【第一部完結】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

マツヤマユタカ

文字の大きさ
29 / 138

29 次の間にて

しおりを挟む
「リリーサに一番近い所っていえば確かにそうかもしれないけど、なんなんだよこの格好は……」

 俺は心ならずも可愛らしいメイド服を着て、フリルのついたカチューシャを頭に乗せてぼやいた。

 すると目の前のでっぷりと肥え太った中年の巨漢女性が俺を叱りつけた。

「ほら!動くんじゃないよ!化粧が乱れちまうだろう!」

 彼女の名はマデラ。リリーサ王女付きのメイドたちを束ねるメイド長である。

 ここはそのメイド長マデラの起居する部屋であった。

 俺はうんざりした表情を浮かべつつも、これ以上マデラに叱られないよう、大人しく顔を塗りたくられるのであった。

 するとその様子を眺めていたネルヴァとレイナがクスクスと笑う。

 俺はかなりイラッとしながら、文句を言った。

「何も俺がこんな格好をしなくても、リリーサ王女に狙われていることを伝えればいいじゃないか」

 するとネルヴァが当然のように答えた。

「ええ。もちろん王女様にはお伝えいたしますが、その他の者には内密にします」

 俺は眉尻をピンと跳ね上げ、不審げに問い掛けた。

「それは何で?」

「誰が王女様の暗殺に関わっているか判らないからです。ですのでここは信用のおける者たち、最小限の人数で備える必要があります」

「つまり、ここにいる四人と王女様だけってこと?」

「そうです。こちらのメイド長のマデラさんは、王女様が生まれた時から仕えていらっしゃる乳母のような存在の方です。なので問題なく信頼が置けますが、その他の者たちはどうかわかりません。ですので貴方は彼女と共に、王女様のいる公爵の間に続く次の間に控えていてください。そこが一番王女様に近いところですのでね。頼みますよ、アリオン」

 すると巨漢のマデラが力強く言った。

「わたしと一緒なら次の間まで難なく怪しまれずに行けるからね。それは任せな!そのかわり、何が何でも王女様を守っておくれよ!」

 マデラが俺の胸をドンと握り拳で叩いた。

 俺は驚き、そのあまりの衝撃にむせた。

 するとマデラがいぶかしげに眉を寄せてネルヴァを見た。

「本当に大丈夫なのかい?ずいぶんと弱そうだよ?」

 俺はむせかえり、激しく咳き込みながら、この状況に腹を立てまくるのであった。



「……静かだ……」

 深夜となり、皆ひっそりと寝静まっていた。

 俺は予定通り王女様のいる公爵の間に繋がる次の間に、マデラと共に控えていた。

 目は爛々と輝き……というかギンギンに冴えていた。

 というのもあの後、この夜の襲撃に備えて爆睡したのだ。

 故に睡魔が襲ってくることはない。

 だがその代わりにと言っては何だが、退屈が襲って来ていた。

「……何もない……」

 すると目の前のマデラが、俺をギロッと無言で睨みつけた。

 これは油断していないで、いつ何時何があってもすぐに対処できるように警戒していろという圧力であろう。

 俺は先刻のグーパンチを思い出し、思わず首をすくめた。

 すると突然、公爵の間の扉が音もなく静かに開いた。

 俺が何事かと思って首を巡らせると、扉の隙間からヒョコッと可愛らしくリリーサが顔を覗かせた。

 俺はそのあまりに可愛らしい仕草に心躍らせ、どぎまぎした。

 結果、俺は少々口ごもって問い掛けてしまったのであった。

「お、王女様、何かございましたか?」

 するとリリーサがさらに可愛らしく肩をすぼめた。

「ううん。別に。ただ、アリオンのメイド姿が面白いから、もう一度見ようと思っただけよ」

 俺はピクピクと頬を引き攣らせた。

 対面するマデラが吹き出しそうになるのを必死にこらえている。

 いや、俺にこんな服を着せ、ろくでもないメイクを施したのは貴女でしょうが。

 俺は心の中で思う存分突っ込みを入れると、気を取り直して言ったのだった。

「王女様、わたしだってこんな格好、好き好んでしているわけじゃないんですがね」

 俺は至極冷静に心穏やかに言ったつもりだった。

 だがその声は、俺が思っているよりも震えていたのだった。

 するとリリーサまでもが、吹き出しそうになるのを必死にこらえている。

 俺はもう、腹が立つやら情けないやらで、心が散り散りに引き裂かれそうになるのをぐっとこらえた。

 そして、もう一度気持を落ち着けて、静かに言ったのだった。

「王女様、これは遊びではありませんよ」

 するとこれ以上はまずいと思ったのか、リリーサが慌てて引いた。

「そうね。そうだったわね」

 だがその声の色はとても明るく弾んでおり、とてもではないが危機感などはまったく感じ取れなかった。

 そのため、これはまずいと俺は思い、コホンと一つ咳払いをしたのだった。

「王女様、御身に危険が迫っているのです。決して油断なさらないでください」

 するとようやく落ち着いた低い声でリリーサが答えた。

「そうね。わかったわ。じゃあね」

 そう言ってリリーサは扉を閉めた。

 俺は対面するマデラと視線を合わせ、互いに肩をすぼめたのであった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...