28 / 138
28 公爵の間の戦い
しおりを挟む
ここアルト州を代々治める為政者は必ず公爵を叙任し、この絢爛豪華な公爵の間を居室としていた。
故に今この居室の主は、メリッサ王国の第二王女にしてアルト公爵たる、リリーサ・アルト・メリッサであった。
だがその公爵の間に、リリーサ以外の者の姿が月光の元に照らし出されている。
その者は全身を黒ずくめに覆っており、目を爛々と輝かせて、リリーサ・アルト・メリッサが眠る天蓋付きのベッドにゆっくりと音を立てずに忍び寄っていた。
見るとその黒ずくめの者は一人ではなかった。
後ろにもう一人連なるように続いている。
いや、その後ろで、さらに別のものが上から音もなくスーッと降りてきた。
さらに続けてもう一人が降りてくる。
どうやらこの者たちは天井からロープを伝って、この公爵の間に侵入してきたのだろう。
その数、十人。
彼らはゆっくりと時間をかけ、決して音を立てずに王女の眠るベッドを取り囲んだ。
そして、一人離れたところにいる黒ずくめの者が大きくうなずくと、リリーサ王女の枕元に陣取っていた者が腰の小刀をギラリと抜き放ったのだった。
王女は天蓋のレースの向こうで、すやすやと寝息を立てていた。
小刀を逆手に持った黒ずくめの者は、衣擦れの音を出さないよう苦心しながらゆっくりとレースをめくる。
月明かりによって王女の顔が見えた。
間違いなく王女本人だ。
男はそう確信し、小刀を勢いよく振り下ろした。
刹那、雷の如き一陣の閃光が煌めいた。
黒ずくめの者たちが、初めて音を出してどよめく。
その時、ベッドの天蓋レースが斬られて落ちた。
だが斬られたのはレースだけではなかった。
逆手に小刀を構え、王女を襲った者も、驚きの表情を浮かべながら血飛沫を上げて床に崩れ落ちたのであった。
「リリーサ王女、気付いていたのか」
先程少し離れたところから合図をしたリーダー格であろう男が呟いた。
その視線の先には、細身の剣を構えてツンとあごを上げ、傲然とベッドの上に立つリリーサ王女の姿があった。
「ふん、よくもこんなところまで入って来られたものね?褒めてやるわ」
リリーサは上から黒ずくめの者らを見下ろし、傲岸不遜に言い放った。
リーダー格の男が腰の小刀を抜き放つ。
それに倣い、他の者たちもギラリと刀身を光らせながら、抜き放った。
そしてリーダー格の男が言う。
「リリーサ・アルト・メリッサ、そのお命、頂戴する!」
その瞬間、リリーサが飛んだ。
先手必勝とばかりに真っ直ぐ前に凄まじい勢いで飛び退った。
次の瞬間、ベッドの上に黒ずくめの者らが殺到した。
だがすでにそこにリリーサの姿はない。
リリーサは一直線に突き進み、リーダー格の男を一気に狙う。
リリーサの凄まじい斬撃が、男を襲った。
だが敵もさる者、リリーサの剣を小刀で見事に受けきった。
「ちっ!やる!」
リリーサが思わず敵を賞賛する。
だが同時に二撃、三撃と次々に繰り出した。
しかし男はこれまた見事に受けきった。
そうこうする内に他の男たちが体制を整え、リリーサの元へ殺到した。
リリーサが真横に素早くステップしてかわす。
次々にかわしていく。
だが如何せん、敵の数が多い。
次々に黒ずくめの者たちが襲いかかってくる。
リリーサが二合、三合と切り結ぶ。
五合、十合、二十合。
するとその時、一本の剣がキラリと刀身を輝かせながら、主の手元を離れて宙を舞った。
リリーサの剣であった。
リリーサはすかさず剣を拾おうとするも、その進路は遮られた。
仕方なくリリーサは壁際に逃げる。
万事休す。
壁を背にするリリーサに対し、黒ずくめの者らがじりじりと近付いていく。
その退路を絶とうと少しずつ、狭めていく。
するとリリーサの目の前、リーダー格の男が不敵に笑った。
「では、お命、頂戴」
その刹那、リリーサが叫んだ。
「撃て!!」
瞬間、公爵の間の大扉が凄まじい爆発音と共に吹き飛んだ。
もうもうと室内に立ちこめる煙。
その煙の中から、可愛らしいフリルのついたメイド服を着込んだ者が現れた。
「何者だ、あのメイド!?」「あのメイドがやったのか!?」「このメイドは魔導師なのか!?」
それまで無言で行動していた者たちが、驚きのあまり思わず次々に声を上げた。
すると一人の男があることに気付いた。
「うん?よく見ればこいつ男か!」
その発言にメイドが何やらドキリとした。
思わず仰け反り、頬を引き攣らせている。
だがそこでメイドは気を取り直し、あごを傲然と上げて言い放った。
「ここからは、俺が相手だ!」
そこにはフリルの付いた可愛らしいカチューシャを頭に付け、レースたっぷりに彩られたメイド服を着込んだ、メイクばっちりのアリオンの姿があったのだった。
故に今この居室の主は、メリッサ王国の第二王女にしてアルト公爵たる、リリーサ・アルト・メリッサであった。
だがその公爵の間に、リリーサ以外の者の姿が月光の元に照らし出されている。
その者は全身を黒ずくめに覆っており、目を爛々と輝かせて、リリーサ・アルト・メリッサが眠る天蓋付きのベッドにゆっくりと音を立てずに忍び寄っていた。
見るとその黒ずくめの者は一人ではなかった。
後ろにもう一人連なるように続いている。
いや、その後ろで、さらに別のものが上から音もなくスーッと降りてきた。
さらに続けてもう一人が降りてくる。
どうやらこの者たちは天井からロープを伝って、この公爵の間に侵入してきたのだろう。
その数、十人。
彼らはゆっくりと時間をかけ、決して音を立てずに王女の眠るベッドを取り囲んだ。
そして、一人離れたところにいる黒ずくめの者が大きくうなずくと、リリーサ王女の枕元に陣取っていた者が腰の小刀をギラリと抜き放ったのだった。
王女は天蓋のレースの向こうで、すやすやと寝息を立てていた。
小刀を逆手に持った黒ずくめの者は、衣擦れの音を出さないよう苦心しながらゆっくりとレースをめくる。
月明かりによって王女の顔が見えた。
間違いなく王女本人だ。
男はそう確信し、小刀を勢いよく振り下ろした。
刹那、雷の如き一陣の閃光が煌めいた。
黒ずくめの者たちが、初めて音を出してどよめく。
その時、ベッドの天蓋レースが斬られて落ちた。
だが斬られたのはレースだけではなかった。
逆手に小刀を構え、王女を襲った者も、驚きの表情を浮かべながら血飛沫を上げて床に崩れ落ちたのであった。
「リリーサ王女、気付いていたのか」
先程少し離れたところから合図をしたリーダー格であろう男が呟いた。
その視線の先には、細身の剣を構えてツンとあごを上げ、傲然とベッドの上に立つリリーサ王女の姿があった。
「ふん、よくもこんなところまで入って来られたものね?褒めてやるわ」
リリーサは上から黒ずくめの者らを見下ろし、傲岸不遜に言い放った。
リーダー格の男が腰の小刀を抜き放つ。
それに倣い、他の者たちもギラリと刀身を光らせながら、抜き放った。
そしてリーダー格の男が言う。
「リリーサ・アルト・メリッサ、そのお命、頂戴する!」
その瞬間、リリーサが飛んだ。
先手必勝とばかりに真っ直ぐ前に凄まじい勢いで飛び退った。
次の瞬間、ベッドの上に黒ずくめの者らが殺到した。
だがすでにそこにリリーサの姿はない。
リリーサは一直線に突き進み、リーダー格の男を一気に狙う。
リリーサの凄まじい斬撃が、男を襲った。
だが敵もさる者、リリーサの剣を小刀で見事に受けきった。
「ちっ!やる!」
リリーサが思わず敵を賞賛する。
だが同時に二撃、三撃と次々に繰り出した。
しかし男はこれまた見事に受けきった。
そうこうする内に他の男たちが体制を整え、リリーサの元へ殺到した。
リリーサが真横に素早くステップしてかわす。
次々にかわしていく。
だが如何せん、敵の数が多い。
次々に黒ずくめの者たちが襲いかかってくる。
リリーサが二合、三合と切り結ぶ。
五合、十合、二十合。
するとその時、一本の剣がキラリと刀身を輝かせながら、主の手元を離れて宙を舞った。
リリーサの剣であった。
リリーサはすかさず剣を拾おうとするも、その進路は遮られた。
仕方なくリリーサは壁際に逃げる。
万事休す。
壁を背にするリリーサに対し、黒ずくめの者らがじりじりと近付いていく。
その退路を絶とうと少しずつ、狭めていく。
するとリリーサの目の前、リーダー格の男が不敵に笑った。
「では、お命、頂戴」
その刹那、リリーサが叫んだ。
「撃て!!」
瞬間、公爵の間の大扉が凄まじい爆発音と共に吹き飛んだ。
もうもうと室内に立ちこめる煙。
その煙の中から、可愛らしいフリルのついたメイド服を着込んだ者が現れた。
「何者だ、あのメイド!?」「あのメイドがやったのか!?」「このメイドは魔導師なのか!?」
それまで無言で行動していた者たちが、驚きのあまり思わず次々に声を上げた。
すると一人の男があることに気付いた。
「うん?よく見ればこいつ男か!」
その発言にメイドが何やらドキリとした。
思わず仰け反り、頬を引き攣らせている。
だがそこでメイドは気を取り直し、あごを傲然と上げて言い放った。
「ここからは、俺が相手だ!」
そこにはフリルの付いた可愛らしいカチューシャを頭に付け、レースたっぷりに彩られたメイド服を着込んだ、メイクばっちりのアリオンの姿があったのだった。
12
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる