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第二十三話 公爵
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「どうなのだ?汝が我を呼び出したのではないのか?」
巨大な蝙蝠のような羽を背中から生やし、牡牛を思わす風貌をした『悪魔』が、自らの足下でへたり込むカリウスに向かって尋ねた。
ジェイドは、『悪魔』が自分たちには背を向けていることをいいことに、シュトラウス公爵をこの場から逃がそうと試みた。
「閣下、計画は失敗です。あれは低級悪魔などではありません。今すぐお逃げください」
ジェイドはさっとシュトラウスの耳元に近寄り、小さな声で素早く囁いた。
だがジェイドが囁いた次の瞬間、『悪魔』の後頭部にぱっくりと縦に裂け目が入った。
その裂け目から、巨大な目玉のようなものが、突如にゅるっと現れた。
「では汝らか?我を呼び出したるは?」
『悪魔』のもう一つの目に射すくめられ、ようやく視力が回復したシュトラウスは、恐怖に駆られた。
「う、う、うああああ!」
シュトラウスは狂人の如き叫び声を上げながら、貴賓席に備え付けられた豪奢な装飾のソファーから転げ落ちた。
そしてさらに床の上を転げ回り、這いずりながらその場を逃れようとする。
その惨めな姿を、後頭部に現れた巨大な一つ目でつぶさに見ていた『悪魔』が嘲笑った。
「くっくっくっくっ、そんなに我が怖いか?人間共よ。ならば何故に我を呼び出した?」
ジェイドは、地べたを這いずるシュトラウスを横目に、時間稼ぎのために『悪魔』の問いに答えた。
「低級悪魔を、もっと小さい、ランクの低い悪魔を呼び出すつもりだった」
「ほう。つまり、間違えたと言う訳か?」
「そうだ」
「くっくっく、随分と間の抜けた話ではないか。だが見たところ、汝は魔導師ではないな?」
「ああ、違う」
「ではやはり、我が足下で腰を抜かしている男が、呼び出したのだな?」
「ああ、そうだ」
「では、このみじめな男に聞かねばなるまい」
『悪魔』は、そこで初めて床の上にその巨体を降ろした。
数百年もの年輪を重ねた巨木の如き両足が、地響きを立てて大理石の床を踏みしめた。
そのあまりの重量に、大理石は軋んで割れ、四方に弾け飛んだ。
『悪魔』は次いでわずかに腰をかがめて右腕を伸ばし、へたり込むカリウスを人差し指と親指で器用に掴み上げた。
「ひゃっ!ひ、ひいいいい!」
そして牡牛を思わす顔の前へカリウスを持ってくると、静かに尋問を始めた。
「汝がこの魔法陣を描いたのだな?答えよ」
カリウスは恐怖に顔を引きつらせながら、必死に答えた。
「は、はい」
「汝は、どこでこの魔法陣の描き方を知ったのだ?」
「そ、それは、魔導書に書いてあったので……」
「見せよ」
「それはシュトラウス公爵が……」
「シュトラウス公爵とな?それは誰ぞ?」
「わたしの後ろの、二階席におります」
『悪魔』は、重量感を伴なって身体をゆっくりと反転させ、シュトラウスたちと正対した。
「この無様に這いつくばる男が公爵とな。人間界とはさても面妖な。だが、まあよい。そこな公爵よ。魔導書を見せよ」
シュトラウスは恐る恐る魔導書を胸元から取り出し、『悪魔』に向かって差し出した。
「……こ、これです」
『悪魔』は、空いている左手の人差し指と親指の先の爪で、魔導書を摘み上げた。
そしてその魔導書を自らの眼前にかざすと、『悪魔』はにやりと笑った。
「これか」
『悪魔』は、魔導書をしばらく眼前で眺め、満足そうに何度もうなづいた。
その様子を恐怖の表情で見ていたシュトラウスが、ふと思いついたように間の抜けた調子で『悪魔』に尋ねた。
