【第一部完結】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

マツヤマユタカ

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50 金貨

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「残念。バレちゃったか」

 俺は屈託のない子供らしい笑顔を添えて、言った。

 だがそんな俺を、ジトー侯爵はジーッと見つめている。

 俺の眼、口元、顔全体の筋肉。

 それらをジーッと観察しながらも、笑みは浮かべたままだ。

 緊張が走る。

 何と言っても顔が近い。

 すぐそこにジトー侯爵の顔がある。

 その顔には常に笑みが張り付いているものの、目の奥が笑っていない気がする。

 俺はそんな状況に耐えきれなくなった。

「お、おじさんってさ、ジトー侯爵って言うんだろ?」

 するとジトーが軽く眉を跳ね上げた。

「そうだが。しかし、おじさんはないだろう?わたしはこれでもまだ35歳なんだが」

 会話に乗って来た。

 続けよう。

「悪いけどさ、35歳って、もうおじさんだぜ?」

 ジトーが肩をすぼめた。

「それは心外だな。わたしはまだ若いつもりなんだが」

「そういうこと言っちゃうのが、おじさんなんだぜ?」

 ジトーがさらに肩をすぼめた。

「それはそれは。確かに言われてみれば、そうかもしれないな」

「そうだろう?俺から見たらジトー侯爵は、立派なおじさんだぜ」

「わかったわかった。おじさんであることは、認めよう。それで、何故わたしを尾行したんだい?」

 俺は会話をして時間稼ぎをしている間、頭をフル回転させて考えた言い訳を、満を持して投入した。

「俺んち、貧乏なんだ。だからお金を恵んでくれないかな~なんて思ってさ」

 ジトーが一瞬フッと笑い、表情をほころばせた。

 だがすぐに観察モードへと戻り、俺の顔をまたジロジロと見始めた。

「恵んでもらう相手におじさん呼ばわりはないんじゃないか?」

 俺はすかさず答えた。

 時間を置いちゃダメだからだ。

「確かにね。俺もそう思うよ。でも思ったことをすぐ言っちゃうタチなんだ」

 ジトーはそう言う俺を、さらに深く観察した。

 だがすぐにまたフッと息を漏らした。

「いいだろう。ほら、これをあげよう」

 ジトーはポケットから金貨を取り出し、俺の前に差し出した。

 俺はわざと驚いた表情を作り、両手を差し出してうやうやしくその金貨を受け取った。

「いいのかい!?金貨なんてもらっちゃって!」

 ジトーは軽く首を傾け、ニヤリと口角を上げて言った。

「ああ、構わないさ。遠慮することはない」

「ありがとう!おじさん!」

 俺は最後の一撃をジトーに食らわせると、さっと踵を返した。

 そしてそのまま全速力で駆け出し、その場を離れたのだった。



「ふう、やばかった……」

 俺はしばらくの間路地を全速力で駆け抜け、適当な建物の陰に入り込むと、ホッと胸をなで下ろした。

「今日の所はここまでにしよう。欲をかくとろくな事がない。尾行は中止だ」

 俺はそこで、先程ジトーにもらった金貨を懐から取り出して眺めた。

「どう見ても本物だ。間違いなく金貨だ」

 俺は改めて驚いた。

 金貨は最も貨幣価値の高いコインだ。

 それこそジトー侯爵が行くような、超のつく高級レストランで何度も食事が出来るほどの価値がある。

 庶民レベルでは、滅多にお目に掛かることのない代物だ。

 それを、ああも簡単にくれるとは思わなかった。

 確かに、知り合った女性たちに高価な貴金属をよくプレゼントしたりしているとは聞いている。

 だがそれは、いわゆる下心があってのことだろう。

 女性たちといい関係になりたいという欲が、根底にあるはずだ。

 だが俺はまったく見ず知らずの子供だ。

 まさか、衆道の気でもあるのか?

 うう、嫌だ嫌だ。それは考えたくないし、そんな話も聞いていない。

 もしそんな話があれば、ネルヴァは必ず俺に言うだろう。

 ということはそれは違うはずだ。

 となると、金には困っていない?

 貴族が庶民に恵んでくれるというのは珍しいことじゃない。

 貧しい者たちに施しをすることに熱心な貴族は、意外と多いと聞くし。

 だけどそれはふんだんに資産があるからだ。

 金に困っていたら、さすがにいきなり金貨は出さない。

 だがネルヴァは、ジトー侯爵は借金が嵩んでいると言っていた。

 ネルヴァの情報が間違っているとは、思えない。

 となると、どういうことだ?

 最近になって急に実入りがあったとかか?

 それならうなずける。

 だが、だとしたら何だ?何をして実入りがあった?

 俺は深い疑念を抱きつつも、これ以上ここで考えていても埒が明かないと思った。

 そしてネルヴァたちと相談しようと思って、踵を返した。

 だがそこに……。

「ずいぶんと物思いに耽っていたようだな?少年」

 ジトー侯爵がニヤリと口角を上げて、そこに優雅に立ちはだかっていたのであった。
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