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1巻
1-2
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「ふう~、食べた食べた。お腹いっぱいだ~」
僕はうり坊もどきの焼肉に大満足だった。
予想通り、その肉はイノシシのように脂がたっぷりのっていて、大変に美味であった。
もちろん一頭丸ごと食べきれるわけもないので、残りは燻製にでもしようと思っている。
他の三頭も同じだ。
幸い、一頭目を解体したところで解体スキルのレベルが上がった。
その後も、やればやるだけどんどん上がっていった。
最後に一番大きなイノシシもどきを解体したのだが、目を瞑ってもできそうなくらいに上達していた。
だからおそらく燻製スキルも、やればどんどんレベルアップし、上手くなるんじゃないだろうか。
ならば、皮のなめしスキルや骨の加工なんかもできそうだ。
うん。後で全部やってみよう。
大事な命だ。丸ごと使えるなら、それに越したことはない。
次に僕は、小屋の裏側へと回り込んだ。
実は先ほど、そこにドラム缶風呂があることを発見していた。地球ではなさそうなのに、ドラム缶風呂だ。理由はわからないが、僕にはありがたい。
「お腹も満たされたことだし、お風呂に入って汗を流そう」
僕はウキウキした気分でどうやってお湯を沸かそうか考える。
「え~と、薪をここに入れて火をつければいいんだよね」
ドラム缶風呂は二カ所に置かれたレンガのような石の上に載せられて、その石の間が黒く煤けていた。きっとここに薪を入れてドラム缶の中の水を温めるのだろう。
すぐそばには短く切られた丸太が大量に積んであった。小屋の中にも薪はあるが、せっかくだからこれを使わせてもらおう。
「でも、このままだとさすがに大きすぎるな」
積んであった丸太は、ドラム缶風呂の下にそのまま入れるには大きすぎた。ただ、丸太の山の隣には、切り株がある。ここで丸太を割ればいい。
「よし、薪割りをしよう」
僕は丸太を一本抜き取り、切り株の上に置いた。
そして手に持った斧を力いっぱい振り下ろす。
だが――
僕の振り下ろした斧は、丸太に当たりはしたものの、綺麗に真っ二つとはいかず、端っこを少しばかり裂いただけだった。
「……なかなか難しいな」
しかしそのとき、またしてもうるさいあれが鳴った。
ピロリロリン♪ レベルアップしました。
次いでステータス画面が出る。
はいはい、わかりましたよ。レベルアップしたなら次は外さないね。
僕はもう一度斧を振りかぶると、力強く振り下ろした。
乾いた高音があたりに響く。
丸太は見事に真っ二つに割れていた。
だがすぐにあれも鳴る。
ピロリロリン♪
僕はレベルアップのうるさい音に悩まされつつ、二十本ほどの丸太を割って薪を作り、ドラム缶風呂の下に突っ込んだ。
「よし、薪はこれで充分。あとは水か……」
ちょうどよく、近くに水汲み用と思われる木製のバケツが置いてあった。
「よし」
僕はそのバケツを手に取り、小走りで小川に向かった。
といっても、小川までは十メートルくらいだ。すぐに着く。
僕は手に持ったバケツで水をすくった。
バケツの中には水がなみなみと入っている。
それをできるだけこぼさないように運び、ドラム缶風呂の中に流し込んだ。
「あと十往復……いや、十五往復くらいかな」
僕はそんなことをつぶやきながら、小川との間を行ったり来たりした。
その数、実に二十回。
ようやくドラム缶風呂の中が水で満たされた。
「ふう~、よし、あとは火をつけるだけだ」
僕は火打ち石を、ドラム缶風呂の下に薪とともに入れた木屑の上で叩き合わせた。
カチッカチッという音とともに、派手に火花が散る。
すると、竈のときと同様にすぐさま火がついた。
僕はすかさず息を吹きかけ、火を大きくする。
フーッフーッ。何度も何度も息を吹きかける。
火は薪に移り、大きく燃え上がった。
「よし、これで準備完了。あとはお湯が沸くのを待つだけだ」
僕はしばらくの間、ワクワクしながらお湯が沸くのをじっと待った。
だが、タオルや着替えがないことに気づいた。
「小屋の中にないかな? 探してみよう」
