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57 ヴァルカ王
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言っていないことね。
確かにあるね。言っていないこと。
でもそれはお互い様ってことで。
「じゃあ後で調べさせてもらうよ」
ジトー侯爵は鷹揚にうなずいた。
「ところで、そのリリーサ暗殺未遂事件とやらについて詳しく教えてくれるかな?」
「もちろん」
俺はリリーサ暗殺未遂事件をジトー侯爵に説明した。
一応まだネルヴァたちのことは伏せてだ。
「そうか。そのようなことがあったとはな。わたしの目も耳も、アクアマリンの中心にのみ向かっている。残念ながらリリーサのところまでは届かなかった」
ジトー侯爵が厳しい表情で呟くように言った。
「仕方ないよ。遠いアルト州での出来事だからね。貴方が知らないのは当然だよ」
「ありがとう。あらためて感謝する。リリーサを護ってくれて」
「ああ、いや。そんなあらためて言われるようなことじゃないよ。友達だからね」
俺が少し照れ気味にそう言うと、ジトー侯爵がにこりと微笑んだ。
「リリーサとは仲が良いのか?」
「ああそうだね」
「あの子は少し気難しいところがある。良く入り込んだな」
「確かに。まあ色々とあってそんな感じになっちゃったんだ」
ジトー侯爵は笑顔でうんうんとうなずいた。
だがそこで少しだけ真剣な表情となって俺に問い掛けてきた。
「もう一つだけ聞きたい。ヴァルカ王についてどう思うかな?」
ヴァルカ王。
メリッサ王国の国王にして、リリーサの父。
目の前にいるジトー侯爵の兄でもある。
名君だって評判は聞いているけど……。
「ヴァルカ王か。俺みたいな庶民からしたら雲の上の存在だけど、何の因果かリリーサと仲良くなっちゃったからね。友達のお父さんって感じかな?もしかしてこれって、不敬罪に当たったりする?」
ジトー侯爵は呵々と笑った。
「大丈夫だ。問題ない」
「それはよかった。でも、なんでそんな質問を?」
するとジトー侯爵が居住まいを正した。
そして俺をジッと見つめながら言ったのだった。
「君を誘おうと思った」
「誘う?何に?」
「無論、王の最終護衛者にさ」
「え?俺を?」
「そうだ。君が我々の仲間となってくれれば心強い。何より君のその姿。そのあまりに若い姿を見れば、大抵の者は侮るだろう。だがその実力は折り紙付きだ。わたしが誘うのは当然だろう?」
「それが理由で、俺と取引をしようと?」
「そうだ。君を引き込もうと思った。無論、君に怪しいところがあれば別だが、そんな素振りはついぞ見られなかったのでね」
なるほど。
それが俺に胸襟を開いた理由か。
「でもさ、誘おうと思ったって過去形で言うってことは、もうその気はないってこと?」
ジトー侯爵はゆっくりとうなずいた。
「王の最終護衛者は常に王と共にあらねばならん。つまりここアクアマリンに、いなければならないということだ。だがリリーサの友達ならば、ここに留め置くわけにもいくまい」
「そういうことか。ところで王様って、アクアマリンの外には出ないの?」
「ほぼ出ないな。よほどのことがない限りは」
「よほどのことってどんなこと?」
「やむを得ず外交をしないといけない時などだな」
「やむを得ず……」
俺がそうつぶやき、その言葉の意味を考えていると、ジトー侯爵が説明してくれた。
「通常、外交は使節団を送りあって行うものだ。つまりは貴族だな。だが事が重要であればその上の王族が行うこともある。だが、事が一国の命運を担うものとなれば、王が自ら出向くこともやぶさかではない。そういうことだ」
「一国の命運……戦争とか?」
「そうだ。国が滅ぶとなれば、首都に留まり続ける理由もない。何処にでも出向くさ」
「同盟を結んだりとか?」
「そう。援軍を頼んだりな」
「納得。それ以外はまず出ることはないんだ?」
「ないな。移動するということは、危険を伴うからな。極力さけるさ」
「何か大変だね?窮屈で息が詰まりそうだ」
するとジトー侯爵が軽やかに笑った。
「そうだな。わたしなどよりは遙かに不自由だな」
「ジトー侯爵は自由すぎると思うけど」
「かもしれんな。だが王とてアクアマリンの中ならば、様々な場所を訪れることもあるぞ」
「あ、そうなの?出歩いたりするの?」
「まあな。公式にもあるし、非公式にもある」
「公式?」
「そうだ。事前に触れを出して出かけることもある。様々な式典に出たりな」
「ああ、なるほどね。非公式ってのは、お忍びってことだね?」
「そう。この場合は大変だ。我々最終護衛者が総動員される」
「やっぱり大変なんだ。王様の警護は」
「当然だ。だから君を誘おうと思ったのだがね。我々の仲間にはさすがに子どもといえる年齢の者はいない。だがいれば何かと便利だ」
「悪いね。一応暗殺未遂事件もあったし、リリーサの側にいるつもりだよ」
「そうか。それならばわたしとしても文句は言えない。これからもリリーサを頼む」
