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117 歪む空間
しおりを挟むガッ!ギンッ!ガッ!ガッ!ギッーン!
リリーサの繰り出す凄まじい斬撃を、シズマはいとも容易く六本の槍でもって受け払いし続けていた。
するとそこで、リリーサの斬撃が突然止まった。
「ふうーーっ!」
リリーサは肺腑の空気を一旦頬一杯に含ませ、口をすぼめて一気に吐き出した。
するとその様子を見た赤ら顔のシズマが、口角をグイッと上げた。
「おやおや、どうされました、王女様?」
リリーサは顔を上気させ、荒い呼吸ながらも、威勢よく言った。
「ふん!まだまだ!」
シズマはリリーサの様子をつぶさに観察し、さらに口角を上げて言った。
「そうは見えませんがねえ。もう、バテバテじゃあないですか」
「うるさい。ぐだぐだ言わずに掛かってきたらどうなのよ」
「いいんですか?わたしは先程から貴方のためを思って、休ませてあげているんですよ?」
「あん?喧嘩売ってんの?」
するとシズマが声高に笑い出した。
「喧嘩なら先程からしているじゃあありませんか。今更売る必要などありませんよ」
「ふん!減らず口を言うんじゃないわよ」
「減らず口じゃありません。それを言うなら貴方の方ですよ」
するとリリーサがそこで大きく息を吸った。
そしてゆっくりと静かに息を吐き出すと、言ったのだった。
「もういい。ここから先は本気だ。決着を付けてやる」
シズマの高笑いが室内に響き渡る。
「ではこれまでは本気でなかったと?そうは思えませんが、まあいいでしょう。しかしながらもういいんですか?決着を付けてしまっても?わたしとしては、もう少し遊んであげたかったのですがね。どうやら貴方の体力が持たなかったようですね」
シズマは嫌みったらしく挑発した。
だがリリーサは何の反応もしなかった。
その表情は冷静そのものであり、顔の上気は消え失せ、呼吸も整い、目の色は透き通っていた。
するとそこまで散々に嘲笑していたシズマが、リリーサの状態に気付いた。
「ほう、先程までとはずいぶんと違うようですね?何か奥義めいたことでもなさるおつもりかな?」
だがリリーサは透き通った眼で一点を見つめ、赤ら顔のシズマの言葉に一切の反応を示さずに佇んでいた。
すると青ざめた顔が久しぶりに口を開いた。
「おい、構うことはない。さっさと殺してしまおうぜ」
すると赤ら顔のシズマがクイッとアゴを上げ、六本の槍をリリーサに向けて構えながら、意思を固めて言ったのだった。
「いいでしょう。貴方がその気ならば、やるとしましょう。では、わたしの方から参りますよ」
シズマはそう言うと、スッと左脚を一歩前に出した。
そして次に右脚を床に擦りながら前に出し、左足のかかとにスッと付けた。
次いで左足をさらに前に踏み出すと、やはり右脚をスッとすり足で左足のかかとに付けた。
そうしてシズマはゆっくりとリリーサとの間合いを詰めていった。
だがリリーサは動じない。
それどころか、メドゥーサによって石にされてしまったのかと思うほどに、微動だにしなかった。
シズマはそのあまりの動きの無さに、不気味さを感じつつも、さらに一歩前へと左足を差し出した。
その時、両者の間に透明な薄い膜のようなものが浮かび上がった。
シズマはすぐに、それがお互いの闘気が両者の中間点でせめぎ合っているのだと理解した。
歪む空間。
次第に闘気によって風も舞い始めた。
長い間使用されていなかった地下室の埃が宙を舞う。
その中をシズマがまた一歩前に踏み出した。
その刹那、ついにリリーサが動いた。
対するシズマも一斉に六本の槍を繰り出し、リリーサを串刺しにしようとする。
するとリリーサが、迫り来る六本の槍に対して上段から剣を打ち据えた。
瞬間、リリーサの身体が浮き上がった。
リリーサは身体を回転させ、槍の上に乗り上げた。
そしてそのままの勢いでもって剣を振り下ろすのであった。
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