転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ

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第七十九話 朝は来る

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 1


「ん、んん……」

 若草のようなやわいまつげを揺らして、アベルがゆっくりとまぶたを開いた。

 アベルが横たわるベッドに腰掛けていたガイウスは、そのことに気が付いた。

「起きた?アベル」

「……うん……」

 アベルは返事をしたといえども、まだだいぶ寝ぼけているようであった。

 そのためガイウスはあせらず、沈黙を守った。

 しばしの時が流れた。


「あっ」

 アベルが何かを思い出したように、小さく声を上げた。

 ガイウスはとても優しげに、そっとアベルの耳元で囁いた。

「うん。行って来た」

 アベルはガイウスの言葉を聞いておもむろに目を伏せ、一度大きく息を飲んだ。

 ガイウスはアベルのそんな様子を見て言葉をつなぐことを止め、彼の心の準備が出来るのをじっと我慢して待った。

 またしばらくの時が流れ、ついにアベルが覚悟を決めたかのように声を出した。

「どうだった?」

 すでに覚悟を決めていたガイウスは、アベルのようやくの問いに一息で答えた。

「だめだった。村は跡形もなく、湖になっていた」

 ガイウスは一気に用意していた言葉を吐くと、恐る恐るアベルの瞳を覗き込んだ。

 アベルは無表情のままに、黙りこくっていた。

 
 そして永遠とも思える時間が過ぎ去り、アベルが静かに口を開いた。

「そう、わかった……」

 もはやガイウスに出来る事は、無言のままアベルをそっと抱きしめることのみであった。


 2


「坊ちゃま、おはようございます」

 ガイウスが部屋のドアを開けて廊下に顔を出した瞬間、待ち構えていたようにロデムルが小さな声で朝の挨拶をした。

「おはよう」

 ガイウスはあまり眠れなかったのか、寝ぼけまなこで挨拶を返し、廊下に出て後ろ手にドアを閉めた。

「どうやら、あまり眠れなかったご様子」

「うん。まあね」

「アベルの様子は、いかがですか?」

「一応起こしたけどね。アベルもあまり寝てないから、もしかしたら二度寝しちゃうかも」

「ずっと二人でお話を?」

「アベルが寝付くまでね」

「では、とりあえず一階の食堂に参りましょう。もしアベルが起きて来なければ、後ほどわたくしが起こしに参りますので」

「わかった。そうしよう」

 ガイウスは素直に承諾すると、階下へ向かってゆっくりと階段を下りていった。


 女将さんは、階下でガイウスを待ち構えていた。

「まあ!おはようございます!どうです?アベルちゃんの様子は?」

「おそらく大丈夫だと思います」

「まあ!そう!よかった~」

 女将さんはそう言いながら、食堂奥の厨房へと慌てて向かった。

 そして厨房で忙しく立ち回るご主人に向かって、大きな声で報告した。

「あんた!聞いた?アベルちゃん大丈夫だって~。ほんとよかったわ~」

 無愛想な主人は、ぶっきらぼうに答えた。

「ああ」

 女将さんは主人の返事を、聞いていたのかいなかったのか判らない位の勢いで、喋り続けた。

「よかった~、ほんとどうしようかと思っていたもの~、よかったわ~」

 ガイウスは苦笑いを浮かべつつ、昨晩と同じ椅子に座ると、ロデムルも同じく、その向いの席に座った。

 そこへ誰かが階段を降りてくる足音が聞こえた。

 その音は小さな音であったが、女将さんも気付き、声を潜めて耳を傾けた。

 すると階段から、アベルが可愛らしくぴょこっと顔を出した。

「おはよう」

 アベルは快活な声で挨拶をした。

 ガイウスたちは、とたんに笑顔となって大きな声で挨拶を返した。

「おはよう!」
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