美少女おじさん ~ちやほやされたいので異世界転移でカワイイ美少女になることにした~

Ell

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第五十三話 名無し

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 それから地形図を基にして、私達はどこに井戸を掘るかを検討した。
 まずは砦の近くの場所に一つ。それと市場の北側に一つ。
 あとは南西に抜けていく川の途中に、街道近くを通る場所があったので、とりあえずそこに一つ。
 あんまり一度に作ると、一気に地下水減ったりすると危険だから、まずはこれくらいで様子見。
 そして場所決めたので穴掘り。まずは一気に土魔法で。ただ大きいのを掘って落ちたりすると危険だから、落ちない大きさの穴に……あとポンプ作らないとポンプ。
 ……ポンプどうやって作ろう。
「ねぇギンシュ。ポンプってない?」
「ぽんぷってなんだ? それがないと井戸にならないのか? 滑車と桶があればいいだろう?」
 あかん通じない。私はハジメ君を呼んだ。
「ねぇ深い井戸から水汲むのってどうやるの?」
「へ? 手押しポンプでしょう? よくあるやつ」
「でもこの世界ってポンプなくない?」
「あー……【土魔法】とかでなんとかならないですかね?」
「とりあえずやってみましょう」
 という訳で掘ってみた。
 そんなに深くなかった。なんだかんだで水は出た。
 でも結構深いので、もう少しずつ穴の大きさを広げながら、周りの土を【土魔法】で硬質化させる。これで大丈夫でしょ。
 あと万が一落ちた人が多少上りやすくするように手と足をかけられるくぼみも作っておく。よしよし。
 ……なんかもうこれでいっかな。あとはつるべを取り付けてっと。で落ちないように仕掛けもして……。
 いかがでしょうか?
「うむ、これなら悪くないな」
「水も【鑑定】してみたけど問題ないみたい」
「本当は『ポンプ』作ってみたかったんですけどねぇ」
「私達に技術も知識も無ければ、それは難しいと思うよ」
「そうですね。ポンプの構造って簡単らしいですけど、流石に詳しくは……」
 私も。こんなことならもっとそういう技術の基礎的な部分を頭に入れておけばよかった。
 いやでもわざわざ異世界転移とか転生とかすると思って知識覚えとく、というのもおかしな話だな。うん。


 さてさてそんな流れで残りの井戸も作ってみて。
 町の皆さんには大層喜んでいただけたっぽい。
 ギンシュのお兄さんにも凄く感謝された。
 あとギンシュにこっそり話をして、例の地形図とか模型も作って渡しておいた。
 なんかすっごい睨まれたらしいけど『私がそういうスキル持ち』で『ギンシュが友達だから特別に作った。他ではしたことはない』と念押ししてなんとかかんとか。
 でもものすごーく価値があるということなので、結構なお金を貰ってしまった。
 どうしよう。もうなんか地形図とか模型作る職人とかやりたい。
 私は【スキル】と魔力を使っただけで、元手なんて一切かからなかったし。
 あーでも変わりに世の中に戦乱をばら撒く可能性があるかもしれない、って考えるとある意味『死の商人』なのか。それは嫌だなぁ。
 まあ模型とか地形図は自分で見たり作ったりするだけで、にやにやしておこっと。


