1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ

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1巻

1-3

「いやいや、大げさではない! 通常ランブルボアはCランクの討伐対象モンスターだ。しかし、あれほどの大型ともなれば、おそらくはBランク相当となるだろう。それを君は一撃のもとに倒したのだ。それも六頭も。つまり君は少なくともBランク相当、いや、もしかしたらAランク相当の実力の持ち主ということになる。これは実に驚くべきことだ。君のような子供でAランク相当だなんて、少なくともわたしはいまだかつて聞いたことがない」

 Aランク……よくわからないが、彼らにとっての強さの指標なのだろう。
 それよりも、僕は彼らの服装の方に目を奪われていた。
 僕が今、着ている服と同じようなデザインだ。
 つまり、この服がスタンダードなのだ。しかも、剣で武装している。そんな国は、今の地球にはない。文化が確実に現在の地球と異なっている。やっぱり、ここは異世界なんだ。
 僕は事故によって命を失い、あろうことか異世界に来てしまったんだ。
 なんという……なんという面白い運命か!
 よし、こうなったら存分に楽しんでやる。
 現世で充分に楽しめなかった分、この異世界でめちゃめちゃ楽しんでやろう!
 そのとき、少女のピアスが陽光に照らされ、キラリと光った。
 僕はまぶしさに目を細めながら、ピアスを見た。
 マシュマロのようにやわらかそうな耳たぶから金色の鎖がまっすぐれ下がり、その先に深紅に光り輝く宝石があった。

「あ、その赤い宝石……」

 僕の言葉に、少女が自らのピアスを指で触る。

「これですか? これはグランルビーです」
「グランルビー……おんなじやつかな?」

 僕は、自らの胸元を開いて、以前作った首飾りを引っ張り出した。
 小屋の中にあった金属片をたたいて薄く延ばして細く切り、枠を作る。そこに、近くの洞窟どうくつで岩から切り出してみがいた石をはめ込んでひもでぶら下げただけの簡単な代物しろものだ。
 ちなみに、最初はかなりぎこちない造りだったが、何度もやり直しているうちにレベルアップしたのか、これはかなり見栄みばえもいいと思う。
 その中央で光り輝く宝石は、少女のピアスとまったく同じ真っ赤な色をしている。ただ、僕の方がはるかに大きくはあった。
 少女と、彼女の周りの男たちは驚きの表情で、食い入るように僕の首飾りに見入っている。

「こ、これは……」

 先ほどから僕と会話している男がつぶやいた。

「なんて大きなグランルビーだ。こんな大きなものなど見たことがない……」

 少女も男に同意した。

「ええ。わたしもこれほどの大きなグランルビーは見たことがありません。ぶしつけな質問ですが、これはどうされたのですか?」

 少女は真剣な眼差まなざしで僕に問いかけてきた。
 僕はそのあまりの真剣さに、少し気後れする。

「えっと……近くに洞窟どうくつがあって、そこで石を採掘して、これを作ったんです」

 すると皆、より驚愕きょうがくの表情を見せた。

「な、なんだって⁉ この先にグランルビーの鉱脈があるというのか⁉」

 どうやらこのグランルビーという宝石は、結構高価なものらしい。
 全員、目の色が変わっている。
 参ったな。でもこの人たち悪い人には見えないし……

「鉱脈というのかわかりませんが、この石が岩にたくさんまっている場所があります……」
「たくさん……ど、どれくらいあるんだ?」
「えっと……壁にいっぱい。この大きさのものなら、ちょっと頑張がんばって掘れば千個くらいはれるかと」

 これを聞いた皆が、目を丸くしている。

「な、な、な、なんと! この大きさのグランルビーが千個だと⁉ それは本当か⁉」
「はい。本当です」

 突然男たちが輪になってひそひそと話し合いを始める。
 そして何やら結論が出たのか、最初に声をかけてきた男が僕に向かって突然言った。

「申し遅れた。わたしはこの一団のおさをしているギャレットと申す。まずは先ほど助けていただいたお礼を改めて申し上げたい」

 名乗られたら名乗り返すのが礼儀だろう。
 ギャレットというのはたぶんファーストネームだと思う。だったら、僕もファーストネームで返すとしよう。
 僕は姿勢を正した。

「僕はカズマと言います。先ほどのことは本当にお気になさらず。困っていたら助けるのは当たり前ですから」

 ギャレットは深々とこうべれた。

「ありがとう。ところで話は変わるが、今言っていた鉱脈に、我々を案内してはくれないだろうか。いや、もちろん発見者は貴殿だ。貴殿が所有権を主張するのは当然だ。だがよければ、我々にもその……」

 ギャレットは言いにくそうに言葉を切る。
 僕は宝石を独占しようとは思っていない。
 それに、この人たちが悪党という感じもしない。
 僕は彼らを信じることにした。

「いいですよ。好きに採掘してください。僕は別にこれ以上いらないので」
「ほ、本当か⁉ それは助かる! 重ね重ね恩に着る!」
「いや別に、そんな恩に着なくてもいいですよ」

