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第三十五話 陛下と逃走
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部屋に入ってきたのは、王様でした。
えっと見た目は……サラサラ金髪ではないな。どっちかというと栗毛? 茶褐色? なんかそういう感じ。でもツンツンではなくてサラサラ。やっぱりこっちの人ってサラサラなのかなぁ。
年齢は壮年。はっきり言うけど、くたびれたおじさんって感じ。覇気は正直、そんなにないかな。そもそもめっちゃ眠そう。目が全然空いてない。あれ寝起きかな? 多分だけど。ぶっちゃけ普通の服着て町中とぼとぼ歩いてたら間違いなく王様だと分からないタイプ。あーあー言っちゃった。
でも今は違う。纏ってる服がヤバい。豪華ゴージャス雨あられ。なんか宝石なのか金なのか分からないけどきらっきら光ってる。いやもうスパンコールとかじゃないのあれ? って思うけど流石に二十四時間営業のお店で買った安物じゃないことだけは分かる。色合いとか刺繍とかめっちゃお金かかってるにおいがぷんぷんだ。
総じてみれば『王様の椅子に座ってたらヤバいってなったけど一人だったら勢いで押し切れるかも?』って思ったタイプの御方。
「さて……お主らは誰ぞ?」
「私はエルフのエリィ。明日召還令により謁見予定だった者ですが」
「ほぅ……今日は謁見予定ではないな。なぜ王宮に?」
おっこの人多少は話通じそう。良かったいきなりブチ切れるタイプじゃなくて。
「このクソ勇者が余りにも調子にのっていたので、魔王になってシバき倒したのち、奴隷ちゃん達を譲り受けたので今は書類を受け取りにきた所です」
「ま、魔王だと!?」
「ええ。勇者に対するのではそのままだとまずいかなって思って、とりあえず」
ギンシュがあわあわした顔してるけど、知るもんか。
『ドの御方』にも『勇者』にも引かなかったんだ。今更王様の一人や二人、どうってことあるまい。
「そなた……自分が何を名乗ったか分かっていないらしいな」
「え!? っと……」
私は慌ててギンシュの方を見る。ギンシュが物凄い勢いで頷いている。
……あれ? 私またやらかした?
いかん変な汗出てきた。
「正直、そこの勇者には手を焼かされておった。乱暴狼藉が目に余るようでは、人の上に立つにはいささか、と所があったのでな」
「なら」
「しかしだ、そなたの名乗った『魔王』は余りにも……いかんのだ。それはもう……我ら新人類の全てを敵だと名乗ったに等しい」
「ふぇっ!?」
「本来ならば今すぐそなたを捕え、処刑せねばならぬのだが」
ちょっと待ってちょっと待って聞いてない!!
ギンシュの方を見るとめっちゃ頷きながら色々言いたそうにしてる。
あちゃー。私、見事にやらかしてました!
「困ったのう……勇者の件で礼を言いたい所だが、儂が魔王に礼など言えば、それこそ我が王国は魔王に連なる者だと言われ、全方位から攻められて亡んでしまう。さて困ったのぅ……」
どうしよう。どうすればいいの!?
三度ギンシュの方を見る。『助けて』って顔するけど『いやいや無理無理』って顔された。やべぇ。
「ふーむ……よし、決めたぞ」
……ごくり。
「『儂は何も見なかった』よし、それで行こう!」
……は?
「良いな、儂は何も見ておらんしお主らも魔王とか名乗ってないしここに入り込んでないし勇者は何も知らんしただ気が変わって奴隷を譲り渡したくなった。これで行こう! これで問題ない!」
んな訳ないでしょ問題大ありでしょ!
