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あれから……
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スマホのアラーム音。
春を過ぎて初夏に入った5月上旬の明るい光がカーテンの隙間から差し込む。
「……ふぁ」
寝ている間に固まった関節を伸ばし、ベッドを出る。
私は義姉、義姉、義姉。
全身姿見の前で頬を叩き、自身に言い聞かせる。
朝一番の日課を終え、推し(土方歳三)へ手を合わせ、部屋を出る。
洗面所へ行き、洗濯機を回し、身支度を整える。
次に台所へ行き、4人分のお弁当と朝食を作る。
「おはよう」
銀鮭が焼き上がる頃、リビング横の夫婦の寝室から父と義母が労働の疲れが色濃く出た顔のまま起きて来る。
2人はそのまま洗面所に直行し、身支度を整えてからダイニングで朝食を取る。
多忙な2人はお弁当を手に持ち、6時少し過ぎには家を出る。
見送りが終わると昨日干したままの洗濯物を取り込み、新しい洗濯物を干す。
「いただきます」
それが終わるとやっと朝食。
両親を送り出すまで繰り広げられる、一分一秒を争う家事戦争が幕を下ろし、スッと肩から力が抜ける。
カリカリに焼き上がった食パンを食べ、温かいカフェオレで流し込む。
外からは、仕事場へと向かう車のエンジン音、ゴミ出しへ行く主婦たちの話し声、室内では時計の針の音が響く。
「ふぅぅ」
朝食を食べ終えたら、洗い物を済ませ、シャワーを浴びる。
ドライヤーで乾かし、ストレートヘアにセットし、後ろで一つにまとめる。
セーラー服に身を包み、本日も出動準備完了。
「JKになって1ヶ月と少し。ふふふ、まあまあセーラー服が似合う女になって来ましたね」
鏡の前でポージング。
得意気に笑らう私が映る。
「何やってんの……」
そんな時、背後から直人の声。
「な、直人!……いつからそこに」
直人へ振り返る。
「JKになって1ヶ月と少し。ふふふ、まあ」
モノマネが得意な直人は、私の動きや声を完全再現。
自分がこんな痛いことをやってたなんて……恥ずかしい!
「だああ!分かったー!初めからね!初めから見てたのね!」
「そゆことー、じゃあ今からシャワー浴びるから出ていってもらっていいっすか?」
「あ、はい……って、あんた!今8時だよ!」
素直に洗面所を出たが、スマホの時間を見て焦った私は洗面所のドアを開け放つ。
いくら学校が近所とはいえ、このままではマイペースな直人では遅刻してしまう。
「ちょっとー、確認しないで開けるとかやめて欲しいんですけどー」
ドアを開け放った先には、上半身裸の直人が居た。
夜遊び常習犯で、好きな物を遠慮せず食べる割に筋肉の配置図がくっきりとしたアスリート体型。
それに、女子である私よりもキメ細かく白い肌。
「……ご、ごめんなさーい!」
慌ててドアを閉めてリビングへ避難。
あいつは義弟、義弟、義弟!