 ギャレットはまたも深々と僕に対して一礼する。

「して、鉱脈はどこに?」
「この先です。このがけを越えたすぐそこに洞窟どうくつがあるんです」

 男たちは僕の背後にそびえ立つがけを見て、一歩後ずさりした。

「あ、いや、このがけではなく、どこかに道があるのだろう? それを教えてくれないか?」
「いや、道とかはないですね」
「え? ではどうやってそこへ?」
「ですので、このがけを登って……」

 男たちはがけを見上げて、口をあんぐりと開けた。

「い、いやこのがけは……我らには登れないが」
「ああ、そうか。確かに急角度ですもんね」
「君は登れるのか?」
「そうですね。さっき反対側のがけですけど登れたので、こちらも登れると思います。角度もおんなじくらいだし」
「そ、そうか……他に道はないんだね?」
「はい。この先は周りを完全にがけに囲まれた窪地くぼちなので……。窪地くぼちの真ん中を流れる小川をたどると洞窟どうくつの中に行きつきます。おそらく小川は洞窟どうくつの奥にある結構大きな湖に流れ込んでいるんですけど、その先がどうなっているか、真っ暗でよくわからないんです。もしかしたら、湖の向こうへ行けば別のところに出るのかもしれませんが、他の入口はまだ見つけていません」
「そうか……では、洞窟どうくつのある窪地くぼちに入るには、今のところこのがけを登るしか手はないというわけか」
「そういうことになりますね」

 すると、男たちはまたもやがけを見上げ、複雑な表情をして深いため息をついた。


 結局、彼らは自力ではがけを登れないということで、最も傾斜のゆるそうなところを、僕が一人ずつ背負って登ることになった。
 最初の一人目のときはかなり苦労した。
 途中であわや落としそうになったりしたものの、二人目三人目と回数を重ねるうちに、スキルがレベルアップしたのだろう、だんだん楽に登れるようになっていった。
 三人の女性たちを背負うときは……そのう……色々と登りづらかった。
 でも、なんとか登りきり、最後の十人目のときには、背負ったまま楽々とがけを駆け登れるまでになった。

「……いや、すごい脚力と体力だな……」

 ギャレットが僕の顔を見て、そう言った。
 僕は照れくさくて頭をかいた。

「いやあ、大したことないですよ」
「そんなことはないと思うが……ところで、こちらのがけを下りるのも、我々単独では無理そうなのだが……」
「はい、僕がかついで下りますので安心してください」
「あ、ああ。よろしく頼む」

 僕は特に疲れも感じなかったため、さっさと済ませてしまおうと一人目をかついだ。
 そして、次々とかついではがけを駆け下り、また登るを繰り返し、十人全員を無事窪地くぼちへ運ぶことに成功した。

すごいな……完全に陸の孤島だ」

 ギャレットが周囲を取り囲むがけを見て、感嘆の声を上げた。

「誰も洞窟どうくつを発見できないのも当然だな。そもそも、このがけの周囲の森も恐るべきモンスターが生息する危険地帯だしな」
「そうなんですか?」
「知らないのか? この周囲数十キロは大変な危険地帯で、君が倒したランブルボアのようなCランクモンスターはもちろん、その上のBランクのモンスターもうじゃうじゃと出るようなところなのだ。しかもだ、まれにではあるが、Aランクのモンスターも出るという、普通なら誰も立ち入らぬ恐るべきところなのだぞ」
「……そうなんですか」

 距離の単位が地球と同じに聞こえたが、わかりやすいので、そういうものとして受け入れることにしておこう。

「君はこんな危険なところになぜいるのだ?」

 急に問われて僕は答えに詰まった。

「ええと……そのう……なんでって言われても……」

 だがそこで、彼らこそなぜこのようなところにいるのかという疑問が浮かんだ。

「そうだ。僕のことより、あなた方こそなぜこんなところにいたのですか? この近辺にはランブルボアより強いモンスターが山ほど出るんでしょ? だとしたら、とても危険じゃないですか。僕にはランブルボアは大した相手ではないですけど、あなた方にとってはそうではないですよね? なのに、なぜあなた方はこんな危険なところに来たんですか?」

 僕は逆に彼らに対して質問した。
 するとギャレット以下、皆が答えにきゅうしてうろたえた。

「い、いや……それはその……色々とあってだなあ……そう、迷い込んでしまったのだよ」
「迷い込んだ? 本当ですか? だってさっきあなたは、この周囲数十キロにわたって危険地帯だって言いましたよね? だったらいくらなんでも迷い込みすぎじゃないですか? 数十キロですよ? ちょっと迷い込んだって距離じゃないと思いますけど……」

