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二人の午後と一つの魔法具
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店の裏庭には、小さなハーブ畑がある。ミント、カモミール、ラベンダー――魔法薬やお茶の材料になる植物たちが、陽を浴びて揺れていた。
「リリィさん、こっち持ってくれる?」
「……うん」
数日前まで険しかったリリィの顔が、今は少し和らいでいる。魔法の訓練はまだうまくいかないけれど、アリスのそばにいる時間には、なんとなく安心感があった。
二人は一緒に摘み取ったハーブを籠に入れながら、静かな午後を過ごしていた。
「ラベンダーは、乾かして枕に入れるといいのよ。不眠にも、心にも、優しい」
「それ……私に言ってる?」
「ふふ、どうかしら」
リリィは小さく笑った。たぶん今の自分を見たら、父は驚くだろう。そう思いながら、ふと問いかける。
「アリスって、なんでこの店、ひとりでやってるの?」
「んー……なんとなく、って答えじゃダメ?」
「ズルい」
「うーん、じゃあ……誰かと一緒にいるのが苦手だったの。昔は」
アリスは籠を置いて、しゃがみこむと一株のミントを撫でた。
「でも今は、ひとりよりふたりのほうが、ちょっとだけ楽しいって思ってるわよ」
その言葉に、リリィは返事をしなかった。でも、ミントの葉をそっと摘み取りながら、唇がわずかにゆるんだ。
その日の午後、客がひとり訪れた。背の低いおばあさんで、手には壊れた懐中時計を抱えていた。
「これねぇ、亡くなった主人がくれたものでね……動かなくなって何年も経つけど、どうしても捨てられなくて……」
アリスは時計を受け取り、しばらく目を閉じた。
そして、リリィに微笑みかける。
「リリィさん、これ、一緒に直してみましょうか」
「えっ、私が……?」
「魔法の力じゃなくて、魔法道具の力。時計に宿った記憶を読み取って、歯車の“願い”を聴いてみるの」
そう言って、アリスは古びた石のペンダントを手渡した。
「これが“記憶紡ぎ”の道具。初めてでも大丈夫。リリィさんの手なら、優しく触れられると思う」
リリィは緊張しながらも、時計に手を伸ばす。指先が冷たい金属に触れた瞬間、胸の奥にじんわりと温かい何かが広がった。
(……ありがとう。また動けるなんて、夢みたいだ)
それは、かすかな声だった。けれど確かに聞こえた。
「今、声が……」
「聞こえたなら、大丈夫。リリィさん、もう魔法の一歩を踏み出してる」
アリスは手際よく調整の呪文を唱える。すると、懐中時計はカチ、カチと再び時を刻み始めた。
「……動いた……」
リリィの声に、おばあさんの目に涙がにじんだ。
「ありがとうねえ……ほんとうに、ありがとう……」
その笑顔を見たとき、リリィの胸に小さな火が灯った。
(……これが、魔法?)
それは力ではなく、誰かを少しだけ幸せにする、不思議なあたたかさだった。
「リリィさん、こっち持ってくれる?」
「……うん」
数日前まで険しかったリリィの顔が、今は少し和らいでいる。魔法の訓練はまだうまくいかないけれど、アリスのそばにいる時間には、なんとなく安心感があった。
二人は一緒に摘み取ったハーブを籠に入れながら、静かな午後を過ごしていた。
「ラベンダーは、乾かして枕に入れるといいのよ。不眠にも、心にも、優しい」
「それ……私に言ってる?」
「ふふ、どうかしら」
リリィは小さく笑った。たぶん今の自分を見たら、父は驚くだろう。そう思いながら、ふと問いかける。
「アリスって、なんでこの店、ひとりでやってるの?」
「んー……なんとなく、って答えじゃダメ?」
「ズルい」
「うーん、じゃあ……誰かと一緒にいるのが苦手だったの。昔は」
アリスは籠を置いて、しゃがみこむと一株のミントを撫でた。
「でも今は、ひとりよりふたりのほうが、ちょっとだけ楽しいって思ってるわよ」
その言葉に、リリィは返事をしなかった。でも、ミントの葉をそっと摘み取りながら、唇がわずかにゆるんだ。
その日の午後、客がひとり訪れた。背の低いおばあさんで、手には壊れた懐中時計を抱えていた。
「これねぇ、亡くなった主人がくれたものでね……動かなくなって何年も経つけど、どうしても捨てられなくて……」
アリスは時計を受け取り、しばらく目を閉じた。
そして、リリィに微笑みかける。
「リリィさん、これ、一緒に直してみましょうか」
「えっ、私が……?」
「魔法の力じゃなくて、魔法道具の力。時計に宿った記憶を読み取って、歯車の“願い”を聴いてみるの」
そう言って、アリスは古びた石のペンダントを手渡した。
「これが“記憶紡ぎ”の道具。初めてでも大丈夫。リリィさんの手なら、優しく触れられると思う」
リリィは緊張しながらも、時計に手を伸ばす。指先が冷たい金属に触れた瞬間、胸の奥にじんわりと温かい何かが広がった。
(……ありがとう。また動けるなんて、夢みたいだ)
それは、かすかな声だった。けれど確かに聞こえた。
「今、声が……」
「聞こえたなら、大丈夫。リリィさん、もう魔法の一歩を踏み出してる」
アリスは手際よく調整の呪文を唱える。すると、懐中時計はカチ、カチと再び時を刻み始めた。
「……動いた……」
リリィの声に、おばあさんの目に涙がにじんだ。
「ありがとうねえ……ほんとうに、ありがとう……」
その笑顔を見たとき、リリィの胸に小さな火が灯った。
(……これが、魔法?)
それは力ではなく、誰かを少しだけ幸せにする、不思議なあたたかさだった。
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