さんかくの僕達

三つ葉

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1部 中学生時代

僕達の日常

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神奈木愁也、中学二年生。


彼は今重大なミッションに取りかかっていた。


 場所は自分の家から、四番目ぐらいに近いコンビニの中。彼の手が、握っているのは、成人向け超マル秘情報雑誌……通称エロ本。


 彼は今、どうやって穏やかにこのブツを購入しようかという大事なミッションの途中である。


 普段の彼なら、何事もなく堂々と買うのだが、今日のレジの店員が密かに彼が憧れている千夏さん(名前は名札で確認済)なのである。


 今日は確か、千夏さんのシフトじゃないはずなのに、何故か千夏さんがレジにいた。


 このイレギュラーは彼の安全マル秘エロ本購入プランには入っていなかった。


 今日はまた出直すべきか、それとも、あえて己の本能のまま突き進むべきか、迷いに迷っていた。


愁也が手間取っていると、事態は更に悪化した。


入り口から見覚えが有りすぎる顔の男女二人組がそのコンビニの中へと入ってきたのである。


そして、隠れる暇もなく愁也は見つかってしまった。この時、この瞬間、彼はミッションの失敗を確信してしまった。



「あー愁ちゃんだ」


「本当だ。愁也がいる」


まず、一番最初に愁也を見つけて、愁ちゃんと叫んだ少女の事を説明すると、隣の家の末娘、つまり、幼なじみの同級生の水本瑞希というちょっとお節介な女である。


次に愁也と呼んだ少年は、瑞希の家のお隣さん、要するに、愁也の家の隣の隣に住んでいる、こちらも愁也の幼なじみで親友の荻本透であった。



まさかの幼なじみ達との遭遇に動揺を隠せない愁也であった。


「なんで愁也がここにいるんだ?」


「ととと透達こそ、ななな何でここにいるんだ?」


「俺達は塾の帰りに寄っただけだよ。ていうか動揺し過ぎだ」


そういえば、ここの近くの塾に、透と瑞希は最近通いだした事をすっかり忘れていた。



「愁ちゃん、後ろに隠してあるのは何?」


瑞希が鋭く聞いてきたので、愁也は焦る。



「こここ、これは今日の晩御飯だぞ」


「えー。こんな時間に晩御飯? ちょっと遅くない? しかも、何でこんな遠い所まで来たのよ? 怪しい」


「何だよ近づいて来るなよ! あっちいけよ!」


「なんで、そんなに拒むのよ。さては、また、何か企んでいるわね」


「企んでなんかいねぇよ!!」


何てお節介な女なんだ!


