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4.ご機嫌取り
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あれからまた数日が経った。
実は血液を取った後、子供は拗ねてしまったようで、いつもはとことこ俺の後ろを着いてくるのに、今日は勝手にラボから出てソファの上でクッションを抱えて丸くなってしまった。
これは困った。無理やりラボの机に貼り付けて調べる訳にもいかない。今までの反応を見る限り、こいつは俺と同じ普通の人間だ。
あんまり嫌がることをするとここを出て行きかねない。
しかし……。一旦その日は子供を置いて血液の解析にまわってしまった。
そしたらどうだ。子供は完全に拗ねてしまった。
今まで俺が色々なことに気を配りながらしていたご飯も、風呂も、トイレも、急に一人でやり始めたのだ。
俺が食器を持とうとすると奪い、離そうとしない。頭を洗おうとすると、自分の頭を洗いながら俺の手を払って来る。服も自分でやるとばかりに俺の手から奪うようになった。
トイレも中まで着いてって便所に座らせたりしていたが、扉の外に追い出されるようになってしまった。
困った……。これでは研究をするどころの話ではない。どうすれば良いのかわからなくてあの時放置してしまったが、おそらく悪手だったのだろう……。今はまだベッドは共にしてくれているが、これ以上嫌われるとなると家出も選択肢に上がってしまうだろう。
放置が良くなかったのなら、……構えばいいのか?
朝起きると、俺の腹にくっついて赤子のように丸くなる子供がいた。
これだけはずっと変わらない。
いつもならすぐに起き上がるのだが、今日はこいつとスキンシップをする。
好きに寝かせる日があっても良いだろう。
後頭部をフサフサと撫でていると、むむと唸る声が聞こえた。
起きたかと見てみても顔は見えない。しかし、反射的に撫でるのを止めた手にすりすりと頭を押し付けた。
ふふ
柄にもなく笑みをこぼしてしまい、しかも目を開けると驚いたように子供がこちらを見ていた。
気まずい。
ここ最近は起きたら子供は勝手にベッドから降りて着替えを始めるが、今日は違った。
目が合った後も、また顔を埋めて丸くなった。
後頭部を撫でていた手を首へと撫で下ろす。
「これ、もう取るか。」
刻まれた刻印のあったあたりに手を当てる。
子供はぴくりと反応して、……少し震え始めた。
うん?何が怖いのだろうか。
「あっ!首を取るって意味じゃないぞ!」
子供はふるふると首をふった。反応はそれだけだ。
うーん。この間血液を調べた限りでは本当に普通の人間の子供だった。血に混ざった魔力の量は少し少ないが、平均辺りだろう。最近の俺への抵抗する力も、子供に相応しい程度だった。
もうこいつへの警戒はしなくていいだろう。
「声が出ないのは、おそらくこれのせいだ。」
「改めてあいさつをしようじゃないか。」
そう、本当に、本当に少しずつ行った観察の結果、発声に問題がある原因はこの契約である事がわかった。
震える子供の脇下を掴み、俺の顔の前に引きずり出す。
もう何回も見たあの泣きそうな顔だった。
「なにが怖い。お前は自由になるんだぞ。」
ふるふると俺の目を見ながら首を振り、瞬きで一筋の涙が流れた。
親指で拭うが、……声が聞けないと何が言いたいかもわからない。まだ字も教えていない。
断片的でも、何か言えた方が良いだろう。この刻印があった方が良いなんて事は無い……と思う。
「……すまない、」
子供を抱きしめて、後ろにまわした手で印に触れた。
ボウと印が炎のように揺れ、灰のように空気に散っていく。
「……ひっ、ひ……うぅ……」
いつもは鼻をすする音しか無かったが、喉のひきつる声が聞こえた。
「……よく頑張った。」
そのまま抱きしめて、また頭を撫でた。
その瞬間、そいつは声を上げて泣き出してしまった。
実は血液を取った後、子供は拗ねてしまったようで、いつもはとことこ俺の後ろを着いてくるのに、今日は勝手にラボから出てソファの上でクッションを抱えて丸くなってしまった。
これは困った。無理やりラボの机に貼り付けて調べる訳にもいかない。今までの反応を見る限り、こいつは俺と同じ普通の人間だ。
あんまり嫌がることをするとここを出て行きかねない。
しかし……。一旦その日は子供を置いて血液の解析にまわってしまった。
そしたらどうだ。子供は完全に拗ねてしまった。
今まで俺が色々なことに気を配りながらしていたご飯も、風呂も、トイレも、急に一人でやり始めたのだ。
俺が食器を持とうとすると奪い、離そうとしない。頭を洗おうとすると、自分の頭を洗いながら俺の手を払って来る。服も自分でやるとばかりに俺の手から奪うようになった。
トイレも中まで着いてって便所に座らせたりしていたが、扉の外に追い出されるようになってしまった。
困った……。これでは研究をするどころの話ではない。どうすれば良いのかわからなくてあの時放置してしまったが、おそらく悪手だったのだろう……。今はまだベッドは共にしてくれているが、これ以上嫌われるとなると家出も選択肢に上がってしまうだろう。
放置が良くなかったのなら、……構えばいいのか?
朝起きると、俺の腹にくっついて赤子のように丸くなる子供がいた。
これだけはずっと変わらない。
いつもならすぐに起き上がるのだが、今日はこいつとスキンシップをする。
好きに寝かせる日があっても良いだろう。
後頭部をフサフサと撫でていると、むむと唸る声が聞こえた。
起きたかと見てみても顔は見えない。しかし、反射的に撫でるのを止めた手にすりすりと頭を押し付けた。
ふふ
柄にもなく笑みをこぼしてしまい、しかも目を開けると驚いたように子供がこちらを見ていた。
気まずい。
ここ最近は起きたら子供は勝手にベッドから降りて着替えを始めるが、今日は違った。
目が合った後も、また顔を埋めて丸くなった。
後頭部を撫でていた手を首へと撫で下ろす。
「これ、もう取るか。」
刻まれた刻印のあったあたりに手を当てる。
子供はぴくりと反応して、……少し震え始めた。
うん?何が怖いのだろうか。
「あっ!首を取るって意味じゃないぞ!」
子供はふるふると首をふった。反応はそれだけだ。
うーん。この間血液を調べた限りでは本当に普通の人間の子供だった。血に混ざった魔力の量は少し少ないが、平均辺りだろう。最近の俺への抵抗する力も、子供に相応しい程度だった。
もうこいつへの警戒はしなくていいだろう。
「声が出ないのは、おそらくこれのせいだ。」
「改めてあいさつをしようじゃないか。」
そう、本当に、本当に少しずつ行った観察の結果、発声に問題がある原因はこの契約である事がわかった。
震える子供の脇下を掴み、俺の顔の前に引きずり出す。
もう何回も見たあの泣きそうな顔だった。
「なにが怖い。お前は自由になるんだぞ。」
ふるふると俺の目を見ながら首を振り、瞬きで一筋の涙が流れた。
親指で拭うが、……声が聞けないと何が言いたいかもわからない。まだ字も教えていない。
断片的でも、何か言えた方が良いだろう。この刻印があった方が良いなんて事は無い……と思う。
「……すまない、」
子供を抱きしめて、後ろにまわした手で印に触れた。
ボウと印が炎のように揺れ、灰のように空気に散っていく。
「……ひっ、ひ……うぅ……」
いつもは鼻をすする音しか無かったが、喉のひきつる声が聞こえた。
「……よく頑張った。」
そのまま抱きしめて、また頭を撫でた。
その瞬間、そいつは声を上げて泣き出してしまった。
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