 僕の追及に、ギャレットが口ごもった。

「い、いや……その、次から次へとモンスターに襲われて、あれよあれよという間に奥へ奥へと追い込まれてしまってだな……」

 明らかに苦しまぎれの言い訳だ。
 おかしい。何かを隠している。
 そこへ先ほどの少女が、他の二人の女性を従えるように、ギャレットたちを押しのけ、僕の前まで進み出てきた。
 ギャレットがあわてて少女に声をかけようとするが、彼女は厳しい視線を送って逆に制した。
 そして少女は僕に向き直ると軽く一礼し、静かに口を開いた。

「わたしたちは今、ある者たちに追われているのです」

 ああ、なるほど。

「そうだったんですか。それで、危険地帯に逃げ込んだと」
「はい。ここならばかなり危険はありますが、敵の目を逃れることができます。この周囲一帯はあまりにも危険すぎてほとんど探索されておりません。ですので地図もないのです。逃げ込むにはうってつけだったのです」
「でも、相当に危険ですよね? 追っ手はそれ以上に危険、ということですか?」

 少女はこくりとうなずいた。

「ええ。敵は恐るべき相手です。この大変な危険地帯とはかりにかけて、それでもなお飛び込む決意をしたほどなのです」
「その恐るべき敵っていうのは……」

 僕の問いに、少女は意を決したような表情を浮かべて言った。

「ベルガン帝国です」


 ベルガン帝国! ……………………って何?
 僕はこの世界のことをほとんど知らない。だから、たぶん驚くべき相手なんだろうと思いつつも、まったく驚けずに軽く首をかしげてしまう。

「ええと……そのベルガン帝国っていうのは……?」

 僕はおそるおそる聞いてみた。
 すると皆、可哀かわいそうなものを見るような目を僕に向ける。

「あの、まさかベルガン帝国をご存じないわけじゃ……」

 どうしよう。正直に、自分はたぶん異世界人なんですとでも告白するか?
 いや、だけどそんなこと言っても誰も信じちゃくれないだろうし、そっちの方がよっぽど変な目で見られるんじゃないか?
 うん。無理。正直になんて絶対無理。
 なのでここは一つ……

「すみません。僕はこのせま窪地くぼちの中しか知らないものですから……」

 うん。これは事実。この世界では、僕はまだこの窪地くぼちしか知らない。だから一応嘘は言っていない。
 彼女たちは僕の言葉を信じたようだ。

「ああ、そうだったんですね。この窪地くぼちの中だけで今まで生活を……それは大変だったでしょう?」

 少女は僕をあわれむような眼差まなざしを見る。

「え、ええ。まあ」

 変人に見られるよりも、可哀かわいそうな子の方がましだ。

「ところで、そのベルガン帝国っていうのは?」

 僕があわてて話を元に戻すと、少女が眉根まゆねを寄せて暗い表情になった。

「……我がアルデバラン王国の仇敵きゅうてき……にくき侵略者です」

 アルデバラン王国……我がってことは、ここはアルデバラン王国の領内で、この人たちはアルデバラン王国の民ってことかな?
 そして、にくき侵略者ってことは……

「ベルガン帝国がアルデバラン王国に攻め込んできたってことですか?」

 僕の問いに、少女が苦しそうにうなずいた。

「それで、あなた方は逃げてきたというわけですか? つまりは避難民なんですね?」
「え、ええ……」

 そうだったのか……それは大変だっただろう。元の世界でも戦争はあった。そして戦火を逃れた避難民たちは皆、大変な苦労をしていたと思う。僕はそれをテレビのニュースでしか見ていないけれど、ひどい話だなと思ったし、なんとか力になれないかって思っていた。

「それは大変でしたね……お気の毒です」
「い、いえ」
「皆さん、ご家族はご無事なんですか?」

 少女が悲しそうに表情をくしゃっと崩した。
 その様子を見て、僕は自分の言葉があまりに不用意だったことに気づいた。
 何を言っているんだ僕は。戦火を逃れてきた避難民なんだから、ご家族が無事なわけないじゃないか。それなのに、なんてことを聞いてしまったんだ。
 後悔先に立たずだ。

「ごめんなさい! 無神経なことを言ってしまって!」

 僕は素直に腰を折って謝罪した。
 すると少女は目に涙をめながらも、決してこぼさず、にこりと笑った。

「いいえ。どうかお気になさらず」

 僕はいたたまれなくなり、ギャレットに助けを求めた。

「あ、あの、あそこに小屋があるんです。で、その先に洞窟どうくつが……」
「おお、その洞窟どうくつというのは、グランルビーが採掘できるという洞窟どうくつのことだね。早速案内してくれるか?」

 ギャレットは僕の話に上手く乗ってくれた。

「はい! どうぞこちらです」

 僕は彼女の顔をまともに見ることができなくなり、くるっと背を向けた。
 そして振り返ることなく、洞窟どうくつに向かってさっさと歩いていく。


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