幻影な彼女

齋藤御春

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生生世世、死神は想い続ける

邂逅

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 彼女と出会ってから中学卒業までのおよそ2年半。私が彼女と会った回数わずか二回。そのうち会話をしたのはただの一回。

 高校に入ってからもきっとそうそう会うことは出来ないだろうと思っていた。


 だから!!入学初日から彼女に遭遇するなんて夢にも思っていなかったし、何より心の準備が全くできていない!

 私がこうも想定外の事態に弱いのだというのを今知った。目の前には追いに追いかけている憧れの彼女がいるというのに、体が石のように硬直してしまって一ミリも動くことが出来ない。

 動け動け動け!!今、この千載一遇の好機チャンスを逃せば、もう二度と彼女に会えなくなる気がする!動くのだ!私!

 そんな葛藤を経てようやく歩きだし、彼女に近づく。

 「き、君!…し、試験の時はどうも有難う!君にコレを返そう!」

 そうして私が差し出したのは、受験時に貸してくれたペンである。

 「ずっと持っていて済まなかった。」

 彼女は一瞬なんのことだろうというようにキョトンとしていたが、すぐさま思い出したようだ。

 「ああ、あの時の!合格出来ていたのですね。良かったです。」

 「そうだね。君のおかげだ。」

 「いやいや、あなたの実力ですよ。」

 「いや、そんなことは………………」

 ここで会話が途切れ、沈黙が続いた。

 話題だ…何か話題を出さなければ…!

咄嗟に目に入ったのは彼女の読んでいる本だった。

  背表紙には「天堂院 修羅丸」の文字。

……天堂院 修羅丸!!??なんてタイムリーなんだ!もうこれしかない!

 「その本…きみ天堂院 修羅丸が好きなのかい?」

 「ええ、天堂院先生の大ファンなの。ってことは、あなたもファンなのね!」

 (ん…?あれ……?そうなってしまうか!?)

 全然ファンでもないし、なんならさっき名前を知ったばかりだ。

だがしかし、この彼女の嬉々とした表情…どこかの生徒会長も同じ様な表情をしていた。察するに彼女は仲間を見つけたというふうに喜んでいるように思えた。

 (このまま押し通すしかないか……)

 「ああ、そうなんだ!私も天堂院先生のファンでな!先生の作品は本当に素晴らしい!うん!」

 「じゃあ、あなた天堂院先生のあの噂は知ってる?」

 「うわさ?」

 何だか嫌な予感がしたが、そのまま聴き続けた。

 「天堂院先生は、昔ここの生徒で、学生時代に書いた伝説の本があるらしいの!」

 「それって七不思議のやつか?あの人の魂を吸い取るという…」

 「ふふっ。七不思議?ただの本にそんなこと出来るわけないじゃない…きっと魂が吸い取られるくらい面白い本なのよ。」

 良かった。彼女はオカルトマニアではなかった。

 「わたしね、なんとかその本を探し出して読んでみたいの!それがココを受験した理由なの。」

 彼女は満面の笑みでそう話した。大人っぽい見た目に反してどこか子供じみたところがものすごく愛しかった。

 もっと寡黙な女性だと思っていたが、彼女は意外とおしゃべりであった。

 「君、意外と喋るんだね。驚いたよ。」

 「あっ…ごめんなさい…つい。」

 彼女は申し訳なさそうにうつむく。

 「……わたし、昔から独りで過ごすことが多くて、だからこうして好きなものについて話せるのが嬉しくて……ごめんなさい。」

 彼女はどんどん小さくなっていき、今にも私の前から姿が消えそうであった。

 「いや!そういう訳ではないんだ!むしろ私も君の話がきけて嬉しいというか…」

 私は必死で弁明した。

 「……そ、そうだ!ならば友達にならないか!?友達なら好きなことを話しても全く問題ないだろう!」

 …それはただの願望であった。もっと話をききたいという私の願望。

そんな素っ頓狂な提案に彼女は驚いていたようだった。

 「本当に…?……嬉しいわ。」

 彼女はポっと頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。

その姿が愛くるしくて、思わず抱きしめたくなってしまったがなんとか踏みとどまった。

 こうして私と彼女の友人関係が始まった。
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