美少女おじさん ~ちやほやされたいので異世界転移でカワイイ美少女になることにした~

Ell

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第一話 プロローグ

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 この世は『美少女』にとても優しく、そして『おじさん』にはとても辛い。
 好きで太った訳じゃない。仕事の付き合いで飲んだり、帰宅してから一人暮らしでの自炊生活をする体力もなく、運動するにも時間が取れず、寝る為の晩酌はどうしても増える……まあ言い訳じみてる気持ちもなくはないが。
 髪の毛だって皆、自分からハゲたいと思う人なんていないだろう。いや私はまだ危険域には達していない……はずだ。そう信じたい。
 でも私がどれだけ頑張ろうと、会社のOLの皆さんにはそんなものはカケラも通じず、自分たちより上の世代は十把一絡じゅっぱひとからげで『おじさん』よばわりだ。
 そしてイケメンだったりシュッとしてる若いのにわらわらと群がる。モテとは縁の無い人生を歩んできた私にはどうにもならない。
 そしてそんな『おじさん』の扱いとはうってかわって『美少女』というのはそれだけで周りがちやほやしてくれる。
 もっと言えば、『美少女』としてそこにいるだけで、存在するだけで周りは癒されていき、そして『美少女』に恩返しをするかのように、いい意味で群がっていくのだ。
 そりゃあ私だって右の『おじさん』と左の『美少女』、どちらか片方におごるんだったらどうする? と聞かれれば、迷わず左の『美少女』を選ぶ。
 いや確かに右の『おじさん』の方が話も分かるかもしれない。同年代なら同じ世代の苦労とか会社の愚痴とかも話せるかもしれない。
 でもやっぱり『美少女』と同じ空間で美味しいご飯を食べて幸せになりたい。『美少女』は私の話を適当に相槌打ちながら美味しそうにご飯を食べてくれるだけで私は幸せなのだ。
 そもそも私の行動圏内で『美少女と美味しくご飯を食べる』シチュエーションなど皆無に等しい。それがご飯をおごるだけで叶うなら、一万円くらいなら全然おごってもいい。
 そりゃパパ活みたいなのが流行るわけだ。私はやってないけど。
 ……冷静に考えてみると、この状況はキャバクラである程度叶っちゃうな、と思った。
 おじさんなんてそんなものだ。人生とは非道く不公平なのだ。


 ……とまあそんな現実を痛感させられて早幾年はやいくとせ
 今日もおじさんは仕事でぐったりと体力と気力を使い果たし、終電に乗り込む。
 降りる最寄り駅はまだまだ先なので、ターミナル駅を過ぎて空いた席に座り、うつらうつらと舟をこぐ。
 終点の少し手前の駅で起きなければならないが、ベッドタウンを超えた先の田舎駅まで乗る人は少なく、私は両隣の人に気を使いながら、ゆっくりと意識を手放していった。


 ふと気付くと、電車は止まっていた。
 ゆっくりと辺りを見回す。車内には誰も残っていなかった。
 そして窓の外を見ると、ぼんやりとした明かりがゆらゆらとゆらめいている。まるで陽炎のような、蜃気楼のような……この世のものとは思えない、幻想的な風景を私は目にしていた。
 ここは……本当に終着駅なのか?
 終点まで寝過ごしたことは無いわけではないのだが、どうにも自分の記憶していた駅とは違う気がする。
 とりあえずホームに降りる……が、床の感触ももやもやとしている。柔らかい絨毯のようで、あるいはウォーターベッドのようで……ただ間違いなく、駅ではないことは確かだ。
 改札のゲートは通行止めになっており、その横に券売機のようにも見える、タッチパネルの画面がぴかぴかと点滅していた。
 左右を見渡してみたが、他に取れる手段もないので、まあ何はともあれ画面を覗いてみる。
 画面はぼんやりと青い画面を、まるで宇宙の深淵を覗いているかのような淡い光を伴っていたが、その画面上にあるカーソルが、ゆっくりと文字を紡ぎ出した。