「あ、あの、あなた様は、どなたで?」
『悪魔』はふと、なにやら厭らしげな表情を浮かべた。
「我か。我が名はアスタロト。汝と同じ公爵ぞ。ただし地獄の、だがな」
巨大な蝙蝠のような羽を背中から生やし、牡牛を思わす風貌をした『悪魔』が、自らの足下でへたり込むカリウスに向かって尋ねた。
ジェイドは、『悪魔』が自分たちには背を向けていることをいいことに、シュトラウス公爵をこの場から逃がそうと試みた。
「閣下、計画は失敗です。あれは低級悪魔などではありません。今すぐお逃げください」
ジェイドはさっとシュトラウスの耳元に近寄り、小さな声で素早く囁いた。
だがジェイドが囁いた次の瞬間、『悪魔』の後頭部にぱっくりと縦に裂け目が入った。
その裂け目から、巨大な目玉のようなものが、突如にゅるっと現れた。
「では汝らか?我を呼び出したるは?」
『悪魔』のもう一つの目に射すくめられ、ようやく視力が回復したシュトラウスは、恐怖に駆られた。
「う、う、うああああ!」
シュトラウスは狂人の如き叫び声を上げながら、貴賓席に備え付けられた豪奢な装飾のソファーから転げ落ちた。
そしてさらに床の上を転げ回り、這いずりながらその場を逃れようとする。
その惨めな姿を、後頭部に現れた巨大な一つ目でつぶさに見ていた『悪魔』が嘲笑った。
「くっくっくっくっ、そんなに我が怖いか?人間共よ。ならば何故に我を呼び出した?」
ジェイドは、地べたを這いずるシュトラウスを横目に、時間稼ぎのために『悪魔』の問いに答えた。
「低級悪魔を、もっと小さい、ランクの低い悪魔を呼び出すつもりだった」
「ほう。つまり、間違えたと言う訳か?」
「そうだ」
「くっくっく、随分と間の抜けた話ではないか。だが見たところ、汝は魔導師ではないな?」
「ああ、違う」
「ではやはり、我が足下で腰を抜かしている男が、呼び出したのだな?」
「ああ、そうだ」
「では、このみじめな男に聞かねばなるまい」
『悪魔』は、そこで初めて床の上にその巨体を降ろした。
数百年もの年輪を重ねた巨木の如き両足が、地響きを立てて大理石の床を踏みしめた。
そのあまりの重量に、大理石は軋んで割れ、四方に弾け飛んだ。
『悪魔』は次いでわずかに腰をかがめて右腕を伸ばし、へたり込むカリウスを人差し指と親指で器用に掴み上げた。
「ひゃっ!ひ、ひいいいい!」
そして牡牛を思わす顔の前へカリウスを持ってくると、静かに尋問を始めた。
「汝がこの魔法陣を描いたのだな?答えよ」
カリウスは恐怖に顔を引きつらせながら、必死に答えた。
「は、はい」
「汝は、どこでこの魔法陣の描き方を知ったのだ?」
「そ、それは、魔導書に書いてあったので……」
「見せよ」
「それはシュトラウス公爵が……」
「シュトラウス公爵とな?それは誰ぞ?」
「わたしの後ろの、二階席におります」
『悪魔』は、重量感を伴なって身体をゆっくりと反転させ、シュトラウスたちと正対した。
「この無様に這いつくばる男が公爵とな。人間界とはさても面妖な。だが、まあよい。そこな公爵よ。魔導書を見せよ」
シュトラウスは恐る恐る魔導書を胸元から取り出し、『悪魔』に向かって差し出した。
「……こ、これです」
『悪魔』は、空いている左手の人差し指と親指の先の爪で、魔導書を摘み上げた。
そしてその魔導書を自らの眼前にかざすと、『悪魔』はにやりと笑った。
「これか」
『悪魔』は、魔導書をしばらく眼前で眺め、満足そうに何度もうなづいた。
その様子を恐怖の表情で見ていたシュトラウスが、ふと思いついたように間の抜けた調子で『悪魔』に尋ねた。
「あ、あの、あなた様は、どなたで?」
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