自身に言い聞かせながらお弁当を持って玄関へ直行。
「ふぅぅ……遅刻するなよ! 先に行ってます!」
直人に一言伝えてから家を出る。
私たちが通う高校は偏差値65と県内でも有数の学校。
「おはよう」
「おはようございます」
その為、時間厳守。
遅刻者には厳しい。
「それじゃ授業を……って、また遅刻して来たのか、お前は。山口」
「先生、おはようござまーす。いつもより5分早く来ました」
「おお、そうだな。お前にしては……って、それでも遅刻は遅刻だ。そろそろ内申点に響くから気をつけろよ」
「はい! 肝に銘じます」
厳しい筈なのだが、何度注意しても直そうとしない生徒に対しては、怒ることをやめる。
遅刻して来た直人はそのまま入り口近くにある席へと腰掛け、スクールバッグを横にかける。
だから言ったじゃん、遅刻するって
私は教科書を開きつつ、直人をチラチラ見る。
直人は、教科書を自身の前に立て、両腕をクロスさせて顔を置く。
え、寝るの! 確かこの前の小テストも点数が悪いから気をつけるように注意されていたのに。大丈夫なのかな?……て、だめだめ! 世の中の姉は弟の事をそこまで気にしてなんていない。授業に集中。
頭を振り、ハイペースで進んでいく授業に没頭する。たまに、直人の方に目線が動いてしまうが、その度に集中し直す。
その後も、直人に胸を押し当てる女子にイラッとしてしまったり、笑い合う姿を見てハリで刺されたような鈍い痛みを覚えたり。
それでもなんとか直人を含めた自分以外の人に自身の気持ちが悟られないように平静を装って過ごし続ける。
あの時、封じ込めた筈の直人への想いは時間が経つ程に大きさを増していき、ちょくちょく漏れてしまう時もあるけど、何とかなっている。
「大丈夫? なんか今日は辛そうな顔してる」
「うん。今日はちょっと抑えきれなくって」
どうしようもなく辛い時は、ちーちゃんに話を聞いてもらっている。
本当にありがたい存在。
ちーちゃんがいなかったら、いつ暴発していてもおかしくない。
そして、学校が終われば、近くのスーパーで買い物をして、帰宅する。
朝できなかった掃除機をかけたり、夕食を作ったり、洗濯物を取り込んだり……やる事は沢山ある。
その後はお風呂に入って、予習復習をして、推し(土方歳三)に手を合わせてから眠る。
それが私の一日。
これから先も変わる事のない、私が送って行く日々。
そう思っていた……
「もう無理だわ」
その日は、珍しく夕方に帰宅した直人。
いつもなら0時とかに帰ってくるのに。
「おかえり」
息を切らし、苦しそうにする直人を、何とか平静を保ちつつ、出迎える。
「俺、お前のことが忘れられない」
夕飯を作る私に直人が迫ってくる。
熱い吐息が前髪に掛かる。
「へ……」
「好きだ」
春を過ぎて初夏に入った5月上旬の明るい光がカーテンの隙間から差し込む。
「……ふぁ」
寝ている間に固まった関節を伸ばし、ベッドを出る。
私は義姉、義姉、義姉。
全身姿見の前で頬を叩き、自身に言い聞かせる。
朝一番の日課を終え、推し(土方歳三)へ手を合わせ、部屋を出る。
洗面所へ行き、洗濯機を回し、身支度を整える。
次に台所へ行き、4人分のお弁当と朝食を作る。
「おはよう」
銀鮭が焼き上がる頃、リビング横の夫婦の寝室から父と義母が労働の疲れが色濃く出た顔のまま起きて来る。
2人はそのまま洗面所に直行し、身支度を整えてからダイニングで朝食を取る。
多忙な2人はお弁当を手に持ち、6時少し過ぎには家を出る。
見送りが終わると昨日干したままの洗濯物を取り込み、新しい洗濯物を干す。
「いただきます」
それが終わるとやっと朝食。
両親を送り出すまで繰り広げられる、一分一秒を争う家事戦争が幕を下ろし、スッと肩から力が抜ける。
カリカリに焼き上がった食パンを食べ、温かいカフェオレで流し込む。
外からは、仕事場へと向かう車のエンジン音、ゴミ出しへ行く主婦たちの話し声、室内では時計の針の音が響く。
「ふぅぅ」
朝食を食べ終えたら、洗い物を済ませ、シャワーを浴びる。
ドライヤーで乾かし、ストレートヘアにセットし、後ろで一つにまとめる。
セーラー服に身を包み、本日も出動準備完了。
「JKになって1ヶ月と少し。ふふふ、まあまあセーラー服が似合う女になって来ましたね」
鏡の前でポージング。
得意気に笑らう私が映る。
「何やってんの……」
そんな時、背後から直人の声。
「な、直人!……いつからそこに」
直人へ振り返る。
「JKになって1ヶ月と少し。ふふふ、まあ」
モノマネが得意な直人は、私の動きや声を完全再現。
自分がこんな痛いことをやってたなんて……恥ずかしい!
