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第9話

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「ルシア! しっかりしなさい! ルシア!」
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 うぅぅん・・・ここは? 私の部屋・・・・。

「お嬢様!? お目覚めになられたのですね」
 この声はエマね。うるさいわね。何を騒いでいるのかしら。

「お嬢様、大丈夫でしょうか?」
 大丈夫ってなによ。心配しなくても朝くらいひとりで起きれるわよ。

 ・・・あれ? なんか身体が重い・・・それに凄くだるい。思うように起き上がることができない。

「エマ・・・なんか・・身体がだるいわ」

「はい。無理せず寝ていらしてください」
 なに? エマが優しい・・・いつもは厳しいのにどういうことよ。

「お嬢様は、あの事件の後3日間眠り続けたのです」

「あの事件? 3日間も寝てたの?」

「覚えていらっしゃらないのですか?」

「ちょっと待って・・・・」
 事件・・・目を覚ます前の記憶をたどっていく。
 アリス様がミューラー殿下から婚約破棄を告げられた。
 学園に魔獣が出現した。

 そうだわ! 魔獣よ。 
 魔獣に襲われ、私は死にそうな目に合った。
 その私を助けてくれたのはニール様。
 カッコよかったなあ。
 そのニール様に抱っこされたんだわ。
 その後、魔獣は討伐された。

 ここまでは良かったのよね。

 そして馬車に乗ろうとした時・・・・。
 痛っ! その時のことを思いだそうとすると頭が痛い。
 あの後どうなったの?

「エマ。アリス様は? ニール様は? 無事なの?」

「・・・はい。アリシアーネ様はご無事です。ニール様は昏睡状態だとお聞きしています」

「そんなっ・・・・」

「あの事件のことは現在調査中とのことです。負傷者も大勢出ています。死者や行方不明者もいます。ルシア様のおかげで殿下もご無事とのことです」

「そう・・・」

「とりあえず。お嬢様がお目覚めになられた報告をしてまいりますので、お嬢様は無理せずお休みください」

「ありがとうエマ。そうさせてもらうわ」


 ◇

 その後に聞いた話では、私は魔力暴走を起こしたと聞かされた。
 ニール様が倒れ、気が動転したのは分かる。
 でも? 魔力暴走? この私が? 
 些細な魔法しか使えない私が魔力暴走? んな馬鹿なことあるの?
 でもその結果が、魔力欠乏症を起こして3日間寝込んだらしいし・・・・そのおかげでニール様も助かったとか。もう意味が分からないわ。

 頭が混乱してきたわ。
 これは夢よ。きっと悪い夢なんだわ。
 お腹も膨れ眠くなってきたし、寝てしまいましょう。

 次の日、まだ少し頭が痛いが体調は良くなった。
 魔力欠乏症とは、体内の魔力を急激に使い果たして起こる現象よね。魔力が回復すれば体調も良くなるのは知ってたけど・・・私にそんな魔力あったかしら?

 普通の人は魔力が枯渇しても倒れることは少ない。コップ1杯の水をこぼしてもすぐ注ぐことができる。でもそれがバケツだったら、水が溜まるのに時間がかかる。
 理屈では分かっていても信じることができない。
 自分の身体なのに自分を信じることができない。

 自分のこの目で確かめなくては。
 何が起きたかを・・・・。


「お父様、体調も良くなったので学園に行って見ようと思うのですが、いいでしょうか?」
 食事の席でお父様に学園に行く許可をいただこうと聞いてみた。
 事件のおかげで、学園はしばらく休校なのだからすることがないのよね。

「学園に? 今あそこは事件の調査中で封鎖されているぞ」

「知っています。だからこそお父様にお願いしているのです」

「うむぅ・・・・まあよかろう。お前も当事者だしな」

「お父様ありがとうございます」

「ただし学園には私も一緒にいくぞ」

「えっ? お父様もですか?」

「ああっ、娘の身を案じ守るのと同時に、その奇跡の現場を見てみたい」

 何よ奇跡の現場って? 私が魔力暴走を引き起こした場所が何だっていうのよ。


「お嬢様、アリシアーネ様がお見えになられました」
 扉がノックされお屋敷の執事に連れられ、アリス様が私の部屋へとやってきた。

「ルシア。目が覚めたと聞いてやってきたわ。 全然目を覚まさないんだから心配したのよ」

「アリス様、ご心配をおかけして申し訳ありません。おかげさまで体調も良くなったわ」

「そうよかったわ。でもルシア、あなたはこれから大変よ。屋敷の外凄いことになってたわよ」

「えっ!?」

「王都も魔獣とあなたの噂で持ちきりよ。あなたはもう時の人なのだから自覚しなさい!」

 ええっ!? なに? 時の人ってなに? 噂って何なのよぉ~~!
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