死ぬほどツッコミたかったがこちらとしては最高にありがたい展開なので、黙っておく。
そこでギンシュが最高のタイミングで言葉を出してくれた。
「陛下! 私は王国騎士団のギンシュ=ライ=バニングであります! では明日のエリィ殿の謁見は予定通りで宜しいでしょうか?」
「おおそなたが派遣された騎士か、よかろうよかろう。今日の事は何も言うでないぞ」
「ははっ! 陛下のご恩情、誠に感謝いたします」
「そうだ、あとあの勇者は元通りにしておいてくれぬか。あのままだと何かあったことになってしまう」
「ははぁ。分かりました」
「後のことは余が皆に言うておくので、今はさっさと王宮を出られるがよい」
「ありがたき」
「ではの。儂はもう少し寝るぞ。ふぁああ~」
王様は大あくびをして出て行った。
いいのか。あれで務まるのか王様。
バタン、と扉が閉まる音。
ギンシュが途端に喋り出す。
「おいエリィ、お前はさっさと勇者を元通りにしてベッドに寝かせろ。そうだ眠らせる魔法とかあるか?」
「多分闇魔法とか使えばなんとか」
「ではそれだ! あとは窓を開けて空飛んで逃げるぞ。廊下はまずい」
「なんで?」
「陛下はもう一度寝るのだ。だから侵入者を捕えない方針にはまだなっていないはずだ! さっさと逃げるぞ」
「うえぇなんだよあの王様。言ってること違うじゃん」
「アレで何とかなると思っているのだ。今は急げ!」
「はーい」
私は【闇魔法】を発動させて、【ダーク】を催眠ガスのようにして勇者の頭部に使い、勇者は心地良い寝息を立て始めた。
そして氷を解き、傷を【光魔法】でとりあえず血は止まる程度には直してベッドに【風魔法】で運んでおいた。
「じゃあ書類も揃ったし、飛ぶよ」
「飛ぶってどうやって」
「ちょっと待ってね。私に捕まって。はい二人も。でねーこうやるの。えいっと」
奴隷ちゃん達三人はびくびくしていたが、六人がひと塊になると流石に暑い。早くミレイとギンシュにはこれ覚えて欲しいなぁ。後で練習しよっと。
「きゃあああああっっ!?」
いやまあ皆さまそーゆー声出るよね。ごめんね。
「じゃ、ファット大商会までひとっとびー」
「ぎゃああああああああっっ!?」
いやギンシュちゃんは既に経験済みじゃん。なんで一番声大きいの。
……あっもしかして彼女、高所恐怖症なのかな?
それだと流石に申し訳ないかも。でも他意はないのです。他意は。
とゆーわけで辿り着きましたよファット大商会。
中に入ると「いらっしゃいませ。いかがなされました?」と店員さん。
「すみません、裏入れてくれます? あと大旦那様を、ってそうだ! 奴隷ちゃん達の契約を!」
私慌ててて『奴隷商人』って聞いたからついここ来ちゃった!
「あの、大丈夫です……私達もここで契約したので」
「そ、そーなの。良かったぁ」
へなへなと座り込む私。
「おやおや皆様お揃いで。謁見は明日とのお話でしたが、本日は……」
といつの間にやら呼ばれて登場、そして喋り出すマンジローさん。でもそこで目が三人に映ると、言葉が止まる。
「こちらの三人の奴隷契約を解除するか、あるいは主人を私にするかしてほしいんです。勇者の許可は貰ったし、書類もあります。皆、出して」
「はいっ」
それぞれが自分の書類を取り出した。
「なるほど……構いません。ではこちらに」
マンジローさんはそういうと、部屋の奥へと案内してくれた。
待っている間、私はギンシュに話を聞く。
「それで……『魔王』ってやっぱ人類と敵対する存在なの?」
「貴様! その事が分かってて名乗ったのか!?」
「いやえっと……私の世界の物語だと悪い勇者が出てきたら良い魔王が出てくるから、まあ今回はそういう流れかなって」
「『そういう流れかなって』じゃない! 我ら新人族にとっては最大の敵だ! 亡ぼすべき相手だ! そもそも戦乱期のきっかけも魔王が登場したからなのだ!」
「そうなの!?」
ギンシュは大きな大きなため息を吐いた。
「もう頼むからお前は歴史を勉強してくれ……そうしないと今後もやらかす可能性しか見えないぞ」