「えーっと、『貴方はこれから異世界へと転生します。拒否権はありません。これから貴方のステータスを設定してください』だって……えっ!?」

 酔っているのか。夢なのか。
 もっともどちらにせよ、今のただ毎日会社と家を往復するだけの灰色の生活よりかは、異世界の方が楽しくすごせるかもしれない。
 田舎に住む両親には申し訳ないけれど、拒否権がないのにごねてもしょうがないし。
 と妙に物分かりがいいな、と自分で自分に突っ込みつつも、設定の所をいじってみる。
「なるほど……本当に一から設定をいじれるみたいだな」
 ステータス欄には、名前も性別も年齢も、そして身長や体重なんかの、とにかく何もかもが空欄だった。
 履歴書どころか学生時代の身体測定みたいだ。
「……待てよ、もしかしてここでカワイイ美少女に設定すれば、現状の誰からも冷たくされるおじさん生活じゃなくて、皆にちやほやされるバラ色の生活が見込めるのでは!?」
 巷ではネトゲのネカマプレイとも呼ばれるであろう方法を、まさかの異世界転生で行おうとするおじさんがここに一人。
「よーしじゃあ性別の設定は『女性』にしてっと、おっとスリーサイズが出てきたぞ」
 現代ではセクハラやらコンプライアンスやらで色々と厳しいご時世だが、自身のステータスなのだ。自由に決めていいはず。
「といっても具体的なのはよく分からんしなぁ……よしここはおじさんくさいが」
 そうぶつぶつと呟きながら三つの空欄に『ボン』『キュッ』『ボン』と入力する。
 適当極まりないがその辺はきっとなんとかしてくれるだろう。どーせ夢なんだから、なんとかなるなる。
 するとステータス欄の横に、3DCGの立体キャラクターが浮かび上がる。最近のゲームで自分のキャラクターを設定する際に良く出てくるやつだ。これを色々と調整することによって、より繊細に詳細に自キャラの設定が可能になる。
 ちなみにシルエットは見事なまでにボンキュッボンだった。
「おー、こいつはかなりの美少女さんだな。あとはこの辺をいじってみるか」
 鼻を少し高くシュッとさせ、また腰の位置を上げて足を長くすらっとさせて。目指すはハリウッドの映画に出てくるような、はたまたレッドカーペットを歩くようなモデル美人だ。
「うむ、こんな感じでいいだろう。他にはどこをいじるか……そうだ、良くある設定だけど金髪碧眼の美少女にしよっと」
 髪と眼の設定も変更する。そして瞳はやや大きめに、髪型は……やはりロングか、ショートか……
「んー、迷うなぁ……どっちもカワイイからなぁ……」
 迷いつつも、ショートからロングにするのは難しいけど、ロングからショートにはバッサリ切ってしまえばいつでも変えられると思い、ロングのストレートにする。ドリルヘアーのお嬢様設定なんかも面白そうだと思ったが、あれはセットが大変そうなのでやめた。見る分にはカワイイが、自身の頭のことなのだ。機能的な方がいい。
「おっ、種族設定もあるぞ……金髪碧眼のロングといえば……これだな」
 そう言うと私は種族欄に『エルフ』と入力した。するとキャラクターの耳が勝手に変更され、物語によくあるとんがり耳になった。
 もし美少女になるなら永遠に美少女がいい。年を取って大阪のオバチャンみたいになったり、しわくちゃの老婆になったらそうそうちやほやはされない。
 それならば永遠に近い歳を生きる(とファンタジー設定ではよくある)エルフになり、可能な限り美少女ちやほや期間を延ばしたい!
 私の思考は間違っていないぞ! そうだぞ私!
 寝ぼけているのか酔っぱらっているのか、この時はどうしようもない思考に満ち溢れていた。
 だが後悔はしていない。
「よしよし、大体こんなものか……衣装も幾つかあるのか。カワイイのはどれかなっと」
 衣装の項目を開いたが、余りの膨大さに眼がくらくらする。
「これは……ちょっと決めかねるな。とりあえず他の項目を……」
 右下の三角のカーソルを押すと、ページが変わった。こちらは具体的なステータスやスキルを設定出来るらしい。
 さてどうするか。やはりエルフというからには後衛の魔法使い型か、それとも剣士型というのも……。
 んー、ここはかっこよさと安全性の両立を軸にして考えてみよう。となると魔法は使いたいが、ステータスとしては素早さをメインにあげるべきではないだろうか。強い相手の攻撃も当たらなければどうということはない! ってどこぞのキャラクターも言っていたしな。それにいざという時に逃げられなくなるのが一番危険だ。
 とゆーことでステータスの項目は【魔力】と【素早さ】を優先的に上げて、と。後はレベルアップで補うことにしよう。

 そして【スキル】だ。こちらは非常に悩ましい。無難な所からつよつよな所まで。どうしようか……。
 ざっくりと見ているが、なんだこれ多すぎるだろう。余りにも多いのか左上には【剣士型】【魔法使い型】【賢者型】なんて選択肢もある。試しに押してみるとステータスとスキルが勝手に設定、変更された。なるほどこういう決め方も有りか。あるいはこれらを参考にするのもいいかもしれない。
 また右上にはスキルの検索機能までついている。まあこれだけあると探すのも一苦労だからな。
 とりあえず能力値は先ほどの設定に戻して、検索機能を使いつつ幾つか気になるものの説明文を読んでみる。んー悩ましい。
 普通のRPGみたいになるように、マップ機能が欲しいので【総合探知 (レーダー)】というのを選択。説明文によればどうやらこのスキル一つあるだけで、移動したところが自動でマッピングされ、敵味方や落ちてるアイテムなども全部表示されるらしい、という至れり尽くせり仕様だ。もっともスキルは全て最低のレベル一からしか始められないみたいだ。全てが表示されるのはスキルを育ててからになるだろうが、それでも楽しみだ。
 そしてド安定の【鑑定】に、戦闘スキルである【剣術】。魔法をメインにするとはいえ、最低限の武器が使えないと危険だ。そしてエルフならばやはりこの辺りだろう【風魔法】に【水魔法】。そしてアイテムボックスを含めた【空間魔法】。【空間魔法】は移動のテレポート(ワープ)もおいおい出来るみたいなので、必須だろう。他にもこれに、あとこの辺のもちょいちょい取って、っと。
 後は育成に便利な成長補正のスキルを探したが見当たらなかった。どうやら地道に頑張るしかないらしい。ぐぬぬ。
 また日常に使うであろう【生活魔法】的なのを探したが、これも検索したが出てこない。火魔法を取るべきかとも思ったが、どうもそれらはスキルではなく普通に覚えて習得するものらしい。面倒だが現地で何とかするしかないだろう。
 また山ほどのスキルを眺めていると【言語理解】というスキルが目に入った。これは必要だ。折角異世界に転生したのにコミュニケーションが出来ずに頓挫、では笑い話にもならない。外国語には学生時代から苦労させるれたので、こういったものがスキルで補助されているなら万々歳だ。
 本当はもっと沢山のスキルを生やしておきたかったが、どうやら隠しパラメータのような感じで、それぞれのスキルにはポイントが設定されているらしく、ある一定以上のスキルは取れないようだった。試しに【賢者】とか【魔王】とかを押すと、他の殆どのスキルが灰色になって選択不可になってしまう。
 ちなみに【勇者】は何をどういじっても選べなかった。なぜだろう。まあ選ばないから構わないが。
 生産系のスキルも欲しいがポイントが足りない。まあ現地で増やしていけばいいだろう。あと取れそうなのは……お、これにしよう。
 【酒豪】スキル。説明によると、どんなに飲んでものまれないらしい。おじさんは下戸だったので、職場の飲み会は中々に辛いものがあった。これで安心だ。きっと向こうでも無理やり飲まされたりとかがきっとあるだろう。うむ、きっとそうだ。なんせ美少女だからな。それに飲み勝負とかを挑まれても返り討ちに出来る。これも大きい。
 他にもまだ光っていて面白そうな、向こうに行ったら取れなさそうなスキルを探してみると……ありましたよこれ。【肉体変化】だって。言葉の意味は分かるけど具体的にどうなるのか分からない。説明を読んでも『肉体を変化させることが出来る』っていやそれは見れば分かるぞ……って思わずツッコみたくなる。エルフが獣人に変われるのか、あるいは熊とか狼とかの動物になれるのか。はたまた腕だけトロールみたいに太く大きく強化出来るのか。何にせよ、面白そうなスキルである。
 さてこれで殆どのスキルが灰色になってしまった。まだ取れるものはないだろうか……下へ下へとスクロールさせているが一向に終わる気配がない。まるでスマホで新しくゲームをやる前の同意要項のようた。しかしあれ、きちんと読むと結構大事な事が書いてあったりするので、面倒くさいながらも最低限目を通すことにしている。ましてや今回の場合は異世界転生なのだ。やり直しはきかない。
 そうこうしながらスクロールを続けていると、最後の最後、本当に一番下にまだ光っているスキルを見つけた。
「なんだこれ。【ステータス】?」
 説明文には【ステータスその他を確認、表示、設定することが出来る】とある。ん? ということはこれを取得しておかないとステータスを確認、表示、設定が出来なくなるってことじゃないのか!?
 私は血の気が引いた。今までの沢山の設定やスキルを生かせなければチートはチートでなくなる。このスキルがあるかないかで何もかもが変わってくるのだ。
 危なかった。しっかり最後までスクロールをしていて本当に良かった。
 ……これは完全に引っかけだな。というか、これ割と皆引っかかってるんじゃないか?
 さて、これであらかた……おっと、服装を決めていなかったな。
 散々迷ったが、実務的機能的な野暮ったいものよりも、カワイイ女の子が着てそうなものを意識してチョイスしてみた。機能的なのは現地で手に入る可能性があるけど、カワイイ系はもしかしたらここでしか手に入らない可能性があるからな。あと下着は……ムフフなやつを(以下略


