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第二十一話 悪魔召喚
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「ジェイドよ。手配はよいか?」
シュトラウスは、ズエンを伴なって傍らに近づくジェイドに向かって、そう問いかけた。
「わたしとこちらのズエンを除く、駐在武官全十八名中十名を邸外の警備に、残る八名はご覧の通りにこの大広間の各扉に二人づつ配置しております」
「そうか。では万全であるな」
「はい」
「よし!ではよろしく頼むぞ、カリウスよ!」
シュトラウスは突然二階の貴賓席で立ち上がり、大広間を見晴るかして大声で叫んだ。
すると大広間の中央、ユリアとクラリスが横たわるベッドのすき間にたたずむカリウスが、低いしわがれ声で言った。
「かしこまりました」
ユリアは事情を飲み込めず、ベッドの上に寝かされて目を盛んにしばたかせながら状況を見つめていたが、ついに我慢できずに声を発した。
「あのう、なにをする気なんですか?」
カリウスが、静かに鳩が鳴くような声で、くっくっと笑った。
「お前は知らんでよろしい」
そう言うとカリウスは、右の掌をユリアの顔の上にかざした。
「大いなる海原にたゆたうが如き、安らぎの眠りを汝に与えん――ヒュプノス」
カリウスがしわがれ声で呪文を唱えた途端、ユリアは深い眠りについてしまった。
「寝ているうちに終わることだ。もっとも、二度と目を覚ますことはないがな」
カリウスはそう言って、再び鳩が鳴くような声で静かに笑った。
ひとしきり笑い終えたカリウスは、やおら両掌を天高く掲げた。
「では、始めますぞ!」
カリウスは叫ぶと同時に高く上げた手をすっと下ろし、地面と平行にした。
次いでなにやら怪しげな文言を、もごもごと唱え始める。
「ウラル・クデハル・ケツアルクーダイ・アンデクルニム・ハーデクオルム」
すると大広間の床に描かれた魔法陣が、わずかに明滅しだした。
「おお、魔法陣が!ついに始まったぞ!」
シュトラウスは興奮を抑えきれないといった表情で、手すりから身を乗り出して階下を覗き込んだ。
「ついに、始まってしまいましたね」
ズエンが、シュトラウスには聞こえないくらいの小声で、そっとジェイドにささやいた。
「ああ、悪夢の始まりだ」
ジェイドもまた、シュトラウスに聞こえないようにそっと首をズエンに傾け、かすかな声で呟いた。
「ケムル・カイバル・コアタルクーダイ・ウンデコルニア・エンゲコオルマ」
カリウスが文言を重ねるたびに魔法陣の明滅は一層強くなり、ついにその光は、その場に居る者たちが手をかざして目をそらすほどのものとなった。
「す、すごいぞ!ついに悪魔が現れるのだ!」
シュトラウスは左手で自らの顔を覆い隠しながら、その指の隙間から階下を覗き込みつつ、自らの心の昂ぶりを抑えきれないといった様子で大声で叫んだ。
「本当にいるのか、悪魔なんてものが」
ジェイドがそう呟いた瞬間、大広間は爆発的な輝きに包まれた。
それはあまりにも眩しい光の発散であり、誰もが皆数十秒もの間、その視界を奪われた。
だが一人ジェイドのみは、日頃の鍛錬の賜物か、素早く目をつぶったために、数秒の後には視界を回復することが出来た。
そのため誰よりも早く――『それ』――の姿を見ることとなった。
「こ、これが――『悪魔』――本当に、いたのか……」
ジェイドは自らの眼前に現れ出でた人類原初よりの畏怖すべき対象を目の当たりにし、恐怖した。
シュトラウスは、ズエンを伴なって傍らに近づくジェイドに向かって、そう問いかけた。
「わたしとこちらのズエンを除く、駐在武官全十八名中十名を邸外の警備に、残る八名はご覧の通りにこの大広間の各扉に二人づつ配置しております」
「そうか。では万全であるな」
「はい」
「よし!ではよろしく頼むぞ、カリウスよ!」
シュトラウスは突然二階の貴賓席で立ち上がり、大広間を見晴るかして大声で叫んだ。
すると大広間の中央、ユリアとクラリスが横たわるベッドのすき間にたたずむカリウスが、低いしわがれ声で言った。
「かしこまりました」
ユリアは事情を飲み込めず、ベッドの上に寝かされて目を盛んにしばたかせながら状況を見つめていたが、ついに我慢できずに声を発した。
「あのう、なにをする気なんですか?」
カリウスが、静かに鳩が鳴くような声で、くっくっと笑った。
「お前は知らんでよろしい」
そう言うとカリウスは、右の掌をユリアの顔の上にかざした。
「大いなる海原にたゆたうが如き、安らぎの眠りを汝に与えん――ヒュプノス」
カリウスがしわがれ声で呪文を唱えた途端、ユリアは深い眠りについてしまった。
「寝ているうちに終わることだ。もっとも、二度と目を覚ますことはないがな」
カリウスはそう言って、再び鳩が鳴くような声で静かに笑った。
ひとしきり笑い終えたカリウスは、やおら両掌を天高く掲げた。
「では、始めますぞ!」
カリウスは叫ぶと同時に高く上げた手をすっと下ろし、地面と平行にした。
次いでなにやら怪しげな文言を、もごもごと唱え始める。
「ウラル・クデハル・ケツアルクーダイ・アンデクルニム・ハーデクオルム」
すると大広間の床に描かれた魔法陣が、わずかに明滅しだした。
「おお、魔法陣が!ついに始まったぞ!」
シュトラウスは興奮を抑えきれないといった表情で、手すりから身を乗り出して階下を覗き込んだ。
「ついに、始まってしまいましたね」
ズエンが、シュトラウスには聞こえないくらいの小声で、そっとジェイドにささやいた。
「ああ、悪夢の始まりだ」
ジェイドもまた、シュトラウスに聞こえないようにそっと首をズエンに傾け、かすかな声で呟いた。
「ケムル・カイバル・コアタルクーダイ・ウンデコルニア・エンゲコオルマ」
カリウスが文言を重ねるたびに魔法陣の明滅は一層強くなり、ついにその光は、その場に居る者たちが手をかざして目をそらすほどのものとなった。
「す、すごいぞ!ついに悪魔が現れるのだ!」
シュトラウスは左手で自らの顔を覆い隠しながら、その指の隙間から階下を覗き込みつつ、自らの心の昂ぶりを抑えきれないといった様子で大声で叫んだ。
「本当にいるのか、悪魔なんてものが」
ジェイドがそう呟いた瞬間、大広間は爆発的な輝きに包まれた。
それはあまりにも眩しい光の発散であり、誰もが皆数十秒もの間、その視界を奪われた。
だが一人ジェイドのみは、日頃の鍛錬の賜物か、素早く目をつぶったために、数秒の後には視界を回復することが出来た。
そのため誰よりも早く――『それ』――の姿を見ることとなった。
「こ、これが――『悪魔』――本当に、いたのか……」
ジェイドは自らの眼前に現れ出でた人類原初よりの畏怖すべき対象を目の当たりにし、恐怖した。
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