「はい……今度から毎日ギンシュの講義を受けます」
「やめろ! 私では色々と足りない部分がある! ミレイのがいいのではないか?」
「ふぇっ!? わ、私は歴史は苦手ですぅ……」
「では何が得意なのだ?」
「え、えっと……えっと……」
途端に返答に困った挙句、私を見てうるうるしだすミレイ。
どうやら地雷だったらしい。
ギンシュと私は慌ててフォローに走る。
「だ、大丈夫! ミレイには沢山いいところがあるぞ!?」
「そ、そうだよ! 今なんかもう四大魔法全部使えるじゃない!?」
「そんなことないですぅ……私は今も昔もダメダメなんですぅ……お城でも何をやらせてもびりっけつで、お姉さま方どころか妹達にも馬鹿にされて……うぅ……」
二人でまた目線で会話する。
『ちょっとギンシュ! あなたが余計なこと言ったんだからなんとかしてよ!』『わ、私がか!?』『そうだよほら! また抱いてあげたらちょっとは落ち着くでしょ』『ぐぅ……』
「な、なあミレイ、友達の私が慰めるから……ほら、な、ぎゅってしような」
「うぅ……ギンシュぅ~」
「なぁ、あったかいだろぅ……」
「うん……あったかいですぅ……むふぅ」
機嫌が少し直ったようだ。よかったぁ……。
「きっとミレイは私達と一緒に、沢山の魔法が使える凄い魔法使いになれるよ」
「そ、そうだぞ!? 三人で色々な魔法が使えるようになろうな! 友達の私も一緒だぞ!?」
「むふーん……もう今日はずっとこのままですぅ! 離れないですぅ」
「あっ……ああ……構わない……ぞ……」
そう言いながら私に目ですがってくるのやめて。
……やめて!
とかやってると部屋に登場するマンジローさん。
「お待たせ致しました。準備ができましたぞ」
「今回ですが、奴隷契約の主をエリィ様に変更した上で、エリィ様が奴隷解放の手続きを行えばよろしいかと」
「うーん……しかし、それではまた勇者がやらかす可能性はないか?」
ギンシュの言う通りかも。じゃあどうすれば……。
「では、エリィ様の奴隷の状態を保持した上で、本人の自由意志に基づいて全ての行動やら言動やらを自由にする、と命令すれば宜しいのでは? そうすればエリィ様の所有物である以上、誰かが奴隷契約を結ぼうとしても既に奴隷なので主の許可が必要ですし、危害を加えようとすれば主と敵対したことを示すので、再度エリィ様がどうとでもすれば宜しいかと」
それだ!
「今の案、三人はどう!?」
「えっと……」
迷っている。とそこにマンジローさんが会話に入る。
「実はですね、彼女たちは今は奴隷ですが元々は王都の民なのです」
「えっ!? どゆこと!?」
「勇者様が町をぶらついては、気に入った娘を連れてきて私に奴隷契約を迫ったのです。本来ならば違法なのですが勇者様と陛下の許可が下りている以上、私にはどうすることも出来ず……」
あの勇者なんて野郎だ! もう少し蹴っておけばよかった!
「なんて奴だ! そんなのは勇者の風上にも置けん!」
「人の上に立つにはちょっと問題が多すぎますぅ」
二人に私も同意だ! あり得ない!
「正直、奴隷商人の一人としてなんともやりきれない思いであったのですが、こうしてエリィ様が連れて来ていただいたのは僥倖といえるでしょう。ですので三人とも、解放すれば王都の町に戻ると思われます」
「皆……そうなの?」
私が聞くと
「はい!」
「戻りたいです!」
「私も! 彼に会いたい……」
泣き出しちゃった。
「大丈夫! 私が必ず戻してあげるから!」
「ですが、勇者様が王宮にいらっしゃる以上、危険なのです。なのでエリィ様が主人であることは保持した方が宜しいかと」
「なるほどね。そしたら二度と襲われないってことね。よしそれでいきましょう! 私は少ししたら王都を出てくから、あなた達は王都で自由に暮らしていいの。鎖も外すし、恋愛も仕事もどこに住むかも自由よ。私の為に何かをする必要なんて何もない。それでいい? 名目上は奴隷だけど、私の保護下にあるって扱いで」
「えっと……」
それでも迷ってる。どして?
