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【3話】不思議の島
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ミャンは白砂を散らしながら駆け寄ってくると、俺の胸に飛び込んだ。
「よかった……よかった……」
顔を赤くして涙をぼろぼろ流している。息がかかり胸のあたりが熱くなった。
困ったもんだ。俺の背中の肉に指が食い込むくらいぎゅっとしがみついてきて、正直痛い。よほど俺が生きているのが嬉しいのだろう。
「大丈夫。俺は大丈夫だから。もう泣くなって。それよりミャンが無事でよかった」
なぜ彼女がここにいるのか疑問は残るが、とりあえず彼女の肩に手を置き、強引に体を引き離す。抱きつかれるのに慣れてないのもある。健全な師弟関係を保ってきたつもりだし。
それも、まぁ、あるのだけど。若さの割に豊かな胸の、重く柔らかい感触が腹のあたりあるってのはどうも落ち着かない。
「ほら、もういいだろう」
「でもでも……」
ミャンは駄々をこねるように両手で涙を払う。しかし、密着した体が離れた直後、
「ひゃあっ⁉」
はらり。背の部分を一直線に裁断された彼女の服が、風にめくれた。そして、するりと肩から服が落ちる。小さめの下着でぐっと寄せられた深い谷間が目に飛び込んだ。
「あわわわわわ」みるみる赤く染まる顔。「きゃあああああ」
ミャンは両腕で胸元を隠すと、その場に膝を折ってうずくまった。
「大丈夫! 大丈夫! 見てない! ぜんぜん見てない!」
見た。完全に見た。
しかし、その直後だった。
強烈なめまいが俺を襲う。
抗いきれず俺は仰向けにずどんと倒れて倒れてしまった。
「アッ、アル様っ⁉ たいへんっ、アル様⁉」
刺激的な映像が脳にダメージを与えた。わけでは決してなく。
「腹が減って動けん……」
空腹のあまり手足の一本も動かせなくなっていた。
駄スキル 『食いしんぼう』
食費はかさばる。その上、一食でも食事を抜いてしまうと、たちまちエネルギー切れを起こす。活動停止をしてしまうのだ。
そんな、なんとも厄介なスキル。
ミャンにしてみれば、下着は見られるわ、目の前でおっさんは倒れるわで、完全にてんやわんやになっていた。
「お腹減ったんですかっ⁉ あわわわ、どうしよう……」
「た、食べ物を頼む……」
「食べ物……はっ、そうだ! さっきのカニ!」
ミャンは胸を隠すことも忘れ、ばたばたとカニ男のところまで駆け寄った。
……えっ、カニ男? うそでしょ?
なんだか心理的に抵抗がある。カニ男はちょっとやめてと言いたかったが、もう口もほぼ動かなくなっていた。
「よっよっ!」
ミャンはカニ男の体を引きずってくると、
「えいっ、このっ!」
バキボキとカニ男の頭についているカニの手足をもぎとりはじめた。
ミャンちゃん、とてもワイルドだよ。
……えぇ、まじすか。それ食べるのぉ?
「アル様! さぁ、どうぞ!」
ごつごつしたカニの足がぷらぷらと俺の口元に差し出される。
……うそぉん、殻付きじゃん。せめて身を出してよ。
「たくさん食べてくださいね!」
「ふがっ、もがっ」
カニの足がごりごりと口にねじこまれる。
磯の香りが凄い。ってか、血の味? 口の中切れてるし。
いや、是非もなしだ。ここでわがままいっても仕方ない。食うぞ。
わずかに残った力を振り絞り、ボリボリと咀嚼する。
うむ。味は美味い。
それ以上に口の中が切れまくって血だらけになっているが、食べられないわけではない。
口の中で細かく砕いて、喉の奥に流し込む。胃袋傷つかないかな。
「わ……悪いな」
俺の悪魔的な胃袋が急速にエネルギーを取り込むのが自覚できる。口先の方も少しだけ動けるようになっていた。
「頼む、もう一つくれないか……」
「もう一つですね!」
バキンッ!
