おかゆ

ki

文字の大きさ
1 / 1

しょっぱい

しおりを挟む
祐樹の家で真理子は、呆然としていた。
なぜこうなったのか・・・。

午前中。
授業を受けているが、教授の話があまりにも退屈で抽象的でスマホを覗くと、LINEが1通。
「風邪、動けない」

とだけ簡潔に。


あぁ、これは恋人であるわたし、尽くしてあげなくちゃいけないわ。
おかゆを作ってあげよう。

と言っても、真理子には問題があった。

彼女は母親に家事を任せてばかりで、包丁を握ったことはほとんどない。

おかゆを食べたことはあるが、どうやって作ればよいかもわからない。
いい年をして料理ができないことも恥ずかしく、コンプレックスで「料理」という言葉すら見たくない。
昔「簡単レシピ」と書かれている本を買った事があるが、どう考えても簡単ではないし見ているだけで気が滅入るので、放っておいたらどこかに行っていた。

…ごはん…は入っていたわね。あとノリをパラパラと散らすのがおいしい気がする。
あとは、たまご…。

…?

想像するが、何かがちがう。卵を溶いて入れるにしても、それは卵かけごはんとどうちがうのだろうか?

お湯をかける・・のかしら?
そうね、水気があるものよね。


これがおかゆと卵かけごはんを区別するキーなのだろうか?
しかしなんだかマズそうな気がする。いや、お茶漬けだって美味しいのだから、大丈夫なのだろうか?
あっ!いっそのこと、そこにお茶漬けの素を入れたらどうかしら?ノリもあるわ!

・・でも、怖い。
祐樹に嫌われてしまうかもしれない。最近、某女が祐樹とやけに一緒にいることが多いのだ。
何かのレポートのメンバーだとかで。そしてムカつくことに美しいのだ。髪は肩より長め。前髪はちょっとパッツンぽくて、お目めはぱっちり。まつ毛はバッサリ生えている。しかし、黒の革ジャンにえんじ色のワンピを着ているというかっこよさや、男女共に話しかけやすい親しみやすさもあって、わたしの友達も彼女と遊びに行っていたらしい。なんでわたしは誘ってくれ…あぁ!! 

その上彼女は一人暮らしで料理もできるし、ギターも弾けるし、歌もうまくて、洋楽もとてもかっこよく歌い上げるそうだ。祐樹の好きなバンドのことも好きらしくて、祐樹は目を輝かせて喋ってたっけ。

わたしもあのバンド調べたし、頑張って話を合わせたりしたけど、やっぱり好きじゃないからか、同じ温度感で話せないのよね…。情報提供、みたいな淡々としたやりとりになってしまうというか…。


彼女ならば、おかゆだって簡単に作れるのだろう。
いや、あるいは、作れなかったとしても「ごめん!(笑)」と笑って、相手にも笑われて、
どちらにせよ愛されるようなイメージがある。
それくらい彼女は輝かしいもの。

そうして、彼の部屋に行き、意気揚々と作り上げたが、卵かけご飯を気持ち悪くしたような
マズい物体ができた。

何故こうなったのだろう。
何故病人にこんなものを食わせようとしているのか。



スマホで何かを調べよう。ネットにはあらゆる答えがある。
しかし、私は動けなかった。
代わりに涙があふれてきた。


こんなものひとつ作れないのか、わたしは…。
情けなくて、涙が出る。

得体のしれない物体を、ビニール袋をお借りして入れさせてもらい、申し訳ないが
生ごみ入れに入れさせていただいた。

ゴミを増やしただけだった。


コンビニで・・、何か・・買ってこよう・・・。



思い出はいつもしょっぱい。


3回生の秋になった。
あれからもう2年が経つ。
それでもわたしはほとんど作れないけれど、お肉を焼くぐらいならできるようにはなった。
料理とは言えないけれど・・・。

祐樹はあの女性とお付き合いすることができたという。


祐樹は前よりもずっと楽しそうに見えるし、垢ぬけたように思う。
今度バンドもするらしい。キラキラしていて、いいな。うらやましい、な。
体調を崩しても、きっと助け合うこともできるのだろうな。


祐樹とすれ違う時、もう今は気まずくはない。
それが逆にさみしかった。


ばいばい、ありがとう。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

悪役令嬢の大きな勘違い

神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。 もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし 封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。 お気に入り、感想お願いします!

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

側妃の愛

まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。 王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。 力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。 Copyright©︎2025-まるねこ

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

処理中です...