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40 爵位

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「ちなみにメイデン王子は、現在山ほどの借金を抱えて、大層困っておられる様子」

 ネルヴァが嘲るように言った。

 よっぽど嫌いなんだな。

 ざまあって感じが、言葉の端々に出ているよ。

「そうなると、いよいよメイデン王子犯人説濃厚だね?」

「そうなります。アルト公に返り咲けば……ああ、これは彼が勝手にそう思っているだけのことですが……そうなればアルト州の財政をある程度は自由に出来ますからね」

「さっき言っていたね?政治的にも軍事的にも自由度が高いって」

「そうです。なのでご自身の借金返済のために流用することも、可能だと思われたのでしょう」

 なんて奴だ。そんなことのために妹を暗殺しようとするかね、普通。

 だがネルヴァが言ったとおり、決めつけは止めた方がいいな。

 そうでない場合、危険だからな。

「それじゃあ、今度は他の候補者について教えてくれるかな?」

 ネルヴァがゆっくりと静かにうなずいた。

「わかりました。ですがその前に補足をしておきます」

「補足?」

「ええ。現在王家自治領は五つあると言いましたね?その統治者たちですが、まずは貴方もよくご存じのお方、リリーサ第二王女です。そして第二、第四王子の方々。さらに王弟であらせられるケッセル公とアーベル公のお二人。以上の五名の方々が現在の王家自治領主でいらっしゃいます」

「その五人は、リリーサはもちろん、現在すでに公爵として自治領を治めている以上、犯人ではないということだね?」

「そうなります」

「でもちょっといい?第一王子と第一王女が含まれていなかったと思うんだけど……」

 ネルヴァが笑みを浮かべてうなずいた。

「第一王子は最上位王位継承者として皇太子に任ぜられ、王宮におられます。また第一王女はすでに他国へと嫁いでおられます故、お二人は除外して構わないかと」

「なるほどね。そういうことか。で、第三王子がメイデンで……じゃあ第五王子は?」

 するとネルヴァが柔和な笑みを見せた。

 レイナも同様に朗らかに笑っている。

 うん?何だろう、平和な感じだ。

「第五王子は問題ありません」

「問題ないと言うと?」

「第五王子のファルカン様はいまだ十歳なのです。ちなみに第三王女のマール様もいまだ十一歳の若年となりますので、この場合考慮せずともよいでしょう」

「なるほどね、そういうことか。わかったよ。となると後は、他に王弟がいるのかどうかだけど」

 すると途端にネルヴァの顔が引き締まった。

 そのため俺の心構えも一気に引き締まった。

「います。それも三人もおられるのです」

「三人か。微妙な数だな。でもその三人の内の誰かが、黒幕の本命ってことになるのかな?」

 ネルヴァは引き締まった表情で、ゆっくりと大きくうなずいた。

 俺は、大きく一回息を吐き出した。

 そして、意を決して尋ねた。

「ネルヴァは誰が本命だと?」

 するとネルヴァが、今度は横にゆっくりと大きく首を振った。

「わかりません。これがわからないのです」

「決め手に欠けるって奴だね?」

「そうです。皆、何かしら不足しているのですよ」

「不足か。どう不足しているのか、詳しく教えてくれるかな?」

「わかりました」

 ネルヴァはそう言うと、一度ゆっくりと深呼吸した。

 そして息を整えると、静かに語り出した。

 俺はその様子から、本当に迷っているんだなと感じ取った。

「まずお一人目の王弟ぜルバ侯爵ですが、先年鷹狩りのさなかに落馬され、両脚を骨折。それ以来車いすの生活を余儀なくされています」

「車いすか。たいへんそうだけど、別に車いすでも領主は出来るんじゃ?」

「そうですね。別段内政も軍事も、車いすで出来ないことはありません。ですが、ぜルバ候はそれ以来伏せってしまい、引きこもられてしまっているのです」

 なるほど。歩けなくなって気分が沈んでしまったってことか。しかし……。

「でもさあ、それが果たして本当かどうかはわからないんじゃないかな?事故自体は事実だろうけど、でもそこで何故か野心が芽生えて、自治領主の座を狙おうとしたのかも知れないし」

「ええ、その可能性はあります。ですので候補者の中には入れています」

「そうか。そうだよね。じゃあ次の人は?」

「ゼルバ候のすぐ下の王弟になられますジトー侯爵です」

「ジトー侯爵ね。同じ爵位なんだね?」

「そうです。王弟は皆侯爵となられます。無論自治領主となられた方々は最上位の公爵に任ぜられますが」

「了解。公爵の方が侯爵よりも上なんだね?」

「そうです。ついでに言っておきますと、上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順となられます」

 げ。

 覚えるの面倒くさっ!

「う~ん。紛らわしくて大変だな」

 俺はそう言って眉根をピンと跳ね上げると、結構な困り顔となるのであった。
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