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19話
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生徒指導部室から出たところにトリエステがいた。どうやら俺の指導が終わるまで待っていてくれたらしい。
「ごっぴどくやられたようじゃの」
「まだ頭が痛い。竹刀で殴るとか完全に体罰だろ。時代錯誤も甚だしい」
「安心せい、傷は治ってる。その痛みは気のせいじゃ」
「い~や。心が痛いんだよ」
俺はとほほと肩を落とした。平穏な学生生活とは程遠い大変な一日だった。しかも初日からこれとは、先が思いやられる。
「どうするよ。完全に目をつけられたぞ。如月とかいう委員長にも指導主任にもな」
「くれぐれも目立たぬようにと言ったのに」トリエステは肩をすくめた。「初日からこのざまとは呆れたの」
トリエステと並んで校門を抜けたところで、見覚えのある顔とばったり出くわした。
関西弁金髪ギャルの由奈氏だ。
はっきり言って、非常に気まずい。
「あ、古路里くん?」
校門の前で、少し落ち込んだようにうつむいていた彼女だったが、俺の存在に気づくと、ぱっと顔を明るくした。
その様子だと俺の帰りを待っていたのかもしれない。
どんな言葉が来るかと身構えたが、意外にも由奈氏はすぐに顔を赤らめ、もじもじするように上目遣いで俺を見つめた。
「叱られたんやろ?」
「お、おう……」
「なんか悪かったね。うち、あんまり記憶がなくて」
「あ、いや! 悪いのは俺の方だ。むしろ謝らないと……」
「いいの。謝らんといて」
人が変わってしまったかのようだった。小声で、しかも照れを隠すような話し方。妙に乙女ぽいというか、しおらしい。
そんな由奈氏が上目遣いながらも熱く潤んだ視線を俺に向けた。
「あの、よかったらまたして」
「ふぇ?」俺は目を見開いた。
「だから」由奈氏は指で首筋をなぞった。「また噛んで欲しいなって」
言葉を失っていると、横にいたトリエステが肘で小突いてきた。
「主任というのはどんな奴じゃ? 特徴じゃて」
「はっ? おぉ。そりゃ、なんか背が高くてごつくて、禿げてて歯が出てる……」
「主水の後ろ。そいつが見てるぞ。委員長もセットでな」
ちらりと振り返ると、トリエステの言う通り、校舎の玄関から指導主任が鬼の形相で睨みを利かせていた。
その手前で、如月氏も腰に手を当てて、幼い顔を必死に険しくさせている。
さっと由奈氏に視線を戻す。何か言おうとしたが、そもそも口下手な上に調子を狂わせられていて、上手く言葉が出なかった。
冷や汗を滲ませながら唸っていると。
「ほんとはな」と由奈氏から話しかけてきた。「一緒に帰ろって誘おうと思てたんや。でも無理そうやね」
「そ、それは。確かに状況は悪いかも」
「うちな。見かけによらず純粋なん。だから、遊ばれたなんて思いたないねん」
「えっ、いや。遊ぶつもりなんて……」
「うちだって悔しさとかあるけどな。でも……いや、あかん」由奈氏はふるふると首を振った。「なんでもないわ。気にせんといて!」
彼女は突然顔を上げると、どういう風の吹き回しなのか、明るい笑顔を作った。
「なんか、うちらしくなかったわ! 今日の事は仕返ししたるから覚悟しときいや!」
由奈氏は、ばしっと俺の肩を叩き、俺のほっぺたをつねった。それからくるりと背中を向ける。
「ほな。明日からも今まで通り頼むで、フツーにな!」
彼女はそう言い残し、夕日の方向へ颯爽と走り去って行った。
今まで通りと言われても。今日出会ったばかりなのですが、とは返す暇もなかった。
どうしていいかわからず。俺はトリエステの横顔を見つめた。
「頼む。この童貞にもわかるように解説してくれ」
