転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

文字の大きさ
24 / 90

第二十三話 公爵

しおりを挟む
「どうなのだ?汝が我を呼び出したのではないのか?」

 巨大な蝙蝠こうもりのような羽を背中からやし、牡牛を思わす風貌をした『悪魔』が、自らの足下でへたり込むカリウスに向かって尋ねた。

 ジェイドは、『悪魔』が自分たちには背を向けていることをいいことに、シュトラウス公爵をこの場から逃がそうと試みた。

「閣下、計画は失敗です。あれは低級悪魔などではありません。今すぐお逃げください」

 ジェイドはさっとシュトラウスの耳元に近寄り、小さな声で素早くささやいた。

 だがジェイドが囁いた次の瞬間、『悪魔』の後頭部にぱっくりと縦に裂け目が入った。

 その裂け目から、巨大な目玉のようなものが、突如にゅるっと現れた。

「では汝らか?我を呼び出したるは?」

 『悪魔』のもう一つの目に射すくめられ、ようやく視力が回復したシュトラウスは、恐怖に駆られた。

「う、う、うああああ!」

 シュトラウスは狂人の如き叫び声を上げながら、貴賓席に備え付けられた豪奢な装飾のソファーから転げ落ちた。

 そしてさらに床の上を転げ回り、這いずりながらその場を逃れようとする。

 その惨めな姿を、後頭部に現れた巨大な一つ目でつぶさに見ていた『悪魔』が嘲笑あざわらった。

「くっくっくっくっ、そんなに我が怖いか?人間共よ。ならば何故に我を呼び出した?」

 ジェイドは、地べたを這いずるシュトラウスを横目に、時間稼ぎのために『悪魔』の問いに答えた。

「低級悪魔を、もっと小さい、ランクの低い悪魔を呼び出すつもりだった」

「ほう。つまり、間違えたと言う訳か?」

「そうだ」

「くっくっく、随分と間の抜けた話ではないか。だが見たところ、汝は魔導師ではないな?」

「ああ、違う」

「ではやはり、我が足下で腰を抜かしている男が、呼び出したのだな?」

「ああ、そうだ」

「では、このみじめな男に聞かねばなるまい」

 『悪魔』は、そこで初めて床の上にその巨体を降ろした。

 数百年もの年輪を重ねた巨木の如き両足が、地響きを立てて大理石の床を踏みしめた。

 そのあまりの重量に、大理石はきしんで割れ、四方に弾け飛んだ。

 『悪魔』は次いでわずかに腰をかがめて右腕を伸ばし、へたり込むカリウスを人差し指と親指で器用に掴み上げた。

「ひゃっ!ひ、ひいいいい!」

 そして牡牛を思わす顔の前へカリウスを持ってくると、静かに尋問を始めた。

「汝がこの魔法陣を描いたのだな?答えよ」

 カリウスは恐怖に顔を引きつらせながら、必死に答えた。

「は、はい」

「汝は、どこでこの魔法陣の描き方を知ったのだ?」

「そ、それは、魔導書に書いてあったので……」

「見せよ」

「それはシュトラウス公爵が……」

「シュトラウス公爵とな?それは誰ぞ?」

「わたしの後ろの、二階席におります」

 『悪魔』は、重量感を伴なって身体をゆっくりと反転させ、シュトラウスたちと正対した。

「この無様に這いつくばる男が公爵とな。人間界とはさても面妖な。だが、まあよい。そこな公爵よ。魔導書を見せよ」

 シュトラウスは恐る恐る魔導書を胸元から取り出し、『悪魔』に向かって差し出した。

「……こ、これです」

 『悪魔』は、空いている左手の人差し指と親指の先の爪で、魔導書をつまみ上げた。

 そしてその魔導書を自らの眼前にかざすと、『悪魔』はにやりと笑った。

「これか」

 『悪魔』は、魔導書をしばらく眼前で眺め、満足そうに何度もうなづいた。

 その様子を恐怖の表情で見ていたシュトラウスが、ふと思いついたように間の抜けた調子で『悪魔』に尋ねた。

「あ、あの、あなた様は、どなたで?」

 『悪魔』はふと、なにやら厭らしげな表情を浮かべた。

「我か。我が名はアスタロト。汝と同じ公爵ぞ。ただし地獄の、だがな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...