転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第二十話 宗教

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「おお!クラリスや、可哀想に」

 クラリスがジェイドによってベッドに横たわったまま大広間へと入ってくると、シュトラウスは急ぎ足で駆けつけ、熱に浮かされ息も絶え絶えな愛娘の顔に頬ずりをした。

 そして音もなくシュトラウスの背後に忍び寄ってくる不気味な老人に向けて、厳しい口調で問いかけた。

「カリウスよ!この子がこんなにも苦しんでおるのは、あの娘のせいなのじゃな?」

 シュトラウスはそう言って、憎しみの眼差しを部屋の中央に横たわるユリアへと向けた。

「間違いございません。あの者とクラリス様は『陰と陽』。両者は常に相剋そうこくする関係にございます。これまでは遠い異国に離れ離れとなっていたため問題はありませんでしたが、このエルムールにクラリス様が来られたことによって、両者の相剋が始まってしまったのです。このままでは確実にクラリス様は黄泉へと旅立たれましょうぞ。閣下、一旦回った歯車を止めるには、もはや方法はただ一つにございます」

「あい判った。始めるが良い」

 シュトラウスはもう一度愛娘の顔に頬ずりをすると、大広間全体を見渡す二階の貴賓席へ向かうための大階段をめざし、ゆっくりと歩き始めた。

 ジェイドはシュトラウスの後姿に軽く一礼すると、憂鬱そうな顔つきでクラリスのベッドを移動させ、部屋中央のユリアが横たわるベッドの真横に静かに並べた。

 そしてカリウスはそれを見届けると、大広間に描かれた巨大な魔法陣をゆっくりと時間をかけて検分し始めた。


 2

 
「最悪ですな」

 大広間の隅に控えるジェイドの側にすっと寄ってきた小太りなズエンが、そっと耳元でささやいた。

「ああ、そうだな」

「公爵閣下は、なぜにあんな薄気味悪い魔道師の言うことを信用なさるのか。前時代的にもほどがあるのでは?」

「国が……ダロスという国が古いのだ」

「ダロス王国そのものが、ということですか?」

「そうだ。世界最古の国家と言えば聞こえはいいが、その実、旧弊きゅうへいにがんじがらめの旧態依然とした国家なのだ。そしてその国家を構成する国民もまた、腐りかけの古い慣例に皆支配されている。その証拠に、ダロスにおいては医者の数よりまじない師の数のほうが多いのだからな」

「そして閣下もまたそのお一人だ、ということですね」

「もっとも頑迷な、だな。そもそも貴族などというものは、慣例や格式が全てといっていい。それによって自分たちを定義付けているのだからな。だからそれを失えば、自らの存在意義を失う。彼ら貴族がいつの時代も最も旧態依然とした存在であるのは、歴史の必然というものだろう」

「だから魔道師などを信用してしまうと?」

「そうだ。魔道師は無論、優れた魔法の使い手ではある。だが、だからといってその魔法で未来が予見できたりするものではない。未来とは、数え切れない沢山の者たち一人ひとりの選択によって成り立つものだ。その一人ひとりの考えを全て読み、その全てをモザイクのように組み立て未来を予見するなど、伝説の大魔道師であっても、神ならぬ身である以上、出来るはずがないのだ。それにもかかわらず怪しげな風体でもって周囲をまどわし、我こそは未来を予見できるとのたまう詐欺師のような奴らがいる」

「カリウスがまさにそれですな」

「奴は詐欺師だ。たしかに魔法は使えるが、未来を見通す力など、奴にあるはずがない。現にそんな力が奴にあるのなら、なぜクラリス様が御病気になられることを予見できなかったのだ?」

「それなのに閣下は」

「口が達者なあの詐欺師に丸め込まれてしまった」

「あの男が来てからの十年というものは、ずっとそんなことの繰り返しでしたな」

「ああ。これはおそらく、宗教なのだろうな」

「どういう意味です?」

「宗教であるための必要最小構成人数は何人だと思う?実はな、たった二人なんだよ。教祖が一人、信者が一人、それだけいれば宗教になるのさ。つまりこれは、カリウス教なんだと俺は思う」
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