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第五十二話 便利な【スキル】
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バニング伯爵領で過ごしていると、どうも喉がいがいがする。
ギンシュに聞いてみると、昔からなんだと。
なんでかなぁと考えてみたが……多分これだ。空気が乾燥しているのが原因な気がする。
それもこれも、水が少ないのだ。
恐らくだが、周りを山に囲まれていて雨が降らないのだろう。
「ねぇギンシュ、ここって井戸とか川とかないの?」
「残念ながらな……水はとても貴重だ。だから方々から水を買うのでな……その辺のやりくりが大変なのだ」
「そっか……じゃあ井戸でも掘るか」
「水関係は昔から色々やってはいるが……何を試してもどうにもならんかった。今更どうにもならんぞ」
「そっか……」
そんな私とギンシュの会話に、さらっと入ってくるハジメ君。
「なら【水魔法】と【土魔法】を使えばいいんじゃないんです?」
「なんだ、巨大な池でも作ろうというのか。でも掘っても水が降らんと意味がないぞ」
でもアリかもしれないね。少なくとも大勢の人使わないと無理な作業が魔法で出来ちゃうのはいいかも。
「いえ、違います」
「なに?」
「両方の魔法を駆使して、地中にある地下水や川を探すんです。それで、地下水が溜まってるならくみ上げるポンプを作るか、地下の川の流れを見つけられたらその流れの上に延々と井戸を掘ってく感じで」
「そ、そんなことが出来るのか!?」
「ものは試しです。やっても減るのはせいぜい魔力くらいですから、とりあえずやってみましょう」
「わ、分かった。やってみよう。水さえ沢山あれば、我が領も随分と楽になるはずだ」
という訳で、私達の大掛かりな土木事業が始まった。
まあ、急いでる旅じゃないし、いいよね。
それにギンシュちゃんの地元だしね。多少は貢献してもいいよねって。
両方の魔法が使えるのは私、ミレイ、ギンシュ、そしてハジメ君の四人。
残りの面子にも魔法覚えて貰いたいなぁ。今度練習しようか。
ちなみに残りの面子は買い出しに出て貰っている。これから国境越えて西の海まで行く予定なのだ。色々と準備するに越したことはない。
というわけで私達は水探査と井戸掘りへ。
まずは私達四人が、【水魔法】と【土魔法】で地中にある水分を把握出来るかどうか、やってみよう。
さてさて……あっちょっと待って。よく考えたら私は【探知】も使えばいいんじゃない?
という訳で【探知】と【水魔法】の合わせ技で地中の水分が集まっているところを探して……いやいやなにこれ。結構どころか想像以上にあるんだけど……。
具体的には、北部というかこの町の北側に大きな地下水が溜まっており、そこから段々と南西へと地下の川が流れているような感じだ。深さはあるがそこまで深くは無い気もする。
「どう、皆は見つかった?」
「ダメですぅ。全然分からないですぅ」
「私もだ、ハジメはどうだ?」
「うーん……多分これだと思うんですけどねぇ」
「あったのか!?」
私以外の三人だと、どうやらハジメ君も辿り着いた様子。
「ちなみにどのあたり?」
「恐らくですけど、町の北側全域に大きな地下水が溜まってる気がします」
「私も同じ感じ。そこから流れてる川は?」
「流石にそこまでは」
「おい本当かエリィ!? 大きな地下水だと!?」
ギンシュが興奮して私をがくがくし始めた。やーめーてー。
「うん。多分だけど。この北側って森なんでしょ?」
「ああそうだ」
「その森が保水した水がしみ込んで、地下に溜まって、それで南西に向かう流れがあるの。多分峠を越えたり山を越えたりして、反対側から流れ出てるんじゃないかな」
「やったぞ! 水が眠っているのだ! さあ掘るぞ!! どこを掘ればいい!?」
「ちょっと落ち着いてギンシュ。それも含めて検討しないと。あとお兄さんにそういう許可とか取らないと」
「そうだな私がひとっ走り行ってくる!」
あっという間に走っていくギンシュ。
「じゃあ私達は」
