転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第二十五話 アスタロト

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「あいつ、どうやって地下室から抜け出したんだ?」

 ジェイドは驚き、後ろを振り返って部下のズエンに向かって問いかけた。

 ズエンもまた、驚きの表情を浮かべつつ、首を大きく横に振った。

「誰か手引きをする者でもいなければ、脱出できるとは思えません。それに、あの小さな身体で二つものベッドを運べるとも思えませんし」

 ジェイドはズエンの言葉に同意し、何度も小刻みにうなづいた。

 そんな二人の会話を尻目に、アスタロトはずっとガイウスを、その細く吊り上った目で眼光鋭く睨みつけていた。

「子供?いや、違う。貴様、一体何者だ?」

 アスタロトの呟きは低くくぐもってとても小さく、ジェイドたちには聞き取れなかった。

 すると突然、シュトラウスが大声で怒鳴り出した。

「き、貴様か!?我が娘クラリスを連れ去ったのは!?どこじゃ、どこに連れ去ったのじゃ!?」

 ガイウスは大広間の中央付近まで進んでようやく立ち止まり、両手を広げて肩をすくめながら言った。

「よく言うよ。先にユリアを連れ去ったのはあんたらだろう?ついでにこの俺も、ね」

「や、やかましいぞ小僧!クラリスを返せ!返さんか、この!」

「逆ギレすんなっての。いい年こいてみっともないぜ?ところで何なの?この馬鹿でかい牛の化け物は?」

 このガイウスのいい様に、アスタロトが機嫌を損ねてはと思い、魔導師カリウスが大慌てで割って入る。

「し、失礼なことを言うでないぞ小僧!このお方は魔界の大公爵、アスタロト様なるぞ!」

 それを聞いたガイウスは、呆気にとられた顔をした。

 そして少々間の抜けた口調で、カリウスの言葉を反復した。

「アスタロト~?魔界の大公爵~?」

 そしてなにやら眉根を寄せて自らの深い記憶を辿るような顔つきとなり、次いで小首をかしげて深く考え込んだ。

 さらに幾許いくばくかの時間が流れた後、そこでようやく固く引き結んだ口を開いた。

「いや、それはないっしょ。だってアスタロトって、すげえ男前だったし」

 このガイウスの言葉に、皆一様に呆気にとられた。

 言葉の意味が判らず、誰もが呆けたような顔つきとなり、しばし沈黙の時が流れた。

 だがその静寂の時間を、ジェイドが破った。

「お前、アスタロトを知っているのか?」

 だがこれに、問われたガイウス本人が考え込んだ。

(あれ?俺は何を言ってんだろう。でも俺、アスタロトを知っている。どこかで会ったことがあるはずだ。だが、一体どこでだ?それと、大体こいつは……)

「おい、ガイウス!どうなんだ!?答えろ!」

 ジェイドがさらにガイウスに問いかける。

 するとその声にようやく反応したガイウスが、大きくかぶりを振って我に返った。

 そして一つ大きく息を吐き出すと、アスタロトに向かって冷たく言い放った。

「ていうかお前、ザンギだろ?」
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