というわけで、小屋の中に入って物色してみる。
ぱっと見はほとんどものがなかったが、ベッドの下が引き出しになっていた。
「あったらいいのだけど……」
ゆっくり引き出しを開けると――運のいいことに、綺麗なタオルがしまわれていた。
しかも、服も二着見つけた。ただし――
僕は服を二着とも取り出し、目の前で広げてみた。
「これは……西部劇? それとも中世のヨーロッパとか?」
服は、現代のものとは到底思えない、古めかしいデザインのものであった。
いや、古めかしいというか、びっくりするほどシンプルというか……とにかく現代日本ではまず見かけない服であった。
「う~ん、どちらも普通の服じゃない……」
困ったものの、僕はよりましなほうを選び、もう一着は再び引き出しの中にしまった。
「でもまあ、ないよりはましだよね」
僕は期待に胸を膨らませ、タオルとその変な服を持ち、裏手へ戻る。
そして、ドラム缶風呂に指を軽く入れてみる。
「お、いい感じ」
僕はいよいよ風呂に入ることにした。
ちょうど都合がいいことに、小屋の軒にロープが張られていたので、僕はそこに着替えの服とタオルをかけた。
それから、着ている服もロープにかける。
そして、ドラム缶風呂に入るため、薪を入れたところとは反対側に設置された石の階段に足をかけ、もう一度手でお湯の温度を確かめてから、ゆっくり片足を入れた。
「う~ん、いいね」
僕はさらにもう一方の足をお湯の中に入れると、少しずつ腰を落とし、身体全体をお湯の中に沈めた。
「ふ~、最高~」
さらさらと流れる小川の音を聞きながら、僕は空を見上げた。
雲が風に吹かれてゆっくりと流れていく。
あ~なんて気持ちがいいんだ。幸せだ~。
僕は天然の素晴らしいロケーションの中であたたかなお湯に浸かり、しばしゆったりとした時間を過ごした。
「ふ~、いいお湯だった」
僕は風呂から上がると小屋に戻った。
お腹が満たされ、汗も流したところで急に眠たくなったのだ。
ベッドに身体を預け、仰向けになって考える。
「とりあえず当分ここで生活してみよう。ここがゲームの世界なのか、異世界なのかはわからないけど、生きられるならどこだっていいや」
そうして僕はこの粗末な小屋で、しばらくの間何をするでもないぐうたらな生活をすることに決めると、安閑とした眠りについた。
☆
あれからどれくらい経ったのか……
一か月は経ったと思う。日数を数えていないから正確にはわからないが、たぶんそれくらいだろう。
それにしても、ここには何もない。
高い山に囲まれた窪地であるため、行動できる範囲は広くない。
初めの頃に山を登ってみようと思ったものの、窪地の周囲はどこも崖だったので危険に感じ、実行に移すことはなかった。
一応何をやってもレベルアップするから、挑戦し続ければいずれ登れるのだろうが、今はこの閉じられた範囲を探索したかった。
そういえば、レベルアップの通知音とステータス画面はもう出てきていない。
あの音と画面に辟易していたため、どうにかして止める方法はないものかと探してみたら……結果、それはあった。
ガラス板に似たステータス画面は、タッチパネルのように触れることができ、本のようにめくって違うページを見られることがわかった。
そこで、何ぺージもめくってみる。
すると、最後のページに色々な通知のオンオフボタンがあった。
僕は迷わず全部オフにした。
それによってようやく、あのやかましいピロリロリン♪ という音が聞こえなくなり、ステータス画面がところ構わず出てくることもなくなった。
それ以降、僕は至極快適にのどかなスローライフを送った。
野山を駆け回って山菜やきのこを採って食べたり、川で気ままに寝転がりながら釣り糸を垂れたり、ただただ怠惰な時を過ごした。
他にも洞窟を探検して色々な獣と戦ったり、煌びやかに光る岩を削って首飾りを作ったりもしている。
そうそう、洞窟の近くには五、六人が生活できそうな大きめの家があった。
たぶん、誰かがここで僕と同じように採掘をしていたんだと思う。
僕は大きな家の中で、たくさんの服を見つけた。
だがおかしなことに、ここにある服も最初の小屋で見つけたものと同じく、皆変なのだ。
