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しょっぱい
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祐樹の家で真理子は、呆然としていた。
なぜこうなったのか・・・。
午前中。
授業を受けているが、教授の話があまりにも退屈で抽象的でスマホを覗くと、LINEが1通。
「風邪、動けない」
とだけ簡潔に。
あぁ、これは恋人であるわたし、尽くしてあげなくちゃいけないわ。
おかゆを作ってあげよう。
と言っても、真理子には問題があった。
彼女は母親に家事を任せてばかりで、包丁を握ったことはほとんどない。
おかゆを食べたことはあるが、どうやって作ればよいかもわからない。
いい年をして料理ができないことも恥ずかしく、コンプレックスで「料理」という言葉すら見たくない。
昔「簡単レシピ」と書かれている本を買った事があるが、どう考えても簡単ではないし見ているだけで気が滅入るので、放っておいたらどこかに行っていた。
…ごはん…は入っていたわね。あとノリをパラパラと散らすのがおいしい気がする。
あとは、たまご…。
…?
想像するが、何かがちがう。卵を溶いて入れるにしても、それは卵かけごはんとどうちがうのだろうか?
お湯をかける・・のかしら?
そうね、水気があるものよね。
これがおかゆと卵かけごはんを区別するキーなのだろうか?
しかしなんだかマズそうな気がする。いや、お茶漬けだって美味しいのだから、大丈夫なのだろうか?
あっ!いっそのこと、そこにお茶漬けの素を入れたらどうかしら?ノリもあるわ!
・・でも、怖い。
祐樹に嫌われてしまうかもしれない。最近、某女が祐樹とやけに一緒にいることが多いのだ。
何かのレポートのメンバーだとかで。そしてムカつくことに美しいのだ。髪は肩より長め。前髪はちょっとパッツンぽくて、お目めはぱっちり。まつ毛はバッサリ生えている。しかし、黒の革ジャンにえんじ色のワンピを着ているというかっこよさや、男女共に話しかけやすい親しみやすさもあって、わたしの友達も彼女と遊びに行っていたらしい。なんでわたしは誘ってくれ…あぁ!!
その上彼女は一人暮らしで料理もできるし、ギターも弾けるし、歌もうまくて、洋楽もとてもかっこよく歌い上げるそうだ。祐樹の好きなバンドのことも好きらしくて、祐樹は目を輝かせて喋ってたっけ。
わたしもあのバンド調べたし、頑張って話を合わせたりしたけど、やっぱり好きじゃないからか、同じ温度感で話せないのよね…。情報提供、みたいな淡々としたやりとりになってしまうというか…。
彼女ならば、おかゆだって簡単に作れるのだろう。
いや、あるいは、作れなかったとしても「ごめん!(笑)」と笑って、相手にも笑われて、
どちらにせよ愛されるようなイメージがある。
それくらい彼女は輝かしいもの。
そうして、彼の部屋に行き、意気揚々と作り上げたが、卵かけご飯を気持ち悪くしたような
マズい物体ができた。
何故こうなったのだろう。
何故病人にこんなものを食わせようとしているのか。
スマホで何かを調べよう。ネットにはあらゆる答えがある。
しかし、私は動けなかった。
代わりに涙があふれてきた。
こんなものひとつ作れないのか、わたしは…。
情けなくて、涙が出る。
得体のしれない物体を、ビニール袋をお借りして入れさせてもらい、申し訳ないが
生ごみ入れに入れさせていただいた。
ゴミを増やしただけだった。
コンビニで・・、何か・・買ってこよう・・・。
思い出はいつもしょっぱい。
3回生の秋になった。
あれからもう2年が経つ。
それでもわたしはほとんど作れないけれど、お肉を焼くぐらいならできるようにはなった。
料理とは言えないけれど・・・。
祐樹はあの女性とお付き合いすることができたという。
祐樹は前よりもずっと楽しそうに見えるし、垢ぬけたように思う。
今度バンドもするらしい。キラキラしていて、いいな。うらやましい、な。
体調を崩しても、きっと助け合うこともできるのだろうな。
祐樹とすれ違う時、もう今は気まずくはない。
それが逆にさみしかった。
ばいばい、ありがとう。
なぜこうなったのか・・・。
午前中。
授業を受けているが、教授の話があまりにも退屈で抽象的でスマホを覗くと、LINEが1通。
「風邪、動けない」
とだけ簡潔に。
あぁ、これは恋人であるわたし、尽くしてあげなくちゃいけないわ。
おかゆを作ってあげよう。
と言っても、真理子には問題があった。
彼女は母親に家事を任せてばかりで、包丁を握ったことはほとんどない。
おかゆを食べたことはあるが、どうやって作ればよいかもわからない。
いい年をして料理ができないことも恥ずかしく、コンプレックスで「料理」という言葉すら見たくない。
昔「簡単レシピ」と書かれている本を買った事があるが、どう考えても簡単ではないし見ているだけで気が滅入るので、放っておいたらどこかに行っていた。
…ごはん…は入っていたわね。あとノリをパラパラと散らすのがおいしい気がする。
あとは、たまご…。
…?