 よしご実家訪問はこれで終了!
 さてこれから西の国へと入国しますかー!
 ……なんて名前だっけ?
「メルメルシュド=グランセン=リップハイツァー王国だ。確かに長い名前だから覚えられないのも分からなくもないがな」
 流石のギンシュである。私の疑問にはしっかりと答えてくれるところがありがたい。
「そもそもどうしてそんなに長いの?」
「元々は三つの人族の王国だったが、戦乱期末期にこれではいけないということで同盟をしたのだ。それでお互いに距離を縮め、合同の食事会を開いたところまでは良かったのだが……」
「え、何があったの?」
「リップハイツァー王国の国王が、集まった残りの上層部を皆殺しにして、そのまま無理矢理統一したのだ」
「うわぁ……えげつな。ってか反乱とか内乱とか普通は起こるでしょ?」
「その国王は元々求心力が高かったこと、残り二つの国王は割と弾圧的で民からの評判は良くなかったこと、新しい王は慰撫政策を行ったこと、軍事もそれぞれかなり独特の色があったため、そのまま三軍並立のままにしたこと、などまあ色々とあるが……なんとか平和に治めきった、というところが現在の評価だ」
 凄いなぁ。普通中々うまくいかないでしょーに。
「ちなみに現在は確か三代目、初代の三男が国王をしているはずだ」
 国王の話はアシンさんの発言。へぇー。
「そっか、アシンさんその辺詳しいのね。地元だし」
「俺の地元は西だっつの。お貴族様のことなんてせいぜいその程度さ」
「ちなみに西の海に出る道順はどんな感じ?」
「ここの国境を越えたらすぐ東都に着く。そこから南に向かって新都に入り、そこから北西に向かえば西都だな。馬車の旅なんだ、ゆっくり行こうぜ」
 私達は一路、王国を出て新たな王国へと……。
 あれ? そういえば今までいた王国の名前って知らないかもしれない。
 ずっと『王都』『王都』とか『国王陛下』といかそういう呼ばれ方ばっかりで、国の名前を聞いていないような……
「あの……」
 私はおずおずとギンシュに切り出す。
「どうした?」
「ちなみになんですけど……私が今までいた国の名前って……なんですか?」
 ……このね、周りの空気が固まるのがね、最近流石に恥ずかしくなってきた。
『えっどうしてそんなことも知らないの!? 今までどんな人生送ってきたの!?』みたいな。
 うっさいやい私はその代わりに前の世界の国名だったら十個も二十個も言えるやーい!
「……もうお前は一生馬鹿エルフの称号からは逃れられない運命だろうな」
 やめて! そんなこと言わないで!
 だって知らないものはしょうがないじゃない! 知らないんだもの!
「今までいたのは、リーオット王国だ。いいか、覚えておけよ。リーオット王国だからな」
「分かりましたぁはい覚えましたぁリーオット王国ちゃんと覚えましたぁ」
 何度も言って覚える私。リーオット王国。
 そんな私にギンシュはため息を一つ。
「まったく……先が思いやられるぞ」
「まあギンシュがいる限りは大丈夫ですぅ」
「やめろ。私にこんな重荷を背負わせないでくれ」
 ギンシュとミレイの会話。そんな重荷扱いしないで。
「いやぁ、流石主様だな。国の名前も知らんまま国王に謁見しに行くなど正気の沙汰ではないぞ」
「ご主人様って色々とぶっ飛んでるけどこれは中々……衝撃的ね」
 絶対褒められてない。ぐぬぬ。
「ハジメ君もなんか言ってよ! あなただってそうでしょ?」
「いや俺テンプレ的にまず色々と情報集めたんで流石に王国名くらいは知ってましたけど」
「え……じゃあホントに私だけ?」
「ってか国名とか大陸とか地図とか、現状の自分の立ち位置をはっきりさせるために一通り確認しません? テンプレ的に」
「テンプレなんか知らないよぉ……」
 そんな会話をしながら、また荒野を進み、峠をのぼっていく。
 馬達にはご苦労さんである。あっ折角だし【風魔法】試してみるか。
 私は【風魔法】で荷馬車をちょっと浮かしてみる。すると格段に速度が上がった。
 御者台のアシンさんが慌てている。
「おいどうなってんだ!? 急に進みが早くなったぞ!?」
「あっごめんなさいちょっと試しにやったんですけど」
「エリィ何やったんだ!?」
「馬車を【風魔法】で軽く浮かせたらどうなるかなって」
「確かに便利だがもうすぐ国境だ! 目立つのは色々とまずいぞ!」
「はーい。じゃあゆっくり下ろしまーす」
 私は魔法を解いた。だが便利だということは分かったので、また今度やってみよう。