現代のシャツとかトレーナーとかセーターとかいったものとはデザインが異なり、やはりどうにも古臭い。
これは一体どういうことなのだろうか? 二つの小屋にある服が、どれもこれも古臭いというのは。
でもまあ、服が大量に見つかったのはありがたかった。
小屋の中で洗濯板やせっけんを見つけ、洗濯ができるようになったのだが、着替えが二着だけでは心もとなかったから。
ちなみに、二つの建物ともこの一か月、誰も戻ってくることはなかった。
やはり、どちらももう使用されていないのだろうか。
だがまあ、それ以外はこれといって特に問題はなかった。
そんなこんなで最近では僕も強くなり、自分の背丈より大きい獣も簡単に倒せるようになった。
おそらく色んなスキルやステータスが相当レベルアップしていることだろう。
あのステータス画面は、あれ以来見ていないが。
獣は皆、焼くととても美味かった。
なのでこの頃は獣が出ると、条件反射でつばが溢れ出てくるほどだ。
だが、こんな優雅な生活は突然終わりを迎えた――
山の向こうから、人の声が聞こえた。
しかもそれは、うら若き女性の、助けを求める悲鳴であった。
風雲急を告げるその声は、これまでの退屈ながらも優雅な日々を破壊する運命の鐘のようにも聞こえ、身体は震えた。
僕は意を決して駆け出した。
「助けに行かなきゃ!」
走りながら手に持った斧を背中に回し、ベルトに挟む。
こうすれば両手が空くから、上手くいけば崖に登れるはずだ。
前に登ろうとしたときはあまりにも急角度で登れなかったけど、今ならレベルアップしているから行けるかもしれない。
叫び声がした方向の崖にたどり着いた僕は、岩肌に手をかけた。
そしてその岩肌をぎゅっと力強く掴むと、足を踏ん張って身体を上へと持ち上げる。
次に、片方の手を岩から離してさらに上にある岩を掴むと同時に、片足も上へ上げて、足場を探して踏みしめた。
それを繰り返して、どんどん身体を上へ押し上げていく。
「よし、いいぞ。登れる。だんだん楽になってきているから、やっぱりレベルアップしているぞ」
自然と笑みを浮かべながら、どんどん崖を上っていった。
そうしてついに崖の上へとたどり着く。
「よし! 登りきったぞ」
崖は壁のように僕のいた窪地と外の世界を分けており、外には見渡す限りの森が広がっていた。
次の瞬間、またも女性の悲鳴がした。
僕は声の出どころを確認する。
外の森を見下ろせば、十人ほどの人たちが輪になって、獣たちからの攻撃に耐えていた。
しかも襲っている獣はかなりの大型だ! 全部で六頭!
「デカい!」
眼下の獣は今まで見たことがないくらいの大物ばかりであった。
だが種類自体は、以前から何度も仕留めたことのあるイノシシ型の獣だ。
「あれくらいならやれるはずだ!」
僕は無我夢中で崖を駆け下りた。
そのままの勢いで最も近くにいた獣に向かいつつ、背中の斧を抜き放って頭上高く振りかざした。
「おりゃああああ――――!」
僕は裂帛の気合とともに宙高く飛び上がると、獣の頭部に向かって斧を振り下ろした。
骨ごと肉を叩き割る鈍い音があたりに響く。
続いて獣の頭部から鮮血と一緒に脳漿が勢いよく飛び散った。
獣は咆哮を上げることもできずに、四肢を崩して地面に倒れ込んだ。
「よし!」
僕は獣が死んだことを見届けると、すぐさま次なる獲物に向かう。
次の獣との距離を一気に詰め、その眼前で先ほどと同じように飛び上がった。
力いっぱいに斧を振り下ろし、獣の首を斬り落とす。
すさまじい血しぶきが噴き上がる。
だが僕は返り血に構わず、別の獲物を狙う。
そして、あっという間に六頭全ての獣を打ち倒した。
僕はなんとか獣の群れを倒しきれたことに、ほっと安堵の息を漏らす。
それからふと振り返ると、呆然とした様子の男たちと目が合った。十人ほどの集団で多くは男性だった。奥に女性もいるようだが、男性の陰に隠れていてよく見えない。彼らは皆、白人のようだった。この世界の住民と初めて会ったけれど、僕の知る白人とも雰囲気が違う気がした。
「あ、どうも……」
僕はなんと言ったらいいものかと迷い、ちょっと場違いな挨拶をしてしまった。
そもそも、言葉が通じるかもわからない。
男たちはまだ口をあんぐりと開けている。
やはり、言葉が通じないのだろうか?
