魔法使いの日常

天使の羽衣

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ふえる魔力とほどけた涙

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 その日の午後、空は曇っていた。

 魔法の練習を終えたリリィは、店の裏庭に咲くハーブの手入れをしていた。湿った風が肌を撫で、空気が少しざわついている気がした。

「……なんだか、変な感じ」

 胸の奥がふわりと熱くなったかと思うと、周囲の空気が一瞬ピリッと揺れた。

 アリスが店の奥から飛び出してくる。

「リリィ!」

 その声に振り向くと、リリィの足元に、魔力の渦が広がっていた。淡い光が地面から湧き上がり、小さな精霊たちの輪郭が一瞬だけ浮かぶ。

 リリィの体が硬直し、目がうつろになる。

「やだ……止まらない……!」

 アリスはすぐに彼女のもとへ駆け寄った。右手でリリィの手をぎゅっと掴むと、左手で魔力を封じる陣を描く。

「深呼吸して。リリィ、私の声を聞いて」

 その声は静かで、でもしっかりと芯があった。リリィは目をぎゅっと閉じ、アリスの手を握り返す。

「……っ、こわい……!」

 溢れそうになる涙とともに、魔力の渦が急速に収束していった。

 しばらくして、風が落ち着いた。

 リリィはアリスの腕の中で、しゃくり上げながらつぶやく。

「……また、制御できなかった……。どうして……。私、何もしてないのに……!」

「わかってる。これはあなたのせいじゃないわ」

 アリスはそう言って、そっと頭を撫でた。

「あなたの中にある力は、まだ幼いの。でも、それは可能性の証でもある。怖がる必要はないわ。私がちゃんと見てる」

「……アリスさん、どうしてそんなに優しいの……?」

「さあね。でも、昔の私を見ているみたいなのよ。強がって、ひとりで何とかしようとして……結局、誰かに助けられた」

 リリィは、アリスの胸に顔をうずめた。彼女の匂いは、ハーブと紅茶と、少しだけ懐かしいものが混ざったような安心感があった。

「……もっと強くなりたい」

 かすれた声でリリィが言うと、アリスは頷いた。

「なれるわ。あなたなら、きっと。時間はかかっても、ちゃんと制御できるようになる」

 その後、ふたりは裏庭に腰を下ろし、温かいココアを分け合った。

 空にはまだ雲が残っていたが、リリィの心には、少しだけ光が差した気がした。
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