからん」
そこで、父の判断のもと、僕は広大な屋敷の森の中にある山小屋のような所で、庭師の「ジョン」に存在が表に出ないようにひっそりと育てられた。
「……ん」
全身に痛みが走る。体は重く、熱を帯びている。
それでも毎日の事なので、痛みで意識が急に覚醒することはなく、ゆっくりと水底に沈んでいた僕の意識は、水面を目指して浮上していく。
「ん……」
頭が、はっきりとしてきたので目を開く。
「いつも通りだ……」
見慣れた丸太が組まれてできた天井、照りつける太陽の熱さとは違う。包み込む布団の優しい温もり。
「今日もこっぴどくやられたのう」
ベッド脇の方から年老いた男性の優し気な声。
声の人物は僕を育ててくれた庭師の「ジョン」さん
真顔だと人を寄せ付けない迫力があるけど、笑うと途端に好好爺と化す。白髪と長年蓄え、毎日綺麗に整えている髭が特徴的。迫力のせいで大きく見られがちだけど、本当は僕と同じ150cmと低身長。
そのことを本人に言うと「これから成長するんじゃ!」と怒り出してしまう。
そんなジョンは額の濡れタオルを交換してくれる。
ひんやりとしていて気持ちいい。
「いつもありがとう」
僕はお礼と共にジョンに笑いかける。
「……っ!」
僕の笑顔を見たジョンは、一度天井を見上げてから目を拭っていた。
「……気にするでない。しっかりと休め」
ジョンは優しい笑みを浮かべて布団を掛け直してくれる。
目を瞑る僕に弟から声がかかる。
「グハ!」
その瞬間、顎から伝わる鈍い痛み。
視界は揺らぎ、気がつけば、空を見上げていた。
背中から伝わる地面の柔らかくて、でも、どっしりとびくともしない感触、芝生の青臭い匂い。
揺らぐ視界に映る太陽……眩い光
絵本だと赤色で描かれることが多いけど、実際に目にすると白い。
「やっぱり白い……」
毎日のようにこうして目にする太陽。
そして……
「あははは!腫れ上がってブサイクな顔だな!出来損ないにふさわしいぞ!」
視界に映る太陽を遮り、僕を稽古と称してボロ雑巾にした弟「メイス・ブラウン」は、満足気な笑顔を浮かべて、横たわる僕を見下ろす。
「俺が当主になった暁には、俺の稽古の相手となるならこの家においてやるよ。兄上(ゴミ)」
弟からの尊敬など微塵(みじん)を感じられない、「兄上」呼びを子守唄がわりにして、僕の意識は深く、光の届かない水底へと沈んでいく。
これが僕の日常。
いつものこと。
生まれた時に備わった称号とスキルが重要視される世界「バース」
スキルや称号は生まれたときだけしか受け取れず、その後は発現することはない。
その中でも、「強き者」が優遇される「オードヴァン勇者王国」で代々「剣聖」を排出してきた「ブラウン公爵家」に僕「メイナス・ブラウン」は生まれた。スキル、称号なしとして……
貴族の家、特に公爵家ともなれば「家の面子」がある。代々、剣聖の称号持ちが当主を務めてきたしブラウン家ならなおさら。
「家の恥晒しめ!この家にゴミは要らぬ!……しかし、公爵が我が子を捨てたとあっては後々、どんな噂や弱みになるかわからん」
そこで、父の判断のもと、僕は広大な屋敷の森の中にある山小屋のような所で、庭師の「ジョン」に存在が表に出ないようにひっそりと育てられた。
「……ん」
全身に痛みが走る。体は重く、熱を帯びている。
それでも毎日の事なので、痛みで意識が急に覚醒することはなく、ゆっくりと水底に沈んでいた僕の意識は、水面を目指して浮上していく。
「ん……」
頭が、はっきりとしてきたので目を開く。
「いつも通りだ……」
見慣れた丸太が組まれてできた天井、照りつける太陽の熱さとは違う。包み込む布団の優しい温もり。
「今日もこっぴどくやられたのう」
ベッド脇の方から年老いた男性の優し気な声。
声の人物は僕を育ててくれた庭師の「ジョン」さん
真顔だと人を寄せ付けない迫力があるけど、笑うと途端に好好爺と化す。白髪と長年蓄え、毎日綺麗に整えている髭が特徴的。迫力のせいで大きく見られがちだけど、本当は僕と同じ150cmと低身長。
そのことを本人に言うと「これから成長するんじゃ!」と怒り出してしまう。
そんなジョンは額の濡れタオルを交換してくれる。
ひんやりとしていて気持ちいい。
「いつもありがとう」
僕はお礼と共にジョンに笑いかける。
「……っ!」
僕の笑顔を見たジョンは、一度天井を見上げてから目を拭っていた。
「……気にするでない。しっかりと休め」
ジョンは優しい笑みを浮かべて布団を掛け直してくれる。
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