「あのう……」
僕が言葉を重ねると、一団の中で最も年長と思われる、白髪交じりの黒髪を短く刈り上げ、口髭をたくわえた精悍な顔つきの男が、ようやく我に返った。
「あ、いや、声をかけられたのにすまない。助けていただき礼を申す」
男は実に丁寧に頭を下げた。
日本語ではないのに、彼の言葉がわかるし、向こうも僕が何を言っているのかわかるようだ。
僕は同じように頭を下げる。
「いえ、大したことじゃないので」
すると、男たちが今度はギョッとした。
「大したことないなんてとんでもない! 君は我々では対処できないほどの超大型のランブルボアの群れを全て倒してしまったんだよ!」
「いえ、そんな……あの獣、あれってランブルボアって言うんですね? それなら、今までに何十頭も倒しているから、ちょっと大型だったけど、いけると思って」
僕は反射的に恐縮してしまった。
「い、今まで何十頭もだって? あの忌まわしく恐ろしいランブルボアを? 本当なのかい?」
ランブルボアって、そんなにヤバめな獣なのか?
「あ、いや、そうですね。この一か月で五十頭くらい……いやもっとかな? あ、でもこんなに大きいのは初めてですよ」
「五、五十頭以上……ランブルボアを……い、いや、でもこの状況を見れば当然か……」
どうやら、ランブルボアはかなりヤバいやつだったらしい。
僕がどう返事をしたものかと思案していると、男たちの後ろから可憐な少女の声が聞こえてきた。
「わたしからもお礼を。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
見たことがないほど見目麗しい少女が、優雅な笑みを浮かべていた。
「あ、い、いえ、本当に大したことではないので、お気になさらず……」
僕が彼女の美しさにドギマギしていたら、少女はかしこまる男たちをかき分け、僕の目の前まで進んできた。
「いいえ、彼らが言う通り、ランブルボアは小型のものでも恐るべき相手です。それなのに、あれほどの大きなランブルボアたちをいともたやすく退けるなんて、心底驚きました」
「いやあ、そんな大げさな……」
ここで先ほどの男が割って入った。
僕はうり坊もどきの焼肉に大満足だった。
予想通り、その肉はイノシシのように脂がたっぷりのっていて、大変に美味であった。
もちろん一頭丸ごと食べきれるわけもないので、残りは燻製にでもしようと思っている。
他の三頭も同じだ。
幸い、一頭目を解体したところで解体スキルのレベルが上がった。
その後も、やればやるだけどんどん上がっていった。
最後に一番大きなイノシシもどきを解体したのだが、目を瞑ってもできそうなくらいに上達していた。
だからおそらく燻製スキルも、やればどんどんレベルアップし、上手くなるんじゃないだろうか。
ならば、皮のなめしスキルや骨の加工なんかもできそうだ。
うん。後で全部やってみよう。
大事な命だ。丸ごと使えるなら、それに越したことはない。
次に僕は、小屋の裏側へと回り込んだ。
実は先ほど、そこにドラム缶風呂があることを発見していた。地球ではなさそうなのに、ドラム缶風呂だ。理由はわからないが、僕にはありがたい。
「お腹も満たされたことだし、お風呂に入って汗を流そう」
僕はウキウキした気分でどうやってお湯を沸かそうか考える。
「え~と、薪をここに入れて火をつければいいんだよね」
ドラム缶風呂は二カ所に置かれたレンガのような石の上に載せられて、その石の間が黒く煤けていた。きっとここに薪を入れてドラム缶の中の水を温めるのだろう。
すぐそばには短く切られた丸太が大量に積んであった。小屋の中にも薪はあるが、せっかくだからこれを使わせてもらおう。
「でも、このままだとさすがに大きすぎるな」
積んであった丸太は、ドラム缶風呂の下にそのまま入れるには大きすぎた。ただ、丸太の山の隣には、切り株がある。ここで丸太を割ればいい。
「よし、薪割りをしよう」
僕は丸太を一本抜き取り、切り株の上に置いた。
そして手に持った斧を力いっぱい振り下ろす。
だが――
僕の振り下ろした斧は、丸太に当たりはしたものの、綺麗に真っ二つとはいかず、端っこを少しばかり裂いただけだった。
「……なかなか難しいな」
しかしそのとき、またしてもうるさいあれが鳴った。