「それは勿論『魔王の保護下』だからだろう」
「えっ? そこで魔王が出てくるの?」
「当たり前だ! 魔王とは敵なのだ! いいか、何度でも言うぞ! 人類全ての敵が、魔王なのだ!!」「そっかぁ……私はどっちでもいいけど……どうしたい?」
三人は迷っていたが、やがて一人が決したようだ。
「私は、エルフ様の案に賛成します」
「ちょっと!」
「いいの!?」
「だって……あの勇者様から救って下さったのだもの! それにこんなに優しくして貰って……私達、助かったのよ!?」
「そうね……なんだか、未だに実感ないけど」
「だったら、信じてもいいと思うの。例え魔王と名乗っていても、それも勇者に対抗する為なのだから」
「そう……そう考えれば……確かに。じゃあ私も!」
「私も……賛成したいのだけれど……でもあの呪いは?」
「あっ……」
一人の『呪い』発言に、また三人ともしょんぼりしてしまう。今度はどしたの?
「あの……『呪い』って何?」
「勇者様の言葉で発情したり、勇者様以外の子供を産めなくなる呪いです……ここに」
そう言って彼女は今着ている服をまくり上げる。ちょっと下着が……と思ったけどさっきからめっちゃ見せてたか。いやでも……うーん。
とかやってたら見えましたよおへその下。なんか変な文様が……ってこれ例のアレですか!? ちょっと勇者! アンタなにやってんの!?
「これは奴隷契約とは別なので、私達ではどうしようも……」
ちょっと考える私。あれ待てよ? もしかしたら……
「ねぇミレイ? この手の魔法って」
「恐らく【闇魔法】管轄ですぅ。娼館だとこの手の魔法はちょくちょく使われるですぅ」
「じゃあそれも何とかなりそう。あとは?」
三人がきょとん、となる。そして一人がおずおずと手を上げる。
「実は……私、彼氏との子供が欲しかったのだけど……勇者に……非道い扱いを受けて……その……もう……」
「もしかして……作れなくされたの?」
「うっ……うぅうう……」
泣き出す彼女。何あいつ本当に許せない! 女の敵すぎる!!
「ミレイ、それって回復系よね?」
「恐らくそうですぅ。【光魔法】で何とかなると思うですぅ」
「じゃあそれも大丈夫! あとは!? あとは何かないの!?」
「あとは……多分……」
三人は私を信じられないような顔で見ていた。
「よし! じゃあやっちゃおう!」
私は三人に向けて、強く背中を押した。
えっと見た目は……サラサラ金髪ではないな。どっちかというと栗毛? 茶褐色? なんかそういう感じ。でもツンツンではなくてサラサラ。やっぱりこっちの人ってサラサラなのかなぁ。
年齢は壮年。はっきり言うけど、くたびれたおじさんって感じ。覇気は正直、そんなにないかな。そもそもめっちゃ眠そう。目が全然空いてない。あれ寝起きかな? 多分だけど。ぶっちゃけ普通の服着て町中とぼとぼ歩いてたら間違いなく王様だと分からないタイプ。あーあー言っちゃった。
でも今は違う。纏ってる服がヤバい。豪華ゴージャス雨あられ。なんか宝石なのか金なのか分からないけどきらっきら光ってる。いやもうスパンコールとかじゃないのあれ? って思うけど流石に二十四時間営業のお店で買った安物じゃないことだけは分かる。色合いとか刺繍とかめっちゃお金かかってるにおいがぷんぷんだ。
総じてみれば『王様の椅子に座ってたらヤバいってなったけど一人だったら勢いで押し切れるかも?』って思ったタイプの御方。
「さて……お主らは誰ぞ?」
「私はエルフのエリィ。明日召還令により謁見予定だった者ですが」
「ほぅ……今日は謁見予定ではないな。なぜ王宮に?」
おっこの人多少は話通じそう。良かったいきなりブチ切れるタイプじゃなくて。
「このクソ勇者が余りにも調子にのっていたので、魔王になってシバき倒したのち、奴隷ちゃん達を譲り受けたので今は書類を受け取りにきた所です」
「ま、魔王だと!?」
「ええ。勇者に対するのではそのままだとまずいかなって思って、とりあえず」
ギンシュがあわあわした顔してるけど、知るもんか。
『ドの御方』にも『勇者』にも引かなかったんだ。今更王様の一人や二人、どうってことあるまい。
「そなた……自分が何を名乗ったか分かっていないらしいな」
「え!? っと……」
私は慌ててギンシュの方を見る。ギンシュが物凄い勢いで頷いている。
……あれ? 私またやらかした?
