ハーレムヴァンパイア〜すべてのヒロインたちに花束を〜

LABYRINTH

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23話

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 数人の男に取り押さえられたまま次の駅で降ろされた。学校まではもう一駅ある。どんなに急いだところで始業ベルには間に合わないだろう。


「あ~あ、なんだこんなことになったんだろ」


 それは如月氏も同じだった。

 彼女は当惑した様子で連行される俺の後について駅に降り立ったのだ。

 車両の扉が閉まり、嘲笑を浮かべたトリエステが電車とともに遠ざかって行く。


 ふと横を見ると、当の痴漢男がいない。改札へ向かう人混みの中に早足で駆け去っていく姿が見えた。

 呼び止めようとしたが、駅員の姿が視界に入り、俺は諦めた。


「だから、その。全部誤解なんです……彼は私のクラスメイトで……むしろ助けてくれたというか……」


 如月氏は泣きそうになりながらも、駅員に事情を説明してくれた。かなり頭が混乱していたらしく、話は支離滅裂ではあったが、三十分後には無事解放されることとなった。

 人もまばらになった駅のホームで、如月氏は「はぁ」と大きなため息を吐いた。


「まるで俺を咎めるような呼気だな。余計な事をしたかな」

「とんでも、助けてくれてありがとう」


 全然心のこもってない言い方だった。

 俺は一番の被害者のはずだ。いや、一番は如月氏かもしれないが、少なくとも同情される筋合いはあるはずだ。


「怖かったのか?」

「別に……」如月氏はそっぽを向いた。

「まさかいつも狙われてたとか」

「そうよ。だから何なの。あなたに関係あるの?」


 彼女は長めのスカートをぱたぱたとはたく動作をした。二つ結びの髪が頭の後ろでぴょんぴょんと跳ねていた。

 数秒後、電車が到着した。俺たちは揃って、先程より空いている車両に乗り込んだ。


「いつもこのぐらい時間の電車に乗れば良いんじゃないのか」

「駄目よ。学校に遅れるじゃない」

「ごもっともで」俺は肩をすくめた。「ならもっと早い電車があるだろ」

「そんなの試しました。でも次の日には同じ電車に乗ってきて、次に遅いのに乗ったら、あいつ私のこと待ってて……」


 如月氏は床に顔を落とし、拳を固めて泣きじゃくりだした。


「あいつ私が触られて喜んでるって思ってる。この前なんか、私の胸ポケットに電話番号入れてきた。それからスカートの下に手を突っ込んできて」

「そ、それ以上言わなくていい!」

「なによ。そんなの慣れっこでしょ」

「ちょ。勘違いすんな。俺はこの歳になっても童貞だし、この前はじめて妹のを触ったんだ」


 如月氏はぴたりと泣くのを止めて、俺を訝しげな顔で見上げた。

 俺は慌てて訂正を余儀なくされた。


「あ、いや。妹の話は冗談にしといてくれ」

「そこじゃない」

「えっ?」

「なんでもないわよ」如月氏は声を荒げて、また泣き出した。「ほんとなんなの。結局あなた何がしたいのよ」

「何がって……」

「私が嫌いとか言ったから、機嫌でもとろうとしてるの? それで私に付きまとってるんでしょ。都合の良い嘘ばっかりついて!」

「ったく。なんなのって俺が訊きたいよ」


 俺は頭をかいた。

 現実の女は何を考えているのかわからない。二次元の方が面倒じゃないし、従順だ。ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てて俺を困らせたりしない。


「とにかく駅に着く。扉が開いたら走るぞ」

「言われなくても走るわよ」


 急げば始業開始のチャイムにはぎりぎり間に合うかもしれない。

 扉が開くと同時に俺たちは駆け出した。


「お洒落で綺麗な女の子に飽きたから、次は地味でうぶで簡単に騙せそうな女にしようと思ってるんでしょ!」

「それで、どうなんだ?」

「はい? 何がよ!」

「肝心の委員長は俺に騙されそうなのかと訊いているんだよ」

「学級の風紀を守るのだって大事な役目よ。私がしっかりしなくてどうするのよ」

「なら何も心配いらないだろ」


 学校へと続く真っ直ぐな坂道を駆け上がる。遅刻するわけにはいかない。これ以上、生徒指導に目をつけられたら終わりだ。

 だが、俺以上に遅れてはいけないと思っているのが如月氏なのだろう。


「ペースが落ちてるぞ。俺が担いでやろうか?」

「冗談言わないで。これ以上あなたに借りとか作ったら死んだお婆ちゃんが天国で泣くから」

「なんだ余裕じゃないか」


 もうすぐで坂の頂上だ。上まで行けば、すぐに校門が待っている。


「なんとか間に合いそうだな!」


 しかし彼女の返事がなかった。

 隣に目をやると如月氏の姿がない。

 慌てて振り返る。

 青ざめた顔をした委員長は、膝に手を置いて立ち止まっていた。肩を上下させ激しく呼吸を繰り返している。

 ちょうどその時、始業ベルが鳴り響いた。がらがらと校門が閉められる音が聞こえてきた。


「……おい、大丈夫か?」

「触らないで」


 如月氏は俺の手をぴしゃりと払い除けた。


「何も心配いらない? あなた確かにそう言ったよね」

「今そんな話してる場合かよ」

「正直に話しなさい。由奈さんのこと無理やり襲ったんでしょう」

「それは誤解だって言ったろ」

「あらそう」如月氏は額の汗を拭った。「じゃあ、誘われたの?」

「なんでそうなる……あぁ、なるほど。彼女が例のお洒落で綺麗な女の子ってわけか」


 如月委員長は強くは否定しようとせず、ただ声を落とした。


「それは関係ない。私だって別にカマトトぶるつもりはないし、男女の仲に時間は関係ないってことぐらい知ってる」

「それは試験に出るのか?」

「茶化さないで。由奈さんが今の私たちのこと見て喜ぶと思ってるの?」


 やはり何か勘違いしている。むしろ俺に対する思い違いは最初からずっとだ。

 俺は聞こえるように大きくため息を吐いてみせた。


「さっき俺に借りがあると言ったよな」

「だから何よ。話そらしたら承知しないから」

「俺と彼女の間には何かあったかもしれない。だがそれは委員長の想像していることではない。絶対に違う」


 如月氏の顔がみるみる赤くなる。

 俺は構わずに続けた。


「そもそも俺たちは名前のつけられるような間柄ではない。今のところはな。この先どうなるかは正直俺にもわからん」

「だからなんなのよ……」

「それがあんたの知りたかったことだ。そしてそれを信じる事が借りを返すことになる」

「色々勘違いしてる。勝手に決めつけないでよ」口を尖らせる如月氏。「でも、そこまで言うなら……」

「ご理解いただけて嬉しいよ」

「誤解だけはしないでおく。とはいっても、何ひとつ理解はしないって意味だけど」

「それはありがとう」


 俺は恩着せがましく感謝を告げ、坂道の先を睨んだ。


「正門から行って指導主任をひきつける。その間に委員長は別の場所からこっそり中に入れ。壁ぐらいよじ登れるだろ」

「カッコつける男って大嫌い。それにまた借りを作ろうとしてる」

「あんたはクラスの模範だろ」
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