「ふっ、これから何人の女を泣かすことやらな」
トリエステはくっくと笑いながら、歩き出した。
「ごっぴどくやられたようじゃの」
「まだ頭が痛い。竹刀で殴るとか完全に体罰だろ。時代錯誤も甚だしい」
「安心せい、傷は治ってる。その痛みは気のせいじゃ」
「い~や。心が痛いんだよ」
俺はとほほと肩を落とした。平穏な学生生活とは程遠い大変な一日だった。しかも初日からこれとは、先が思いやられる。
「どうするよ。完全に目をつけられたぞ。如月とかいう委員長にも指導主任にもな」
「くれぐれも目立たぬようにと言ったのに」トリエステは肩をすくめた。「初日からこのざまとは呆れたの」
トリエステと並んで校門を抜けたところで、見覚えのある顔とばったり出くわした。
関西弁金髪ギャルの由奈氏だ。
はっきり言って、非常に気まずい。
「あ、古路里くん?」
校門の前で、少し落ち込んだようにうつむいていた彼女だったが、俺の存在に気づくと、ぱっと顔を明るくした。
その様子だと俺の帰りを待っていたのかもしれない。
どんな言葉が来るかと身構えたが、意外にも由奈氏はすぐに顔を赤らめ、もじもじするように上目遣いで俺を見つめた。
「叱られたんやろ?」
「お、おう……」
「なんか悪かったね。うち、あんまり記憶がなくて」
「あ、いや! 悪いのは俺の方だ。むしろ謝らないと……」
「いいの。謝らんといて」
人が変わってしまったかのようだった。小声で、しかも照れを隠すような話し方。妙に乙女ぽいというか、しおらしい。
そんな由奈氏が上目遣いながらも熱く潤んだ視線を俺に向けた。
「あの、よかったらまたして」
「ふぇ?」俺は目を見開いた。
「だから」由奈氏は指で首筋をなぞった。「また噛んで欲しいなって」
言葉を失っていると、横にいたトリエステが肘で小突いてきた。
「主任というのはどんな奴じゃ? 特徴じゃて」
「はっ? おぉ。そりゃ、なんか背が高くてごつくて、禿げてて歯が出てる……」
「主水の後ろ。そいつが見てるぞ。委員長もセットでな」
ちらりと振り返ると、トリエステの言う通り、校舎の玄関から指導主任が鬼の形相で睨みを利かせていた。
その手前で、如月氏も腰に手を当てて、幼い顔を必死に険しくさせている。
さっと由奈氏に視線を戻す。何か言おうとしたが、そもそも口下手な上に調子を狂わせられていて、上手く言葉が出なかった。
冷や汗を滲ませながら唸っていると。
「ほんとはな」と由奈氏から話しかけてきた。「一緒に帰ろって誘おうと思てたんや。でも無理そうやね」
「そ、それは。確かに状況は悪いかも」
「うちな。見かけによらず純粋なん。だから、遊ばれたなんて思いたないねん」
「えっ、いや。遊ぶつもりなんて……」
「うちだって悔しさとかあるけどな。でも……いや、あかん」由奈氏はふるふると首を振った。「なんでもないわ。気にせんといて!」
彼女は突然顔を上げると、どういう風の吹き回しなのか、明るい笑顔を作った。
「なんか、うちらしくなかったわ! 今日の事は仕返ししたるから覚悟しときいや!」
由奈氏は、ばしっと俺の肩を叩き、俺のほっぺたをつねった。それからくるりと背中を向ける。
「ほな。明日からも今まで通り頼むで、フツーにな!」
彼女はそう言い残し、夕日の方向へ颯爽と走り去って行った。
今まで通りと言われても。今日出会ったばかりなのですが、とは返す暇もなかった。
どうしていいかわからず。俺はトリエステの横顔を見つめた。
「頼む。この童貞にもわかるように解説してくれ」
「ふっ、これから何人の女を泣かすことやらな」
トリエステはくっくと笑いながら、歩き出した。
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