愁也の手に持っているブツが瑞希にバレる二秒前に愁也が思った言葉だった。



「愁ちゃん……最低だよ。18歳未満はこんな雑誌見たら駄目なんだよ。この前愁ちゃんの部屋にあった、いかがわしい雑誌を捨てたばかりなのに……」


「いいんだよ! この週刊誌は18歳未満が買っても! ていうか俺のコレクション捨てたの、やっぱりお前だったんだな!!」


いつの間にか消えていた愁也の宝物は、やっぱりこのお節介な女の手によって、処分されていた。


「あんなくだらない雑誌にお金使うぐらいなら、私のこの前の誕生日プレゼントにもっとお金使ってよ」


「瑞希と俺の価値観は違うんだ。決してくだらないなんて言うな! それにお前の誕生日プレゼント、あれは、取るの大変だったんだぞ!」


なんたって十回目でやっと取ったUFOキャッチャーの景品だったから……


「透ちゃんは、素敵なアクセサリーくれたんだよ。それに比べて、愁ちゃんはUFOキャッチャーの景品なんか」


「いらないなら返せよ。それと、お前が処分した俺のコレクション代も返せ」


「嫌よ」


そう言うと、瑞希は愁也から奪い取ったエロ本をちゃんと棚に戻して、一人怒りながら帰っていった。


「おい、待てよ瑞希。送っていくよ」


透が慌てて、瑞希の後を追いかける。

 
      ☆


愁也と瑞希と透。


三人は隣近所だった事と三人とも同級生だったという理由で、昔から三人で遊んでいた。


それは兄弟のような関係で、どこかへ遊びに行く時はいつも三人一緒だった。



ずっとこのままでいられたら幸せだろうと思っていた。



思っていたけど……



それは近い未来に壊れそうだ。



それは瑞希が女の子だったから



もし、瑞希が女の子じゃなかったら問題なく、三人の関係はずっと続いていくだろう。


でも、残念ながら現実は違った。


近い将来、絶妙なバランスを保ってる三人の関係は崩れるだろう。


というか、もうすでに崩れかけているのかもしれない。



それでも、愁也は願っていた。できるだけ、この幸せな日々が続きますようにと・・・・・・。


      ☆


愁也達は、紫山中学校、通称紫中に通っている。


ここ紫山市で唯一の中学校である。


愁也は2-C組だった。


ちなみに瑞希と同じクラスである。というか、瑞希とは小学校の頃からずっと同じクラスだった。相当の腐れ縁である。


そんな2-Cの教室での、休み時間、クラスの男子が集まって、ある重大な秘密会議が行われていた。



「皆の衆、聞いてくれ。今日は凄いブツが手に入った」


クラスの中で、エロの伝道師と密かに呼ばれている山本君が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。



「昨日、兄ちゃんが隠してた女教師物のAVを発見してしまった」


山本君がそう言うと、彼を囲むように集まっていた男子から歓声が上がった。



「今日の放課後、俺の家で鑑賞会を行う。見たい奴は来い。以上報告を終わる」


山本君がそう宣言すると、2-C組の馬鹿野郎どものボルテージが最高潮に上がった。



その様子を女子達が冷やかな目で見ていたのは言うまでもない。


「そういえば愁也。お前、昨日週刊****を買いにいった件はどうなった?」


山本君はふと思い出したように聞いてきた。



「その件は失敗した。瑞希に見つかってしまったんだ」


「なんだよ。幼なじみに見つかったくらいで諦めるなよ」


山本君は妥協を許さなかった。


羞恥心というものが彼にはないのだろう。



「それにしても、瑞希ちゃんが幼なじみなんて、お前、なんて羨ましい奴なんだ」


山本君そう言うと、周りの男子もその言葉に賛成するように頷く。



「はぁ? そんなに羨ましむ物ではないぞ。勝手に部屋の中を掃除されて、俺が貯めていたエロ本を処分されるわ。日曜日、朝から叩き起こされて、買い物に付き合わされるわ。瑞希の作った料理の実験台にされるわ…………あれ、なんか、皆から殺気を感じるのは、気のせいか?」


