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第16話

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「今日のお昼は何かしら」

 私の家の料理長、ジャンパオロ氏の作る料理が私は気に入っている。
 繊細な味付けに見た目も素晴らしい。
 王都でも有名なシェフである料理長。
 王宮でもその腕を振るっていたとか、今では弟子も多くいる。
 そんな有名なシェフがなんで家に仕えているのか私は知らない。
 私は料理長の作る料理が好きだった。
 食欲をそそられる前菜。
 厳選されたお肉のソテー。
 深みのあるスープ。
 見るだけで心踊るスイーツ。
 
 私が食べることが好きなのは、きっと料理長のせいだと思う。
 だってホントに美味しいのだもの。

「ニール様もアリス様も、家でご飯食べていくでしょう」

「ああ、そうさせてもらおう。ナイトレイ家の食事は美味しいと有名だからな」

「ふふっ、やったー! 皆で楽しいお食事会だわ。その後はお茶会も開きましょう」

「もう、ルシアったら食べてばかりじゃない。まあルシアらしいけど」

 ニール様とアリス様を食事に誘い、お屋敷に戻ってきた私たち。

「旦那様、お嬢様、お帰りなさいませ」

 馬車を降りると、お屋敷の入り口で執事と侍女たちが出迎えてくれた。

「うむ、学園でニール殿も合流された。食事の準備を頼むぞ」

「かしこまりました。それと旦那様、留守中に王宮より使いの者が来られました」

「なに? して要件は」

「はい。ルシアお嬢様をミューラー第一皇子の妻として迎え入れたいと申し出がございました。これがその書状でございます。その他にもランスロット家や複数の貴族様から同様の申し出が届いております」
 
 なっ!? なんで殿下から婚約の話が来てるのよぉ。
 私はニール様がいいの!
 殿下じゃないわ。
 そもそも殿下は聖女候補のテレーゼさんのことが好きだったんじゃなかったの?
 なんで私なのよ。
 アリス様の立場はどうなるのよ。

 動揺の色を隠せないでいる私とアリス様に、お父様が読んだ書状を渡してくれた。

 そこに書かれていた内容は簡単にまとめると。
 
 殿下の暗殺を知らせた功績、大勢の魔獣被害者の治療。
 特に多くの貴族子息の命を救った功績は大きく、王宮は褒賞を検討しているとのこと。
 ただ私が学生であり、女性だった点が問題となっていた。
 男性であれば騎士として叙勲、もしくは陞爵もありなのだが、私は女性の身であり家督を継ぐ身でもない。
 報奨金だけでは他の貴族が納得しないので、婚約者のいない私に王族との婚約の話が持ち上がったとのこと。

「なんて迷惑な・・・」

 私の心からの言葉だった。
 褒賞なんて要らない。
 ただ静かに暮らしたいだけ。
 ニール様と結婚して、普通に暮らしたいだけ。
 王族に嫁ぎたいわけじゃない。
 
「ニール様、アリス様、私どうなるの?」

「安心しなさい。まだ申し出があっただけよ。でも王宮が、王族があなたのことを政治利用しようとしていることは確かね」
 
「そのようだね。すまない食事は辞退させてもらう。父上に報告しないといけないので申し訳ないがここでお暇させてもらうよ」

「ああ、ニール君には迷惑をかけて申し訳ない。私も登城して話をしてこようと思う。王宮も思うところはあるだろうが、娘にはニール君がいるのでな。その話をしてこよう」

「お父様。お願いします。もうお父様が頼りです。私はニール様がいいのです」

「ああ、任せておけ。可愛い娘の頼みだ。王族に嫁ぐことより貴族の三男を選ぶような娘の婚約だ。愚か者と言われるかもしれないが、娘の幸せを願ってのことだ。任せておくが良い」

「お父様・・・」


 お父様とニール様の去った後のお食事。
 ニール様との婚約を祝うはずだったお食事。
 それがどうして・・・・。

「お嬢様、私どもはお嬢様のお味方でございます。それよりもニール様に求婚されたとお聞きしました。後のことは旦那様にお任せして、まずはお祝いしましょう」

「エマ・・・ありがとう」

 侍女であるエマの言葉が嬉しかった。
 お屋敷の皆にも祝福された。
 でも、私の心には靄がかかったままだった。
 お城に向かったお父様。
 政治のお話は私には分からない。
 互いの利権、立場、誇り そんなものはお父様にお任せしよう。
 
 

 奇跡を起こしたナイトレイ伯爵家の次女に、王位継承権を持つ第一皇子が婚約を申し出た。
 だがその次女にはランスロット伯爵家の三男の婚約者がいた。
 ナイトレイ伯爵家の次女は、どちらを選ぶのか。
 そんな噂話が王都に広まるのに時間はかからなかった。
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