いかん変な汗出てきた。
「正直、そこの勇者には手を焼かされておった。乱暴狼藉が目に余るようでは、人の上に立つにはいささか、と所があったのでな」
「なら」
「しかしだ、そなたの名乗った『魔王』は余りにも……いかんのだ。それはもう……我ら新人類の全てを敵だと名乗ったに等しい」
「ふぇっ!?」
「本来ならば今すぐそなたを捕え、処刑せねばならぬのだが」
ちょっと待ってちょっと待って聞いてない!!
ギンシュの方を見るとめっちゃ頷きながら色々言いたそうにしてる。
あちゃー。私、見事にやらかしてました!
「困ったのう……勇者の件で礼を言いたい所だが、儂が魔王に礼など言えば、それこそ我が王国は魔王に連なる者だと言われ、全方位から攻められて亡んでしまう。さて困ったのぅ……」
どうしよう。どうすればいいの!?
三度ギンシュの方を見る。『助けて』って顔するけど『いやいや無理無理』って顔された。やべぇ。
「ふーむ……よし、決めたぞ」
……ごくり。
「『儂は何も見なかった』よし、それで行こう!」
……は?
「良いな、儂は何も見ておらんしお主らも魔王とか名乗ってないしここに入り込んでないし勇者は何も知らんしただ気が変わって奴隷を譲り渡したくなった。これで行こう! これで問題ない!」
んな訳ないでしょ問題大ありでしょ!
死ぬほどツッコミたかったがこちらとしては最高にありがたい展開なので、黙っておく。
そこでギンシュが最高のタイミングで言葉を出してくれた。
「陛下! 私は王国騎士団のギンシュ=ライ=バニングであります! では明日のエリィ殿の謁見は予定通りで宜しいでしょうか?」
「おおそなたが派遣された騎士か、よかろうよかろう。今日の事は何も言うでないぞ」
「ははっ! 陛下のご恩情、誠に感謝いたします」
「そうだ、あとあの勇者は元通りにしておいてくれぬか。あのままだと何かあったことになってしまう」
「ははぁ。分かりました」
「後のことは余が皆に言うておくので、今はさっさと王宮を出られるがよい」
「ありがたき」
「ではの。儂はもう少し寝るぞ。ふぁああ~」
王様は大あくびをして出て行った。
いいのか。あれで務まるのか王様。
バタン、と扉が閉まる音。
ギンシュが途端に喋り出す。
「おいエリィ、お前はさっさと勇者を元通りにしてベッドに寝かせろ。そうだ眠らせる魔法とかあるか?」
「多分闇魔法とか使えばなんとか」
「ではそれだ! あとは窓を開けて空飛んで逃げるぞ。廊下はまずい」
「なんで?」
「陛下はもう一度寝るのだ。だから侵入者を捕えない方針にはまだなっていないはずだ! さっさと逃げるぞ」
「うえぇなんだよあの王様。言ってること違うじゃん」
「アレで何とかなると思っているのだ。今は急げ!」
「はーい」
私は【闇魔法】を発動させて、【ダーク】を催眠ガスのようにして勇者の頭部に使い、勇者は心地良い寝息を立て始めた。
そして氷を解き、傷を【光魔法】でとりあえず血は止まる程度には直してベッドに【風魔法】で運んでおいた。
「じゃあ書類も揃ったし、飛ぶよ」
「飛ぶってどうやって」
「ちょっと待ってね。私に捕まって。はい二人も。でねーこうやるの。えいっと」
奴隷ちゃん達三人はびくびくしていたが、六人がひと塊になると流石に暑い。早くミレイとギンシュにはこれ覚えて欲しいなぁ。後で練習しよっと。
「きゃあああああっっ!?」
いやまあ皆さまそーゆー声出るよね。ごめんね。
「じゃ、ファット大商会までひとっとびー」
「ぎゃああああああああっっ!?」
いやギンシュちゃんは既に経験済みじゃん。なんで一番声大きいの。
……あっもしかして彼女、高所恐怖症なのかな?
