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52 殺気
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「黙っていてはわからないよ。さあ、まずは君の正体から白状してもらおうか」
ジトー侯爵は変わらず笑みを見せず、真剣な眼差しでもって俺を見ている。
だが俺も正体を晒すわけにはいかない。
「俺の正体って言われても、普通の何処にでもいる少年だけど?」
俺はあくまでしらを切り通すつもりで言った。
するとジトーはゆっくりと顎を引き、下から睨めつけるように俺を睨んだ。
そして軽く眉尻を上げると、言ったのだった。
「ほう、普通の少年と来たか。だがそれは有り得ないだろう」
俺は反射的に言った。
「どうしてさ?」
すると、ジトー侯爵が再び笑みを口元に湛えた。
そして睨めつけるような視線はそのままで、ゆっくりと口を開いたのだった。
「なあに簡単な事だ。もしも君が普通の少年だというのならば、それほどの圧倒的な神力を纏っているはずがないのだからな」
俺はその瞬間、ギョッとした。
俺の神力が見えるのか?
ちょっと待ってくれ。神力は普通の人間には見えないとネルヴァから聞いたぞ。
見えるのは、神力を身につけた者だけだって。
ということは……。
「気付いていないとでも思ったかい?そうだろうね。わたしは放蕩者と誰からも思われている。まさかわたしのような者に神力が見えるわけはないと高をくくっていたのだろう。だがね、わたしには見えるんだ。だから、初めから気付いていたのさ。そう、君がクラブミゼットの前にいたときからね」
そういうことか。
俺の神力を見抜いていたのか。
だから俺の尾行に気付いた。
あれだけ距離を開けていても、意味はなかったんだ。
だがそれよりも重要なのは、ジトー侯爵には神力が見えるということの方だ。
ということは、その実力はリリーサを超えているはずだ。
何故ならばリリーサには神力は纏えていないし、見えてもいない。
あの、自称とはいえ剣豪のリリーサを超える実力者。
それが放蕩者と名高いジトー侯爵の真の姿か。
ならばもう、腹をくくるしかない。
「なるほどね。まさか俺の神力を見抜けるとは思っていなかったよ」
ジトーが微笑んだ。
「ようやく本性を見せてきたな?」
「まあね。だってしょうがないよ。今更隠したってさ」
「そうだな。神力を纏った者がわたしを尾行した以上、言い逃れはもはや不可能だからな。だがそれにしてもなかなかに潔いな。気に入ったぞ、少年」
俺は肩をすぼめてみせた。
「それはどうも。で、どうする?」
俺は逆に聞いてみた。
相手に一旦バトンを渡すことで、どう出て来るのかを見定めようと思ったからだった。
するとジトー侯爵が相変わらずの微笑を口元に湛えた。
「そうだな。まずは君の正体と目的を聞き出す」
「どうやって?」
「ほう、実に挑戦的な物言いだな?」
「別に無理に敵対しようとは思っていないよ。ただ正体をばらすつもりも目的を言うつもりもないんでね。今みたいな言い方になってしまっただけさ」
「なるほど。わたしと敵対するつもりはないか」
ジトー侯爵は再び笑みを収め、俺を睨みつけた。
「ではわたしの質問を変えよう。わたしの何を探っていたのだ?」
「それだと質問は変わっていないね。探っていた内容を言うのは、俺の目的を言うのとほとんど同じだからね」
俺は間髪を入れずに答えた。
そうすることで主導権を握れるかもしれないと思ったからだ。
ジトー侯爵は、何度もうんうんと首を縦に振ってうなずいた。
「確かにそうだな。だが、それでも言ってもらうぞ。わたしの何を探っていた?」
ジトー侯爵が再び俺を睨めつける。
だが今度のは今までとは違った。
目の奥に殺気がある。
身体全体からも、妖気のようなものがふつふつと湧き上がっている。
これは完全に殺る気だ。
俺が答えない場合、一息に殺すつもりなのだろう。
仕方がない。
こうなったらやるしかない。
後のことは考えない。
ここは命の瀬戸際だ。
ジトー侯爵の抜刀が早いか、それとも俺の魔法放出が早いか。
刹那の勝負だ。
俺は覚悟を決めた。
そして俺は、ジトー侯爵の目を睨み返したのだった。
すると、ジトー侯爵が不意に笑った。
と同時に身体から湧き出ていた妖気が消えた。
そして目の奥の殺気も。
ジトー侯爵はもう一度息を吐き出すと、俺をみつめて言った。
「仕方がない。神力を纏っているとはいえ、君のような子供を殺すことは出来ないからね。わたしの負けだ」
俺は驚いた。
そしていぶかしんだ。
するとジトー侯爵が笑いながら、さらに俺に言ったのだった。
「まあ、そういうわけだから好きにするといい。そもそもわたしは君に探られて困るような事など何もないしね。なんなら家に来るといい。思う存分調べてくれて構わないよ」
ジトー侯爵はそう言うと、さっと華麗に踵を返した。
そしてゆっくりと立ち去ろうとしたところで、何事かを思い出したように俺に問い掛けた。
「そうだ。君の名前を聞いていなかった。どうだろう、それくらいは教えてもらえるだろうか?」
俺は呆気にとられながらも、何とか持ち直して答えたのだった。
「アリオン。フルネームを言うのは止めておくよ」
「わかった。アリオンだな。家人に伝えておこう。いつでも来てくれ。歓迎するよ」
ジトー侯爵はそう言うと、今度こそ華麗に退場していくのであった。
ジトー侯爵は変わらず笑みを見せず、真剣な眼差しでもって俺を見ている。
だが俺も正体を晒すわけにはいかない。
「俺の正体って言われても、普通の何処にでもいる少年だけど?」
俺はあくまでしらを切り通すつもりで言った。
するとジトーはゆっくりと顎を引き、下から睨めつけるように俺を睨んだ。
そして軽く眉尻を上げると、言ったのだった。
「ほう、普通の少年と来たか。だがそれは有り得ないだろう」
俺は反射的に言った。
「どうしてさ?」
すると、ジトー侯爵が再び笑みを口元に湛えた。
そして睨めつけるような視線はそのままで、ゆっくりと口を開いたのだった。
「なあに簡単な事だ。もしも君が普通の少年だというのならば、それほどの圧倒的な神力を纏っているはずがないのだからな」
俺はその瞬間、ギョッとした。
俺の神力が見えるのか?