「あっ、お願いだから中身をちょうだい? 殻付きはめっちゃ痛いから」
「はわっ⁉ す、すみません! そんな単純なこともわからずに。そ、そうですよね……カニなんて食べ物は初めてで……」
ミャンは申し訳なさで泣きそうな顔になっている。
はじめてなら仕方ないか。
「こんな感じでどうでしょ」
「さすがだな」
ミャンはすぐに関節の部分にコツが隠されていると見抜き、器用にカニの身を抜き出した。さすがのセンスだ。
「わざわざ悪いな。ありがとう……」
カニの方もさすがと賞賛しておきたい。倒したて、新鮮なだけはある。強い磯の香りは消え、繊細な風味が際立っていた。身はぷりっと弾力がある。口の中で濃厚なうまみ広がり、ほのかな甘みが舌に残る。
「うまい。ミャンも食ってみろ」
「あっ、あたしっ? いいんですか?」
「当たり前だ。俺だけ食うのは忍びないし、腹減ってるだろ。話を聞くのは腹ごしらえして……」
「おいひぃ~!」
はやいな。言ってる途中にもうミャンはカニ男の足を頬張っていた。
「これ、意外と美味しいですね!」
「うまいか。もっと食え」
「でも……」
「どうした? 遠慮なんてしなくていいぞ?」
「あたしはもう大丈夫。それよりアル様の胃袋はこんなんじゃ満足できません」
やはり遠慮しているのだろうか。美味しいと言った割に、食べる手が進んでいない。
礼儀として言っただけで、本当はイマイチだったか?
「それもそうだが。まぁ、悪いな。動けるようになったら本格的に食料を探そう」
ものの数分で俺はカニの足のみならず、甲羅の中の身とカニ味噌まで平らげてしまった。
「ふぅ、うまかったな」
「アル様、まだ食べるところありますよ? 人間の部分の手足も食べましょうよ」
「えっ、ちょっ。そこはさすがに駄目だろ」
カニ男の頭の部分はちゃんとカニの形をしているから百歩譲ってなんとか食える。だが、その下のとこはかなり抵抗がある。はっきし言って、赤いボディペイントをした人間だ。
そういう意味でミャンは間違ってはないんだが、それを言うのは禁句。目をつむってしまいたいところである。
「あと人間の部分って表現はやめてね。複雑な気分になるから。一応、魔物だし。魔物だよね?」
「アル様が食べ物のことで遠慮するなんて珍しいですね!」
「遠慮じゃない遠慮じゃない。そういうことじゃないんだよ」
正直、どう見ても食べ物とは思えない。
「とにかく」俺は咳払いをして、「次の食料を探そう。今の分だとすぐにまた動けなくなってしまう」
※
白浜の海岸にはぎりぎり食べ物になる魔物がうようよいた。
エビ男、サバ男、サーモン男、ホタテ男、ワカメ男……
「なんでぜんぶヒト型なんだよっ!」
怪奇の島かここは! なぜこんなに怪人系の魔物が多いんだ?
「もっとこう、まともな動物はいないのか⁉」
「でも、アル様。もう倒してしまいましたし……」
「いや、まあそうなんだけど」
「アル様、食っちまいましょう」
「食っちまいましょうて……」
「それとも生で食べるのは抵抗ありますか?」
「いや、実はそうでもないんだ。俺の生まれた島国ではナマ食は盛んでな。それなりの調理技術も発展していて……」
俺はミャンの目を見てはっとした。青い瞳の奥では、火で焼いて食べたいと訴えていた。
そういえばこの娘、遠回しで気持ちを伝えるようなところがあったな。
パーティで行動してたころは、ミャンだけを贔屓にするわけにもいかないから、そういう個性はあまり気に留めたことはなかったけど。女の子らしいといえばそうか。それにまだまだ子どもなんだ。
「薪になりそうなものを探してくるよ。ミャンは少し休んでてくれ」
「あわわ、そんなわけにはいきません! アル様こそ休んでてください。怪我をしているみたいだし」
そういえば俺は下着をつけただけの、ほとんど裸同然のカッコをしていた。この状態で海に放り込まれたのだから当たり前といえば当たり前か。
自分で招いた結果とはいえ、弾けたチェーンに受けた傷はまだ痛む。
傷は小規模ではあるが、いまだに点々と流血が続いていた。
ちなみにミャンの服に、ちょっとした細工を施した。裾の部分を首の後ろで結ぶようにリメイクしてやったのだ。少し大人っぽく、おへそが見えるスタイル。このくそ暑い気候向きのしゃれたファッションに様変わりというわけである。
「似合ってるぞ、ミャン。その服」
「なに言ってるんですか」ミャンは頬を染めつつも怒ったような顔をした。「それより、先に傷をどうにかしないと」