「それよりも、師匠の水データを基にしてまずはどんな分布になっているのか、地図を作りましょう。それからどの辺を掘るか、試算していく感じで。ちなみにですけど師匠、なんかそういう便利な魔法あります?」
「あるよあるよー」
「あるんですか……ホント師匠の便利魔法系、色々教えて下さいよ」
「教えたいけど……どうやって教えたらいいのか分からないんだよねぇ」
「……もしかして、こっちに来る時最初に選んだスキルってことです?」
「うん。おまけに最初に発動する時に魔力使わなかったから、どうやって後天的に手に入れればいいのか分からなくて……」
「とりあえず今度、スキルの名称と効果だけでも教えて下さいよ。そしたら毎晩一人でトレーニングするので」
「そうね、了解」
そんな話をしていると、じいっと睨んでくるミレイ。
「お姉さまダメですぅ。奴隷なんかに構ってないでミレイに構うですぅ」
「はいはい。よーしよしよし」
「むふーん」
ミレイって本当に甘えん坊だよね。あるいは今までが今までだったから、人恋しいところがあるのかもしれない。
いやそれとも単純にやきもちやいてるのかな? お姉さまの私を取られちゃう! みたいな。どーなんだろ。
「師匠、その便利な魔法をお願いします」
「はーい。っつっても魔法じゃないんだけどね」
「じゃあスキルですか?」
「うん。使う時は【探知】って考えてるけど、正式名称は【総合探知 (レーダー)】だったかな? あーでも地図出すのは【ステータス】との合わせ技」
「えっ!? 師匠ステータス見れるんですか!?」
「見れるよ」
「じゃあやっぱこの世界にはステータス、あるんですね!?」
「他の元々こっちにいる人はどうしてるかは知らないけど、私は一応見れるし他の人のをある程度把握もしてる」
「そっか……くっそぉ、何でおれは……師匠だけこんなに……」
「あー……こっち来る時のスキル選択って、どんな感じだった?」
「え? なんか画面が空中に開いてて、そんでタッチパネルで選択するような……」
私とハジメ君がそんな会話してると、またミレイが膨れっ面してる。
「んもぅ! また奴隷君とミレイの知らない会話してるですぅ! ミレイ怒っちゃうですぅ!」
「あーごめんねミレイ。じゃあこっちきてちょっと座ろ。はーいよしよし」
私は椅子に座り、ミレイを自分の横に座らせてよしよしと撫でてあげた。
「こっ……こんなことで……機嫌なんか……なおりませんからぁ……」
おいおい台詞と顔が一致してないぜおじょーさぁん?
私はなでなでよしよししながらハジメ君との会話を続ける。
「そのスキル、物凄く多く無かった?」
「あー確かに。ざっと見ましたけど【勇者】はタッチして触れないのに【賢者】が見つかったんで他の奴らに取られてなるものか! って思って、そしたら他のが全部色が変わっちゃったんでもうそのままにしましたね」
「私も同じような感じで、でも沢山あったからとりあえず全部チェックしてたの。そしたらアレ、物凄く長かったんだけどそれのスクロールした一番下に、こっそりと【ステータス】が選択肢に残ってたの」
「はぁあああああ!? なんだよそれインチキじゃねぇか!?」
気持ちは分かる。私も見つけた時はぞっとしたから。
「ハジメ君、ネットでゲームとか登録するときに最初のながーい利用規約とか読まないでしょ」
「あんなの読むやついるんですか?」
「結構大事なこと書いてあるから、私はざっと目を通すよ。そもそもあれの意味の大半は『ゲーム内でプレイヤーに被害があっても会社は責任取らないよ自分でなんとかしてね』ってことだから」
「えっそんなこと書いてあるんです!?」
「うん。難しい言葉が羅列してあるから分かりにくいけど『お金が取られようがアカウントが乗っ取られようが、突然ゲームを終了して課金が無駄になろうが、間違いなく会社に責任がある場合以外は全く全然これっぽっちも責任取らないからね。それでもゲームする?』って書いてあるよ」
「マジかよ全く知らなかった」
「結構知らないでやってる人多いと思うんだよね……で、チェックしないとゲーム始められないから余計に。で、当然チェックしてるから裁判なっても『この規約に合意してますよね? じゃあ訴えるのおかしいでしょウチはこうして文章で書いてるんだから』ってなっちゃう。会社って怖いよねー」