ピロリロリン♪ レベルアップしました。
次いでステータス画面が出る。
はいはい、わかりましたよ。レベルアップしたなら次は外さないね。
僕はもう一度斧を振りかぶると、力強く振り下ろした。
乾いた高音があたりに響く。
丸太は見事に真っ二つに割れていた。
だがすぐにあれも鳴る。
ピロリロリン♪
僕はレベルアップのうるさい音に悩まされつつ、二十本ほどの丸太を割って薪を作り、ドラム缶風呂の下に突っ込んだ。
「よし、薪はこれで充分。あとは水か……」
ちょうどよく、近くに水汲み用と思われる木製のバケツが置いてあった。
「よし」
僕はそのバケツを手に取り、小走りで小川に向かった。
といっても、小川までは十メートルくらいだ。すぐに着く。
僕は手に持ったバケツで水をすくった。
バケツの中には水がなみなみと入っている。
それをできるだけこぼさないように運び、ドラム缶風呂の中に流し込んだ。
「あと十往復……いや、十五往復くらいかな」
僕はそんなことをつぶやきながら、小川との間を行ったり来たりした。
その数、実に二十回。
ようやくドラム缶風呂の中が水で満たされた。
「ふう~、よし、あとは火をつけるだけだ」
僕は火打ち石を、ドラム缶風呂の下に薪とともに入れた木屑の上で叩き合わせた。
カチッカチッという音とともに、派手に火花が散る。
すると、竈のときと同様にすぐさま火がついた。
僕はすかさず息を吹きかけ、火を大きくする。
フーッフーッ。何度も何度も息を吹きかける。
火は薪に移り、大きく燃え上がった。
「よし、これで準備完了。あとはお湯が沸くのを待つだけだ」
僕はしばらくの間、ワクワクしながらお湯が沸くのをじっと待った。
だが、タオルや着替えがないことに気づいた。
「小屋の中にないかな? 探してみよう」
というわけで、小屋の中に入って物色してみる。
ぱっと見はほとんどものがなかったが、ベッドの下が引き出しになっていた。
「あったらいいのだけど……」
ゆっくり引き出しを開けると――運のいいことに、綺麗なタオルがしまわれていた。
しかも、服も二着見つけた。ただし――
僕は服を二着とも取り出し、目の前で広げてみた。
「これは……西部劇? それとも中世のヨーロッパとか?」
服は、現代のものとは到底思えない、古めかしいデザインのものであった。
いや、古めかしいというか、びっくりするほどシンプルというか……とにかく現代日本ではまず見かけない服であった。
「う~ん、どちらも普通の服じゃない……」
困ったものの、僕はよりましなほうを選び、もう一着は再び引き出しの中にしまった。
「でもまあ、ないよりはましだよね」
僕は期待に胸を膨らませ、タオルとその変な服を持ち、裏手へ戻る。
そして、ドラム缶風呂に指を軽く入れてみる。
「お、いい感じ」
僕はいよいよ風呂に入ることにした。
ちょうど都合がいいことに、小屋の軒にロープが張られていたので、僕はそこに着替えの服とタオルをかけた。
それから、着ている服もロープにかける。
そして、ドラム缶風呂に入るため、薪を入れたところとは反対側に設置された石の階段に足をかけ、もう一度手でお湯の温度を確かめてから、ゆっくり片足を入れた。
「う~ん、いいね」
僕はさらにもう一方の足をお湯の中に入れると、少しずつ腰を落とし、身体全体をお湯の中に沈めた。
「ふ~、最高~」
さらさらと流れる小川の音を聞きながら、僕は空を見上げた。
雲が風に吹かれてゆっくりと流れていく。
あ~なんて気持ちがいいんだ。幸せだ~。
僕は天然の素晴らしいロケーションの中であたたかなお湯に浸かり、しばしゆったりとした時間を過ごした。
「ふ~、いいお湯だった」
僕は風呂から上がると小屋に戻った。
お腹が満たされ、汗も流したところで急に眠たくなったのだ。
ベッドに身体を預け、仰向けになって考える。
「とりあえず当分ここで生活してみよう。ここがゲームの世界なのか、異世界なのかはわからないけど、生きられるならどこだっていいや」
そうして僕はこの粗末な小屋で、しばらくの間何をするでもないぐうたらな生活をすることに決めると、安閑とした眠りについた。
☆
あれからどれくらい経ったのか……
一か月は経ったと思う。日数を数えていないから正確にはわからないが、たぶんそれくらいだろう。