周りの男子が愁也を射殺すような目で睨んでいた。



「お前幸せ過ぎるだろう。羨ましすぎてお前の事この世から消し去ってしまいたい」


「なんだよお前ら目が怖ぇよ」


ジリジリと逃がさないように間合いを詰められ男子達は愁也に突然襲いかかってきた。


「なぜ俺は、こんな仕打ちを受けたのか、誰か説明してくれ」


一瞬の出来事だった。愁也は椅子に縛り付けの刑にされていた。



「愁也に、二三聞きたい事がある。まず、お前は、本当に瑞希ちゃんと付き合ってないんだな?」


「はぁ?何言ってんだ? そんなのあり得ねぇよ」


愁也は正気かという顔で否定する。



「じゃあ、お前は、瑞希ちゃんが、このクラスのアイドルって事は認識してるか?」


「えっ!? だって、それってネタだろ」


「愁也。お前、目が悪いじゃないか? いくら幼なじみだからといっても、あの可愛さは理解できるだろう」


「瑞希が可愛い? そんな馬鹿な」


「愁也には、ブス専の称号を授けよう」


「いや、いらないし」


そんな不名誉な称号、いらなかった


「じゃあ瑞希ちゃんは誰とも付き合ってないんだな?」


「たぶんな」


瑞希が自分と透以外の男子と遊んでいる所は見たことがなかった。



「まぁどっちにしろ、間違っても、瑞希ちゃんは愁也なんか選ばないだろう。選ぶとしたら荻本透だな」


「透?」


「なんたって、荻本透は頭もいいし、顔もいいし、バスケ部のエースだ。同じ幼なじみでも、選ぶとしたら、断然こっちだろう」


「透と瑞希が付き合う? ありえねぇ」


愁也は鼻で笑い飛ばした。



「今のうちに、そうやって笑っとけばいいさ。失った時に愁也も、瑞希ちゃんの可愛さに気づくだろう」


「そんな事ありえねぇって。それより、早くこのヒモほどきやがれ!!」


愁也はジタバタした。でも、誰もほどこうとする奴はいなかった。


まさに、周りは敵だらけ、四面楚歌の状況だった。


「もうそこらへんで、許してやってくれない」


突然、男子の集団の中に、一人の女子の声が響いた。


「瑞希ちゃん、でも、こいつは・・・・・・」


「愁ちゃんが何しでかしたのか分からないけど、集団で苛めるのは良くないよ」


どうやら声の主は瑞希のようだ。



「これは別に苛めてるわけではなく・・・・・・」


「お願い。愁ちゃんを離してやって」


「おい! 早く愁也を解放してやれ」


瑞希の上目遣いの頼みで、一気に愁也が解放された所を見ると、瑞希がこのクラスのアイドルという事は本当らしい。



解放された愁也は男の集団から抜け出し、一人自分の席に戻った。


すると、瑞希が何か言いたそうな顔で寄ってきた。


「助けてやったお礼は?」


「別に頼んでないし、そもそも瑞希が原因だし」


「恩を仇で返すって言うの?」


「はいはい分かった分かった。ありがとうございました」


「全然気持ちが込もってない」


「うるさい女だな。恩着せがましいだよ」


「ふーん。そういう事言うんだ。もう二度と助けてあげないんだから」


瑞希はそう言って、プンプン怒りながら自分の席に戻っていった。



「瑞希が可愛い?ありえねぇよ」


愁也はボソッと小さく呟いた。


      ☆


放課後、山本君の家でビデオ鑑賞会にちゃっかり参加した愁也であった。


途中、クラス一のムッツリスケベ事、山田君があまりのビデオの過激さに鼻血を出して途中棄権というハプニングに見舞われたが、鑑賞会はなんとか無事に大団円?を迎えた。


そして、山田君は更にムッツリスケベの称号を不動の物にしたとかしないとか……



というわけで、山本君の家を出て、自分の家に帰宅していると、途中で偶然透とばったり出くわした。


「透!」


愁也はそう叫びながら、透の側へ駆け寄る。


「おっ!愁也か」


透は愁也に名前を呼ばれ振り向いた。


「部活の帰りか?」


「おう。愁也は……遊びの帰りか?」


「まぁそんなとこだ。帰宅部は自由に遊ぶ事が部活活動だからな」


「そうか。愁也にぴったりの部活内容だな」


「まぁな」


愁也は笑みを浮かべながら胸を張る。


透は我が幼なじみながら、惚れ惚れする程男前だ。


それに頭もいいし、我が中学校バスケ部の希望と呼ばれる程に運動神経がいい。


神は何を間違ったのか、透という完璧人間を生み出してしまった。


くそー羨ましいぜ。



何が羨ましいかと言うと、去年のバレンタインデーに貰った本命チョコの数が二桁を越えやがった。