ちょっと待ってくれ。神力は普通の人間には見えないとネルヴァから聞いたぞ。
見えるのは、神力を身につけた者だけだって。
ということは……。
「気付いていないとでも思ったかい?そうだろうね。わたしは放蕩者と誰からも思われている。まさかわたしのような者に神力が見えるわけはないと高をくくっていたのだろう。だがね、わたしには見えるんだ。だから、初めから気付いていたのさ。そう、君がクラブミゼットの前にいたときからね」
そういうことか。
俺の神力を見抜いていたのか。
だから俺の尾行に気付いた。
あれだけ距離を開けていても、意味はなかったんだ。
だがそれよりも重要なのは、ジトー侯爵には神力が見えるということの方だ。
ということは、その実力はリリーサを超えているはずだ。
何故ならばリリーサには神力は纏えていないし、見えてもいない。
あの、自称とはいえ剣豪のリリーサを超える実力者。
それが放蕩者と名高いジトー侯爵の真の姿か。
ならばもう、腹をくくるしかない。
「なるほどね。まさか俺の神力を見抜けるとは思っていなかったよ」
ジトーが微笑んだ。
「ようやく本性を見せてきたな?」
「まあね。だってしょうがないよ。今更隠したってさ」
「そうだな。神力を纏った者がわたしを尾行した以上、言い逃れはもはや不可能だからな。だがそれにしてもなかなかに潔いな。気に入ったぞ、少年」
俺は肩をすぼめてみせた。
「それはどうも。で、どうする?」
俺は逆に聞いてみた。
相手に一旦バトンを渡すことで、どう出て来るのかを見定めようと思ったからだった。
するとジトー侯爵が相変わらずの微笑を口元に湛えた。
「そうだな。まずは君の正体と目的を聞き出す」
「どうやって?」
「ほう、実に挑戦的な物言いだな?」
「別に無理に敵対しようとは思っていないよ。ただ正体をばらすつもりも目的を言うつもりもないんでね。今みたいな言い方になってしまっただけさ」
「なるほど。わたしと敵対するつもりはないか」
ジトー侯爵は再び笑みを収め、俺を睨みつけた。
「ではわたしの質問を変えよう。わたしの何を探っていたのだ?」
「それだと質問は変わっていないね。探っていた内容を言うのは、俺の目的を言うのとほとんど同じだからね」
俺は間髪を入れずに答えた。
そうすることで主導権を握れるかもしれないと思ったからだ。
ジトー侯爵は、何度もうんうんと首を縦に振ってうなずいた。
「確かにそうだな。だが、それでも言ってもらうぞ。わたしの何を探っていた?」
ジトー侯爵が再び俺を睨めつける。
だが今度のは今までとは違った。
目の奥に殺気がある。
身体全体からも、妖気のようなものがふつふつと湧き上がっている。
これは完全に殺る気だ。
俺が答えない場合、一息に殺すつもりなのだろう。
仕方がない。
こうなったらやるしかない。
後のことは考えない。
ここは命の瀬戸際だ。
ジトー侯爵の抜刀が早いか、それとも俺の魔法放出が早いか。
刹那の勝負だ。
俺は覚悟を決めた。
そして俺は、ジトー侯爵の目を睨み返したのだった。
すると、ジトー侯爵が不意に笑った。
と同時に身体から湧き出ていた妖気が消えた。
そして目の奥の殺気も。
ジトー侯爵はもう一度息を吐き出すと、俺をみつめて言った。
「仕方がない。神力を纏っているとはいえ、君のような子供を殺すことは出来ないからね。わたしの負けだ」
俺は驚いた。
そしていぶかしんだ。
するとジトー侯爵が笑いながら、さらに俺に言ったのだった。
「まあ、そういうわけだから好きにするといい。そもそもわたしは君に探られて困るような事など何もないしね。なんなら家に来るといい。思う存分調べてくれて構わないよ」
ジトー侯爵はそう言うと、さっと華麗に踵を返した。
そしてゆっくりと立ち去ろうとしたところで、何事かを思い出したように俺に問い掛けた。
「そうだ。君の名前を聞いていなかった。どうだろう、それくらいは教えてもらえるだろうか?」
俺は呆気にとられながらも、何とか持ち直して答えたのだった。
「アリオン。フルネームを言うのは止めておくよ」
「わかった。アリオンだな。家人に伝えておこう。いつでも来てくれ。歓迎するよ」
ジトー侯爵はそう言うと、今度こそ華麗に退場していくのであった。
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