想像するが、何かがちがう。卵を溶いて入れるにしても、それは卵かけごはんとどうちがうのだろうか?
お湯をかける・・のかしら?
そうね、水気があるものよね。
これがおかゆと卵かけごはんを区別するキーなのだろうか?
しかしなんだかマズそうな気がする。いや、お茶漬けだって美味しいのだから、大丈夫なのだろうか?
あっ!いっそのこと、そこにお茶漬けの素を入れたらどうかしら?ノリもあるわ!
・・でも、怖い。
祐樹に嫌われてしまうかもしれない。最近、某女が祐樹とやけに一緒にいることが多いのだ。
何かのレポートのメンバーだとかで。そしてムカつくことに美しいのだ。髪は肩より長め。前髪はちょっとパッツンぽくて、お目めはぱっちり。まつ毛はバッサリ生えている。しかし、黒の革ジャンにえんじ色のワンピを着ているというかっこよさや、男女共に話しかけやすい親しみやすさもあって、わたしの友達も彼女と遊びに行っていたらしい。なんでわたしは誘ってくれ…あぁ!!
その上彼女は一人暮らしで料理もできるし、ギターも弾けるし、歌もうまくて、洋楽もとてもかっこよく歌い上げるそうだ。祐樹の好きなバンドのことも好きらしくて、祐樹は目を輝かせて喋ってたっけ。
わたしもあのバンド調べたし、頑張って話を合わせたりしたけど、やっぱり好きじゃないからか、同じ温度感で話せないのよね…。情報提供、みたいな淡々としたやりとりになってしまうというか…。
彼女ならば、おかゆだって簡単に作れるのだろう。
いや、あるいは、作れなかったとしても「ごめん!(笑)」と笑って、相手にも笑われて、
どちらにせよ愛されるようなイメージがある。
それくらい彼女は輝かしいもの。
そうして、彼の部屋に行き、意気揚々と作り上げたが、卵かけご飯を気持ち悪くしたような
マズい物体ができた。
何故こうなったのだろう。
何故病人にこんなものを食わせようとしているのか。
スマホで何かを調べよう。ネットにはあらゆる答えがある。
しかし、私は動けなかった。
代わりに涙があふれてきた。
こんなものひとつ作れないのか、わたしは…。
情けなくて、涙が出る。
得体のしれない物体を、ビニール袋をお借りして入れさせてもらい、申し訳ないが
生ごみ入れに入れさせていただいた。
ゴミを増やしただけだった。
コンビニで・・、何か・・買ってこよう・・・。
思い出はいつもしょっぱい。
3回生の秋になった。
あれからもう2年が経つ。
それでもわたしはほとんど作れないけれど、お肉を焼くぐらいならできるようにはなった。
料理とは言えないけれど・・・。
祐樹はあの女性とお付き合いすることができたという。
祐樹は前よりもずっと楽しそうに見えるし、垢ぬけたように思う。
今度バンドもするらしい。キラキラしていて、いいな。うらやましい、な。
体調を崩しても、きっと助け合うこともできるのだろうな。
祐樹とすれ違う時、もう今は気まずくはない。
それが逆にさみしかった。
ばいばい、ありがとう。
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