ハーレムヴァンパイア〜すべてのヒロインたちに花束を〜

LABYRINTH

文字の大きさ
13 / 40

13話

しおりを挟む
 心臓の鼓動がどくどくと速くなる。

 トリエステはこんな夜遅い時間にも関わらず、帰宅途中の女性に道を訊ねるのだった。


「遊んでたら家がわからなくなっちゃったの」


 迷子の少女という設定らしい。

 無理があるが仕方ない。

 無関係を装う俺は、涼しい顔で女の横を通り過ぎ、しばらく進んでから踵を返した。


 目標の女は頭の後ろで髪を団子状に結わえている。距離を詰めるに連れ、女の細く白いうなじに目か釘付けになる。


 これが渇き。

 これが衝動というのなら、まさしくそうなのだろう。


 えんえんと、トリエステが泣き出した。

 女は、「どうしたの?」と優しい声を放ち、トリエステに目線を合わせるようにしゃがみこんだ。


 少しだけ。少し血を分けてもらうだけだ。

 でも、血を吸ったら女も仲間になるんじゃないのか。そんな疑問が頭を過ぎった。

 にも関わらず、俺は大きな力に操られるように口を広げていた。


「ごめん……」


 俺にも一抹の躊躇いというのか、良心のようなものが残っていたらしい。くわっと口を開きながらも、無意識に小さく謝罪の言葉を口にしていた。


 しかし、その声は人気のない夜道には大きく、はっと女が肩をすくめるのがわかった。

 驚きと恐怖で引きつった顔が、咄嗟に俺に向けられる。


「構わぬっ、いけっ!」


 女が「きゃっ」と叫んだと同時に、トリエステが囁くように叫んだ。


「ごめんっ!」


 俺はもう一度謝り、女の喉元に噛み付いた。

 汗で冷たくなった皮膚は、かすかな塩気と化粧品による苦味があった。

 ぷつりと皮膚が裂かれる音がして、じわりと熱い液体が口の中に流れこんでくる。


「うぅ……」


 熱く焼け付くような、それでいて心地の良い感覚が、身体の底からこみあげていく。

 俺はつい今さっきまで体調が悪かったのだとはっきり自覚した。

 ぱっと万華鏡が回転するように視界が鮮明になるのが分かる。


「あ……あぁ……」


 女は艶めかしい喘ぎ声を小さく発した。その身体から力が抜けていくのが伝わってきた。俺は腰に手を回し、倒れそうになる女の身体を支えた。


 喉から流れ出た血が鎖骨を伝い、少し緩んだブラウスの下にある谷間へと流れこんでいく。


 女の頬が紅く染まっていく。苦悶にも似た表情で自分の下唇を噛んでいた。

 がくがくと膝が震えている。

 女は自身の手をするすると股の間に移動させると、尿意を我慢するようにぎゅっと両の太ももで挟み込む姿勢をとった。

 おそらく俺はそれと同程度の快感を味わっている確信があった。腹の底から快楽がこみ上げてきて、臍の当たりで弾けそうになるのを必死に抑えている気分だった。


「主水、そのくらいで十分であろう。噛むのをやめるんじゃ」


 トリエステが行為の中止を告げた。

 だが、俺は取り憑かれたように女の首筋を求め続けていた。


 これをやめる? とんでもない。

 なぜやめる必要があるのか。

 そんなふうに考えていたように思う。


「主水!」トリエステが焦るように声を荒げた。「やめじゃ、やめ! 聞こえておろう!」


 トリエステの声が遠い。

 俺が牙をさらに深く食い込ませようと、顎に力を込めたその時だった。


「ストォ~ップ。聞こえたでしょ?」


 トリエステではない、別の声が俺の耳元で甘く鋭く囁いた。

 同時に、冷たい痛みが喉元に走る。


 誰かが鋭利なナイフを突きつけている。

 俺の首に、ピッタリと。


 さらに力が加わってきて、ぷつりと俺の皮膚が横一文字に裂けるのがわかった。

 口を離さざるを得ない。それほどの力で俺は後ろに追いやられていた。


「ごほっ、ごほっ」


 俺は咳き込み、喉元を手で押さえた。

 血を吸われた女は地面にへたり込み、ぐたりと壁にもたれかかっていた。まだ快感の余韻に襲われているのか、苦しそうに喘ぎ続けている。

 俺は少し顔を上げ、横目で声の主を見た。


「急に何をするんだ」

「トリエステの言葉が聞こえたでしょ? サカリのついた犬みたいに聞き分けなくなっちゃって」


 甘えたような声。それに似合う甘い顔の女が見下すように俺を見つめていた。

 同類だ。俺やトリエステのような仲間。嗅覚がその女がこっち側の存在だと教えてくれていた。


 年齢は二十代後半ぐらいだろうか。あくまで見た目の話だが。

 少し眠そうなタレ目で唇が厚く、男好きのしそうな顔立ち。艶のある黒髪や太い眉も含めて、やはり日本人離れしている。少し古風な海外女優のようでもあった。

 おまけに谷間の主張は激しく、思わず釘付けになりそうだった。チューリップを逆さにしたような、胸元が開いた挑発的な黄色のワンピースは腰のラインまでくっきりと主張されている。


 女の外見の何もかもが、およそ千葉の閑静な住宅街には似つかわしくなかった。

 そんな女がククリのような形状のナイフをひらひらさせながら、


「それ以上はだめ。これ以上、仲間を増やされると困るのよね」


 俺がちらりとトリエステを見ると、「あら?」とその女が意外そうな顔をした。


「その様子だと。何も説明されてないようね、新人さん」


 女はルチアと自らの名を名乗った。

 トリエステは面倒なことに巻き込まれたとでも言うふうに額に手を当てた。


「すまんの、ルチア。後で説明しようと思ったのじゃ」

「へぇ、ほんとにそうなの?」ルチアは挑発するように腕を組むと、「またいつものやり方? あなたらしいわね。手遅れにさせてから痛いほど思い知らせるっていう」

「人聞きが悪いのぉ。言葉より、経験こそが人を育てる、それだけのことじゃ」

「でも、事実でしょ?」


 ルチアは区切るように語気を強めた。

 二人の口調が喧嘩腰になりつつある。どうすれば良いのだろう。

 俺は二人の美女を交互に見つめ、割って入るように「なあ」と呼びかけた。


「二人とも何の話してるんだよ」

「よく覚えておきなさい」ルチアは組んだ腕に乗せた胸を揺らしながら詰め寄ってきた。「相手の総血液量の一割を越えて体液の交換は行わないこと。でないと感染させちゃうわよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...