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今度は私が。
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屋上を飛び出した私は、教室を目指して階段をかける。
ちらつく母の顔。
"ごめんね。こんなお母さんで"
あの時も本当は母が苦しい思いをしていたのは知っていた。
家事を頑張ろうと。洗濯物を干したり、掃除機をかけてくれたり、お弁当を作ってくれたり。
しかし、その度に洗濯物を外へ落としてしまったり、フライパンから火の手が上がったり……
見ていて危なっかしかったので、ついつい私がやってしまった。
それでも母は教えて欲しそうにしていた。
私は迷った。
家事を教えるべきかどうか。
結局、答えを出せないまま、家事は私がやり続けた。
そして、答えを出す前に、母は姿を消してしまった。
「直人、ごめん!」
いっつも私は、後悔してから答えを出す。
それじゃ、遅いって言うのに。
お願い!間に合って!
教室の扉を開いて中へ入る。
「いない」
直人の席、教卓側の入り口近くの席。
屋上へ行く前に見た時は、放心状態の直人が座っていた。
だけど、今はいない。
机横にかけられていたカバンもない。
「……直人」
私は慌てて教室を飛び出す。
どこへ行ったのかはわからない。だけど、あの時と、母さんが出て行ってしまった時と同じ嫌な予感がした。
「ん? もうそろそろ昼休み終わるぞ」
玄関口に用務員さんがいた。けど、その脇を通り抜けて学校を出た。
下履きに履き替えず、上履きのまま。
直人、直人!
坂を下り、大通りを駆け抜け、駅前へ。
前に一度、所用で駅を利用した帰りに駅前のバスロータリーでたむろしていた直人を見た事があった。
「はぁはぁ」
制服に上履きのままバスロータリーの前で息を切らす私を通行人達は奇異な目で見る。
中には、スマホを向ける人もいた。
しかしそんなこと今はどうでもいい。
「居ない……何処に行ったの」
息が整った所で、私は再び走り出した。
走りながら電話をかける。
だけど、留守番電話になっていて繋がらない。
「直人……」
その後、商店街を探し、ショッピングモール、カラオケ……と、直人の行きそうな場所を探したけど見つからなかった。
沈みゆく夕日に照らされた街並み。
「……」
さっきまで参拝客がいて何かを言っていたが、3日前のあの日から人の声が何も聞こえない。目に映る全てが色褪せて、体が信じられないほど軽い。
今なら、風が吹けばどこへでも飛んでいけそうな気がする。
しかしそんなことはどうでもいい。
「萌……」
俺はこの世で1番幸せにしたい人を泣かせた。
笑顔にしたい人を泣かせた。
あの日から、涙を流す萌の姿が、頭の中で再生され続ける。
消えたい……
そう思っても行く宛なんてない。けど、自然と体は動き出し、自宅とは反対方向へと向いた。
あとは歩き出すだけ。
「直人!」
その時、境内に聞き慣れた声が響いた。
幻聴……か?
聞こえないはずの声に我が耳を疑い、声のした方に目をやる。
「直人!」
そこには萌がいた。
幻聴、まして幻覚でもない。
心から愛おしくてたまらない大切な人が俺の名前を読んでいた。
「萌!」
色褪せてよく見えなかった視界ははっきりと色彩を取り戻し、愛しい人を正確に映し出す。
「はーはー……よかった」
萌は苦しそうに肩で息をする。
しかし、俺を見て安堵した笑顔を浮かべる。
萌の様子から俺の事を心配して探し回ってくれたのだと分かった。
嬉しい……歩み出そうとする足を止める。
俺は萌の事を泣かせたんだぞ!
そんな俺が、萌に近づいていい筈がない。
俺が動きを止めていると……
「直人!」
いつの間にか走り出していた萌に抱き付かれた。
「ごめん! 直人のこといっぱい傷つけた! ごめん!」
涙を流して謝る萌。
萌が俺を傷つけた?
「萌は何も悪くない。悪いのは萌を泣かせた俺なんだ……」
謝っても許されない。
「そんな事ない! あの時、答えを出さなかった私が悪い!」
萌の腕から逃れようとする俺を、萌は離さないよう抱きつく腕に、さらに力を込める。
「それに他の人なら嫌だけど、直人に泣かされるなら良い!」
胸に埋めていた顔を離し、上目遣いで俺を見上げる萌。
「直人が笑ってると私も同じように嬉しくて、直人が落ち込んでると同じように悲しくて……こんなに感情が動くのは直人に対してだけなの!」
目を瞑る萌。
愛おしさが込み上げてくる。
「俺なんかで良いのか。また、萌を傷つけるかも知れないのに」
俺は萌を抱きしめ、耳元でそっとささやく。
「直人が、直人がいいの!私の心はいつだって直人しか見てない!」
再び泣き出してしまう萌。
「俺も、俺の心も萌だけしか見てない」
嬉しい……好きな人が好きって言ってくれる奇跡。
「大好き。愛してる、萌」
「私も。直人が大好き」
俺は萌を、萌は俺を。
互いを離さないように抱きしめ合う。
ちらつく母の顔。
"ごめんね。こんなお母さんで"
あの時も本当は母が苦しい思いをしていたのは知っていた。
家事を頑張ろうと。洗濯物を干したり、掃除機をかけてくれたり、お弁当を作ってくれたり。
しかし、その度に洗濯物を外へ落としてしまったり、フライパンから火の手が上がったり……
見ていて危なっかしかったので、ついつい私がやってしまった。
それでも母は教えて欲しそうにしていた。
私は迷った。
家事を教えるべきかどうか。
結局、答えを出せないまま、家事は私がやり続けた。
そして、答えを出す前に、母は姿を消してしまった。
「直人、ごめん!」
いっつも私は、後悔してから答えを出す。
それじゃ、遅いって言うのに。
お願い!間に合って!