自分なんか瑞希に貰ったお情けの義理チョコ一つだというのに何と幸せな奴なんだ。


まぁでも、そんな男前が自分の親友である事は誇るべき事である。


今さら改めて透の事を凄いとは思わないし、ただ時々羨ましいなぁと思うくらいだ。



だから愁也は、透とは気兼ねなく喋れるのであった。


愁也は透と黄昏に染まる道を歩きながら、今日あった事を話す。


透はその男前の顔を歪ませながらゲラゲラ笑って愁也の話を聞いていた。


「なぁ透」


「なんだ?」


「お前さぁ瑞希の事可愛いと思うか?」


愁也は何気ない調子で聞く。


透は凄く驚いた顔をして言葉を失っていた。


「内のクラスの奴が瑞希の事を可愛いと言うんだ。俺達からすると、今さら瑞希の事可愛いだなんて思わないよなぁ」


愁也は透も笑いながら同意してくれるものだと思ってた。しかし、透の反応は違った。


「俺は瑞希の事可愛いと思うぜ」


「へ?」


愁也は透の言葉が一瞬理解できなかった。


でも、透の顔が冗談で言ってるわけじゃない事は長年の付き合いのせいか、すぐに理解できた。


「なんで……。お前正気か? あの瑞希だぞ!!」


愁也は信じられないという顔で訴える。


「もちろん正気さ」


透は平然とした様子で答えた。


「瑞希が可愛いというなら、瑞希の姉ちゃんの方がよっぽど美人だろ」


「瑞希の姉ちゃんは彼氏いるだろう」


「俺が言ってる事はそういう事じゃなくて……。あー何て言っていいのか分かんねぇ」


愁也は思わず頭を掻きむしる。


愁也は頭の中が上手く整理できず、適当な言葉が思いつかなかった。



「愁也は瑞希と近すぎて、瑞希の魅力が分からないんだよ」


ふと透が呟く。


「透だって幼なじみだろ」


「俺は瑞希と毎日一緒にいた訳じゃない。でも、愁也は毎日一緒にいる。同じクラスだから・・・・・・」


そう言われてみると、確かに透より愁也の方が一緒にいた時間が多いのかもしれない。


なんたって愁也は小学校の頃から今までずっと瑞希と同じクラスだったから。


そして、透とは一回も同じクラスになった事がない。


それだけの違いが、幼なじみ同士の意見を分けてしまったのだろうか?


「愁也は・・・・・・瑞希の事好きか?その恋愛対象という意味で」


透は珍しく不安そうな顔で聞いてくる。


「瑞希の魅力が分からないのに、好きなはずないだろう」


愁也は迷わず言った。すると透の顔が明るくなった気がした。


「良かったよ」


「何が?」


愁也は不思議そうな顔で聞き返す。


「愁也が瑞希の事を恋愛対象として見ていなくて」


「どういう事?」




「俺さぁ、瑞希の事が好きなんだ」




時が止まった気がした。


空気や風や愁也の心臓が何もかも止まった気がした。




「だから愁也と瑞希を取り合うライバルにならなくて済んだだろ。俺はその覚悟もあったけど、できるならお前と争いたくなかったんだ」


透は隠してきた秘密を暴露するように言う。


「本気なのか?」


「ああ。だから応援してくれないか?」


「えっ・・・・・・あぁもちろんさ」


愁也は何も考えずに返事をしてしまった。


「愁也に話してなんかスッキリしたよ」


透はそう言うと、いつもの、いや、いつもより男前の顔になった。


女は恋をしたら綺麗になると言うけれど、男もそれに当てはまるのかもしれない。


透はかっこいい。


まぁとりあえずこの紫山市で透よりかっこいい男を見つけるのは困難だろう。


「告白するのか?」


愁也はまだ正常に働かない頭で聞く。


「まだ自信がない。なんだか今、瑞希に告白したら振られそうな気がするんだ」


「透が振られたら、この世にいる男のほとんどが振られてしまうよ」


愁也は笑いながら言う。


顔もいい、頭もいい、運動神経もいい透を振る女なんてこの世に存在するのかと思ってしまう。


「まぁ自信がついたら告白するよ」


「そうかぁ、まぁ頑張れよ」


「おう」


透は愁也に笑いかける。


愁也も笑っていたが、心の中でどこかモヤモヤした物が渦巻いていた。


それが何なのかは確かめるのが怖くて胸の奥底に閉まっておく事にした。




代わり映えのない日常の歯車はこの時狂ってしまったのかもしれない……。
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