それだと流石に申し訳ないかも。でも他意はないのです。他意は。
とゆーわけで辿り着きましたよファット大商会。
中に入ると「いらっしゃいませ。いかがなされました?」と店員さん。
「すみません、裏入れてくれます? あと大旦那様を、ってそうだ! 奴隷ちゃん達の契約を!」
私慌ててて『奴隷商人』って聞いたからついここ来ちゃった!
「あの、大丈夫です……私達もここで契約したので」
「そ、そーなの。良かったぁ」
へなへなと座り込む私。
「おやおや皆様お揃いで。謁見は明日とのお話でしたが、本日は……」
といつの間にやら呼ばれて登場、そして喋り出すマンジローさん。でもそこで目が三人に映ると、言葉が止まる。
「こちらの三人の奴隷契約を解除するか、あるいは主人を私にするかしてほしいんです。勇者の許可は貰ったし、書類もあります。皆、出して」
「はいっ」
それぞれが自分の書類を取り出した。
「なるほど……構いません。ではこちらに」
マンジローさんはそういうと、部屋の奥へと案内してくれた。
待っている間、私はギンシュに話を聞く。
「それで……『魔王』ってやっぱ人類と敵対する存在なの?」
「貴様! その事が分かってて名乗ったのか!?」
「いやえっと……私の世界の物語だと悪い勇者が出てきたら良い魔王が出てくるから、まあ今回はそういう流れかなって」
「『そういう流れかなって』じゃない! 我ら新人族にとっては最大の敵だ! 亡ぼすべき相手だ! そもそも戦乱期のきっかけも魔王が登場したからなのだ!」
「そうなの!?」
ギンシュは大きな大きなため息を吐いた。
「もう頼むからお前は歴史を勉強してくれ……そうしないと今後もやらかす可能性しか見えないぞ」
「はい……今度から毎日ギンシュの講義を受けます」
「やめろ! 私では色々と足りない部分がある! ミレイのがいいのではないか?」
「ふぇっ!? わ、私は歴史は苦手ですぅ……」
「では何が得意なのだ?」
「え、えっと……えっと……」
途端に返答に困った挙句、私を見てうるうるしだすミレイ。
どうやら地雷だったらしい。
ギンシュと私は慌ててフォローに走る。
「だ、大丈夫! ミレイには沢山いいところがあるぞ!?」
「そ、そうだよ! 今なんかもう四大魔法全部使えるじゃない!?」
「そんなことないですぅ……私は今も昔もダメダメなんですぅ……お城でも何をやらせてもびりっけつで、お姉さま方どころか妹達にも馬鹿にされて……うぅ……」
二人でまた目線で会話する。
『ちょっとギンシュ! あなたが余計なこと言ったんだからなんとかしてよ!』『わ、私がか!?』『そうだよほら! また抱いてあげたらちょっとは落ち着くでしょ』『ぐぅ……』
「な、なあミレイ、友達の私が慰めるから……ほら、な、ぎゅってしような」
「うぅ……ギンシュぅ~」
「なぁ、あったかいだろぅ……」
「うん……あったかいですぅ……むふぅ」
機嫌が少し直ったようだ。よかったぁ……。
「きっとミレイは私達と一緒に、沢山の魔法が使える凄い魔法使いになれるよ」
「そ、そうだぞ!? 三人で色々な魔法が使えるようになろうな! 友達の私も一緒だぞ!?」
「むふーん……もう今日はずっとこのままですぅ! 離れないですぅ」
「あっ……ああ……構わない……ぞ……」
そう言いながら私に目ですがってくるのやめて。
……やめて!
とかやってると部屋に登場するマンジローさん。
「お待たせ致しました。準備ができましたぞ」
「今回ですが、奴隷契約の主をエリィ様に変更した上で、エリィ様が奴隷解放の手続きを行えばよろしいかと」
「うーん……しかし、それではまた勇者がやらかす可能性はないか?」
ギンシュの言う通りかも。じゃあどうすれば……。
「では、エリィ様の奴隷の状態を保持した上で、本人の自由意志に基づいて全ての行動やら言動やらを自由にする、と命令すれば宜しいのでは? そうすればエリィ様の所有物である以上、誰かが奴隷契約を結ぼうとしても既に奴隷なので主の許可が必要ですし、危害を加えようとすれば主と敵対したことを示すので、再度エリィ様がどうとでもすれば宜しいかと」
それだ!
