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北の遺跡と失われた記憶
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王都から馬車で丸一日。さらに、そこから徒歩で半日かけて、ようやくたどり着いたその地――〈北の遺跡〉。
木々はざわめき、空気は冷たく張りつめていた。昼だというのに、空はどこか薄暗く、遠くで雷のような音が響いていた。
「ここが……封印の場所……?」
リリィは岩に覆われた石造りの門を見上げて、息を呑んだ。門には古代の魔法文字が刻まれており、その中央にはかすかに光る魔法陣が浮かんでいる。
「ええ。十年前、私が王国の依頼で封印した魔物が眠っている場所よ」
アリスはゆっくりと、門の前に立ち、手をかざした。光が走り、封印陣が反応を返す。
「……やっぱり、揺らいでる。これは時間の問題ね」
「この中に入るの?」
「ええ。でも気を付けて。中の空間は〈魔の力〉に満ちてるから、魔力の扱いが少し違って感じるはず。呼吸を整えて、自分を見失わないように」
リリィはこくりとうなずいた。そしてふたりは、重い扉を開けて中へと足を踏み入れる。
中は冷たく、湿った空気が流れていた。壁には苔が生え、かつては煌びやかだったであろう装飾が崩れ落ちている。だが、その奥――封印の間に入った瞬間、アリスの足が止まった。
中央の祭壇に、かつて自らが描いた封印陣がある。
そしてその真ん中には……小さな石の台座。
「……まさか、もう抜け出してる?」
アリスの声が低くなる。
「そこに……何が封じられてたの?」
「“影の主(シャドウロード)“よ。もとは人間だった存在。でも、強すぎる魔力と執着で、人ではなくなった」
アリスは視線を落とし、静かに言った。
「そして……その存在を封じる代わりに、私は”記憶”を一部代償として捧げたの」
「記憶?」
「ええ。私にとって、とても大切な誰かとの記憶だった。でも、もう思い出せないの。……あの封印を完成させるために、必要だったから」
リリィは言葉を失った。
アリスがどこか影のある笑顔をする理由が、今、少しだけ理解できた気がした。
だがそのとき、遺跡の奥から――風でもない、声でもない「気配」が動いた。
「来たわね……!」
アリスが杖を構える。リリィも背筋を伸ばして、魔力を集中させる。
闇の中から、ゆっくりと現れたのは、人影のような何か。人の形をしているが、目も口もなく、ただ黒い煙のように揺らめいている。
「これが……“影の主”?」
「いいえ、これは分身。力の一部が抜け落ちた残滓。でも、放っておけば王都にも影響が出るわ。行くわよ、リリィ!」
「はいっ!」
小さな杖を握る手が、自然と熱を帯びる。アリスの背に立ち、リリィは初めて「戦う魔法」を使う覚悟を決めていた。
「〈火の精霊よ、我が呼びかけに応えよ〉……!」
「〈封じよ、我が言霊に従い、闇を縛れ〉!」
二人の声が重なり、封印の間に光が走った。
この戦いが、ふたりを何か大きな運命へと近づけていくことになるとは――このとき、まだ誰も知らなかった。
木々はざわめき、空気は冷たく張りつめていた。昼だというのに、空はどこか薄暗く、遠くで雷のような音が響いていた。
「ここが……封印の場所……?」
リリィは岩に覆われた石造りの門を見上げて、息を呑んだ。門には古代の魔法文字が刻まれており、その中央にはかすかに光る魔法陣が浮かんでいる。
「ええ。十年前、私が王国の依頼で封印した魔物が眠っている場所よ」
アリスはゆっくりと、門の前に立ち、手をかざした。光が走り、封印陣が反応を返す。
「……やっぱり、揺らいでる。これは時間の問題ね」
「この中に入るの?」
「ええ。でも気を付けて。中の空間は〈魔の力〉に満ちてるから、魔力の扱いが少し違って感じるはず。呼吸を整えて、自分を見失わないように」
リリィはこくりとうなずいた。そしてふたりは、重い扉を開けて中へと足を踏み入れる。
中は冷たく、湿った空気が流れていた。壁には苔が生え、かつては煌びやかだったであろう装飾が崩れ落ちている。だが、その奥――封印の間に入った瞬間、アリスの足が止まった。
中央の祭壇に、かつて自らが描いた封印陣がある。
そしてその真ん中には……小さな石の台座。
「……まさか、もう抜け出してる?」
アリスの声が低くなる。
「そこに……何が封じられてたの?」
「“影の主(シャドウロード)“よ。もとは人間だった存在。でも、強すぎる魔力と執着で、人ではなくなった」
アリスは視線を落とし、静かに言った。
「そして……その存在を封じる代わりに、私は”記憶”を一部代償として捧げたの」
「記憶?」
「ええ。私にとって、とても大切な誰かとの記憶だった。でも、もう思い出せないの。……あの封印を完成させるために、必要だったから」
リリィは言葉を失った。
アリスがどこか影のある笑顔をする理由が、今、少しだけ理解できた気がした。
だがそのとき、遺跡の奥から――風でもない、声でもない「気配」が動いた。
「来たわね……!」
アリスが杖を構える。リリィも背筋を伸ばして、魔力を集中させる。
闇の中から、ゆっくりと現れたのは、人影のような何か。人の形をしているが、目も口もなく、ただ黒い煙のように揺らめいている。
「これが……“影の主”?」
「いいえ、これは分身。力の一部が抜け落ちた残滓。でも、放っておけば王都にも影響が出るわ。行くわよ、リリィ!」
「はいっ!」
小さな杖を握る手が、自然と熱を帯びる。アリスの背に立ち、リリィは初めて「戦う魔法」を使う覚悟を決めていた。
「〈火の精霊よ、我が呼びかけに応えよ〉……!」
「〈封じよ、我が言霊に従い、闇を縛れ〉!」
二人の声が重なり、封印の間に光が走った。
この戦いが、ふたりを何か大きな運命へと近づけていくことになるとは――このとき、まだ誰も知らなかった。
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