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42 剣幕
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え!?
俺は驚き、呆気にとられた。
それというのも公爵の間と、この次の間とを隔てる扉はとても分厚いものであったからだ。
だからリリーサが俺たちの会話を聞き取れるはずはないんだが。
「全部聞かせてもらったわ!今すぐ王宮へ出陣よ!」
リリーサが真っ赤な顔をして息巻いている。
「い、いやリリーサ、何で俺たちの会話を」
するとリリーサが勢いよく扉の一部分を、ビッと指で指し示した。
「そこの呼び出し穴を開けて、耳をそばだてていたに決まっているじゃない」
呼び出し穴ね。マデラたちが中のリリーサを呼び出すときに開く穴だ。
でもマデラたちに合わせてだから、穴は結構高い位置にある。
よく見ると、リリーサの横に椅子が置かれている。
ああ。あの椅子の上に立って、扉に耳をそばだてていたのか。
しまったな。振り返るとネルヴァとレイナも手で顔を覆っている。
「いや、あのリリーサ、いきなり王宮に行くっていうのはどうかな?」
するとリリーサがすかさず俺の方を向いて、ギロッと睨みつけてきた。
「何ですって?じゃあ貴方は、わたしがここで殺られるのをじっと待てとでも言うつもりなの?」
「いやいやいやいや、そんなこと一言も言っていないよ!」
「じゃあ何なのよ!」
「いやだから、いきなり王宮に行くのはどうかって言っているだけだよ。ねえ?」
俺はそう言って振り返り、ネルヴァたちに助けを求めた。
するとすかさずネルヴァが、俺とリリーサの間に割って入ってくれた。
「アリオンの言うとおりです。今すぐに行っても意味はありません。ここは慎重に……」
だがネルヴァの言葉を遮ってリリーサが吠えた。
「そんな悠長なこと言ってられないわ!」
さしものネルヴァも、リリーサ王女の剣幕に両手を挙げて撤退した。
レイナは最初から参戦する気がなさそうだ。
どうしてこの二人は、こうもリリーサに弱いのか。
仕方ない。ならばここは俺が。
「リリーサ、それはわがままというものだよ」
すると案の定リリーサが、俺を凄まじい眼力でもって睨めつけた。
「な・ん・で・すって~!?」
目が血走っている。
ビキビキと血管が浮き上がっている。
何処にって、首筋とかこめかみとか、あと頬もビクビクと痙攣してるし。
恐すぎる。
「もういっぺん言ってみなさいよ!」
ここは俺も撤退だ。
ただし緩やかにだ。
出来るだけ穏やかな所に着地したい。
「わかったよ。ただまさかメイデン王子のところに突撃するとか言わないよね?」
するとリリーサは、クビをぐるんと半回転させた。
いやもう動きも恐いって。
「するわよ!するに決まってんじゃない!」
「いやいやいやいや、それはさすがにまずいって。王宮に行くのはもうこの際仕方がないとしよう。でもさ、いきなりメイデン王子のところはまずいよ」
「何がまずいのよ!あの馬鹿兄貴、ギッタギッタにしてやるわ!」
「いや、それだと敵の思うつぼでしょ?さすがに様子を見ようよ」
「必要ないわ!こっちには剣聖と剣豪、大賢者と大魔導師がいるのよ!」
はい、出た。
自分を剣豪とか言っちゃう奴。
いやまあ確かに強いけども。
「いやあ、さすがに危ないって。罠を張っている可能性もあるし。それにさっきの話を聞いていたんならわかるでしょ?この事件には黒幕がいるってさ」
「だからなんなのよ?」
「油断していると、横から不意を突かれてやられちゃうかもってことさ」
「だったら油断しなければいいじゃない!」
「いやそうだよ。そうだけど、頭に血が上っている状態じゃ危ないって」
「誰が頭に血が上っているのよ!」
「リリーサだよ。他にいないでしょ」
俺ははっきりと言った。
言ってやった。
どんな反撃が襲いかかってくるかはわからない。
だがここは言ってやらなければならないと思った。
だから覚悟を決めて言った。
言ったのだが。
反撃は行われなかった。
「そうね。わかったわ。確かにわたしも少し興奮していたようね」
へ?