「今の案、三人はどう!?」
「えっと……」
迷っている。とそこにマンジローさんが会話に入る。
「実はですね、彼女たちは今は奴隷ですが元々は王都の民なのです」
「えっ!? どゆこと!?」
「勇者様が町をぶらついては、気に入った娘を連れてきて私に奴隷契約を迫ったのです。本来ならば違法なのですが勇者様と陛下の許可が下りている以上、私にはどうすることも出来ず……」
あの勇者なんて野郎だ! もう少し蹴っておけばよかった!
「なんて奴だ! そんなのは勇者の風上にも置けん!」
「人の上に立つにはちょっと問題が多すぎますぅ」
二人に私も同意だ! あり得ない!
「正直、奴隷商人の一人としてなんともやりきれない思いであったのですが、こうしてエリィ様が連れて来ていただいたのは僥倖といえるでしょう。ですので三人とも、解放すれば王都の町に戻ると思われます」
「皆……そうなの?」
私が聞くと
「はい!」
「戻りたいです!」
「私も! 彼に会いたい……」
泣き出しちゃった。
「大丈夫! 私が必ず戻してあげるから!」
「ですが、勇者様が王宮にいらっしゃる以上、危険なのです。なのでエリィ様が主人であることは保持した方が宜しいかと」
「なるほどね。そしたら二度と襲われないってことね。よしそれでいきましょう! 私は少ししたら王都を出てくから、あなた達は王都で自由に暮らしていいの。鎖も外すし、恋愛も仕事もどこに住むかも自由よ。私の為に何かをする必要なんて何もない。それでいい? 名目上は奴隷だけど、私の保護下にあるって扱いで」
「えっと……」
それでも迷ってる。どして?
「それは勿論『魔王の保護下』だからだろう」
「えっ? そこで魔王が出てくるの?」
「当たり前だ! 魔王とは敵なのだ! いいか、何度でも言うぞ! 人類全ての敵が、魔王なのだ!!」「そっかぁ……私はどっちでもいいけど……どうしたい?」
三人は迷っていたが、やがて一人が決したようだ。
「私は、エルフ様の案に賛成します」
「ちょっと!」
「いいの!?」
「だって……あの勇者様から救って下さったのだもの! それにこんなに優しくして貰って……私達、助かったのよ!?」
「そうね……なんだか、未だに実感ないけど」
「だったら、信じてもいいと思うの。例え魔王と名乗っていても、それも勇者に対抗する為なのだから」
「そう……そう考えれば……確かに。じゃあ私も!」
「私も……賛成したいのだけれど……でもあの呪いは?」
「あっ……」
一人の『呪い』発言に、また三人ともしょんぼりしてしまう。今度はどしたの?
「あの……『呪い』って何?」
「勇者様の言葉で発情したり、勇者様以外の子供を産めなくなる呪いです……ここに」
そう言って彼女は今着ている服をまくり上げる。ちょっと下着が……と思ったけどさっきからめっちゃ見せてたか。いやでも……うーん。
とかやってたら見えましたよおへその下。なんか変な文様が……ってこれ例のアレですか!? ちょっと勇者! アンタなにやってんの!?
「これは奴隷契約とは別なので、私達ではどうしようも……」
ちょっと考える私。あれ待てよ? もしかしたら……
「ねぇミレイ? この手の魔法って」
「恐らく【闇魔法】管轄ですぅ。娼館だとこの手の魔法はちょくちょく使われるですぅ」
「じゃあそれも何とかなりそう。あとは?」
三人がきょとん、となる。そして一人がおずおずと手を上げる。
「実は……私、彼氏との子供が欲しかったのだけど……勇者に……非道い扱いを受けて……その……もう……」
「もしかして……作れなくされたの?」
「うっ……うぅうう……」
泣き出す彼女。何あいつ本当に許せない! 女の敵すぎる!!
「ミレイ、それって回復系よね?」
「恐らくそうですぅ。【光魔法】で何とかなると思うですぅ」
「じゃあそれも大丈夫! あとは!? あとは何かないの!?」
「あとは……多分……」
三人は私を信じられないような顔で見ていた。
「よし! じゃあやっちゃおう!」
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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