「いや、飯だ。飯を先にする。俺が動けなくなった時に困るのは俺たちふたりだ」
食い意地を張ってるわけではなくて、これは冷静な判断だ。
しかし、ミャンはなぜかしゅんとしてしまった。
「そうですよね。ごめんなさい」
「ん? なにがだ?」
「こんな時にわがまま言って。ほんとはちょっぴり苦手なんです。火を通さない食事は慣れなくて。アル様が大変なこんな時に……」
「おいおい、わがままなんて言ってないだろ? 生食が苦手なら、それでいいじゃないか」
ミャンは言わないが、さっきのカニも生で食べてしまうくらい空腹だったのだ。昨夜の騒動でほとんど何も食べていないのだろう。なによりミャンは育ち盛り。背丈とか(胸とか)成長させるのに、エネルギーが必要なのは間違いない。
むしろ馬鹿は俺だ。『くいしんぼう』スキルに甘えて、自分を優先させてしまった。仲間思いを誇っていた自分が、笑える。
もしかすると、こういうところなのかもな。
「食事は楽しまないと。俺がいつも言ってるセリフだよな」
ミャンはうるうるした目を俺に向けた。
油断した。かわいいと思ってしまった。
はっとして考えを振り払う。
だめだだめだ。何を考えているんだ俺は。
はやくこの島だか何だかわからない場所を抜け出して、彼女をまっとうな冒険生活に戻してやることを考えなければ。才能ある若者をこんなヘンテコランドで足止めするわけにはいかない。
「ミャン、木の枝を拾ってきてくれ。それでいいだろ? もちろん目の届く範囲でな」
「あたしそんなに頼りないですか?」
「……他に訊きたいことはあるか?」
少し厳しめに睨みつけると、ミャンはそそくさと木の枝を探しにいった。
まもなく俺たちは離別する。彼女は冒険、俺は……田舎にでも戻るかな。少し早いが、引退してのびのび隠遁生活というのも悪くない。まぁ、俺の話はどうでもいい。
とにかく今は、別れの瞬間までのラストレッスン。これから過酷な世界に旅立つというのに、甘やかしてどうするって話だ。厳しさも含めて、俺に教えられることは全て叩き込んでやろう。
俺は決意の目でミャンの背中を見つめてた。
「よかった……よかった……」
顔を赤くして涙をぼろぼろ流している。息がかかり胸のあたりが熱くなった。
困ったもんだ。俺の背中の肉に指が食い込むくらいぎゅっとしがみついてきて、正直痛い。よほど俺が生きているのが嬉しいのだろう。
「大丈夫。俺は大丈夫だから。もう泣くなって。それよりミャンが無事でよかった」
なぜ彼女がここにいるのか疑問は残るが、とりあえず彼女の肩に手を置き、強引に体を引き離す。抱きつかれるのに慣れてないのもある。健全な師弟関係を保ってきたつもりだし。
それも、まぁ、あるのだけど。若さの割に豊かな胸の、重く柔らかい感触が腹のあたりあるってのはどうも落ち着かない。
「ほら、もういいだろう」
「でもでも……」
ミャンは駄々をこねるように両手で涙を払う。しかし、密着した体が離れた直後、
「ひゃあっ⁉」
はらり。背の部分を一直線に裁断された彼女の服が、風にめくれた。そして、するりと肩から服が落ちる。小さめの下着でぐっと寄せられた深い谷間が目に飛び込んだ。
「あわわわわわ」みるみる赤く染まる顔。「きゃあああああ」
ミャンは両腕で胸元を隠すと、その場に膝を折ってうずくまった。
「大丈夫! 大丈夫! 見てない! ぜんぜん見てない!」
見た。完全に見た。
しかし、その直後だった。
強烈なめまいが俺を襲う。
抗いきれず俺は仰向けにずどんと倒れて倒れてしまった。
「アッ、アル様っ⁉ たいへんっ、アル様⁉」
刺激的な映像が脳にダメージを与えた。わけでは決してなく。
「腹が減って動けん……」
空腹のあまり手足の一本も動かせなくなっていた。
駄スキル 『食いしんぼう』
食費はかさばる。その上、一食でも食事を抜いてしまうと、たちまちエネルギー切れを起こす。活動停止をしてしまうのだ。
そんな、なんとも厄介なスキル。
ミャンにしてみれば、下着は見られるわ、目の前でおっさんは倒れるわで、完全にてんやわんやになっていた。
「お腹減ったんですかっ⁉ あわわわ、どうしよう……」
「た、食べ物を頼む……」
「食べ物……はっ、そうだ! さっきのカニ!」
ミャンは胸を隠すことも忘れ、ばたばたとカニ男のところまで駆け寄った。
……えっ、カニ男? うそでしょ?