教室の扉を開いて中へ入る。
「いない」
直人の席、教卓側の入り口近くの席。
屋上へ行く前に見た時は、放心状態の直人が座っていた。
だけど、今はいない。
机横にかけられていたカバンもない。
「……直人」
私は慌てて教室を飛び出す。
どこへ行ったのかはわからない。だけど、あの時と、母さんが出て行ってしまった時と同じ嫌な予感がした。
「ん? もうそろそろ昼休み終わるぞ」
玄関口に用務員さんがいた。けど、その脇を通り抜けて学校を出た。
下履きに履き替えず、上履きのまま。
直人、直人!
坂を下り、大通りを駆け抜け、駅前へ。
前に一度、所用で駅を利用した帰りに駅前のバスロータリーでたむろしていた直人を見た事があった。
「はぁはぁ」
制服に上履きのままバスロータリーの前で息を切らす私を通行人達は奇異な目で見る。
中には、スマホを向ける人もいた。
しかしそんなこと今はどうでもいい。
「居ない……何処に行ったの」
息が整った所で、私は再び走り出した。
走りながら電話をかける。
だけど、留守番電話になっていて繋がらない。
「直人……」
その後、商店街を探し、ショッピングモール、カラオケ……と、直人の行きそうな場所を探したけど見つからなかった。
沈みゆく夕日に照らされた街並み。
「……」
さっきまで参拝客がいて何かを言っていたが、3日前のあの日から人の声が何も聞こえない。目に映る全てが色褪せて、体が信じられないほど軽い。
今なら、風が吹けばどこへでも飛んでいけそうな気がする。
しかしそんなことはどうでもいい。
「萌……」
俺はこの世で1番幸せにしたい人を泣かせた。
笑顔にしたい人を泣かせた。
あの日から、涙を流す萌の姿が、頭の中で再生され続ける。
消えたい……
そう思っても行く宛なんてない。けど、自然と体は動き出し、自宅とは反対方向へと向いた。
あとは歩き出すだけ。
「直人!」
その時、境内に聞き慣れた声が響いた。
幻聴……か?
聞こえないはずの声に我が耳を疑い、声のした方に目をやる。
「直人!」
そこには萌がいた。
幻聴、まして幻覚でもない。
心から愛おしくてたまらない大切な人が俺の名前を読んでいた。
「萌!」
色褪せてよく見えなかった視界ははっきりと色彩を取り戻し、愛しい人を正確に映し出す。
「はーはー……よかった」
萌は苦しそうに肩で息をする。
しかし、俺を見て安堵した笑顔を浮かべる。
萌の様子から俺の事を心配して探し回ってくれたのだと分かった。
嬉しい……歩み出そうとする足を止める。
俺は萌の事を泣かせたんだぞ!
そんな俺が、萌に近づいていい筈がない。
俺が動きを止めていると……
「直人!」
いつの間にか走り出していた萌に抱き付かれた。
「ごめん! 直人のこといっぱい傷つけた! ごめん!」
涙を流して謝る萌。
萌が俺を傷つけた?
「萌は何も悪くない。悪いのは萌を泣かせた俺なんだ……」
謝っても許されない。
「そんな事ない! あの時、答えを出さなかった私が悪い!」
萌の腕から逃れようとする俺を、萌は離さないよう抱きつく腕に、さらに力を込める。
「それに他の人なら嫌だけど、直人に泣かされるなら良い!」
胸に埋めていた顔を離し、上目遣いで俺を見上げる萌。
「直人が笑ってると私も同じように嬉しくて、直人が落ち込んでると同じように悲しくて……こんなに感情が動くのは直人に対してだけなの!」
目を瞑る萌。
愛おしさが込み上げてくる。
「俺なんかで良いのか。また、萌を傷つけるかも知れないのに」
俺は萌を抱きしめ、耳元でそっとささやく。
「直人が、直人がいいの!私の心はいつだって直人しか見てない!」
再び泣き出してしまう萌。
「俺も、俺の心も萌だけしか見てない」
嬉しい……好きな人が好きって言ってくれる奇跡。
「大好き。愛してる、萌」
「私も。直人が大好き」
俺は萌を、萌は俺を。
互いを離さないように抱きしめ合う。
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