ジトー侯爵はそう言うと、軽く俺に頭を下げたのだった。
確かにあるね。言っていないこと。
でもそれはお互い様ってことで。
「じゃあ後で調べさせてもらうよ」
ジトー侯爵は鷹揚にうなずいた。
「ところで、そのリリーサ暗殺未遂事件とやらについて詳しく教えてくれるかな?」
「もちろん」
俺はリリーサ暗殺未遂事件をジトー侯爵に説明した。
一応まだネルヴァたちのことは伏せてだ。
「そうか。そのようなことがあったとはな。わたしの目も耳も、アクアマリンの中心にのみ向かっている。残念ながらリリーサのところまでは届かなかった」
ジトー侯爵が厳しい表情で呟くように言った。
「仕方ないよ。遠いアルト州での出来事だからね。貴方が知らないのは当然だよ」
「ありがとう。あらためて感謝する。リリーサを護ってくれて」
「ああ、いや。そんなあらためて言われるようなことじゃないよ。友達だからね」
俺が少し照れ気味にそう言うと、ジトー侯爵がにこりと微笑んだ。
「リリーサとは仲が良いのか?」
「ああそうだね」
「あの子は少し気難しいところがある。良く入り込んだな」
「確かに。まあ色々とあってそんな感じになっちゃったんだ」
ジトー侯爵は笑顔でうんうんとうなずいた。
だがそこで少しだけ真剣な表情となって俺に問い掛けてきた。
「もう一つだけ聞きたい。ヴァルカ王についてどう思うかな?」
ヴァルカ王。
メリッサ王国の国王にして、リリーサの父。
目の前にいるジトー侯爵の兄でもある。
名君だって評判は聞いているけど……。
「ヴァルカ王か。俺みたいな庶民からしたら雲の上の存在だけど、何の因果かリリーサと仲良くなっちゃったからね。友達のお父さんって感じかな?もしかしてこれって、不敬罪に当たったりする?」
ジトー侯爵は呵々と笑った。
「大丈夫だ。問題ない」
「それはよかった。でも、なんでそんな質問を?」
するとジトー侯爵が居住まいを正した。
そして俺をジッと見つめながら言ったのだった。
「君を誘おうと思った」
「誘う?何に?」
「無論、王の最終護衛者にさ」
「え?俺を?」
「そうだ。君が我々の仲間となってくれれば心強い。何より君のその姿。そのあまりに若い姿を見れば、大抵の者は侮るだろう。だがその実力は折り紙付きだ。わたしが誘うのは当然だろう?」
「それが理由で、俺と取引をしようと?」
「そうだ。君を引き込もうと思った。無論、君に怪しいところがあれば別だが、そんな素振りはついぞ見られなかったのでね」
なるほど。
それが俺に胸襟を開いた理由か。
「でもさ、誘おうと思ったって過去形で言うってことは、もうその気はないってこと?」
ジトー侯爵はゆっくりとうなずいた。
「王の最終護衛者は常に王と共にあらねばならん。つまりここアクアマリンに、いなければならないということだ。だがリリーサの友達ならば、ここに留め置くわけにもいくまい」
「そういうことか。ところで王様って、アクアマリンの外には出ないの?」
「ほぼ出ないな。よほどのことがない限りは」
「よほどのことってどんなこと?」
「やむを得ず外交をしないといけない時などだな」
「やむを得ず……」
俺がそうつぶやき、その言葉の意味を考えていると、ジトー侯爵が説明してくれた。
「通常、外交は使節団を送りあって行うものだ。つまりは貴族だな。だが事が重要であればその上の王族が行うこともある。だが、事が一国の命運を担うものとなれば、王が自ら出向くこともやぶさかではない。そういうことだ」
「一国の命運……戦争とか?」
「そうだ。国が滅ぶとなれば、首都に留まり続ける理由もない。何処にでも出向くさ」
「同盟を結んだりとか?」
「そう。援軍を頼んだりな」
「納得。それ以外はまず出ることはないんだ?」
「ないな。移動するということは、危険を伴うからな。極力さけるさ」
「何か大変だね?窮屈で息が詰まりそうだ」
するとジトー侯爵が軽やかに笑った。
「そうだな。わたしなどよりは遙かに不自由だな」
「ジトー侯爵は自由すぎると思うけど」
「かもしれんな。だが王とてアクアマリンの中ならば、様々な場所を訪れることもあるぞ」
「あ、そうなの?出歩いたりするの?」
「まあな。公式にもあるし、非公式にもある」
「公式?」
「そうだ。事前に触れを出して出かけることもある。様々な式典に出たりな」
「ああ、なるほどね。非公式ってのは、お忍びってことだね?」
「そう。この場合は大変だ。我々最終護衛者が総動員される」
「やっぱり大変なんだ。王様の警護は」
「当然だ。だから君を誘おうと思ったのだがね。我々の仲間にはさすがに子どもといえる年齢の者はいない。だがいれば何かと便利だ」
「悪いね。一応暗殺未遂事件もあったし、リリーサの側にいるつもりだよ」
「そうか。それならばわたしとしても文句は言えない。これからもリリーサを頼む」
ジトー侯爵はそう言うと、軽く俺に頭を下げたのだった。
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