なんだか心理的に抵抗がある。カニ男はちょっとやめてと言いたかったが、もう口もほぼ動かなくなっていた。
「よっよっ!」
ミャンはカニ男の体を引きずってくると、
「えいっ、このっ!」
バキボキとカニ男の頭についているカニの手足をもぎとりはじめた。
ミャンちゃん、とてもワイルドだよ。
……えぇ、まじすか。それ食べるのぉ?
「アル様! さぁ、どうぞ!」
ごつごつしたカニの足がぷらぷらと俺の口元に差し出される。
……うそぉん、殻付きじゃん。せめて身を出してよ。
「たくさん食べてくださいね!」
「ふがっ、もがっ」
カニの足がごりごりと口にねじこまれる。
磯の香りが凄い。ってか、血の味? 口の中切れてるし。
いや、是非もなしだ。ここでわがままいっても仕方ない。食うぞ。
わずかに残った力を振り絞り、ボリボリと咀嚼する。
うむ。味は美味い。
それ以上に口の中が切れまくって血だらけになっているが、食べられないわけではない。
口の中で細かく砕いて、喉の奥に流し込む。胃袋傷つかないかな。
「わ……悪いな」
俺の悪魔的な胃袋が急速にエネルギーを取り込むのが自覚できる。口先の方も少しだけ動けるようになっていた。
「頼む、もう一つくれないか……」
「もう一つですね!」
バキンッ!
「あっ、お願いだから中身をちょうだい? 殻付きはめっちゃ痛いから」
「はわっ⁉ す、すみません! そんな単純なこともわからずに。そ、そうですよね……カニなんて食べ物は初めてで……」
ミャンは申し訳なさで泣きそうな顔になっている。
はじめてなら仕方ないか。
「こんな感じでどうでしょ」
「さすがだな」
ミャンはすぐに関節の部分にコツが隠されていると見抜き、器用にカニの身を抜き出した。さすがのセンスだ。
「わざわざ悪いな。ありがとう……」
カニの方もさすがと賞賛しておきたい。倒したて、新鮮なだけはある。強い磯の香りは消え、繊細な風味が際立っていた。身はぷりっと弾力がある。口の中で濃厚なうまみ広がり、ほのかな甘みが舌に残る。
「うまい。ミャンも食ってみろ」
「あっ、あたしっ? いいんですか?」
「当たり前だ。俺だけ食うのは忍びないし、腹減ってるだろ。話を聞くのは腹ごしらえして……」
「おいひぃ~!」
はやいな。言ってる途中にもうミャンはカニ男の足を頬張っていた。
「これ、意外と美味しいですね!」
「うまいか。もっと食え」
「でも……」
「どうした? 遠慮なんてしなくていいぞ?」
「あたしはもう大丈夫。それよりアル様の胃袋はこんなんじゃ満足できません」
やはり遠慮しているのだろうか。美味しいと言った割に、食べる手が進んでいない。
礼儀として言っただけで、本当はイマイチだったか?
「それもそうだが。まぁ、悪いな。動けるようになったら本格的に食料を探そう」
ものの数分で俺はカニの足のみならず、甲羅の中の身とカニ味噌まで平らげてしまった。
「ふぅ、うまかったな」
「アル様、まだ食べるところありますよ? 人間の部分の手足も食べましょうよ」
「えっ、ちょっ。そこはさすがに駄目だろ」
カニ男の頭の部分はちゃんとカニの形をしているから百歩譲ってなんとか食える。だが、その下のとこはかなり抵抗がある。はっきし言って、赤いボディペイントをした人間だ。
そういう意味でミャンは間違ってはないんだが、それを言うのは禁句。目をつむってしまいたいところである。
「あと人間の部分って表現はやめてね。複雑な気分になるから。一応、魔物だし。魔物だよね?」
「アル様が食べ物のことで遠慮するなんて珍しいですね!」
「遠慮じゃない遠慮じゃない。そういうことじゃないんだよ」
正直、どう見ても食べ物とは思えない。
「とにかく」俺は咳払いをして、「次の食料を探そう。今の分だとすぐにまた動けなくなってしまう」
※
白浜の海岸にはぎりぎり食べ物になる魔物がうようよいた。
エビ男、サバ男、サーモン男、ホタテ男、ワカメ男……
「なんでぜんぶヒト型なんだよっ!」
怪奇の島かここは! なぜこんなに怪人系の魔物が多いんだ?