 よし、これで完璧だ!
 右下の完了ボタンを押したが、まさかの
【必要事項を設定して下さい……名前】
 と表示されてしまった。そういえば当たり前のように入力していなかったな。
 んー、エルフだからそれを少しもじって『エリィ』とでもしておくか。
 念の為、他にも漏れがないか全体を確認する。……よし大丈夫っと。
 改めて完了ボタンを押す。
 今度は画面が更新され、『これでよろしいですか?』と再度確認画面になった。問題ないのでもう一度完了。
 次の画面はっと。『承りました。では手のひらを画面に置いて下さい』とのこと。左利きなので無意識に左手をぺたりと押す。
 すると耳もとで優しくささやく女性の声がした。
『願わくば、次のあなたの人生に幸あらんことを』
 えっ!? と反応する間もなく、私は左手がぐいっと画面に引っ張られるのを感じた。
 そしてそのまま私は、画面の中へくるくると落ちていった……。




 ふわふわとした感覚でぐるぐるになる。
 落ちているように感じるが、もしかしたら浮いているかもしれない。
 この感覚はいつまで続くのか。そう思っていると、急に足の裏に地面を感じた。
 膝ががくんとなりそうになるのを耐え、ゆっくりと回りを見渡す。

 そこは、間違いなく日本のどこかではなかった。
 私の前と後ろにはどこまでも真っ直ぐに続く道が、道の左側には膝下くらいの高さの草原が、右側には木々がまばらに生えた林が、私の視界の全てを塗りつぶしていた。
 林以外の三方の遠くには山々が連なり、太陽は私の背中側に燦々さんさんと輝いていた。まだそこまで高くはなく、日差しもそこまできつくはないので、恐らくだが午前中だろう。
 流石にこれは、と思うが……現実なのか、ゲームなのか。少し心を落ち着かせようと、心臓の鼓動を確認しようと胸に手を当てる。

むにゅん

「あんっ」

 びっくりして下を向くと、肌色の谷間が少しと、その先に隠されているであろう凶悪なバストと、それらを覆うようにして緑色の服が目に入った。胸から下は何も見えない。かつての私のお腹のように。

 じっくり三秒固まった挙げ句、体をまさぐってみる。
 いやこれは断じてセクハラではないぞ!?
 何しろ自分の体なのだからな! グラビアアイドルが自分の体をさわさわすることは決してセクハラではないのだ!!

 確認完了。
 私は、ほぼ間違いなく、先ほど設定したエルフのボンキュッボンのおねーちゃんになっていることが判明した!
 てか最初に耳さわればすぐ分かったじゃん! 何で気付かなかったのだ私!?

 ……どうしよう。どうしようこれ。

 まいっか。
 デブでハゲ(なりかけ)のおっさんがボンキュッボンの美少女エルフになるなんて、むしろ宝くじに当たる以上のラッキーなのでは!?
 日本が恋しいのもそれなりにあるが、まあ現状出来ることをやっていこうか。

 とりあえずは……

「ステータス!」

 ステータス確認だ!
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