【第一部完結】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

マツヤマユタカ

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51 言い訳

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 俺はあまりにもびっくりしすぎて身体ごと後ろに飛び退った。

 その拍子に軽く壁に頭を打ち付けたほどだ。

「痛ってええええ!ていうか、なんで?いつ?どうやって?」

 俺は後頭部の痛みに悲鳴を上げつつ、目の前に突如として現れたジトー侯爵の姿に驚愕した。

 ジトー侯爵はニヤニヤと笑いながら俺を見下ろしている。

 俺はあまりのことに全身に鳥肌を立たせつつも、とにかくこの場を逃れようと、逃げ道を探した。

 だが後ろは建物の壁が立ちはだかり、前にはジトー侯爵が俺の行く手をふさいでいた。

 逃げ道なし。

 するとジトー侯爵のニヤリとした口元が開いた。

「どうした?そんなに驚くこともないだろう?」

「い、いや、突然背後に人が現れたら驚くって。普通」

「そうかね?わたしとしては君を驚かそうというつもりはなかったんだがね」

 絶対、嘘だ。

 だったらなんであんなにニヤニヤしていたんだよ。

 完全に楽しんでいたじゃないか。

 だがまあいい。とにかくここを逃れないと。

「あっそ。じゃあもういいよ。でももう二度とこんなことしないでよ?」

 俺はそう言って、さりげなくジトー侯爵の横をすり抜けようと試みた。

 だがジトー侯爵はスッと身体を寄せて俺の進路をふさいだ。

「そんなに慌てることもないだろう?」

「ちょっと用事があるんだ。そこをどいてよ」

 するとジトー侯爵の口角がさらに上がった。

「ほう、どんな用かね?」

「まあ、そのう、友達と約束があって……」

 するとジトーがにんまりとした顔で俺に近付いてきた。

「友達と約束か。それは大事だな」

「そ、そうなんだ!なのでお先に!」

 俺はそう言うと、空いている側に回り込んで、この場を脱出しようと試みた。

 だが予想通り、ジトー侯爵は身体を横にスライドさせて、俺の前に立ちはだかった。

 そして俺に顔を近づけて、片眉をピンと跳ね上げながら言ったのだった。

「友達は確かに大事にしたほうがいい。ただしそんな友達が本当にいるのならば、だがね」

 俺は反射的に反発した。

「い、いやいるよ。友達くらい!」

 だがジトー侯爵は冷静そのものであった。

「そりゃあ友達はいるだろう。いるだろうが、この場合重要なのは、今君と約束をしている友達が果たして本当にいるのか、なのだよ」

「……いるって」

 俺は言葉に詰まり、ようやくそれだけ口にした。

 するとジトー侯爵が、俺の眼をジッと見つめて断言した。

「いいや、いない。君は嘘が下手だからね。すぐにわかるよ」

 俺は言葉をなくした。

 ダメだ。全てお見通しだ。

 なんてやりづらい相手なんだ。

 すると、ジトー侯爵が俺に対して追い打ちをかけてきた。

「さて、ここでどんな物思いに耽っていたのかな?何やら金貨を見つめて、難しい顔をしていたようだが?」

 俺は考えた。

 何とかこの場を逃れる言い訳を。

「それは、この金貨で何を買おうかなって悩んでいたんだよ」

 いい言い訳だ。

 金貨をもらったんだ。普通ならば当然、その使い道を考える。

 だがジトー侯爵はそんな俺を一刀両断にした。

「嘘だな。それならばもっと柔らかな表情を浮かべていたはずだ。だが君の表情は実に硬いものだった。眉根をギュッと寄せ、何かを睨み付けるような顔をしていたよ」

 俺はどぎまぎした。

 何処から見られていた?

 もしかしてずっと見られていたのか?

「そ、そうかなあ?そんな表情していたかなあ?自分じゃよくわからないなあ」

 俺は必死に誤魔化そうと努力した。

 だが俺のそんな小細工など、ジトー侯爵にはまったく通じなかった。

 ジトー侯爵は俺の眼を真っ直ぐに見つめると、顔のニヤニヤを止め、真剣な表情となって言ったのであった。

「少年。遊びはこれまでにしよう」

 俺は息を呑んだ。

 まずい。

 これはまずいぞ。

 明らかに顔が変わった。

 俺は視線を下に移動させた。

 そこには、ど派手に装飾されたサーベルが腰からぶら下がっていた。

 あれを抜かれたら……殺られる。

 そう直感した。

 視線を元に戻す。

 ジトー侯爵は、やはり恐い顔で俺を睨み付けている。

 どうする?

 魔法で一気に吹き飛ばすか?

 だが相手は侯爵だ。王弟だ。

 まだ敵と決まったわけではないのに、そんなことは出来ない。

 吹っ飛ばしておいて怪我をさせ、もしもその後に違ったなんてことになったら。

 大変なことになる。取り返しが付かない。

 ダメだ。やっぱりそんなことは出来ない。

 最悪だ。下手を打った。完全に失敗だ。

 俺はそんなことを、一瞬で頭をフル回転させて思った。

 すると、再びジトー侯爵の口元がゆっくりと開いた。

「答えろ。君は何者だ?そして、君の目的は一体何なのかね?」

 俺は完全に答えに窮し、立ちすくむのであった。
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