「もっとこう、まともな動物はいないのか⁉」
「でも、アル様。もう倒してしまいましたし……」
「いや、まあそうなんだけど」
「アル様、食っちまいましょう」
「食っちまいましょうて……」
「それとも生で食べるのは抵抗ありますか?」
「いや、実はそうでもないんだ。俺の生まれた島国ではナマ食は盛んでな。それなりの調理技術も発展していて……」
俺はミャンの目を見てはっとした。青い瞳の奥では、火で焼いて食べたいと訴えていた。
そういえばこの娘、遠回しで気持ちを伝えるようなところがあったな。
パーティで行動してたころは、ミャンだけを贔屓にするわけにもいかないから、そういう個性はあまり気に留めたことはなかったけど。女の子らしいといえばそうか。それにまだまだ子どもなんだ。
「薪になりそうなものを探してくるよ。ミャンは少し休んでてくれ」
「あわわ、そんなわけにはいきません! アル様こそ休んでてください。怪我をしているみたいだし」
そういえば俺は下着をつけただけの、ほとんど裸同然のカッコをしていた。この状態で海に放り込まれたのだから当たり前といえば当たり前か。
自分で招いた結果とはいえ、弾けたチェーンに受けた傷はまだ痛む。
傷は小規模ではあるが、いまだに点々と流血が続いていた。
ちなみにミャンの服に、ちょっとした細工を施した。裾の部分を首の後ろで結ぶようにリメイクしてやったのだ。少し大人っぽく、おへそが見えるスタイル。このくそ暑い気候向きのしゃれたファッションに様変わりというわけである。
「似合ってるぞ、ミャン。その服」
「なに言ってるんですか」ミャンは頬を染めつつも怒ったような顔をした。「それより、先に傷をどうにかしないと」
「いや、飯だ。飯を先にする。俺が動けなくなった時に困るのは俺たちふたりだ」
食い意地を張ってるわけではなくて、これは冷静な判断だ。
しかし、ミャンはなぜかしゅんとしてしまった。
「そうですよね。ごめんなさい」
「ん? なにがだ?」
「こんな時にわがまま言って。ほんとはちょっぴり苦手なんです。火を通さない食事は慣れなくて。アル様が大変なこんな時に……」
「おいおい、わがままなんて言ってないだろ? 生食が苦手なら、それでいいじゃないか」
ミャンは言わないが、さっきのカニも生で食べてしまうくらい空腹だったのだ。昨夜の騒動でほとんど何も食べていないのだろう。なによりミャンは育ち盛り。背丈とか(胸とか)成長させるのに、エネルギーが必要なのは間違いない。
むしろ馬鹿は俺だ。『くいしんぼう』スキルに甘えて、自分を優先させてしまった。仲間思いを誇っていた自分が、笑える。
もしかすると、こういうところなのかもな。
「食事は楽しまないと。俺がいつも言ってるセリフだよな」
ミャンはうるうるした目を俺に向けた。
油断した。かわいいと思ってしまった。
はっとして考えを振り払う。
だめだだめだ。何を考えているんだ俺は。
はやくこの島だか何だかわからない場所を抜け出して、彼女をまっとうな冒険生活に戻してやることを考えなければ。才能ある若者をこんなヘンテコランドで足止めするわけにはいかない。
「ミャン、木の枝を拾ってきてくれ。それでいいだろ? もちろん目の届く範囲でな」
「あたしそんなに頼りないですか?」
「……他に訊きたいことはあるか?」
少し厳しめに睨みつけると、ミャンはそそくさと木の枝を探しにいった。
まもなく俺たちは離別する。彼女は冒険、俺は……田舎にでも戻るかな。少し早いが、引退してのびのび隠遁生活というのも悪くない。まぁ、俺の話はどうでもいい。
とにかく今は、別れの瞬間までのラストレッスン。これから過酷な世界に旅立つというのに、甘やかしてどうするって話だ。厳しさも含めて、俺に教えられることは全て叩き込んでやろう。
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