「だああ!分かったー!初めからね!初めから見てたのね!」
「そゆことー、じゃあ今からシャワー浴びるから出ていってもらっていいっすか?」
「あ、はい……って、あんた!今8時だよ!」
素直に洗面所を出たが、スマホの時間を見て焦った私は洗面所のドアを開け放つ。
いくら学校が近所とはいえ、このままではマイペースな直人では遅刻してしまう。
「ちょっとー、確認しないで開けるとかやめて欲しいんですけどー」
ドアを開け放った先には、上半身裸の直人が居た。
夜遊び常習犯で、好きな物を遠慮せず食べる割に筋肉の配置図がくっきりとしたアスリート体型。
それに、女子である私よりもキメ細かく白い肌。
「……ご、ごめんなさーい!」
慌ててドアを閉めてリビングへ避難。
あいつは義弟、義弟、義弟!
自身に言い聞かせながらお弁当を持って玄関へ直行。
「ふぅぅ……遅刻するなよ! 先に行ってます!」
直人に一言伝えてから家を出る。
私たちが通う高校は偏差値65と県内でも有数の学校。
「おはよう」
「おはようございます」
その為、時間厳守。
遅刻者には厳しい。
「それじゃ授業を……って、また遅刻して来たのか、お前は。山口」
「先生、おはようござまーす。いつもより5分早く来ました」
「おお、そうだな。お前にしては……って、それでも遅刻は遅刻だ。そろそろ内申点に響くから気をつけろよ」
「はい! 肝に銘じます」
厳しい筈なのだが、何度注意しても直そうとしない生徒に対しては、怒ることをやめる。
遅刻して来た直人はそのまま入り口近くにある席へと腰掛け、スクールバッグを横にかける。
だから言ったじゃん、遅刻するって
私は教科書を開きつつ、直人をチラチラ見る。
直人は、教科書を自身の前に立て、両腕をクロスさせて顔を置く。
え、寝るの! 確かこの前の小テストも点数が悪いから気をつけるように注意されていたのに。大丈夫なのかな?……て、だめだめ! 世の中の姉は弟の事をそこまで気にしてなんていない。授業に集中。
頭を振り、ハイペースで進んでいく授業に没頭する。たまに、直人の方に目線が動いてしまうが、その度に集中し直す。
その後も、直人に胸を押し当てる女子にイラッとしてしまったり、笑い合う姿を見てハリで刺されたような鈍い痛みを覚えたり。
それでもなんとか直人を含めた自分以外の人に自身の気持ちが悟られないように平静を装って過ごし続ける。
あの時、封じ込めた筈の直人への想いは時間が経つ程に大きさを増していき、ちょくちょく漏れてしまう時もあるけど、何とかなっている。
「大丈夫? なんか今日は辛そうな顔してる」
「うん。今日はちょっと抑えきれなくって」
どうしようもなく辛い時は、ちーちゃんに話を聞いてもらっている。
本当にありがたい存在。
ちーちゃんがいなかったら、いつ暴発していてもおかしくない。
そして、学校が終われば、近くのスーパーで買い物をして、帰宅する。
朝できなかった掃除機をかけたり、夕食を作ったり、洗濯物を取り込んだり……やる事は沢山ある。
その後はお風呂に入って、予習復習をして、推し(土方歳三)に手を合わせてから眠る。
それが私の一日。
これから先も変わる事のない、私が送って行く日々。
そう思っていた……
「もう無理だわ」
その日は、珍しく夕方に帰宅した直人。
いつもなら0時とかに帰ってくるのに。
「おかえり」
息を切らし、苦しそうにする直人を、何とか平静を保ちつつ、出迎える。
「俺、お前のことが忘れられない」
夕飯を作る私に直人が迫ってくる。
熱い吐息が前髪に掛かる。
「へ……」
「好きだ」
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※AI不使用です。
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