90 / 138
90 警戒
しおりを挟む
舐めた俺の台詞に、護衛部隊の男たちが一斉に剣を抜き放った。
だが一人トリストだけは、微動だにしていなかった。
「まずは部下にやらせようって感じかな?」
だがそんな俺の挑発的な台詞にも、トリストはニヤリと笑うだけであった。
「まあいいや。じゃあ部下からでいいよ」
俺はそう言うと左腕を前に出し、手のひらを上に向けた状態で、親指をのぞいた四本指を立てるようにして手招きした。
すると、その仕草に激昂したように男たちが俺に向かって襲いかかってきた。
だが俺は慌てず騒がず、前に出したままの左腕から魔法を繰り出した。
「雷帝爆撃十連!」
その瞬間、俺の左腕から雷光が煌めき、十本の雷が護衛部隊目掛けて襲いかかった。
「ぐわあぁぁーー!」
男たちがうめき声を上げながら崩れ落ちた。
男たちの身体はブスブスと音を立てて黒焦げとなり、床の上に次々と横たわった。
「ヒィィィーーーー!」
メラルダ夫人がヒステリーを起こして悲鳴を上げた。
目をこれ以上ないくらいに見開き、頬を引き攣らせている。
だが今はまだ、相手にする時じゃない。
目下の相手は別にいる。
俺は目の前で、唯一立っている男に向かって言ったのだった。
「さあ、次はあんたの番だ」
だがそれでもトリストは、動じていなかった。
俺は軽く眉根を寄せた。
「部下が一瞬のうちにやられたっていうのに、ずいぶんと落ち着いているね?」
するとトリストがニヤリと微笑んだ。
「特段取り乱すこともないと思ってね」
俺は少しカチンと来た。
「それはどういう意味?部下がやられたんだぜ。普通多少なりと取り乱すんじゃないの?それとも、俺のことを大したことないって言いたいのか?」
トリストは片方の口角を上げ、鼻でせせら笑った。
「そうだな。今のならばかわせるのでね」
俺はさらにカチンと来た。
「あっそ。ならやってみなよ」
「そうさせてもらおう」
俺は口をへの字に曲げ、トリストを見据えた。
だがトリストは先程同様、両手でベルトを掴むような姿勢のまま、余裕綽々で立っていた。
いいだろう。
そっちがその気なら、やってやるよ。
「雷帝爆撃!」
雷光が煌めき、トリスト目掛けて突き進む。
だが当たるかと思われた瞬間、トリストの身体が蜃気楼のように揺らめき、消え失せた。
雷帝爆撃は本来激突する対象が消えたことで、そのまま彷徨うように突き進み、壁に当たって爆発を起こした。
壁は一瞬で吹き飛び、大穴が空いた。
それを見てメラルダ夫人がまたもヒステリーを起こして叫び声を上げた。
そして恐怖に満ちた表情でもって踵を返して駆けだした。
逃げるつもりか。
だが俺はメラルダ夫人を追わなかった。
いや、正確には追えなかった。
無論その理由はトリストだ。
トリストは俺の雷帝爆撃をかわすため姿を消した。
そしていまだその姿を現わしてはいない。
しかも、どうやって消えたのかがわからない。
ちっ!何処へ行った?
俺がトリストへの警戒のために動けないでいると、メラルダ夫人が従者を伴い、部屋を出ていってしまった。
くそっ!
追いたいのは山々だが、トリストが何処から襲ってくるかわからない。
俺は視線を左右に素早く動かし、トリストの姿を必死に探した。
だが何処にも見当たらない。
俺は抜き足差し足でゆっくりと後ろへの移動を開始した。
途中首を何度も振り返り、最高レベルの警戒をしながら後退した。
一歩、また一歩とゆっくり静かに後ずさる。
それというのも壁を背にしたかったからだ。
四方の何処から敵が来るかわからない状態より、三方からの方がいい。
そう思い、俺は少しずつ後退した。
するとようやく壁にたどり着き、背中をピッタリとつけることが出来た。
俺はそこでとりあえず安堵した。
だが無論警戒は解かない。
いつ何時攻撃されても対応できるように集中する。
だがそれと同時に思考する。
何故トリストの姿が消えたのかを。
だがそのカラクリは、どう考えてもわからなかった。
俺は思わず舌打ちをする。
「ちっ!」
だがそれ以上は口に出さなかった。
無論いつ攻撃を仕掛けられるかわからないからだった。
壁を背にした状態で、いくばくかの時が過ぎていった。
だが状況は一向に変わらない。
くそっ!こうしている間にメラルダ夫人がどんどん逃げていってしまう。
だがこの状態で追えるわけがない。
俺は焦りを感じながらも、冷静になって考えた。
すると、よもやの考えが頭に浮かぶ。
俺は首を振ってその考えを振りほどこうとした。
だが次第にその考えに支配されるようになった。
俺は一度深呼吸をすると、背中を壁から離した。
次いで一歩、また一歩と前に進んだ。
そして確信したのだった。
「やられた!あの野郎、メラルダ夫人と一緒に逃げやがったな!」