「……そういうの、詐欺って言いません?」
「最初からチェックされてたり読ませないままゲーム始まったりしたらそれは悪質だけど、基本的には読めるようになってるし、チェックも自らの意思で押せるようになってるから、詐欺じゃないでしょ」
「はぁー……世の中ってこえーな」
「こっちの世界も世の中だよ? 現にハジメ君は色々あって奴隷になってるし」
「そうだったよ全く……学校で下らない授業してんじゃなくてそーゆー事教えてくれりゃあいいのに」
「それはあるかも。話脱線しちゃったけど地図出すね」
「お願いします」
私は【探知】と【ステータス】によって自らが把握したバニング伯爵領の大まかな鳥観図を作り出す。
こうしてみると、確かに南側以外は回りをしっかりと山に囲まれており、こりゃ雨も降らんだろうと。
それに南側も空いてるとは書いたが、その下った先はかなり山間部をうねるような地形になっており、これ多分南からの風は来ないな、って感じがする。バニング伯爵領は間違いなく住みにくい土地だ。
ただ、地政学上は重要な土地なので、戦争では真っ先に被害に遭う。ただ守りやすい土地だとも思うので、その辺は守る側としてはありがたいが……それでも兵糧の危険が付きまとう。何しろ自力で食べ物を手に入れられるほどの水すらないのだから。
こりゃ治めるのは大変そうだ。
「出ました? 何にも見えないんですけど」
「あそっか。設定変えないと」
という訳で設定をいじる。ハジメ君は奴隷扱いではあるが、パーティーメンバーの欄には名前があったので、彼もパーティの一員だとこちらの【ステータス】さんは認識しているようだ。
【ステータス】の閲覧権限の所を、パーティ内の人は見れるように設定しなおす。ミレイは二度目だが、それでもやっぱりはわわしてた。
「わっと!? ……うわぁ……こりゃ便利なスキルですね」
「うん。【ステータス】は勿論だけど、【探知】は本当にずっと使ってるよ」
「そっちも初期に?」
「うん。ゲームでよくあるミニマップ機能みたいなの」
「あーそれ俺も欲しいですわー。有ると無いとじゃ全然違いますわー」
「んー、でもステータス使いこなすには【言語理解】もいるかも」
「それもスキルです?」
「うん。ハジメ君は、こっちの人とは会話は出来るでしょ?」
「ええ。日本語で聞こえます」
「でもそれって、きっと称号の『神の落し子』の効果なの。転移者に漏れなく貰える称号なんだけど」
「ってことは会話で意思疎通は出来るけど、文字はその言語なんちゃらのスキルがいると」
「多分だけど、そうだと思う。それでこの【ステータス】画面、文字がこの世界の文字なんだよね……」
「ひっかけのひっかけじゃないですか!? よく師匠はそれ乗り越えられましたね……」
「だから最初のスキル選択画面ですっごい時間使ったんだって。戦う以外のスキルも色々と面白そうなの取ったし」
「他には何があるんです!?」
ハジメ君が食いついてきたが。
「おーい許可貰ってきたぞ! って何をしているんだお前たちは!?」
ギンシュが帰って来たので私達は説明をすることに。
「伯爵領の地形図から、どの辺に水があってどのあたりを掘ればいいかなって考えてたの」
「なるほど……だがな、前にも説明したがな、こんなのを簡単に作り出すのはやめてくれ! 心臓に悪い!」
「……なんなら、これ【土魔法】で作り出して模型にして、プレゼントしよっか?」
「……なに?」
「なんならこの領都っていうのかな? こことか砦の立体模型とかも作っちゃう? 内部も詳細に作りこんで左右に割れるようにすれば、砦の防衛戦闘を模型使って訓練とか出来るかもよ?」
ギンシュは開いた口が塞がらなかった。
「ミレイ……どうしてそなたがいてこいつを止められなかったのだ……」
「ミレイはもう諦めたのですぅ……お姉さまがよしよししてくれてればそれでいいって」
「頼む……私ではもう止められんのだ……」
「ギンシュに出来ないのなら私にはもっと無理ですぅ……」
二人で落ち込むのを見ながら。
「師匠って……結構なんでも出来るスーパーマンみたいに見えてるんですけど、結構皆さんからの扱いは雑ですよね」
言わないで。内心ちょっと傷ついたりしてるから。
ギンシュに聞いてみると、昔からなんだと。
なんでかなぁと考えてみたが……多分これだ。空気が乾燥しているのが原因な気がする。
それもこれも、水が少ないのだ。
恐らくだが、周りを山に囲まれていて雨が降らないのだろう。
「ねぇギンシュ、ここって井戸とか川とかないの?」
「残念ながらな……水はとても貴重だ。だから方々から水を買うのでな……その辺のやりくりが大変なのだ」
「そっか……じゃあ井戸でも掘るか」
「水関係は昔から色々やってはいるが……何を試してもどうにもならんかった。今更どうにもならんぞ」
「そっか……」
そんな私とギンシュの会話に、さらっと入ってくるハジメ君。
「なら【水魔法】と【土魔法】を使えばいいんじゃないんです?」
「なんだ、巨大な池でも作ろうというのか。でも掘っても水が降らんと意味がないぞ」
でもアリかもしれないね。少なくとも大勢の人使わないと無理な作業が魔法で出来ちゃうのはいいかも。
「いえ、違います」
「なに?」
「両方の魔法を駆使して、地中にある地下水や川を探すんです。それで、地下水が溜まってるならくみ上げるポンプを作るか、地下の川の流れを見つけられたらその流れの上に延々と井戸を掘ってく感じで」
「そ、そんなことが出来るのか!?」
「ものは試しです。やっても減るのはせいぜい魔力くらいですから、とりあえずやってみましょう」
「わ、分かった。やってみよう。水さえ沢山あれば、我が領も随分と楽になるはずだ」
という訳で、私達の大掛かりな土木事業が始まった。
まあ、急いでる旅じゃないし、いいよね。
それにギンシュちゃんの地元だしね。多少は貢献してもいいよねって。
両方の魔法が使えるのは私、ミレイ、ギンシュ、そしてハジメ君の四人。
残りの面子にも魔法覚えて貰いたいなぁ。今度練習しようか。
ちなみに残りの面子は買い出しに出て貰っている。これから国境越えて西の海まで行く予定なのだ。色々と準備するに越したことはない。
というわけで私達は水探査と井戸掘りへ。
まずは私達四人が、【水魔法】と【土魔法】で地中にある水分を把握出来るかどうか、やってみよう。
さてさて……あっちょっと待って。よく考えたら私は【探知】も使えばいいんじゃない?
という訳で【探知】と【水魔法】の合わせ技で地中の水分が集まっているところを探して……いやいやなにこれ。結構どころか想像以上にあるんだけど……。
具体的には、北部というかこの町の北側に大きな地下水が溜まっており、そこから段々と南西へと地下の川が流れているような感じだ。深さはあるがそこまで深くは無い気もする。
「どう、皆は見つかった?」
「ダメですぅ。全然分からないですぅ」
「私もだ、ハジメはどうだ?」
「うーん……多分これだと思うんですけどねぇ」
「あったのか!?」
私以外の三人だと、どうやらハジメ君も辿り着いた様子。
「ちなみにどのあたり?」
「恐らくですけど、町の北側全域に大きな地下水が溜まってる気がします」
「私も同じ感じ。そこから流れてる川は?」
「流石にそこまでは」
「おい本当かエリィ!? 大きな地下水だと!?」
ギンシュが興奮して私をがくがくし始めた。やーめーてー。
「うん。多分だけど。この北側って森なんでしょ?」
「ああそうだ」
「その森が保水した水がしみ込んで、地下に溜まって、それで南西に向かう流れがあるの。多分峠を越えたり山を越えたりして、反対側から流れ出てるんじゃないかな」
「やったぞ! 水が眠っているのだ! さあ掘るぞ!! どこを掘ればいい!?」
「ちょっと落ち着いてギンシュ。それも含めて検討しないと。あとお兄さんにそういう許可とか取らないと」
「そうだな私がひとっ走り行ってくる!」
あっという間に走っていくギンシュ。
「じゃあ私達は」
「それよりも、師匠の水データを基にしてまずはどんな分布になっているのか、地図を作りましょう。それからどの辺を掘るか、試算していく感じで。ちなみにですけど師匠、なんかそういう便利な魔法あります?」
「あるよあるよー」
「あるんですか……ホント師匠の便利魔法系、色々教えて下さいよ」
「教えたいけど……どうやって教えたらいいのか分からないんだよねぇ」
「……もしかして、こっちに来る時最初に選んだスキルってことです?」
「うん。おまけに最初に発動する時に魔力使わなかったから、どうやって後天的に手に入れればいいのか分からなくて……」
「とりあえず今度、スキルの名称と効果だけでも教えて下さいよ。そしたら毎晩一人でトレーニングするので」
「そうね、了解」
そんな話をしていると、じいっと睨んでくるミレイ。
「お姉さまダメですぅ。奴隷なんかに構ってないでミレイに構うですぅ」
「はいはい。よーしよしよし」
「むふーん」
ミレイって本当に甘えん坊だよね。あるいは今までが今までだったから、人恋しいところがあるのかもしれない。
いやそれとも単純にやきもちやいてるのかな? お姉さまの私を取られちゃう! みたいな。どーなんだろ。
「師匠、その便利な魔法をお願いします」
「はーい。っつっても魔法じゃないんだけどね」
「じゃあスキルですか?」
「うん。使う時は【探知】って考えてるけど、正式名称は【総合探知 (レーダー)】だったかな? あーでも地図出すのは【ステータス】との合わせ技」
「えっ!? 師匠ステータス見れるんですか!?」
「見れるよ」
「じゃあやっぱこの世界にはステータス、あるんですね!?」
「他の元々こっちにいる人はどうしてるかは知らないけど、私は一応見れるし他の人のをある程度把握もしてる」
「そっか……くっそぉ、何でおれは……師匠だけこんなに……」
「あー……こっち来る時のスキル選択って、どんな感じだった?」
「え? なんか画面が空中に開いてて、そんでタッチパネルで選択するような……」
私とハジメ君がそんな会話してると、またミレイが膨れっ面してる。
「んもぅ! また奴隷君とミレイの知らない会話してるですぅ! ミレイ怒っちゃうですぅ!」
「あーごめんねミレイ。じゃあこっちきてちょっと座ろ。はーいよしよし」
私は椅子に座り、ミレイを自分の横に座らせてよしよしと撫でてあげた。
「こっ……こんなことで……機嫌なんか……なおりませんからぁ……」
おいおい台詞と顔が一致してないぜおじょーさぁん?
私はなでなでよしよししながらハジメ君との会話を続ける。
「そのスキル、物凄く多く無かった?」
「あー確かに。ざっと見ましたけど【勇者】はタッチして触れないのに【賢者】が見つかったんで他の奴らに取られてなるものか! って思って、そしたら他のが全部色が変わっちゃったんでもうそのままにしましたね」
「私も同じような感じで、でも沢山あったからとりあえず全部チェックしてたの。そしたらアレ、物凄く長かったんだけどそれのスクロールした一番下に、こっそりと【ステータス】が選択肢に残ってたの」
「はぁあああああ!? なんだよそれインチキじゃねぇか!?」
気持ちは分かる。私も見つけた時はぞっとしたから。
「ハジメ君、ネットでゲームとか登録するときに最初のながーい利用規約とか読まないでしょ」
「あんなの読むやついるんですか?」
「結構大事なこと書いてあるから、私はざっと目を通すよ。そもそもあれの意味の大半は『ゲーム内でプレイヤーに被害があっても会社は責任取らないよ自分でなんとかしてね』ってことだから」
「えっそんなこと書いてあるんです!?」
「うん。難しい言葉が羅列してあるから分かりにくいけど『お金が取られようがアカウントが乗っ取られようが、突然ゲームを終了して課金が無駄になろうが、間違いなく会社に責任がある場合以外は全く全然これっぽっちも責任取らないからね。それでもゲームする?』って書いてあるよ」
「マジかよ全く知らなかった」
「結構知らないでやってる人多いと思うんだよね……で、チェックしないとゲーム始められないから余計に。で、当然チェックしてるから裁判なっても『この規約に合意してますよね? じゃあ訴えるのおかしいでしょウチはこうして文章で書いてるんだから』ってなっちゃう。会社って怖いよねー」
「……そういうの、詐欺って言いません?」
