転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

文字の大きさ
25 / 91

第二十四話 生贄

しおりを挟む
「ア、アスタロト!?そ、そんな馬鹿な、アスタロト公爵だと!?」

 カリウスは、その『アスタロト』の右腕に拘束された身で、驚愕の表情を張り付けた皺まみれの口元から、呟くような声を漏らした。

 ジェイドはその声を聞き漏らさず、すかさずカリウスに矢継ぎ早に問いかけた。

「カリウス!知っているのか?アスタロトという名に聞き覚えがあるのか!?それに公爵とはなんだ?一体どういう意味なんだ!?」

「き、貴様、ア、アスタロト公爵を知らんのか?四十もの軍団を配下にもつ、魔界の大貴族だぞ」

「そんな大物なのか!?貴様、なんでそんな奴を呼び出したんだ!?」

「ば、馬鹿を言え!こんな大物が現れるとは、露ほども思っておらなんだわ!」

 それまでジェイドたちのやり取りを興味深く見守っていたアスタロトが、低い威厳のある声で笑い出した。

 そしてひとしきり笑いおえると、さらに厳かな声音で言葉を発した。

「面白い。汝ら面白いではないか。久しぶりに人間界に現れて早々、実に愉快だ」

 カリウスは、苦しそうな表情で口を開く。

「ア、アスタロト様、ど、どうか私めを解放してくださらんか?お願いいたしまする。もう苦しくて、苦しくて」

「ふむ。よかろう」

 言うやアスタロトは右手をジェイドたちの前へと持っていき、摘まんでいた指を開いてカリウスを落とした。

 数十センチの高さではあったが、カリウスは二階席の床に腰から落ち、痛そうな顔をした。

 だがそれでもカリウスは解放されたことに深い息を吐き出しつつ、ほっと胸を撫で下ろした。

「ところで汝ら、何故なにゆえ低級悪魔を呼び出そうとしておった?」

 すると、それまで恐怖に身体をぶるぶると震わせてジェイドの影に隠れていたシュトラウスが、途端にはっとした表情を見せたかと思うと、反射的に前へと飛び出し、貴賓席のきらびやかな装飾に彩られた手摺てすりをぎゅっと掴みつつ、身を乗り出すようにして言った。

「娘を!病気の娘を助けてくれ!い、いや助けてください!娘を……」

 最後は恐怖がぶり返したのか、聞き取れないほどの小声となり、再び後ずさってジェイドの影に隠れた。

 だがアスタロトは、シュトラウスの変貌ぶりに興味をそそられたらしく、とがった口を大きくゆがめてにやりと笑った。

「ほう。汝も面白い男だな。娘とは、階下で寝ている二人のことか?」

「はい。い、いえ一人です。もう一人は、違います」

「ほう、そうか。ではもう一人は、娘のための――生贄――ということか?」

「はい」

「それで、どちらが汝の娘なのだ?」

 アスタロトはその巨体をゆっくりと動かし、半身となって後ろを振り返った。

 ジェイドたちも、それまでアスタロトの巨体によって防がれていた視界が開けたため、同じように階下を覗き込んだ。

 だがそこには――何にもなかった。

「なっ!?む、娘はどこだ?おい、娘は?クラリスは、どこへ行ったのだ!?」

 シュトラウスは驚き、慌てふためきながらあらん限りの大音声で叫んだ。

 ジェイドもまた、驚きの表情を浮かべつつ階下を見渡した。

「一体どういうことだ!?そもそもベッドがない。それに部下たちが倒れている。気絶しているのか?」

 ジェイドのいうとおり、階下で扉を守っているはずの八名の武官たちは、皆倒れ伏していた。

「むう、我の目を盗んで連れ去った者がおる、ということか」

 アスタロトは先ほどまでとは異なり、目を高く吊り上げ、口元を大きく歪めて凄まじく凶悪な顔つきとなった。

 すると、彼らの向正面にある大扉の先の廊下から、コツコツと小さな靴音が鳴り響いてきた。

 一筋の人影が照明に照らされて大広間の床へと差し込み、次いで靴音の持ち主がその姿を現した。

 ジェイドはその姿を見て驚き、ささやくような声でその人物の名を呟いた。

「ガイウス……シュナイダー」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...