だが一人トリストだけは、微動だにしていなかった。
「まずは部下にやらせようって感じかな?」
だがそんな俺の挑発的な台詞にも、トリストはニヤリと笑うだけであった。
「まあいいや。じゃあ部下からでいいよ」
俺はそう言うと左腕を前に出し、手のひらを上に向けた状態で、親指をのぞいた四本指を立てるようにして手招きした。
すると、その仕草に激昂したように男たちが俺に向かって襲いかかってきた。
だが俺は慌てず騒がず、前に出したままの左腕から魔法を繰り出した。
「雷帝爆撃十連!」
その瞬間、俺の左腕から雷光が煌めき、十本の雷が護衛部隊目掛けて襲いかかった。
「ぐわあぁぁーー!」
男たちがうめき声を上げながら崩れ落ちた。
男たちの身体はブスブスと音を立てて黒焦げとなり、床の上に次々と横たわった。
「ヒィィィーーーー!」
メラルダ夫人がヒステリーを起こして悲鳴を上げた。
目をこれ以上ないくらいに見開き、頬を引き攣らせている。
だが今はまだ、相手にする時じゃない。
目下の相手は別にいる。
俺は目の前で、唯一立っている男に向かって言ったのだった。
「さあ、次はあんたの番だ」
だがそれでもトリストは、動じていなかった。
俺は軽く眉根を寄せた。
「部下が一瞬のうちにやられたっていうのに、ずいぶんと落ち着いているね?」
するとトリストがニヤリと微笑んだ。
「特段取り乱すこともないと思ってね」
俺は少しカチンと来た。
「それはどういう意味?部下がやられたんだぜ。普通多少なりと取り乱すんじゃないの?それとも、俺のことを大したことないって言いたいのか?」
トリストは片方の口角を上げ、鼻でせせら笑った。
「そうだな。今のならばかわせるのでね」
俺はさらにカチンと来た。
「あっそ。ならやってみなよ」
「そうさせてもらおう」
俺は口をへの字に曲げ、トリストを見据えた。
だがトリストは先程同様、両手でベルトを掴むような姿勢のまま、余裕綽々で立っていた。
いいだろう。
そっちがその気なら、やってやるよ。
「雷帝爆撃!」
雷光が煌めき、トリスト目掛けて突き進む。
だが当たるかと思われた瞬間、トリストの身体が蜃気楼のように揺らめき、消え失せた。
雷帝爆撃は本来激突する対象が消えたことで、そのまま彷徨うように突き進み、壁に当たって爆発を起こした。
壁は一瞬で吹き飛び、大穴が空いた。
それを見てメラルダ夫人がまたもヒステリーを起こして叫び声を上げた。
そして恐怖に満ちた表情でもって踵を返して駆けだした。
逃げるつもりか。
だが俺はメラルダ夫人を追わなかった。
いや、正確には追えなかった。
無論その理由はトリストだ。
トリストは俺の雷帝爆撃をかわすため姿を消した。
そしていまだその姿を現わしてはいない。
しかも、どうやって消えたのかがわからない。
ちっ!何処へ行った?
俺がトリストへの警戒のために動けないでいると、メラルダ夫人が従者を伴い、部屋を出ていってしまった。
くそっ!
追いたいのは山々だが、トリストが何処から襲ってくるかわからない。
俺は視線を左右に素早く動かし、トリストの姿を必死に探した。
だが何処にも見当たらない。
俺は抜き足差し足でゆっくりと後ろへの移動を開始した。
途中首を何度も振り返り、最高レベルの警戒をしながら後退した。
一歩、また一歩とゆっくり静かに後ずさる。
それというのも壁を背にしたかったからだ。
四方の何処から敵が来るかわからない状態より、三方からの方がいい。
そう思い、俺は少しずつ後退した。
するとようやく壁にたどり着き、背中をピッタリとつけることが出来た。
俺はそこでとりあえず安堵した。
だが無論警戒は解かない。
いつ何時攻撃されても対応できるように集中する。
だがそれと同時に思考する。
何故トリストの姿が消えたのかを。
だがそのカラクリは、どう考えてもわからなかった。
俺は思わず舌打ちをする。
「ちっ!」
だがそれ以上は口に出さなかった。
無論いつ攻撃を仕掛けられるかわからないからだった。
壁を背にした状態で、いくばくかの時が過ぎていった。
だが状況は一向に変わらない。
くそっ!こうしている間にメラルダ夫人がどんどん逃げていってしまう。
だがこの状態で追えるわけがない。
俺は焦りを感じながらも、冷静になって考えた。
すると、よもやの考えが頭に浮かぶ。
俺は首を振ってその考えを振りほどこうとした。
だが次第にその考えに支配されるようになった。
俺は一度深呼吸をすると、背中を壁から離した。
次いで一歩、また一歩と前に進んだ。
そして確信したのだった。
「やられた!あの野郎、メラルダ夫人と一緒に逃げやがったな!」
1
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる