転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第七十八話 生き残りし者

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 ガイウスが宿屋へ戻ったのは、出立してからほぼ二時間後のことであった。

 ガイウスが、バースから持ち帰った陰鬱な気分を抱えて宿屋の入り口ドアに手を伸ばすと、その様子をロデムルが窓越しに見ていたらしく、タイミングよくドアが開け放たれた。

「お帰りなさいませ、坊ちゃま」

 ロデムルの出迎えの言葉に、ガイウスは硬い表情のまま軽くうなずいただけで、すぐに肝心なことを問いかけた。

「アベルは?」

 ガイウス同様に沈痛な面持ちのロデムルは、こうべを垂れつつうやうやしげに返答した。

「泣き疲れたようで、今は二階で寝ております」

「そうか」

 ガイウスは帰還中もずっとアベルにどう伝えればいいのか悩み続け、結局結論を出せぬまま到着してしまったため、アベルが眠っていることを知って、内心ホッとした。

 その様子を見て取ったのか、ロデムルがガイウスにささやくように声をかけた。

「どうぞ、ひとまず中へお入りください。アベルにどう伝えればよいのかについては、中でゆっくり相談するとしましょう」

 ガイウスは自らの心の内をロデムルに悟られたことに気付いたものの、特にそのことを気にするでもなく、無言で建物の中へと足を踏み入れた。


 2


 ガイウスは先ほどの四人用のテーブル椅子に、重い心持を抱えながらおもむろに座った。

 そんなガイウスを取り囲むように、隣にロデムル、向かい側に女将、そしてその隣には筋骨隆々な宿屋の主人が静かに席に着いた。

「事情はロデムルさんに伺いましたわ。私たちに出来ることがあったら、何でも言って下さいね」

「今宵の客はあんた方だけだ。遠慮なく何でも言ってくれ」

 愛想の良い女将はもちろん、先ほどまでずっと無愛想極まりなかった主人までもが、ガイウスに優しく声をかけた。

「ありがとうございます」

 ガイウスは、深々と二人に対して頭を下げた。

「それで坊ちゃま、バースの状況はいかがでしたでしょうか?」

「うん、女将さんの言ったとおりだったよ。かつて村があったと思われるところには、湖しかなかった。それも、ほぼ真円のね」

「真円の湖ですか。つまりそれは――」

「途轍もない魔法の力によるものか、もしくはそれに類似する何がしかの力か。少なくとも自然になったものでもなければ、土木的な作業によるものでもないことだけは確かだ」

「ではやはり、村は何者かによって意図的に消失させられたと考えて、間違いなさそうですね?」

「そうなるね」

 そこで宿屋の主人が、ゆっくりとした動作で組んでいた腕を解き、静かな口調で口を挟んだ。

「ちょっといいか?これははっきりとしたことじゃないんだが、噂ではどうも生き残りがいるらしい」

「バースの?」

「ああ、消失事件の直後、偶然近くを通りかかった旅人が見つけたんだそうだ。といってもすぐに王国の調査団が来て、その生き残り――たしかロメロとかいう人物らしいんだが、彼を病院へ運ぶといって連れて行っちまったそうなんだ」

「調査団って言うのは、さっき女将さんが言っていた――」

 ガイウスは女将さんに向かってたずねた。

「はい、事件のすぐ後、三十人ほどの人がバースへ向かいました。その際この町にも立ち寄られ、この宿で休憩をされました。その時、その方たちは自分たちをバース調査団と名乗っておりました」

「なるほど。ところで病院へ運ぶということは、そのロメロという人は怪我を負っていたということですね?」

「ああ、全身が焼け爛れていたって話だ」

「焼け爛れて……やはり魔法と見るべきかな?」

 ガイウスはロデムルに水を向けた。

「現段階では判断しかねます。ところで、その病院というのはこの町のではないのですか?」

「首都アレキサンドラの病院へ運ぶと言っていたそうだ」

 主人の言葉にガイウスは、しばし考え込んだ。

「アレキサンドラか。その調査団も、そこから来たのかな?」

「おそらく。そう見るのが自然ではないでしょうか」

「アレキサンドラって、たしかテーベの南だったよね?」

「はい。ですのでテーベでカルラ様とも合流できます」

 ガイウスは一つ大きくうなずいた。

「よし!次の行き先は決まった。後は、アベルにどう伝えるかだな……」
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