認めた。
驚きだ。
俺は慌てて後ろを振り返った。
見るとネルヴァたちが何やらニヤニヤしている。
俺は眉尻をピンと跳ね上げ、二人の態度を苦々しく思った。
「でもそれだったらどうしようって言うの?言ってみなさいよ」
俺は慌ててリリーサに向き直り、頭の中に浮かんでいる考えを言った。
「とりあえず王宮の何処かに隠れる所はないかな?そこで作戦を練るってことで」
「それって、正体を隠して王宮に潜入するってこと?そんなの無理よ。警備が厳重だもの。この宮殿とは訳が違うわ」
「正体を隠すのはリリーサだけでいい。ネルヴァとレイナはそのままで、俺たちは二人の従者ってことでなら潜入出来るんじゃないかな?」
「まあそれなら。さすがにネルヴァたちは、王宮であろうとも顔パスみたいなものだしね」
「そうだろう?それで王宮の中に入ったら、信用出来る者のところに身を隠すんだ。誰か心当たりはいないかな?」
するとリリーサが大きくうなずいた。
「いるわ。幼い弟のファルカンや妹のマールのところなら安心よ」
「なら決まりだ。それでいいよね?」
俺は念を押すように言った。
するとリリーサは、満面の笑みを浮かべて意気揚々と言ったのだった。
「いいわ!それで行きましょう!」
俺は驚き、呆気にとられた。
それというのも公爵の間と、この次の間とを隔てる扉はとても分厚いものであったからだ。
だからリリーサが俺たちの会話を聞き取れるはずはないんだが。
「全部聞かせてもらったわ!今すぐ王宮へ出陣よ!」
リリーサが真っ赤な顔をして息巻いている。
「い、いやリリーサ、何で俺たちの会話を」
するとリリーサが勢いよく扉の一部分を、ビッと指で指し示した。
「そこの呼び出し穴を開けて、耳をそばだてていたに決まっているじゃない」
呼び出し穴ね。マデラたちが中のリリーサを呼び出すときに開く穴だ。
でもマデラたちに合わせてだから、穴は結構高い位置にある。
よく見ると、リリーサの横に椅子が置かれている。
ああ。あの椅子の上に立って、扉に耳をそばだてていたのか。
しまったな。振り返るとネルヴァとレイナも手で顔を覆っている。
「いや、あのリリーサ、いきなり王宮に行くっていうのはどうかな?」
するとリリーサがすかさず俺の方を向いて、ギロッと睨みつけてきた。
「何ですって?じゃあ貴方は、わたしがここで殺られるのをじっと待てとでも言うつもりなの?」
「いやいやいやいや、そんなこと一言も言っていないよ!」
「じゃあ何なのよ!」
「いやだから、いきなり王宮に行くのはどうかって言っているだけだよ。ねえ?」
俺はそう言って振り返り、ネルヴァたちに助けを求めた。
するとすかさずネルヴァが、俺とリリーサの間に割って入ってくれた。
「アリオンの言うとおりです。今すぐに行っても意味はありません。ここは慎重に……」
だがネルヴァの言葉を遮ってリリーサが吠えた。
「そんな悠長なこと言ってられないわ!」
さしものネルヴァも、リリーサ王女の剣幕に両手を挙げて撤退した。
レイナは最初から参戦する気がなさそうだ。
どうしてこの二人は、こうもリリーサに弱いのか。
仕方ない。ならばここは俺が。
「リリーサ、それはわがままというものだよ」
すると案の定リリーサが、俺を凄まじい眼力でもって睨めつけた。
「な・ん・で・すって~!?」
目が血走っている。
ビキビキと血管が浮き上がっている。
何処にって、首筋とかこめかみとか、あと頬もビクビクと痙攣してるし。
恐すぎる。
「もういっぺん言ってみなさいよ!」
ここは俺も撤退だ。
ただし緩やかにだ。
出来るだけ穏やかな所に着地したい。
「わかったよ。ただまさかメイデン王子のところに突撃するとか言わないよね?」
するとリリーサは、クビをぐるんと半回転させた。
いやもう動きも恐いって。
「するわよ!するに決まってんじゃない!」
「いやいやいやいや、それはさすがにまずいって。王宮に行くのはもうこの際仕方がないとしよう。でもさ、いきなりメイデン王子のところはまずいよ」
「何がまずいのよ!あの馬鹿兄貴、ギッタギッタにしてやるわ!」
「いや、それだと敵の思うつぼでしょ?さすがに様子を見ようよ」
「必要ないわ!こっちには剣聖と剣豪、大賢者と大魔導師がいるのよ!」
はい、出た。
自分を剣豪とか言っちゃう奴。
いやまあ確かに強いけども。
「いやあ、さすがに危ないって。罠を張っている可能性もあるし。それにさっきの話を聞いていたんならわかるでしょ?この事件には黒幕がいるってさ」
「だからなんなのよ?」
「油断していると、横から不意を突かれてやられちゃうかもってことさ」
「だったら油断しなければいいじゃない!」
「いやそうだよ。そうだけど、頭に血が上っている状態じゃ危ないって」
「誰が頭に血が上っているのよ!」
「リリーサだよ。他にいないでしょ」
俺ははっきりと言った。
言ってやった。
どんな反撃が襲いかかってくるかはわからない。
だがここは言ってやらなければならないと思った。
だから覚悟を決めて言った。
言ったのだが。
反撃は行われなかった。
「そうね。わかったわ。確かにわたしも少し興奮していたようね」
へ?
認めた。
驚きだ。
俺は慌てて後ろを振り返った。
見るとネルヴァたちが何やらニヤニヤしている。
俺は眉尻をピンと跳ね上げ、二人の態度を苦々しく思った。
「でもそれだったらどうしようって言うの?言ってみなさいよ」
俺は慌ててリリーサに向き直り、頭の中に浮かんでいる考えを言った。
「とりあえず王宮の何処かに隠れる所はないかな?そこで作戦を練るってことで」
「それって、正体を隠して王宮に潜入するってこと?そんなの無理よ。警備が厳重だもの。この宮殿とは訳が違うわ」
「正体を隠すのはリリーサだけでいい。ネルヴァとレイナはそのままで、俺たちは二人の従者ってことでなら潜入出来るんじゃないかな?」
「まあそれなら。さすがにネルヴァたちは、王宮であろうとも顔パスみたいなものだしね」
「そうだろう?それで王宮の中に入ったら、信用出来る者のところに身を隠すんだ。誰か心当たりはいないかな?」
するとリリーサが大きくうなずいた。
「いるわ。幼い弟のファルカンや妹のマールのところなら安心よ」
「なら決まりだ。それでいいよね?」
俺は念を押すように言った。
するとリリーサは、満面の笑みを浮かべて意気揚々と言ったのだった。
「いいわ!それで行きましょう!」
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