「最初からチェックされてたり読ませないままゲーム始まったりしたらそれは悪質だけど、基本的には読めるようになってるし、チェックも自らの意思で押せるようになってるから、詐欺じゃないでしょ」
「はぁー……世の中ってこえーな」
「こっちの世界も世の中だよ? 現にハジメ君は色々あって奴隷になってるし」
「そうだったよ全く……学校で下らない授業してんじゃなくてそーゆー事教えてくれりゃあいいのに」
「それはあるかも。話脱線しちゃったけど地図出すね」
「お願いします」
私は【探知】と【ステータス】によって自らが把握したバニング伯爵領の大まかな鳥観図を作り出す。
こうしてみると、確かに南側以外は回りをしっかりと山に囲まれており、こりゃ雨も降らんだろうと。
それに南側も空いてるとは書いたが、その下った先はかなり山間部をうねるような地形になっており、これ多分南からの風は来ないな、って感じがする。バニング伯爵領は間違いなく住みにくい土地だ。
ただ、地政学上は重要な土地なので、戦争では真っ先に被害に遭う。ただ守りやすい土地だとも思うので、その辺は守る側としてはありがたいが……それでも兵糧の危険が付きまとう。何しろ自力で食べ物を手に入れられるほどの水すらないのだから。
こりゃ治めるのは大変そうだ。
「出ました? 何にも見えないんですけど」
「あそっか。設定変えないと」
という訳で設定をいじる。ハジメ君は奴隷扱いではあるが、パーティーメンバーの欄には名前があったので、彼もパーティの一員だとこちらの【ステータス】さんは認識しているようだ。
【ステータス】の閲覧権限の所を、パーティ内の人は見れるように設定しなおす。ミレイは二度目だが、それでもやっぱりはわわしてた。
「わっと!? ……うわぁ……こりゃ便利なスキルですね」
「うん。【ステータス】は勿論だけど、【探知】は本当にずっと使ってるよ」
「そっちも初期に?」
「うん。ゲームでよくあるミニマップ機能みたいなの」
「あーそれ俺も欲しいですわー。有ると無いとじゃ全然違いますわー」
「んー、でもステータス使いこなすには【言語理解】もいるかも」
「それもスキルです?」
「うん。ハジメ君は、こっちの人とは会話は出来るでしょ?」
「ええ。日本語で聞こえます」
「でもそれって、きっと称号の『神の落し子』の効果なの。転移者に漏れなく貰える称号なんだけど」
「ってことは会話で意思疎通は出来るけど、文字はその言語なんちゃらのスキルがいると」
「多分だけど、そうだと思う。それでこの【ステータス】画面、文字がこの世界の文字なんだよね……」
「ひっかけのひっかけじゃないですか!? よく師匠はそれ乗り越えられましたね……」
「だから最初のスキル選択画面ですっごい時間使ったんだって。戦う以外のスキルも色々と面白そうなの取ったし」
「他には何があるんです!?」
ハジメ君が食いついてきたが。
「おーい許可貰ってきたぞ! って何をしているんだお前たちは!?」
ギンシュが帰って来たので私達は説明をすることに。
「伯爵領の地形図から、どの辺に水があってどのあたりを掘ればいいかなって考えてたの」
「なるほど……だがな、前にも説明したがな、こんなのを簡単に作り出すのはやめてくれ! 心臓に悪い!」
「……なんなら、これ【土魔法】で作り出して模型にして、プレゼントしよっか?」
「……なに?」
「なんならこの領都っていうのかな? こことか砦の立体模型とかも作っちゃう? 内部も詳細に作りこんで左右に割れるようにすれば、砦の防衛戦闘を模型使って訓練とか出来るかもよ?」
ギンシュは開いた口が塞がらなかった。
「ミレイ……どうしてそなたがいてこいつを止められなかったのだ……」
「ミレイはもう諦めたのですぅ……お姉さまがよしよししてくれてればそれでいいって」
「頼む……私ではもう止められんのだ……」
「ギンシュに出来ないのなら私にはもっと無理ですぅ……」
二人で落ち込むのを見ながら。
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言わないで。内心ちょっと傷ついたりしてるから。
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