転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

文字の大きさ
77 / 153

第七十六話 涙

しおりを挟む
「えっ……消えたって……えっ?……」

 笑顔でデザートをほおばっていたアベルが、その動きを止めて女将に聞き返そうとするも、頭の整理が追いつかず、言葉にならずに掻き消えた。

「今、村は、湖になっているそうです」

 アベルの事情を知らない女将は、構わずに説明を続けた。

 ガイウスはアベルを一旦部屋へ連れて行くのがいいのか、それともこのまま女将の話を聞かせるほうがいいのか大いに迷うも、すでに村が消失したことを聞いてしまった以上、隔離する意味はないと決断し、彼の小さな手をギュッと握り締めつつ、女将に質問をした。

「湖になっているというのは、どういうことですか?」

「聞いた話では、理由はわかりませんが、かつて村であった場所がごっそりとえぐれてしまい、そこに村の中央を流れる川の水が流れ込んでしまって湖のようになってしまったということのようなんです」

「ごっそりえぐれた……」

 ガイウスが女将の言葉の断片を繰り返して自問自答をしていると、アベルのすすり泣く声が静かに聞こえてきた。

「……んぐっ……ひっく……」

 ガイウスは、アベルの手を先ほどよりもさらに強く握り締めつつ、逆の手でもってアベルの頭を優しく包み込んで抱きしめた。

 すると女将が、ようやくアベルの様子がおかしいことに気付いた。

「あらまあ、どうしたの」

 そこでガイウスはアベルの事情について説明することとした。

「実は、この子はバース村の子なんです。去年山賊にさらわれてしまい、一年ぶりに村に帰ろうとしているところだったんです」

「なんですって!……そんな……わたし……知らずに……」

「もちろん女将さんは何も悪くありません。それにバースに行く前に知れたので――」

 ガイウスは、悲しみに暮れるアベルの手前、「よかった」という言葉を飲み込んだ。

「ロデムル、僕は一足先にバースへ飛ぼうと思う。馬で一日の距離なら、おそらく一時間もあれば着くだろう。だから往復で二時間、それまでここでアベルと待っていてくれ」

「かしこまりました。状況が大きく変わった以上、それがよろしいかと存じます。ですが、くれぐれもご注意を」

「わかった。じゃあアベル、僕が行ってみてくるから、ここで待っててくれるかい?」

 ガイウスはアベルの亜麻色の髪を優しく撫でながら、ささやくような声で語りかけた。

「…………うん…………」

 アベルは掻き消えそうなくらいの小さな声で返事をした。

 ガイウスはアベルのか細い返事を聞くと、ロデムルと顔を見合わせ、後は任せると言わんばかりに一つ大きくうなずいた。

 ロデムルは立ち上がってテーブルを回り込み、アベルのそばへと近づいてきた。

 ガイウスはそれを見ると、アベルの頭を抱え込んでいる腕をゆっくりとはずし、次いで握り締めているもう片方の手もゆっくりと開いて静かに引いた。

 それとほぼ同時にロデムルが、ガイウスの代わりにしっかりとアベルを抱きかかえ、その大きく長い腕で彼を優しく包み込んだ。

 そしてガイウスはやおら立ち上がり、まなじりを決してきびすを返し、ドアへと向かう。

 そして一度も振り返ることなく食堂を出ると、どんどん歩く速度を上げて廊下を抜け、開け放たれた玄関扉を通って宿屋を出たと思った瞬間、バースへ向けて爆発的な速度で彗星のごとく飛んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった

竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。 やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。 それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。

処理中です...