 ふと気付いたが、リンドゥーがシグさんの方を見ていた。
「そういえばさぁ」
「ん?」
「アンタ、『シグさん』って呼ばれてるってことは、未だにあの名前名乗ってるの?」
「別にいいだろ、アタシがどんな名前を名乗ったって」
「いや流石にここまで有名になって色々二つ名ついてるってのに、未だにその名前ってのもさぁ」
「構うもんかい。アタシの名前なんてなんだっていいんだよ」
「なんかまずいんですか?」
 私の素朴な疑問に、リンドゥーさんはふぅと息を吐いて、教えてくれた。
「多分だけど『ナッシグルペ』って名乗ってるんでしょう?」
「はい」
「それはね、名前のない孤児を便宜的に呼ぶ時の名前なのよ。確かギケー皇国とかだと『ナッシゴンペ』とか呼ぶんだったかしら?」
「名無しの権兵衛か!?」
 ハジメ君が気付いた。あーそゆことか。
 ってかそれ自分で名乗っちゃうの!? どうしてシグさん!?
 皆で驚きながらもシグさんの方を見る。
 シグさんは頭をぽりぽりしながら返答。
「ガキの頃に戦場に出て、特に名乗らず敵を倒しまくってた。そしたらいつの間にかそう呼ばれはじめて、気付いたら味方からは『戦乱の申し子』敵からは『銀髪の悪魔』って呼ばれてたんだ。アタシの名前なんて必要ないのさ」
「ちなみに本当の名前は?」
とアタシが聞くと、
「そんなものはないよ。親の顔も記憶もないのに、名前なんて知るもんか」
とのこと。えっシグさん何気に過去重すぎない?
 私やハジメ君がぎょっとしてると、飄々としながらシグさんはこんな事を言うのだ。
「戦乱期に生まれたガキなんぞ、アタシみたいなのはゴロゴロいたさ。そのまま飢えて死ぬ奴、戦場に出て死ぬ奴、誰かに殺されたり、犯されたりして死ぬ奴。そしてほんの一握りが生き残って力を付けて、権力を付けて王になり、そしてまた他の国を攻めて同じような境遇のガキを作り出す。そういう……そういう時代だったのさ。アタシはたまたま生き残っちまった。それだけの話さね」
 なんか……凄い話を聞いてしまった。
 呆けていると、リンドゥーさんがちょっとお願いをしてきた。
「あの……ご主人様にお願いがあります。彼女に……名前を授けて貰えませんか?」
「私が!?」
「ご主人様はこの……シグの、彼女の主となりました。二百年以上決して、彼女が見上げるのを嫌った、そんな主に貴女はなったのです。彼女に名付けをするのに、ご主人様以上の方などございません」
「ひえぇ……そんな……」
 シグさんの方を見ると、ぷいっと顔を反らした。やっぱいやなのかな……そう思っていると。
「シグは……あれは恥ずかしがっている顔です。本当は名付けて欲しかったけど、自分からは言えなかったのです」
「おいリン!」
「いいだろシグ! 恥ずかしがって言えないあんたの為に私が一肌脱いだんだよ! あんたの恩返し待ってるよ!」
「そんなもんするもんか!」
 あーあーまたいがみあってる。この二人仲いいよね。どこで出会ったか良く分からないけど。あードの御方繋がりなのかな? でもその割にミレイの事最初は分からなかったみたいだけど。んー、良く分からん。
「でも、そういうことなら私が付けちゃうけど……シグさん、いい?」
「別に……好きにしなよ。アタシの全ては主様のモノだから、名前だって好きにしてくれて構わないさ」
「そっか。じゃあ……」
 割と『シグさん』というのは定着してしまっているので、この『シグさん』というのを変えない方向でいきたい。
 つまりは最初が『シグ』か、あるいは途中なり後ろに『シグ』という音を入れることになるが……うーん。
「…………『シグリア』ってどうかな?」
 リンドゥーははっとした笑顔で喜んでくれる。
「いいんじゃない!? かわいらしくてアンタにピッタリだよ」
「はぁ!? なんでそんな可愛い名前を……」
「え、だってシグさんってかわいいでしょ? 皆もそう思わない?」
「まあ……どちらかと言えば……」
「結構女の子っぽいところもあるですぅ」
 私の意見に、ギンシュとミレイもそれなりに賛成してくれた。後は本人だが……
「ま、まあ皆がそういうなら……仕方ないかね。アタシは今日から『シグリア=ド=ヴォルフラム』さ。主様、これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそ」
 やっぱかわええわシグさん。

 ちなみにアシンさんは名乗りを聞いた時にビクッ! としてた。
 やっぱ『ド』の名前聞くとびっくりするのかな。


 さてさてもうすぐ国境である。隣の国はどんな国なんでしょーか。たのしみ。
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