転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

文字の大きさ
20 / 153

第十九話 魔導師カリウス

しおりを挟む
 1


「ここは、どこ?」

 豪華なバロック風様式の大広間の中央部に置かれたベッドの上で、ユリアはようやく長い眠りから覚めたものの、長時間に渡って気を失っていたため、いまだ意識が混濁していた。

「お目覚めか。だがこのまま意識を失っていたままの方が、良かったのかも知れんな」

「え?こ、これは?」

 ユリアの身体は、拘束具によってベッドに縛り付けられていた。

「あっ!あなたは、あの時の――」

「ジェイドと言う」

「ジェイド、さん。あの、ここは?」

「シュトラウス公のお屋敷だ」

「シュトラウス公?貴族の方のお屋敷?なんでそんなところに私が?」

「ここは君の生家でもある」

「え?生家って?」

 と、そこへシュトラウス公爵が、大またに闊歩かっぽしながら室内へ入ってきた。

「下らん話はそこまでだ。準備は整っておるのだろうな?」

「はい」

 ジェイドは忸怩じくじたる思いとは裏腹に、うやうやしくこうべを垂れた。

 シュトラウスはジェイドの返事を聞くと満足そうにうなずき、次いで広大な大広間の床をなにやら念入りに検分した。

「ほう、ずいぶんと大きなものだな?カリウスよ」

 シュトラウスは、彼のすぐ後ろに影のように付き従う黒いフード付きマントを羽織った老人に向かって、そう語りかけた。

「これからり行う呪法は、冥界の門を開けて行う禁断の呪法なれば、魔法陣もおのずと巨大なものとなります」

 カリウスの言うとおり、ユリアが横たわるベッドを中心にして、巨大な魔法陣が大広間一面に描かれていた。

「冥界の門か。大丈夫なのだろうな?」

「冥界の門と一口に申しましても、いくつもございます。今回開きますのは第一の門のみ。現れ出でるのは、低級悪魔にすぎませぬ。ですので、ご心配には及びませぬ」

「だが悪魔なのであろう?低級とはいえ、本当に大丈夫なのだろうな?」

 シュトラウスはさも心配げに、カリウスに問うた。

 カリウスは低い、しわがれた声で一笑に付した。 

「公爵、そうご心配召されますな。そのための魔法陣でございます」

「う、うむ。それもそうじゃな。ではそろそろクラリスを連れて参るがよい」

 シュトラウスはジェイドに向き直り、そう命じた。

「はっ」

 ジェイドは後ろ暗い気持ちを抱えたまま、静かに大広間から退室した。


 2


「クラリス様のご容態は?」

 ジェイドは、クラリスの寝室の扉の前に控えるメイドに対し、声をひそめて尋ねた。

「あまり思わしくありません。ジェイド様、公爵閣下とあの薄気味の悪い魔道師の目を盗んで、クラリス様をお医者様にお診せするわけにはまいりませんでしょうか?」

「もう言うな」

「しかし!」

 すると突然、ジェイドの背後の空間が妖しく揺らめきだした。

 そして黒いフードに身を包んだカリウスの老いさらばえた顔が、その揺らいだ空間に浮かび上がった。

「気味が悪くてすまなんだな。しかしそれよりも小娘、今聞き捨てならぬことを口走っておったな」

「失せろカリウス!これから貴様の望み通りクラリス様を大広間にお連れしてやる。だからとっととこの場から消え失せろ!」

 ジェイドは大気が震えんばかりの怒気を発し、カリウスを怒鳴りつけた。

「ふむ、ここで争っても仕方がないか。これより大仕事も待っておるしな。では早急にクラリス様を大広間へと連れて参られよ。よいな」

 そう言い残すとカリウスは、揺らめきながら雲散霧消した。

「くそっ!化け物め!」

 ジェイドは心底苦々しげに吐き捨てた。

「ジェイド様……」

 とても心配そうに見つめるメイドの視線に気付いたジェイドは、けわしかった表情を途端に緩め、優しげに語り掛けた。

「すまん。俺の力不足だ」

「いえ、私はただクラリス様とあの少女が不憫ふびんで……」

「ああ、そうだな」

 ジェイドは暗澹あんたんたる思いを胸の底に押さえ込み、クラリスの眠る寝室の扉に決然と手を掛けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった

竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。 やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。 それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。

処理中です...