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41 候補者出揃う

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「それで、二人目のジトー侯爵だっけ?この人はどうなの?」

 俺の問いに、ネルヴァが少々困り顔となって言った。

「このお方は、遊興三昧であられる」

「遊興三昧ね。遊び人ってこと?」

「そうですね。ですが特段悪い噂もありません。普段は詩人をしていらっしゃいます」

「詩人ね。どうせ自称でしょ?生産性は限りなくゼロに近いんじゃ?」

 するとネルヴァが即座に俺の予想を否定した。

「いえいえ、そんなことありませんよ。ちゃんと詩人として詩集を出版しておられますし、結構売れていらっしゃるんですよ」

「え?そうなの?俺が知らないだけ?」

「そうですね。ですが庶民はあまり詩に触れる機会がありませんので、致し方ないかと。ただ上流階級においては世界的に見てもかなり名の売れた方だと思います」

「あ、そうなの。それはそれは、続けてください」

 俺は少々卑屈な物言いで先をうながした。

 するとネルヴァが軽く苦笑した。

「わかりました。では続けますが、ジトー候はお若い頃からとにかくお酒を召し上がりになられるのが大層お好きな方でして、日が落ちた瞬間から夜が明けるまで、バーからバーへと毎晩ハシゴをしていらっしゃいます」

「そりゃまた大層なお酒好きだね。女性はどうなの?」

「大変にお好きです。常に十人以上の恋人がいらっしゃると言われています」

「うらやましいやら、大変そうやら」

「ええ。わたしなどは願い下げですが、候はお好きなようです」

「酒、女ときたら、後は博打だけど……」

「これまたお好きです。候が立ち寄られるような高級バーには、大抵カードやルーレットなどが併設されていますので、そちらで毎晩楽しんでいらっしゃるようです」

「つまり、飲む、打つ、買うの三拍子が揃っているわけだ」

「最後の買うは違うようですがね。候はかなりの美男子で大変女性におもてになられますので、わざわざ買ったりはしておられないようです」

「ふ~ん。ということは、確かに遊び人だけど、悪い人ではなさそうな」

「ええ。ですので悪い噂も特にありませんし、候は若い頃から政治に興味を示したことはありませんから」

「候補者から外れる?」

「いえ、ただ一つ気になることがあります」

「何?もったいぶらずに教えてよ」

 俺が口をすぼめて言うと、ネルヴァがまたも苦笑いした。

「もったいぶったわけではないんですがね。まあいいでしょう。ジトー侯爵もどうやらかなり借金が嵩んでいらっしゃるようなんです」

「ジトー侯爵も借金苦か。それってやっぱり博打で?」

「そうですね。それに女性にふんだんに貴金属などを買い与えていらっしゃるようでして」

「まあ確かに今聞いた話でも、そうとう生活費高そうだからなあ。いくら詩人としてそれなりに売れてるといっても、庶民にまで売れているわけじゃなし、そんなに収入はないでしょ。その上でそんな派手な生活をしていたら、そりゃいずれ破綻するよね」

「ええ。どうやらそのようですね。それもお若い頃からですから、徐々に財産を食いつぶし、というところでしょうか」

「財産は元々はあったんだ?」

「それはもちろん王弟であらせられますので、先王が亡くなり独立をされた際に、かなりの財産を分け与えられました」

「なるほどね。それを食いつぶしちゃったってわけか。でもそれだとちょっと動機が薄いかな」

「ええ。ですが薄いとはいえ、一応あるとはいえますので、候補者の中に入れてあります」

「わかった。じゃあ最後の三人目だけど」

「キーファー候です」

「キーファー候ね。どんな人なの?」

「王の末弟にあたられます。ちなみにケッセル公、アーベル公、ゼルバ候、ジトー候、キーファー候の順です」

「ああ、五兄弟。いや、王様を入れて六兄弟の順番ね」

「その通りです。キーファー候は生来病弱なお方でして、今現在もほとんど外を出歩いたりはされておられない様子」

「寝たきりってこと?」

「いえ、そこまでではありません。ご自身のお庭を散歩するくらいはされておられるようですが、外には出られていないようです」

「ずいぶんと厳しいね。そんな感じの人がアルト公を狙っているとは思えないけど」

「ええ。最近病弱になられたということなら、仮病を疑うところですが、幼い頃からですからね」

「う~ん、だけど候補からは外さないんだ?」

「ええ。一つだけ気になることがあります」

「また借金?」

 すかさず言う俺に、ネルヴァが苦笑した。

「いえいえ、キーファー候ご自身ではありません」

「何だろう?本人ではないということは……奥さんとか?」

 ネルヴァがニヤリと笑った。

「ご名答。候には夫人がおられまして、メラルダ夫人と仰るのですが、そのお方がかなり野心的な方でして。ですので、もしかしたらそのお方が、と思わないでもないところでして」

「何か、かなり歯切れが悪いね?」

「ええ。裏は何も取れていませんので。野心的と言いましたのも、あくまで世間の評判をそのまま言っているに過ぎません。ですのでなんとも」

 ネルヴァが苦しそうに顔を歪めた。

 俺はその様子を見ながら腕を組んで考え込んだ。

 そして一応の結論を出すと、顔を上げて言ったのだった。

「まあ結局、誰が黒幕か皆目見当もつかないってところだね」

「ええ。最初に言ったとおりです。皆、黒幕とするには決め手に欠けるのです」

 するとその時、突然公爵の間に繋がる扉が勢いよく開け放たれた。

 そして部屋の中で仁王立ちするリリーサが、腰に手を当て胸をそびやかしつつ大音声で言ったのだった。

「いいわ!とりあえず王宮に乗り込むわよ!」
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