それにしても、ここには何もない。
高い山に囲まれた窪地であるため、行動できる範囲は広くない。
初めの頃に山を登ってみようと思ったものの、窪地の周囲はどこも崖だったので危険に感じ、実行に移すことはなかった。
一応何をやってもレベルアップするから、挑戦し続ければいずれ登れるのだろうが、今はこの閉じられた範囲を探索したかった。
そういえば、レベルアップの通知音とステータス画面はもう出てきていない。
あの音と画面に辟易していたため、どうにかして止める方法はないものかと探してみたら……結果、それはあった。
ガラス板に似たステータス画面は、タッチパネルのように触れることができ、本のようにめくって違うページを見られることがわかった。
そこで、何ぺージもめくってみる。
すると、最後のページに色々な通知のオンオフボタンがあった。
僕は迷わず全部オフにした。
それによってようやく、あのやかましいピロリロリン♪ という音が聞こえなくなり、ステータス画面がところ構わず出てくることもなくなった。
それ以降、僕は至極快適にのどかなスローライフを送った。
野山を駆け回って山菜やきのこを採って食べたり、川で気ままに寝転がりながら釣り糸を垂れたり、ただただ怠惰な時を過ごした。
他にも洞窟を探検して色々な獣と戦ったり、煌びやかに光る岩を削って首飾りを作ったりもしている。
そうそう、洞窟の近くには五、六人が生活できそうな大きめの家があった。
たぶん、誰かがここで僕と同じように採掘をしていたんだと思う。
僕は大きな家の中で、たくさんの服を見つけた。
だがおかしなことに、ここにある服も最初の小屋で見つけたものと同じく、皆変なのだ。
現代のシャツとかトレーナーとかセーターとかいったものとはデザインが異なり、やはりどうにも古臭い。
これは一体どういうことなのだろうか? 二つの小屋にある服が、どれもこれも古臭いというのは。
でもまあ、服が大量に見つかったのはありがたかった。
小屋の中で洗濯板やせっけんを見つけ、洗濯ができるようになったのだが、着替えが二着だけでは心もとなかったから。
ちなみに、二つの建物ともこの一か月、誰も戻ってくることはなかった。
やはり、どちらももう使用されていないのだろうか。
だがまあ、それ以外はこれといって特に問題はなかった。
そんなこんなで最近では僕も強くなり、自分の背丈より大きい獣も簡単に倒せるようになった。
おそらく色んなスキルやステータスが相当レベルアップしていることだろう。
あのステータス画面は、あれ以来見ていないが。
獣は皆、焼くととても美味かった。
なのでこの頃は獣が出ると、条件反射でつばが溢れ出てくるほどだ。
だが、こんな優雅な生活は突然終わりを迎えた――
山の向こうから、人の声が聞こえた。
しかもそれは、うら若き女性の、助けを求める悲鳴であった。
風雲急を告げるその声は、これまでの退屈ながらも優雅な日々を破壊する運命の鐘のようにも聞こえ、身体は震えた。
僕は意を決して駆け出した。
「助けに行かなきゃ!」
走りながら手に持った斧を背中に回し、ベルトに挟む。
こうすれば両手が空くから、上手くいけば崖に登れるはずだ。
前に登ろうとしたときはあまりにも急角度で登れなかったけど、今ならレベルアップしているから行けるかもしれない。
叫び声がした方向の崖にたどり着いた僕は、岩肌に手をかけた。
そしてその岩肌をぎゅっと力強く掴むと、足を踏ん張って身体を上へと持ち上げる。
次に、片方の手を岩から離してさらに上にある岩を掴むと同時に、片足も上へ上げて、足場を探して踏みしめた。
それを繰り返して、どんどん身体を上へ押し上げていく。
「よし、いいぞ。登れる。だんだん楽になってきているから、やっぱりレベルアップしているぞ」
自然と笑みを浮かべながら、どんどん崖を上っていった。
そうしてついに崖の上へとたどり着く。
「よし! 登りきったぞ」
崖は壁のように僕のいた窪地と外の世界を分けており、外には見渡す限りの森が広がっていた。
次の瞬間、またも女性の悲鳴がした。
僕は声の出どころを確認する。
外の森を見下ろせば、十人ほどの人たちが輪になって、獣たちからの攻撃に耐えていた。
しかも襲っている獣はかなりの大型だ! 全部で六頭!
「デカい!」
眼下の獣は今まで見たことがないくらいの大物ばかりであった。
だが種類自体は、以前から何度も仕留めたことのあるイノシシ型の獣だ。
「あれくらいならやれるはずだ!」
僕は無我夢中で崖を駆け下りた。
そのままの勢いで最も近くにいた獣に向かいつつ、背中の斧を抜き放って頭上高く振りかざした。
「おりゃああああ――――!」
僕は裂帛の気合とともに宙高く飛び上がると、獣の頭部に向かって斧を振り下ろした。
骨ごと肉を叩き割る鈍い音があたりに響く。
続いて獣の頭部から鮮血と一緒に脳漿が勢いよく飛び散った。
獣は咆哮を上げることもできずに、四肢を崩して地面に倒れ込んだ。
「よし!」
僕は獣が死んだことを見届けると、すぐさま次なる獲物に向かう。
次の獣との距離を一気に詰め、その眼前で先ほどと同じように飛び上がった。
力いっぱいに斧を振り下ろし、獣の首を斬り落とす。
すさまじい血しぶきが噴き上がる。
だが僕は返り血に構わず、別の獲物を狙う。
そして、あっという間に六頭全ての獣を打ち倒した。
僕はなんとか獣の群れを倒しきれたことに、ほっと安堵の息を漏らす。
それからふと振り返ると、呆然とした様子の男たちと目が合った。十人ほどの集団で多くは男性だった。奥に女性もいるようだが、男性の陰に隠れていてよく見えない。彼らは皆、白人のようだった。この世界の住民と初めて会ったけれど、僕の知る白人とも雰囲気が違う気がした。
「あ、どうも……」
僕はなんと言ったらいいものかと迷い、ちょっと場違いな挨拶をしてしまった。
そもそも、言葉が通じるかもわからない。
男たちはまだ口をあんぐりと開けている。
やはり、言葉が通じないのだろうか?
「あのう……」
僕が言葉を重ねると、一団の中で最も年長と思われる、白髪交じりの黒髪を短く刈り上げ、口髭をたくわえた精悍な顔つきの男が、ようやく我に返った。
「あ、いや、声をかけられたのにすまない。助けていただき礼を申す」
男は実に丁寧に頭を下げた。
日本語ではないのに、彼の言葉がわかるし、向こうも僕が何を言っているのかわかるようだ。
僕は同じように頭を下げる。
「いえ、大したことじゃないので」
すると、男たちが今度はギョッとした。
「大したことないなんてとんでもない! 君は我々では対処できないほどの超大型のランブルボアの群れを全て倒してしまったんだよ!」
「いえ、そんな……あの獣、あれってランブルボアって言うんですね? それなら、今までに何十頭も倒しているから、ちょっと大型だったけど、いけると思って」
僕は反射的に恐縮してしまった。
「い、今まで何十頭もだって? あの忌まわしく恐ろしいランブルボアを? 本当なのかい?」
ランブルボアって、そんなにヤバめな獣なのか?
「あ、いや、そうですね。この一か月で五十頭くらい……いやもっとかな? あ、でもこんなに大きいのは初めてですよ」
「五、五十頭以上……ランブルボアを……い、いや、でもこの状況を見れば当然か……」
どうやら、ランブルボアはかなりヤバいやつだったらしい。
僕がどう返事をしたものかと思案していると、男たちの後ろから可憐な少女の声が聞こえてきた。
「わたしからもお礼を。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
見たことがないほど見目麗しい少女が、優雅な笑みを浮かべていた。
「あ、い、いえ、本当に大したことではないので、お気になさらず……」
僕が彼女の美しさにドギマギしていたら、少女はかしこまる男たちをかき分け、僕の目の前まで進んできた。
「いいえ、彼らが言う通り、ランブルボアは小型のものでも恐るべき相手です。それなのに、あれほどの大きなランブルボアたちをいともたやすく退けるなんて、心底驚きました」
「いやあ、そんな大げさな……」
ここで先ほどの男が割って入った。
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ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
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最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
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